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小さな文学少女が友達を欲しがっていたので友達になって、ついでに自己肯定感やら友人関係を整えたら想像以上の勇者になった  作者: 夜月紅輝


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クエスト64 敵情視察#2

 突然のアンドリューとの邂逅、それは紆余曲折ありながらも無事に終わった。

 そこで知り得た事実に対し、屋敷の廊下を歩きながら、敬は少しずつ情報を整理していく。

 ともあれ、考えるまでもなく、あの態度から丸わかりだが。


「本人も隠す気がないって感じだったしな。

 それでいて、あの爽やかさって感じだろ? それはもはやバグだろ」


 あんな人間を見てしまうと、世の中は二つの男に分けられる気がする。

 即ち、身も心もイケメンな男と、イケメンの皮を被った愚か者の二種類。

 もっとも、それで分けた場合、9.9割の男が愚か者のような気がするが。


 とにかく、これでアンドリューの好意の矢印がどういう風に向いているか理解できた。

 とんでもないビッグラブであり、もはや断るのが可愛そうというレベル。

 もっと言えば、断る必要もない相手。


 ギャルゲーに例えるなら、お金持ちの美少女幼馴染って感じだ。

 もはやそれだけで物語の一本は書けそうなキャラ設定だが、あいにくキンタローは彼を選ぶつもりはない。


 代わりに選ばれるのは、もう一人の幼馴染である宗次だ。

 彼もイケメン部類ではあるが、それでも英国紳士には遠く及ばず――というのが、敬の意見。

 しかし、それでもキンタローが選んでしまったのなら仕方ない。


「そんで、選んだ理由が一番近くで支えてくれたから。

 ま、ありがちな理由ではあるけどな」


 キンタローが宗次を好きになった理由。

 ことわざに「遠くの親戚より近くの隣人」という言葉があるが、それと近いのだろう。

 結局、肝心な時にいないのであれば、心を安心させることが出来ないのだから。

 その流れは道理と言えば、道理なのだが、


「でも、近すぎて常態化するってことは無かったのだろうか。

 いや、こうなってる時点でなかったんだろうな」


 よくある幼馴染負けシリーズ恋愛の鉄板とも言っていい設定だ。

 一番近くに居ながら、近くに居すぎたせいで一番恋愛から遠くなるというアレ。


 スマホと同じぐらいいるのが当たり前に感じ、特別感を感じ得ない。

 だからこそ、主人公は幼馴染ヒロインの恋心に気付かず、目新しいヒロインに心奪われる。


 聞く限りじゃ酷い話に聞こえるが、案外そんなもんだろうとは敬も思う。

 もっとも、好きだのなんだのがハッキリしない第一次成長期の間だけの話だろうが。


 ともあれ、目下の目的はそのすれ違いが起きているかを確かめることだ。

 つまり、この先にいるであろう宗次を探しているのが現在。


 アンドリューと話した後に大広間へ訪れたらなぜかいなくなってて、近くにいたメイドに聞けば、どうやら別のドアから出ていったらしいのだ。

 それはアンドリューとキンタローの久々の邂逅を邪魔しないようの配慮だったのか。


「ま、俺にはどうだっていい話だけど」


 思春期である自覚はあるのか、敬とて他人の恋愛話を聞くのは好きである。

 その人がどういう感情で、どういう行動をして、結果どういう感じになったか。


 もともと小さい頃から人間観察が好きだったから、その延長線上と言えるかもしれない。

 そう、出来立てほやほやのノベルゲームをすぐ近くでプレイしてる感じに近い。


 だからなのか、今こうして他人の恋愛感情を探ってる時は少しだけ楽しい。

 趣味が悪いと思う人もいるだろう。しかし、これが自分なのだから仕方ない。

 ただし、他人から向けられる好意には苦手だが。


「――お仕事は順調ですか」


「え?」


 突然背後から声をかけられ、振り向けば、そこには幸音の姿があった。

 しかし、その彼女の体が突然ブレたかと思うと、視界が回る。


 感覚的に理解できたのは、腕を引っ張られ、体を回されたこと。

 それから一秒後、背中から衝撃を受け、チカチカした視界の中に幸音の顔が埋め尽くす。


「.....え?」


 ぐるぐると遅延した思考が徐々に現状に追いつき始め、現状を理解した。

 今、自分の状況を端的に言うのであれば、「壁ドンされている」だ。


 背中からは壁を感じ、右手首は押さえつけられ、股下には膝を突き付けられている。

 まるでベッドで押し倒されたみたいな距離感の近さで、だからこそ理解が出来ず目をパチクリ。


 理解し始めた現実の理解を拒絶し、考えがまとまらず真っ白。

 ドッドッドと大きな心音が外にも聞こえる鼓動をするだけだ。

 そんな敬に対して、幸音は段々と悔しそうに眉根を寄せると、


「表情がピクリとも変わりませんね。悔しいです」


「はい?」


 そう悪態を尽きながら、敬の拘束を解く幸音。

 それから、困惑で依然固まっている敬を目の前にし、


「犬甘様は常に表情が一つなので、この私自らの手で崩したいと密かな野望がありまして。

 そのために、たった今強気に攻めてみましたが、どうやらダメで悔しいです」


「そ、そんなことのために.....いや、十分に驚いてますって」


「いえ、そんな言葉だけでは騙されません。

 こう見えても、私は自分は可愛い部類だと思っているので、それが通じないともなれば、いつまで経っても婚期がやってきません」


「そんな僕のせいで婚期のがしてるみたいな言い方されても......。

 っていうか、人が違うとかって言われたりしません?」


「私は人によって話し方を変えるので。電話対応と同じですよ。

 いえ、そこは好感度アップのため気になる異性の前では違うと言っておきましょうか」


「そういう言葉って少なくとも本人の前で言い換えちゃダメでしょう」


 あまりにフランクに話しかけてくる幸音に対し、敬は訝しむ視線を向ける。

 目の前にいる上品なメイドは、それこそ宗次のバイトを手伝うことで知り合った。


 とはいえ、そのバイトも毎回あったわけではな。

 たまたま人手を欲していて、その時に時給がいいからという理由で敬が参加したのみだ。

 つまり、去年では2、3回しかあっていないはず。


「あと、街中で一度見かけましたよ」


「それをカウントするのもどうかと思うんですが。

 というか、サラッと人の心を読まないでもらえます?」


「今のはわかりやすい目でしたので」


 どんな特技だろうか。うかつに嘘をついたら視線でバレそうな気がする。


「浮気をした殿方の視線はわかりやすいですからね。

 いっそ開き直された方が対処に困りますが」


「だから、人の心の感想の受け答えしないでください。

 っていうか、幸音さんクラスの人物をそばに置きながら浮気したバカがいたんですか?」


「いえ、いませんが。そもそも恋愛経験ゼロですので」


「え、んじゃ今の会話何。めっちゃ怖いんだけど」


 さながら、さも経験したことがあるような口ぶりであったが。

 しかし、それが未経験の妄想故の発言だとすれば、恐怖以外の何物でもない。

 だからか、目の前の女性が突然怖い存在に思えて、そっと離れようと壁を這う。


「で、調子はどうですか?」


「――ひっ」


 しかし、逃げ道を塞ぐように、本当の壁ドンが来た。

 首の横に手がバッと伸び、正面から造形美の感じる顔面が覗く。


 ガチ恋距離にしてはやや遠いが、それでも目の前の存在を知覚すれば、恋に落ちるのは十分な距離だ。

 それこそ、男ってのは単純だからね。ま、自分も男なんだけど。


 それはそれとして、先ほどから一体何の調子を尋ねているのか。

 そのことがわからず、敬は脳内で首を傾げる。

 シンプルな内容を考えれば、現在の仕事に関することだ。


 幸音は、この家のメイドであり、そして自分はバイトである。

 だとすれば、当然バイトの働きぶりを確かめるのもメイドの務めだろう。

 だから、それに限って言うとすれば、現在はサボっているぐらいか。


 もともとは普通に仕事するつもりだったが、天子に相談されてから事情が変わった。

 いや、厳密に言えば、そんなことしてないでバイトしろという話なんだが。


 もし、それを指摘するつもりなら、甘んじて受け入れるが、何も自分から地雷に突っ込む必要はない。

 だから、ここは一つ適度に惚けてみるのもアリか。


「ぼ、僕は元気ですよ.....? お腹の調子もハッピーです」


「いえ、そういうことではありません。

 先程までお嬢様とアンドリュー様、お二人と話されていたでしょう?

 それから、どんなことが分かったのかと思いまして」


「はぁ、なるほど......」


 どうやら、自分が懸念していたバイトの成果ではないらしい。

 これでサボりのせいで減給されるといったことは無くなった。

 とはいえ、別の気になることが出来たのも確かだ。


 先の幸音の発言、自分の勘違いでなければ、自分の行動理由を察している。

 つまり、キンタローの恋愛事情が気になっているということだ。


 しかし、当然ながら、自分は天子から聞いてから誰とも話していない。

 となれば、可能性は一つ――幸音も協力者の一人であるということだ。

 それを確かめるために、口を開く――と、その前に、


「あ、あの、そろそろ、手をどけてくださいませんかね?

 さっき曲がり角から現れたメイドさんがとんでもない現場を見たとばかりに、慌ててどっか行きましたけど......あれ、間違いなく誤解されてると思うんですけど」


「そうですね、私も視界の端で捉えてましたのでわかっています。

 ですがまぁ、勘違いされてしまったのならば、犬甘様に養ってもらいますので問題ありません」


「そこ、問題解決のためにリソース割くんじゃないんだ。普通に受け入れちゃうんだ。

 いや、そうじゃなくて! 普通にやめてください。落ち着いてください」


「あら、もう浮気ですか? 私は最終的に自分の所へ戻ってくればいいという甲斐性はありますが、それでも容認したわけでもなければ、不満を抱えないわけではありませんのでご注意を」


「なんで僕が怒られるながれになっているんだ?

 というか、流れるように関係性を急構築しないで」


 敬自身も自分はボケがメインのタイプだと自覚している。

 にもかかわらず、雪からのこの止まらぬボケの乱打。


 もはやこの猛攻の嵐を止めるのは、ボケである自分がツッコみに回らざるを得ない。

 その異常事態に、敬はどうにか対処しながら、話を本来の流れに戻していく。


「それで、その話を聞いてくるということは天子さんから何か聞いたんですか?」


「もう別の女の名前ですか」


「それはもういいですから!」


 ノンストップで動き出そうとする幸音を何とか制止しつつ、敬は話の主導権を握った。

 すると、さしもの幸音も落ち着いたようで、敬の横から手を放すと、


「そのことですが、もうすでにお嬢様経由で大撫様に話が伝わってると思っていましたが」


「伝わってる前提であの戯れだとすれば、ちょっとヤベェよ。

 と、それはどうでもよくて、単純に話を知ってるか確認したかったんですよ」


 敬が知っていたことは、キンタロー本人が天子に直接依頼を出したということだけだ。

 内容が内容だけに、誰にも知られずコソコソと動きたい。

 だから、キンタローはこっそりと天子にだけ依頼した――と、そう思っていた。


「でも、そう聞いてくるってことは、当然今僕達が知っているわけですね」


 その敬の言葉に、幸音は静かに瞑目する。

 頷きこそしなかったが、それはある種の肯定に等しい。

 となれば、幸音はキンタローと天子の密談に同席していたということで。


(それは情報不足だぞ、天子さん.....)


 調べたいことが恋愛事情である以上、プライベートの内容に踏み込む必要がある。

 だとすれば、どこまで踏み込んでいいかというセーフラインは知っておきたい。


 そして、それを知っている可能性が一番高いのは、キンタローの一番近くに居るメイドだ。

 そんな強力な協力者がいるとすれば、アンドリューに関してもあんな探り探り動く必要はなかっただろう。


 とはいえ、それはもう後の祭りであり、今更考えても仕方ない。

 喉まで出かかった些細な愚痴を呑みこむと、正面にいる幸音に視線を向け、


「話す前に、一つだけ確認を。

 幸音さんがキンタローの協力者だとして、どこまで知ってますか?」


「お嬢様が思ったよりもチキン野郎ということですね。

 もっと行動的であれば、こうも裏でコソコソと動く必要が無かったと思います。

 まぁ、それでお嬢様を責めるのは少々酷だと理解していますが」


「なるほど、つまりキンタローに想い人がいたことを知ってはいたけど、それだけって感じか。

 となれば、順番は少し変化するけど、幸音さんにも協力してもらおうかな」


「色仕掛けですか?」


「なんでだよ。それで引っかかる御仁じゃないことはもう知ってるわ。

 単純な話、他者から見える英国紳士の印象を知りたいだけさ」

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)


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