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小さな文学少女が友達を欲しがっていたので友達になって、ついでに自己肯定感やら友人関係を整えたら想像以上の勇者になった  作者: 夜月紅輝


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クエスト63 敵情視察#1

 気さくに、フレンドリーに挨拶してくるアンドリューに、敬は一瞬瞠目する。

 敬の無表情から放たれる英語の挨拶は実にインパクトがあったはずだ。

 加えて、相手は親切に日本語で話してくれているにもかかわらずだ。


 敬が英語で自己紹介したからといって、流暢にしゃべれるわけではない。

 いや、ゆっくりならしゃべれるだろうが、問題はリスニングだ。

 正直、聞き取れる気はしない。


(いや、そもそも英語でしゃべろうとも思わないが)


 先の挨拶は、言うなれば、敬の沁みついてしまった悪癖の一環と言える。

 しかし、それがここまで華麗にスルーされるものとは。

 あまりに先が見えていない自爆特攻だっただめに、不発だったのはありがたい所だが。


「なるほど、アンリね。なら、僕はケとでも呼んでくれ。

 さすがにこれ以上は文字が刻めないもんでね」


「確かに、それ以上は短くしようがないね。

 けど、『ケ』では少々他のものと誤解を生みかねないから、敬と呼ばせてもらうよ」


 相変わらず遠慮なくふざけ倒す敬に対し、闘牛士のような華麗な捌きを見せるアンドリュー。

 そのことに敬は少しばかり脱帽する。


 異国の地で、旧友の知り合いとはいえわけもわからない相手をさせられるのだ。

 自分が逆の立場っだったら、漏れなく「なんだコイツ」と思う所だろう。

 だからこそ、アンドリューの人間性に敬意を感じる。人間が出来過ぎている。


 もちろん、それは敬が宗次と同じ領域に踏み込めていないことは百歩譲っての話だ。

 あんな慣れ慣れしく、それでいて無遠慮な暴言を初対面に言うほど敬も恐れ知らずじゃない。


 そう言えるのは、あくまで言っても問題なさそうと判断出来た時のみだ。

 それに、自分は今、百合の友人として紹介されている。

 仲を取り持ってくれているというのに、相手の地雷をわざわざ踏みに行く必要はなかろう。


 そんなことを敬が考えていれば、放しに区切りがついたタイミングで、百合が口を開き、


「それで、アンリは今日はどうしてここに?」


「あぁ、少しばかり君の御父上と話すことがあってね。

 メールや電話で直接言うのも変だと思ったから、こうしてここまで来たんだ」


「ですが、今日はお父様は......」


「うん、聞いてるよ。急遽、外せない用事が出来たとかで出かけてるんだよね。

 僕の方に直接連絡があってね。こちらも急遽連絡して予定を作ってもらったからお互い様だ。

 だから、今日は少しお邪魔させてもらうよ」


「お邪魔というと、ここに泊まる予定なの?」


「君の御父上のご厚意でね。僕としてもホテル代が浮いてラッキーなぐらいさ」


 そう言って、ケチ臭い庶民みたいな感想をアンドリューが言う。

 礼儀正しく、イケメンで、寛容的で、感覚が庶民よりとは、非の打ち所がないとはこのことか。


 ここまでの高級マンションどころか大豪邸クラスの物件を敬は見たことがない。

 しかし、現実にその大豪邸を袖に振ろうとしている人物が目の前にいる。


 ちょっと目が回りそうな状況だが、それが本人の意思であるなら仕方ない。

 とはいえ、それを考慮しても、やはりもったいなさすぎるが。


「それで、お話というのは......?」


 その時、先ほどまでスルーしていた話に百合が話を遡る。

 それはアンドリューが百合の父親に用があって来た理由だ。

 もっとも、詳細を聞かなくても、なんとなく想像がついてしまうが。


 しかし、あえて聞いたのは、アンドリューの口から事実を聞くためだろう。

 その質問に対し、アンドリューは特に悩むことなく端的に答える。


「それは君との婚約の話さ。そして、僕はそれにありがたく受けさせてもらうことにした」


「――っ」


 右手を胸にあえて、曇りのない蒼の双眸でもって言い切るアンドリューの内容に、百合が短く喉を鳴らす音を傍らの敬は聞いた。


 アンドリューの発言、事実上のプロポーズとも変わらない発言だ。

 もっとも、本人は既に百合も知っている事実だからと躊躇いもなく言えるのだろう。

 にしては、部外者がいるにも関わらず言えるのは肝が据わり過ぎてるが。


「えぇ、こ、婚約~!?!?」


 というわけで、部外者は部外者らしく一度空気をぶち壊させてもらうことにした。

 正直、こんな聖人を手放すアホがどこにいるのかという話なのだが、天子に依頼した相手が実際にアホなので協力者としては味方せざるを得まい。


 それに、どのみちアンドリューに対する百合の好意を確かめる必要があった。

 だとすれば、この場は部外者という状況と、ポーカーフェイスという技能を使って真意を問い質そうではないか。


 そんな敬の演技を知ってか知らずか、道化のように騒ぐ敬の方へアンドリューがチラッと視線を移すと、


「......なるほど、君は知らなかったわけだね。

 僕と百合はそれこそ幼い時からの付き合いでね、いわゆる幼馴染というやつさ。

 その際、僕と百合の両親が話し合って許嫁として決めたんだ」


「ふむふむ、許嫁ね......ん?」


 この時、敬の脳内で「許嫁」と「婚約者」という二つの言葉の間で疑問符が浮かぶ。

 というのも、この二つで少しばかり意味合いが違うからだ。

 腕を組んだ敬はその疑問を言葉にするように、口を動かし、


「一つ確認なんだけど、アンドリューは()()なのか? ()()()なのか?」


「『婚約者』だ」


「......?」


 状況が理解できていない百合をよそに、アンドリューの言葉を受けた敬は短く思考した。

 「許嫁」とは、家族同士の結婚の約束で、「婚約者」とは、本人決定の約束だ。

 つまり、この二つの言葉には、本人の意思が介入しているかの違いがある。


 その二つを敬が問い質した時、アンドリューは迷いなく「婚約者」と答えた。

 それが意味するのは、アンドリューは自らの意思でで百合との結婚を望んでいること。

 もっと端的に言うならば、アンドリューは百合が好きなのだ。


 故に、今の回答でアンドリューの矢印は百合に向き、百合の矢印は宗次に向いてることがわかった。

 あとは、この三角関係で宗次がどう思っているかを確かめるだけだ。


「今時、そんなのってあるんだね。さすが上流階級。スケールがちげぇや」


「ハハッ、僕としては堅苦しいだけだけどね。

 結局のところ、過去の栄光に縋ってるだけの、頭の固い思考しか出来てないだけさ。

 おっと、こんなこと聞かれると怒られちゃうから、内緒にしてて欲しいな」


 敬の軽口に対し、アンドリューは自虐して見せ、その上で茶目っ気まで出してきた。

 すわ、なんだこの英国紳士イケメンは。もはや夫人がいないことが失礼に当たる。

 そう、思う敬に対し、アンドリューは緩んだ空気を活かし、さらに言葉を続ける。


「では、ちょっとばかり僕も嫌な部分を見せようか。

 それで、彼女は僕の()()()であるわけだけど、君の立場を教えてもらってもいいかな?」


 そう言葉にした直後、敬を見るアンドリューの目が僅かに狭まる。

 「嫌な部分」と軽い感じで言ったが、要するに隠すことのない嫉妬心だ。

 つまり、自分という存在が百合との愛を育む障害になることを懸念している。


 お門違いも甚だしいが、自分と百合の関係性を知らなければ邪推も無理ないか。

 それも、今では百合の屋敷で働く執事のような恰好をしていればなおさら。


 とはいえ、宗次から話を聞いてるはずなんだが.....いや、自分の口から回答させるのが重要なのか。

 というわけで、今後の動きやすさも含めて丁重に回答させてもらおう。


「僕はもともと宗次の友人で、そこからちょっとした手伝いでキンタローと出会ったのさ。

 んで、今ではこうして従者の関係になっている」


「待ちなさい、わたくしがあなたを従者に選んだ覚えはないわよ。

 雇われて今でこそ従者のような恰好をしているだけでしょうが。

 前々からここで働いていたみたいな玄人感を出すのは止めなさい」


 軽い口調で返答したら、傍らにいる百合から凄まじい勢いの抗議が来る敬。

 どうやらさしもの百合であっても、アンドリューの前では余裕はないらしい。

 しかし、そのやり取りがかえって気の置けない仲を演出してるようにも見えなくないが。


「なるほど、そういうことか。まぁ、先ほど宗次と話していた時点で知っていたけどね。

 ともあれ、本当にどうとも思ってなさそうだ」


「でしょ、だから邪推をする必要はな――」


「しかし、聞き間違いでなければ、先ほどの『キンタロー』と言ってなかったかい?」


 敬の言葉を遮るようにして告げる、アンドリューの自己主張強めの言葉。

 その発言の端々から先程の温和な空気とは違う刺々しさが纏っているのがわかる。


 いや、それだけではない。

 目の前のアンドリューの微笑みも印象が変わっているではないか。

 よく見れば目じりにしわが出来ていない。つまり、笑ってるようで笑ってない。


 その事実に、内心で冷や汗が流れるような感覚に襲われる敬。

 背筋がゾワリと寒気に襲われる感覚は、目の前にマフィアがいるみたいだ。

 そんな敬をよそに、アンドリューは言葉を続け、


「『キンタロー』とは、日本の昔話に出てくる『金太郎』から取っているのかな?

 それをどういう経緯で百合のあだ名として呼んでいるか知らないけど、女性に対してそのようなネーミングにはあまりセンスを感じられないよ」


 淡々と重ねられる言葉には一定の冷たさがあり、銃口を向けられてる迫力があった。

 加えて、言葉とともに銃の引き金に指を駆けられ、軽く引き金を引かれてるのだからビビる。


 とはいえ、引く理由にはならないし、百合に許されているのだからアンドリューには関係ない話だ。

 それに、自分がどうなろうとあまり興味がない。


「もともとの由来は違うよ。でも、結果的にそういう名前になってしまった。

 ならば、なってしまったものは仕方ない。僕はいずれもそう呼ばせてもらうよ」


「......」


「い、犬甘? アンドリュー?」


 悪を許さない聖騎士と悪を許容する道化師の対立。

 そのような構図が傍らにいる百合には見えているのだろう。

 その焦りようはキョロキョロと二人の顔を見比べる辺りから手に取るようにわかる。


 すると、さすがに百合の様子は見逃せなかったのか、アンドリューは降参するように両手を上げ、


「ごめんごめん、別に空気を悪くしたかったわけじゃなかったんだ。

 ただ、僕的に女性にそういったあだ名をつけることに抵抗があってね。

 でも、考えてみれば、君は随分と面白い人間が好きだったからね。彼もその一人なのだろう?」


「え、えぇ、そうよ! 少々頭のネジが外れてて、恐怖心とかよりも自分の面白さを優先する所がある。

 そういう所が私は気に入ってて、それで彼の呼び名も許してる感じよ」


「そうだったのか。ごめん、僕の早とちりだったようだ。

 敬、君にも心から謝罪を。僕の至らぬところを許してくれ」


「いやいや、全然! キンタローはこう言ってくれたけど、内心ビビってたからね。

 それこそ、『あ、これ死んだな』って思う程度には」


「あそこまで脅されてなおもその呼び名とは......もはや本気でビビってたのも怪しいところだけどね」


 敬の言葉を笑って受け入れ、アンドリューは鋭い気配を霧散させていく。

 そのことに、表に出さずホッと胸を撫でおろした敬。


 アンドリューはそう言ったが、内心恐怖していたのは確かだ。

 しかし、恐怖を感じているからといって、それは動けない理由にはならない。

 緊張するけど動ける、ただそれだけの話だ。


 ともあれ、これまでのやり取りでアンドリューの百合に対する矢印は確実になった。

 もちろん、幼馴染がバカにされている怒りもあっただろうが、それだけでは説明がつかない気迫がそこにはあったから。


「ともかく、僕とキンタローの関係性はこんな感じさ。

 わかってくれたかな、アンリ?」


「あぁ、十分にわかったとも。君のことも少しはね。

 そういう意味では、敬、君は確かに面白い人物だ。

 だからこそ、せっかく友人になった僕が一つ助言させてもらおう。

 君のその態度で救われるのは、君自身だけだ。周りは悲しむよ」


「.......」


「......アンリ?」


 アンドリューの忠告まがいの言葉、否、紛れもない忠告の言葉に敬は口を閉ざす。

 その言葉の意味が理解できていない百合だけが不思議そうに首を傾げた。


(なるほど、今のは僕自身に対するってことか)


 先程まで敵対しかけていた相手にすぐさま塩を送るような対応。

 それこそがイケメンがなせる行動なのか。

 少なくとも、精神的イケメンでなければ、そういった行動は出来ないだろう。

 ともあれ、今の言葉は――先程よりも効いた。


「ご忠告感謝するよ。ただ、僕も独りよがりな自覚はある。

 でも、最後にはハッピーエンドになるさ。それが道化ってものだろう?」

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