クエスト61 「お嬢様からの挑戦状」#2
小鳥遊家の裏庭にあるガゼボ、そこで天子お手製の昼食を頂いた敬は無事にエネルギーの補給が出来た。
昼食という観点だけで見れば、食事を終えた今、その時間も終了したと認識してもいい。
しかし、あいにく昼食で済ませるのは食事だけではない。
それが天子からの相談事だ。
内容までは把握していないが、昼食の時間で話を聞くと敬は約束した。
もっとも、昼食に出されたサンドイッチに夢中で失念していたが。
ともあれ――、
「こんな僕に出来ることは少ないけど、せっかくの天子からの相談だ。
ぜひお話を聞かせてもらえないかな?」
そう、言葉にしながら、敬は僅かに身構える。
天子が誰かを頼るのは、今となっては珍しい話ではない。
社交性という面も本人の頑張りで少しずつ成長している。
問題は、それだけじゃない気がすることだ。
ここ最近の天子は妙に自分との距離感を気にする。
友達という距離感であれば、もうすでに十分すぎるぐらい成立している。
なのに、さらにその先を求めているような、いっそ飛び越えるような距離感。
もちろん、自分の勘違いという側面もある。
それならそれで、自分がただの痛い奴ということで収まりがつくからいい。
しかし、それが存外外れていないと感じるのが問題なのだ。
だからこそ、ここで天子の口から放たれる第一声次第で――
「先にお願いだけ、単刀直入でお伝えします。
百合さんと宗次さんの恋の仲人になって欲しいんです」
「.......んぇ?」
天子から聞かされた要求に対し、敬は二つの感情を感じた。
一つは拍子抜け、それは敬が単に警戒しすぎた故の結果だが、随分と真剣な表情をする天子から聞かされた言葉が、まさか恋のキューピッドになってくれとは。
もう一つが興味、それは当然敬の数少ない男友達である宗次の恋を取り持つという展開に対する面白さだ。
むしろ、それが面白くないはずがないだろう。
とはいえ、この言葉を冷静に噛み砕いたとしても、宗次が提案するとは思えない。
あの眼鏡は柔軟な発想をする割には良くも悪くも堅物であり、立場を維持する。
あと、きっと本性は鬼畜ドS調教師だろう。
同人誌映えしそうな見た目だし。
っと、それはともかく――
「それはキンタローの提案?」
たとえ秘めたる想いを抱えていようと、長年で形成された距離感は埋めがたい。
そして、真面目人間である宗次がその距離感を崩すとは考えずらい。
となれば、残る可能性は幸音かキンタローのどちらか。
幸音ならぶっちゃけ言いかねない雰囲気はあるが、あの人もメイドである以上、立場を気にする。
つまり、過ぎた発言は出来る限り控えると言ってもいい。
とはいえ、それを抜きにしてもだいぶフランクな性格な人には変わりない。
自分が知らない変化球を投げることだって十分にあり得る。
しかし、それを考えるくらいなら本人の立案の可能性がよっぽど高いだろう。
キンタローがなんとなく宗次へ意識を向けていたことは、去年から知っていた。
キンタローと交わした言葉はそれほど多いわけじゃないが、それでも端から見てもわかりやすいほどにはラブ波動を出していたし。
そんな彼女がお嬢様と執事という距離感にヤキモキすると考えるのは想像に難くない。
そこへ幸音がそそのかす言葉をかけた......そう考える方が自然だ。
そんな敬の思考の末に出した質問を、天子は肯定するように頷き、
「はい、丁度昼休み頃に百合さんご本人から提案されました。
その際、私一人がその立場になって取り持つ感じになったのですが......」
「ま、キツいわな。宗次と仲良くなったのもつい先月ぐらいだし。
思春期ありがちの悩みとはいえ、だいぶプライベートに踏み込むことになる。
ましてや、相手は異性だ。つまり、協力者が欲しい」
「やはり、敬さんには見抜かれてしまいますね。その通りです。
ですから、敬さんに私の恋の仲人の協力者になって欲しいんです」
真っ直ぐ向けられる天子の双眸には、断られる不安が一切無かった。
そのキラキラとした目に、敬の心を覆う殻が僅かに固くなる。
あまりに太陽が眩しすぎて、見ようとしても目を瞑ってしまうように。
しかし、幸いにも自分の表情筋は死んでいる。
もうかれこれ動かなくなってから三年ほど経過するが、本格的に固まったのかもしれない。
まぁ、今更どうだっていい話には違いないが。
そんな自分のどうでもいい話はさておき、天子の話を断る理由はない。
なんたって、天子が外部から依頼を受けた、正しく成長の証なのだから。
となれば、勇者パーティの一人として、この道化も働かせてもらおう。
「わかった。天子が俺の知らぬところで相談事を引き受けるとは思わなかったけど、これはこれで天子の社交性や積極性を伸ばせる良い機会だ。
喜んでお手伝いさせていただこう」
「ありがとうございます。敬さんがいると心強いです」
「それで具体的にどういう行動をするか聞いてる?」
「あ、いえ、具体的には......というより、作戦は丸投げって感じですね。
それであいにく恋はもとより対人関係の経歴すら短い私ではどう動けばいいのかわからないので、その......」
「なるほど、俺は協力者兼アドバイザーってことね」
「そうなります。ご迷惑かけますが、何卒よろしくお願いします」
そう、他人行儀とすら思えるような丁寧な言葉を並べて天子が頭を下げる。
もちろん、それは真面目さが一周回って辿り着いた感じなので、敬とて指摘するつもりはないが。
ともあれ――、
「当てにされ過ぎるのも良くないから先に言っておくけど、僕だって正解は知らないよ?
友人歴がいる歴は僕の方が長いから、それ故に指摘できる部分はあったとしても、生まれてこの方彼女という存在がいたことないからね」
「そうなんですか!?」
「おぉう、凄い食いつき......」
「ぁ、す、すみません......」
前のめりで立ち上がるほどの勢いで食いついた天子、敬に驚かれて恥ずかしそうに引き下がる。
思わぬくいつきに、されど身構えていたおかげで敬は身じろぎ一つしない。
とはいえ、それで内心まで鉄のハートをしているわけではない。
それこそ、天子の反応はあまりにもビックリだ。
あの反応......それこそ、天子が恋に興味を持っているかのような反応ではないか。
もちろん、気のせいならそれに越したことはないが――、
「それじゃ、まずは改めて現状を整理してみよう。
何事も始めるためには、今の立ち位置をしらなきゃね」
「そうですね。急に事を勧めようとして思わぬ障害があったら嫌ですし」
「そゆこと。ってことで、現状の把握だけど、まず今回の主役は二人だ。
一人は財閥令嬢のキンタローで、もう一人が彼女の想い人であり執事の宗次。
んで、僕達はその二人の仲を取り持とうって話だ」
「そうですね。後は幸音さんが協力者になってくれる感じでしょうか?」
「だね、ま、まず協力してくれるとは思うけど。ああいうの好きそうだし」
敬が幸音と話した回数は、それこそ去年を含めても数えるほどしかない。
しかし、その少ない会話であっても本性が見える人物はいて、幸音はそのタイプだ。
見る限り隠そうと思えばどこまでも隠せそうな思慮深さを持っていそうだが、本人がそこら辺明け透けにしているために、興味を引くことができたなら取りつきやすいだろう。
もっとも、自分の主に食いつかないメイドとは思えないが。
「それじゃ、次は状況の整理だ。
まず、キンタローは宗次にラブな感情を持っている。これは揺るがぬ事実だ。
しかし、逆はどうかわからない。ここを確かめる必要がある」
さしたる恋愛経験者ではない、いや、それ以前に恋愛経験ゼロであるが、距離感を測るという意味では敬は自信がある。
そして、恋愛においてもその距離感、自分が意中の相手に対してどのくらいの位置にいることは大切だと思っている。
当たり前の話で、意中の相手が友達同士の距離間と遠くから見かけた異性では、当然アプローチの仕方は違うだろう。
やみくもにあげても、それは貢いでるだけであり、好感度の伸び率は芳しくない。
相手の好感度を上げたいなら、やはり適切なプレゼント。
これぞギャルゲーの鉄則。やはりギャルゲーは偉大。ビバ、ギャルゲー。
「そして、次に俺達の立ち位置だ」
「私達の、ですか?」
敬が言った言葉に、天子は純粋な瞳で首を傾げる。
そんな天子に、敬は特に意味もなく人差し指を一本上げると、
「あぁ、そうだ。これは自分の役割と言い換えてもいい。
んで、その役割以外を果たしてはいけない。
例えば、キンタロー担当の天子がいきなり宗次とに会話回数を増やしたり、とかな。
不審に思われる可能性を低くするんだ」
人と人の恋を取り持とうというのだから、相手のプライバシーを踏み込むのは否めないし、ある程度不審に思われることも覚悟しなければいけない。
だが、その不信感を可能性をイタズラに上げる必要はないということだ。
たとえ多少不審があっても、度を越さなければ信頼を上塗りできる。
それは今後とも続く人間関係への保険でもあるのだ。
「いいかい、僕達はあくまで黒子だ。物語の補助装置と言ってもいい。
舞台の演者がしっかりと役に入り込めるように、時に繊細に、時に大胆に行動する必要がある」
「な、なるほど......」
「というわけで、天子はキンタローについてくれ。
やることは単純で、純粋に仲良くなればいい。
んで、その彼女から得た情報を僕と情報共有、その都度作戦を細かく調整する。
僕と天子が仲良く話している分には誰も不審には思わないからね」
「わかりました。となると、相沢さんには敬さんがつくということでいいんですね?」
「そうだね。後は幸音さんをサポーターとしてつけるというところか」
接点は少ないが、なんとなく二つ返事で答えてくれそうな印象を持っている敬。
現に、脳裏ではサムズアップしている幸音が思い浮かぶ。なんなんだろうかあの人。
ともあれ――、
「これで僕達の立ち位置が決まったわけだけど......」
「だけど?」
「これは今後活かせるかどうかわからないし、単純な興味なんだけど、キンタローはどうして宗次を好きになったんだ?」
と、言葉にしつつも、その会話から宗次へのアプローチの糸口を探している敬。
男同士の会話で、それも普段しないジャンルの話題をいきなり振った場合の不審は測り知れない。
だから......そう、口実が欲しい、というのが本音かもしれない。
「たまたま天子を通じて話を聞いて」と前置きを挟めば、仮に裏を取られてもそこに嘘偽りはない。
つまり、その話題を振った不審さも拭え、宗次からの敬への信頼も損なわないという結果に繋がる。
そのための布石、天子に言わないことに申し訳なさが立つが、天子に嘘をつくのが上手いという印象はないで、このまま真意は知らないでもらおう。
そんな敬の本音はさておき、敬からの質問に、天子が人差し指をあごに当てて思案顔。
いや、正確には何かを思い出そうとしている顔だ。
そして、指先を下ろすと、おもむろに口を開き、
「一応、敬さんに協力を仰ぐことを決めた後に、興味本位で聞いてみました」
それから、天子から聞いた話を整理するとこうだ。
キンタローこと百合と宗次の出会いは、百合が四歳の時だ。
当時の百合は天真爛漫といった少女で、考えるよりも即行動のタイプ。
考えてから動く宗次とは真逆で、多少歯車が上手く噛み合わないことがあったようだが、それでも宗次を一つ上の兄のような目線で慕っていたらしい。
しかし、そんな彼女に好意のベクトルが変わる転機が訪れる。
百合が十歳の頃、百合は一部の女子グループからイジメの標的になった。
理由は「金持ちで偉そうだから」というもの。
確かに、当時の百合は天真爛漫な性格があまり強制されずに育ち、良くも悪くも相手に正直なことを言う少女へと育っていた。
その口が災いして、当時のカースト上位の女子の癇に障ったようでイジメを受けたのだ。
一方で、被害者の百合は親に迷惑かけるのが嫌で耐える日々を続けていた。
そんな状況から助けてくれたのが、一つ上の兄兼執事であった宗次だ。
具体的な方法は、それこそ当事者の百合ですら知らないらしいが、ともかく宗次が関わってからイジメがピタリと止まった。
それが百合の親愛が恋愛に変わった瞬間だという。
それが今の百合の恋の始まりであり、決着をつけたいと抱えている感情。
なぜなら――
「......婚約者の話が浮上した、か」
そう、言葉を呟き、天子から聞いた話を脳裏で巡らしながら、敬は廊下を歩く。
向かう先は一つ、宗次がいるとされている大広間へ。
読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)
良かったらブックマーク、評価お願いします。




