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小さな文学少女が友達を欲しがっていたので友達になって、ついでに自己肯定感やら友人関係を整えたら想像以上の勇者になった  作者: 夜月紅輝


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クエスト62 「お嬢様からの挑戦状」#2

 「婚約者」......その言葉を聞いてイメージするのは異世界恋愛だ。

 「婚約者」に酷い目に遭わされてきた令嬢がスパダリと出会い、人生を変えていく話。

 今となれば、ありふれたジャンルの一つだ。


 ともあれ、それを踏まえて考えると、「婚約者」は政治的意味合いが強い。

 家族というパイプを繋ぎ、今後の家の格を上げるために行われる策略。

 もちろん、その他にも家を継いでいくためという意味合いもあるだろう。


 ともかく、そこに恋だの愛だの意識は低く、令嬢ともなれば恋愛なんて無理に等しい。

 もちろん、フィクションの世界だとは思っているが、上流階級では今でもあるのではなかろうか。


 でなければ、そもそも「婚約者」なんて話が出るはずがない。

 そして、この言葉が出たということは、実に簡単な話じゃなくなった。


「聞いてくれるかな、アイツ」


 大広間へ続く廊下を歩きながら、敬は腕を考えて宗次の言動を思い浮かべる。

 しかし、想像上の宗次は全く良い顔をしない。どころか感情を押し殺しそうだ。


 自分が知っている宗次という人間は、実に仕事人間と言っていい。

 それは一年前から知っている揺るがぬ事実であり、友として関わってきた人間としての意見だ。


 それに、悪い形で後押しするように、宗次の立場はお嬢様と執事。

 加えて、家族ぐるみの付き合いだという。

 つまり、宗次もとい相沢家は長年小鳥遊家に仕えてきたということだ。


 根底にこびりついた認識、否、常識をぶち壊すのは容易じゃない。

 これから天子がやろうとしているのは、家同士の繋がりを一度破壊する行為に等しい。

 いや、さすがにこれは言葉が強すぎか。

 ともあれ――、


「一先ず、宗次の意見を聞いてみにぁ、話にならんかもな」


 結局、どうなるかなんて当人達の気持ち次第。

 自分が出来るのはキンタローの願望が少しでも叶う確率を上げるために施策するだけ。


 そのためにも、宗次本人からの意見も聞いて見なければ、展望も見えない。

 だから、辿り着いた大広間に入ろうとしたのだが――、


「な、何を話しているのかしら?」


 大広間特有の両開き扉の前、そこでお尻を突き出すように前かがみになるキンタローがいた。

 背後にいる敬には気づかない様子で、少しだけ開けた扉の隙間から大広間を覗いている。


 そこだけ切り取れば不審でしかないのだが、ましてやここはキンタローの家だ。

 もしかしてご両親と顔合わせずらい的なやつだろうか。

 実際、「婚約者」との縁談を蹴ろうとしているのだから無理ないが。


「よぉ、キンタロー。何してんだ?」


「ひぃ! びっくりさせないでくれまし!?」


「なんか語尾変になってるぞ」


 敬が声をかけるやすぐに、肩をビクッと震わせたキンタローがキリッと後ろを睨んだ。

 その理不尽な視線に、敬は首を擦りつつ、視線を扉の隙間の方へ向ける。


「親父さんか?」


 そう言いながら、キンタローが様子を伺う大広間を同じように覗き見た。

 すると、そこにいるのは――なんだか、ここにいるのが場違いな英国紳士だった。


 金髪碧眼にスラッとした背丈は180センチぐらいあるだろうか。

 服装もオシャレ上級者が着そうな紺色のジャケットと白いパンツを上手く組み合わせている。


 端から見ても一目でイケメンと分かり、相対する宗次も含めれば美丈夫が二人。

 宗次を美丈夫と称賛するのには実に抵抗があるが、客観的に見れば間違いじゃない。


 ともかく、どこぞの女子なら鼻血を出して卒倒しそうな、男性アイドルグループのトップ2みたいな二人をキンタローが覗き見ているのが問題だ。


 先の天子の話が無ければ、きっとキンタローは英国紳士に首ったけと思っただろう。

 でも、そうじゃない。だからこそ――、


「顔を合わせずらいのか?」


「......っ! やはり彼女はあなたを選んだのね」


「そりゃ、この場で宗次に気軽に話しかけられる奴なんて僕しかいないからね」


「そういう意味じゃないわよ」


 それ以外に他にどんな意味があるのだろうか。

 イマイチ要領を得ないキンタローの言葉に首を傾げつつ、敬は一旦疑問を脇に置いた。

 そう、今はそれよりも確かめておきたいことがある。


「あの英国紳士が君の『婚約者』という認識でいいのか?」


「えぇ、間違いないわ。名前はアンドリュー=スーザラン。

 スーザラン家とは、それこそわたくしの曾お爺様の頃からの付き合いらしいわ」


「そりゃまた随分と長い付き合いなことで」


 曾お爺様とは.....そこまで遡ったならば、「婚約者」という言葉の意味も随分と変わる。

 これは家同士を繋ぐための縁談だ。回避手段などあるのだろうか。


(いや、待てよ?)


 そう思った敬だが、すぐに別の疑問が浮かぶ。

 簡単な疑問だ、それほどまで続く家とどうして今になって婚約話なのか。

 家同士の繋がりは、それこそ一度でも繋げば十分なはずだ。


 そして、家の外観からしても上流階級の小鳥遊家がそれをしないとは考えずらい。

 一般市民の自分には思い寄らない政治的判断というやつなのだろうか。

 まぁ、それも一旦脇に置いておいて――


「見た感じめっちゃ人の良さそうな感じだけど.....あれか?

 二人っきりになると鬼畜ドSDV男みたいになるのか?」


「何を考えてるのか大体わかるけれど、別にアンリは最低な男じゃないわ。

 むしろ、めちゃくちゃ良い人よ。それだけは胸を張って言えるわ」


 キンタローから語られる称賛の言葉に、敬は真下にあるキンタローの頭のつむじを見つめた。

 なんという褒め殺しだろうか、そこまで言っておいて「婚約者」を選ばない。

 もはや別の、決定的な価値観の相違が無ければ納得できないが。


「性格が陰険.....はさっきの言葉と矛盾するか。趣味が悪いとか?」


「スニーカーコレクターとは聞いてるわ。

 ほとんど履かない靴でいっぱいと聞くけど、それは服を持つわたくしも同じだし。

 そういう意味では、良識の範囲内の趣味と言えるわ」


「ゲテモノ好きとか?」


「アンリと味覚はわたくし達とそう変わらないわ。

 それに、最近だと日本のファミレスのハンバーグの味を気に入ってるらしいの。

 どっちかって言うと、庶民寄りの味覚をしてるわね」


「性癖が最悪とか?」


「そこまではさすがに知らないわよ。

 けど、至って一般的な範囲内だと思うわよ?

 というか、それに限っては知らないわよ! 話したこともないし!」


 どれだけ相手をこき下ろすような言葉を求めても、キンタローの口からそれを聞くことはなかった。


 悪い所が徹底的に潰され、良い所だけが残る。

 ふむ、どこら辺が「婚約者」として不適格なのか。

 むしろ、異世界恋愛のスパダリ部類に入る破格の物件だと思うが。


「なぁ、どうして宗次を選んだんだ?」


 もう普通に気になったので、直接聞いてみることにした敬。

 今のキンタローの状況は高級料理が据え膳状態で置かれているのだ。

 その状況で、どうしてわざわざ他の料理を注文する必要があるのか。


 それこそ、数多の玉の輿を狙う淑女達からすれば、キンタローの立場は喉から手が出るほど欲しいものだろう。


 そんな立ち場に居ながら、アンドリューのことを憎からず、むしろ好意的に思っていながら、それでもなお掃除を選ぶ理由はなんなのか。


 それが気になったからこその敬の質問であり、その回答をキンタローは依然隙間から二人の美丈夫を眺めながら、


「先に好きになってしまったから」


 ただ一言、そう、答えた。

 だからこそ、その言葉にこれ以上の質問が敬には出来なかった。


 「好き」とは、本当に、なんという便利な言葉だろうか。

 その言葉には、言葉以上のエネルギーを内包していて、それこそ理屈も吹っ飛ばしてしまう。


 それこそ、目の前にいるキンタローがハイスペックそうなアンドリューよりも、身近にいる宗次を選んでしまうほどには。

 そして、その理屈を「好き」の一言で理由付けしてしまうのだから。


 もちろん、ちゃんと考えようとすれば、もう少しもっともらしい説明ができる。

 恐らくだが、キンタローにとって恋のキッカケとなった小学生の頃のイジメが「好き」の補正を強めているのだろう。


 「遠くの親戚より近くの他人」という言葉がある。

 これは遠くにいる親戚よりも近くにいる他人の方が助けになるということだ。


 それをキンタローの状況で言い換えれば、「遠くの婚約者より近くの執事」となる。

 言わんとすることはわかるだろう。結局、そばにいる人に一番心開きやすいのだ。


 それに、これは自分の祖父の話だが、祖父の親――つまり、曾爺ちゃんにはもともと別の奥さんがいたらしい。


 しかし、時が戦時中ということもあり、曾爺ちゃんは強制出兵。

 奥さんとは離れ離れになり、命からがら帰ってくれば奥さんは別の男と子供がいた。

 その時に言った奥さんの理由が「辛いときにそばにいてくれたから」というもの。


 その時の爺ちゃんは、仕方ない状況だったとはいえ、「辛い思いをさせたのは事実」という理由で身を引いたらしい。

 今の世界を生きる人間からすれば、優しすぎてビックリする理由だ。


 しかし、実際にある理由で、キンタローの抱えた恋心もそれに近いものだろう。

 アンドリューがキンタローにとってどれだけ破格の物件だとしても、住み慣れた宗次という家からは離れがたい。すでに都になってるからだ。


 つまり、この時点でキンタローを説得してアンドリュー路線にすることは出来なくなったわけだ。

 もっとも、最初からそっちの方向は考えていなかったが。


 ちなみに、これはただの余談だが、曾爺ちゃんが奥さんを譲った旦那の家系とは、今も爺ちゃんの世代まで親交があるらしい。


 一言で言えば、奥さんをNTRした間男と親しくしているというこだ。

 脳破壊も著しい関係性だが、間男が実に誠実な男であったために成立した関係のようだ。

 今と当時じゃ、環境も状況もまるで違うからビックリな話だよね。


「にしても、そうか......フリーか」


 破格の物件が手放しフリーになる状況。

 異世界風に言えば、王子様が婚約者を失って一人身になるということ。

 その傷心の隙を勇者が突いたらどうなるのか。


 もっとも、さすがに本人にそこまでの悪女をさせることは出来ないけど。

 されど、頭の片隅に入れてもいい知識だろう。あの純粋さは万人受けしそうだし。


 そんなことを敬が考えていると、真下にいたキンタローが突然敬の腕の裾を引っ張り出した。

 何事かと敬が視線を向ければ、キンタローは裾を指で摘まんだまま、後ろに身を引き、


「アンリがこちらに来るわ。適当に話を合わせて!」


 ということらしい。

 さしものキンタローも出張亀には恥ずかしさを抱えている様子。

 淑女たる者、親しき仲にも礼儀ありを貫き通したいみたいだ。


 というわけで、敬も扉の隙間をチラッと見やる。

 確かに近づいて来てるので、キンタローの指示通りに扉の横へ移動して、


「さぁ、なんの話をしようかマイハニー」


「この状況で躊躇なくぶっこんでくる根性は褒めてあげるわ。

 だけど、今はやめなさい。あなた達の作戦難易度がむやみに上がるだけよ」


「クライアントだからって高みの見物か?

 必要となれば、そちらさんにも容赦なく動いてもらうつもりだからな」


「えぇ、それは承知のつもりよ。いざとなれば、裸で騎乗して街一周してやるわ」


「誰もそこまでやる覚悟を持てとは言ってねぇ」


 確かに、そんな逸話を持つ絵画があるとか聞いたことあるけども。

 敬には、キンタローをそこまでさせるつもりは毛頭ない。


 というか、それをしてしまったら、軽口で罵ってる宗次よりもよっぽどの鬼畜野郎になってしまうではないか。


「お、ユリハじゃないか。久しぶり」


 キンタローの思わぬ返しに敬が瞠目していると、扉からガチャッと金髪イケメンが現れる。

 同時に、彼の口から紡がれたのは日本人と見間違うかのような流暢なしゃべり。


 ここ最近よくブイチューバ―で見る日本人より日本語が上手い外国人と生で対面した気分だ。

 英語が達者ではないこちらからすれば実にありがたいが、実物を見るとちょっと驚く。


「えぇ、久しぶりね、アンリ。ごめんなさい、出迎えに行かなくて。少し私用で立て込んでいて」


 背後からかけられる声、それに瞬時に表情を作ったキンタローが振り返り、知己の相手に親しみを込めて返答した。


 あまりの変わり身の速さに、これはこれでビックリする敬。

 その一方で、二人は軽く話を交わすと、アンドリューが敬の方へ視線を向け、


「それで君が宗次の友達の犬甘敬さん.....でいいのかな?」


「イエス! アイム、ケイ、イヌカイ。ナイストゥミートゥ」


「ハハッ、なるほど、確かに宗次の言っていた通り面白い人みたいだ。

 こうも日本語で話しているのに、それでも英語で挨拶してくるとは」


 と、宗次からの事前情報をもとに、敬をそう評価するアンドリュー。

 その言葉に、敬は「宗次の奴、何言いやがった」と文句を言いたくなったが。

 しかし、アンドリューは敬の挨拶に気持ちよく笑みを維持したまま、右手を胸に当て、


「『Nice to meet you too』。アンドリュー=スーザランだ。アンリで構わないよ」


 数多の女子なら一発で惚れらせる笑みでもってアンドリューは挨拶した。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)

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