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小さな文学少女が友達を欲しがっていたので友達になって、ついでに自己肯定感やら友人関係を整えたら想像以上の勇者になった  作者: 夜月紅輝


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クエスト60 「お嬢様からの挑戦状」#1

 掃除をすることは好きだ。

 頻度高くやりたいとは思わないが、それでも掃除をしているとまるで脳内の雑念も捨てられるようで。


 それが気持ちの問題ということは、十分に理解している。

 しかし、心と体が連結しているのなら、きっと体を動かすことも無意味ではない。


 だからこそ、つい先日に思いがけず思い出してしまった懐かしき悪夢を忘れるために、今はただ目の前のことに意識を割く。


 場所はとある煌びやかな一室。

 部屋の中には、最低限の調度品と、目がチカチカするような高価なものが棚に並べられている。

 広めの部屋に棚の数は三つあり、それは半分に分けて右側にあった。


 反対側は複数のクローゼットが並んでおり、そこに入り切れなかった服が扉の前で並陳列、それら全ては女性者の服であることから、まず間違いなく百合の服なのだろう。


 それらを踏まえて考えると、この部屋はもともと客室であり、そこを物置として使ってるのだろう。

 とはいえ、明らか高価な物が不用心に置かれている部屋を他人に掃除させるとは――、


「ここ絶対俺の役割じゃないだろ......」


 ぶつくさと文句を垂らしながら、部屋の掃除を任された敬はため息を吐く。

 ここの掃除を頼んだのは宗次であるが、なぜよりによってもここなのか。


 明らかプライバシーに思いっきり踏み込んでおり、警戒心がまるでない。

 ここで、もし自分が愛しの主の服を着用して小躍りしたらどうするというのか。


 加えて、物置部屋の掃除を一人に任せるのも頂けない。

 出来ないとは言わないが、触れても大丈夫な物なのか判断に困る。

 ましてや、いらなそうなものは袋に分別しておいてくれ、などもってのほか。


「これも信用がなせる技なのか......」


 もちろん、自己判断でゴミと判断した袋であっても、本当にゴミかどうかあちらで判断してくれるだろう。

 しかし、それは二度手間が過ぎないだろうか。


 であれば、最初からここは宗次が仕事し、他の部屋を自分がやった方がはるかに効率的だ。

 にもかかわらず、非効率なこの状況には別の思惑を感じなくもない。


「......うだうだ、考える前にやりますか」


 脳内に浮かび上がる邪念。

 懐かしき悪夢よりはマシだが、これも脳内には不要で間違いない。

 とある有識者によれば、手を動かすだけでも集中力が増すと聞く。

 それに倣って、敬が再び掃除を再開しようとしたその時――


―――コンコンコン


「ん?」


 不意に背後のドアからノック音が聞こえた。しかし、すぐに声がかけられない。

 これが宗次ならすぐに声を荒げたものだが、声がしない以上、彼ではない。


 幸音の可能性も考えたが、彼女も用があればすぐに声をかけただろう。

 二人とも百合に仕える身である以上、合理的な人間であるからだ。


 であれば、残す可能性となれば誰か。

 ノックした以上、ここがどういう場所か知っており、さらには中に人がいることを知っている。

 その上で、意図せず沈黙を選ぶ可能性があるとすれば――


「あ、あの、敬さんはいらっしゃいますか?」


「やぁ、マイソードマスター! どうしたんだい? 何か御悩み事かい?」


 声をかけられた瞬間、敬の脳内ではカチッと意識が切り替わり、ついでに口調も変わる。

 その口調を全身で体現するように、部屋の中で無意味に一回転しながら、ドアに近づき、さらにガチャッとドアを開けて呼びかけの主に声をかけた。


「――っ!」


 扉を開けようとしていたのか、取っ手から手を引っ込めた天子がビクッと肩を震わせた。

 そのまま目線を一、二回ほど左右に彷徨わせるも、最終的には視線を合わせ、


「あの、少しお話したいことがあるんですが、今からお時間よろしいですか?」


「ふむ、その質問から察するに、緊急性を要する感じがするね」


 とは言いつつも、天子の様子からはその真逆、緊急性を感じない。

 その事実に、表情の変わらない道化こと敬の目が僅かに狭まる。


 今の天子の状態は、少し堂々としたものだ。

 それ自体は天子の成長によるものと判断できるが、性根というのは基本変わらない。

 つまり、根が正直な天子であれば、緊急の用事なら態度に表れるはずだ。


 それが出ていないということは、緊急性の用事ではない。

 しかし、雇われた時間の中で、こうして行動してきたということは意味があるはず。

 察するに、伝言あたりだろうか。次点で手伝いに来たとか。


「どんな話?」


「ここではその......ちなみに、ここでは何を?」


「うん? 物置部屋と化した客室の掃除だけど」


 突然の話題転換をする天子に、敬は首を傾げる。

 その回答に、慌てた様子で天子は「あ、その」と言葉を刻み、


「幸音さんからもしかしたら敬さんは昼食を取らずに働いてるのかもって」


「昼食.......あ、本当だ」


 夢中で掃除していて気付かなかった。

 確認してみれば、今やもうすぐ13時。

 とっくにお昼時間を過ぎてるではないか。

 にしても、どうしてここで掃除しているのを天子が知っていて......宗次が教えたのだろうか?


「時間を見たらなんだかお腹空いてきたな」


「でしたら、一緒にお昼はどうですか? あ、いや、私はすでに済ませてるんですけど」


「そこで話をしようって?」


「です」


 天子の言葉の真意を察し、敬が質問として確認すれば、天子が大きく頷いた。

 すでに昼食を済ませているというのに、随分な積極性だ。

 何がそこまで彼女を突き動かしているのか。知りたくもあり、怖くもある。

 とはいえ、現状で断る理由もない。だから――、


「なら、ここはいっちょ俺のお話相手として付き合ってもらおうかな。

 そして、あの鬼畜ドS調教メガネが鬼畜ドS調教たる所以について花咲かせましょうじゃあぁりませんか!」


「相沢さんはそこまで評価受ける人物とは思いませんが......」


 両手を広げ、大げさな振る舞いで言葉を並べる敬に対し、天子は苦笑した。

 ともあれ、これにて行動方針は決まったので、早速行動に移す。

 ひとまず、厨房の方へ行ってシェフに謝りつつ、昼食を貰い、それから――


「お昼の準備ならすでに出来てますよ」


「へ?」


「こちらです」


 呆ける敬をよそに、天子は先に目的地に向かって廊下を歩く。

 その後ろ姿をしばし見つめ、妙な展開の速さに目を細めつつ、敬は後ろをついて行いった。

 それから数分後、敬が辿り着いた場所は裏庭に続くドアであった。


「この先です」


 少し呆けた敬の顔を見やり、天子がドアを開けて先に進む。

 敬も遅れて入れば、見えてきたのは絵画の一枚絵にありそうな美しき庭園だ。


 もともと大きな屋敷であったために、庭園もまた例外なく広い。

 ちょっとしたドッグランだ。ここで犬と追いかけっこしない。犬飼ってないけど。


 あまり目にしない光景に、さしもの敬も視線が左右に動く。

 庭師によって維持管理がなされている庭園は、まるで別世界に来たと錯覚させる。

 服装も今は執事服、天子もメイド服であるために、その錯覚に拍車をかけているのもあって。


「.......」


 さながら異世界だ、と敬の脳裏に過った所で、敬の視線は数メートル先を歩く正面の天子を捉えた。

 わき目も振らず歩く彼女が向かっているのは白い東屋......いや、確かガゼボと言ったか。


 その中にある白いテーブルには、空気を妨げるように銀の蓋がされた料理が並んでいる。

 先程、天子が言っていたように、まるで敬が昼食がまだと見計らって用意されていた。

 やっぱり準備が良すぎる――


「......いや、考えすぎか」


 脳内に浮かんだ考えを自ら首を横に振って否定し、邪推を抜きにして敬は歩き出す。

 ガゼボまでの石畳、その舗装された道を重々しく踏みしめながら。


「まさかこんな場所で昼食が取れるなんて思わなかったよ」


「幸音さんに教えてもらったんです。良かったらここをどうぞって感じで。

 私も一足先にここで昼食を取ったのですが、風景を見たり、風を感じたり出来たので、なんだか新鮮でした」


「確かに、こんな風景はどこの店でも味わえないかもね」


 白いテーブルまで辿り着き、そこにあるこれまた白い椅子を引き、座った。

 そんな敬の横で、天子は座らず立ったまま、銀の蓋を開ける。

 彼女なりのメイドの所作を模したものだろうか。ともあれ――、


「これはサンドイッチか。美味しそうだね」


「厨房で食材を提供してもらい、作ってみました。良かったら、その、どうぞ」


「これを天子が?」


 質のようなバスケットの中には、いくつかのサンドイッチがある。

 そのサンドイッチは複数の具材がパンで挟まれており、加えてサンドイッチの数だけ具材が違う。


 ジャム系ではなく、惣菜系ではあったが、それでも食指を動かさせるには十分だ。

 心なしか、サンドイッチが磨いた金属のように光沢を帯びて見える。

 なんだか手に取って食べるのを躊躇ってしまいそうな、そんな美しい見栄だ。


「なんだかラテアートみたいで食べるのをもったいなく感じるな」


「ふふっ、そう言ってもらえると見栄えに凝った甲斐がありました」


「やっぱり凝っていたのか。デザインセンスがあると思うよ。

 とはいえ、食べない方がもっともったいないか」


 そろそろお腹の方も我慢の限界だ。

 早く飯を寄越せと催促する音を鳴らしている。

 それに呼応して、口の中の涎の分泌量も多いと来た。


 わざわざセルフで生殺しを味わう必要もあるまい。

 というわけで、両手を合わせると「いただきます」と唱えて、敬は一つのサンドイッチを手に取った。


 そのサンドイッチは、具材にレタス、ハム、たまごとシンプルなやつだ。

 しかし、食べる前からこれは美味いとわかる。だって、具材が輝いてるもの。

 まるで食材自らが食べられることに生まれた意味を見出しているように。


「―――はむっ.......ん!」


 抗いがたい衝動のまま、サンドイッチを大きな口でパクリ。

 三角形の三分の一ほどを口に含めたところで、口の中が爆ぜた。


(こ、これは、食材が見せる命の輝きによるビッグバン!)


 もちろん、ただの比喩であるが、そう感じる衝撃が脳へと突き抜けた。

 もともと空きっ腹だった胃の中に、これほどの破壊力をもったものを放り込んだことを後悔する。


 なぜなら、ゆっくり味わうよりも先に、手が勝手にサンドイッチへ伸びてしまうのだ。

 口が、胃が、脳が、「美味しいものをもっとよこせ」と叫び散らかす。


 パク、ゴクリ。パクパク、ゴクリ。パクパクパクパク――うぐっ!

 無我夢中で食べていたら、噛み砕いて飲み込むよりも先に喉がにサンドイッチがつっかえる。


 なんと言う事だろうか、フードファイターみたいに口の中に食べ物を突っ込んでいたせいで災いが起きてしまった。しかし、さほど後悔は無し。


「敬さん!? あ、これ、水です」


「んぐんぐ.......ぷはっ」


 敬が喉を詰まらせたことを察し、天子がテーブルに置いてあったコップを手に取り、渡した。

 それを受け取ると、敬はすぐさま水で口の中を喉へ流し込む。


 ゆっくりと嚥下し、喉を通過する食材の圧がスッと消えたことを確認すれば、すぐさま次のサンドイッチへ――


「あっ、もう残り一個.....」


 バスケットへ伸びかけていた右手がピタッと止まる。

 チーズ、カツ、レタスが一緒くたになっているサンドイッチ、それがバスケットの右隅にポツリ。


 なんという、なんという悲しさだろうか。

 味わう余裕もなく、食らい尽くす勢いで食べていたのもそうだが、もうこれでラストだなんて。


 胸の内側を覆い尽くす寂しさに、しかし敬はゆっくりと右手でサンドイッチを手に取る。

 もしかしなくても、おかわりを望めば、天子は作ってきてくれるだろう。


 しかし、自分一人のためにわざわざそこまでしてもらうのは申し訳ない。

 自分は別に天子を使役してるわけではないのだ。傲慢はよくない。


「あの、まだ足りないなら今から作ってくることもできますが......」


「いや、そこまでしてもらわなくても大丈夫。

 美味しすぎて味わって食べなかったのは自分の落ち度だ。

 それに、落ち着いたところで自分のお腹の満腹具合も把握できたしね」


 サンドイッチはお手軽な料理に見えて、意外と腹に溜まる――というのが敬の持論。

 つまり、今の時点でおおよそ腹八分目といった具合だ。


 これ以上頼んで、食べきれずサンドイッチを余らせる方が不味い。

 故に――、


「僕はこの残り一個をちゃんと味わって食べるつもりさ」


 そう言って、敬は最後のサンドイッチをパクリ。

 ミートソースで味付けされたカツに、サンドイッチとレタス。


 このシンプルな組み合わせがもはやミスマッチなはずがない。

 口の中に味が染みわたり、胃の満腹度合も関係なく、口が次を求める。


 結果、これまたあっさりペロリしてしまったが、先ほどよりは味わえた感じはある。

 ここら辺が妥協ラインだ。美味しすぎるのが悪い。


「ごちそうさまでした」


「お粗末様です」


 天子に向かって敬が頭を下げれば、天子も丁寧に頭を下げた。

 これにて敬の昼食時間は終了――とはさすがにいくまい。

 本来なら、食べながら話をする予定だったのだから。


 それが予想外の形で裏切られたとはいえ、その約束を反故にするのはよくない。

 だからこそ、敬は「天子」と名前を呼び、意図を汲んだ天子が向かいの席に座るのを確認する。

 そして互いの準備が出来たところで――、


「そんじゃ、もう一つの用事を済ませようか」

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)


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