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小さな文学少女が友達を欲しがっていたので友達になって、ついでに自己肯定感やら友人関係を整えたら想像以上の勇者になった  作者: 夜月紅輝


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クエスト58 初めての恋の相談#2

 物事には何事も正しく受け止めるための心構えが必要だ。

 それは大なり小なり言えることで、耐えうる心構えが無ければ、心は容易く乱されてしまう。


 ましてや投げられた爆弾が大きければ大きいほど、その乱れも比例する。

 では、先ほど百合から投げられた爆弾の威力はどのくらいか。

 感じ方に個人差はあれど、こと天子に限って言えば、その影響は凄まじい。

 

――時に、大撫さんは好きな人がいるでいいのよね?


 それはあまりに唐突な言葉であった。

 先程までソフトボールを投げ合っていたかと思えば、手榴弾にすり替わっている。

 加えて、その威力は見た目以上。隕石でも降って来たかのようだ。


「........え?」


 爆発した。質問への理解が散り散りに砕け、衝撃の波とともに無理解を押し付ける。

 同時に、爆風はこれまでの天子のあらゆる思考を吹き飛ばした。


(今の言葉は? いや、一体自分はここで何を? いや、というか、ここはどこだっけ?)


 それでも沸々と浮かぶ疑問はその度に粉々になり、やがては自分のいる場所すらあやふやになる。

 今、彼女の思考にあるのは白――即ち、「無」だ。


 考えようにも、考えるための種が根こそぎ持って行かれ、何も思い浮かばない。

 目の前がチカチカする。何も声が出ない。リアクションができない。


「あら、随分と面白い反応するのね。自覚が無かったのかしら?」


 未だ脳内ブルースクリーンならぬホワイトスクリーンでフリーズする天子をよそに、正面の百合は優雅にティーカップを手に持ち、口をつける。


 まるで自分が放り投げた爆弾に気付いていないかのようだ。

 いや、事実、気付いていないのだ。なぜなら、当人にとっては爆弾ではないから。


―――パン


「―――っ!」


 瞬間、天子の脳内が弾けた。

 違う、手を叩いたような高い破裂音が鼓膜を突いたのだ。


 視線が自然と音の発生源に向けば、そこにいたのは胸の前に両手を合わせた幸音だ。

 どうやら彼女が思考を激しく乱した天子の意識を覚醒へと導いたらしい。


 霞んでいた幸音や百合の輪郭がハッキリし始めた。

 同時に、音の衝撃が思考の粉塵を払い、晴れた意識の隙間から情報が流れ込む。


 自分がいる場所はどこで、自分が何をしていて、自分は誰と話していて、何を聞いたのか。

 思い出される。形作られる。砕け散り散りになった情報が元の姿へ。


(思い、出した.......思い出した)


 全部、思い出した。

 思考が巡れば、意識が巡る。

 意識が巡れば、自分の状態がわかる。


 凄まじい汗だ。そしてドラムロールをしているかのような鼓動音。

 呼吸も有酸素運動したように絶え絶えであり、手先が小刻みに震えていた。


「とりあえず、深呼吸した方がよいかと」


「え......あ、は、はい......」


 憂慮な瞳を向け、幸音が柔らかい声色で天子に提案した。

 正常な思考は未だ難しくとも、判断は出来る天子は、小刻みに動く顔で提案に頷く。


「すー......は......」


 右手を胸に当て、小さな鼻から空気を取り込み、肺を風船のように膨らます。

 それからゆっくりと吐息し、肺に溜まった空気を抜いた。

 たった一回やっただけだが、それでもだいぶ心は落ち着いた。


 それをもう二回繰り返せば、最初の頃よりは思考も巡るし、視野も広い。

 鼓動の速さもドラムロールから少し早いメトロノームぐらいにはなっただろう。


「お、落ち着きました......」


「それは良かったわ。こちらこそ、他愛のない会話......よりかは少し踏み込んだ話ではあったけど、まさかそこまで反応されるとは想定外だったわ。ごめんなさい」


「あ、いえ、そんな謝られることでは......」


 深々と頭を下げる百合に対し、天子は慌てて両手を突き出した。

 小心者である天子にとって人に頭を下げられると罪悪感が生まれるのだ。


 それが謝罪であればなおのこと。

 ともあれ、別段百合が天子に対して悪意を持って話題を振ったわけではないことは確か。


 その手の話題に天子自身が極端に耐性が低かっただけの話である。

 まぁ、クリティカルもクリティカルすぎる話題転換だったのは否めないが。


「わ、私は別に悪口を言われたわけじゃないので.......単にビックリしただけです!」


「ビックリで思考がスペースシャトルに乗って宇宙まで行ってしまったのなら、それはもはやわたくしの過失だと思うのだけど」


 スペースシャトルとは言い得て妙である。

 実際、打ち上げの衝撃で意識が吹き飛び、思考は宇宙に向かってさよならグッバイ。


 ごく短時間の宇宙旅行だから良かったものの、あのまま戻ってこなければどうなっていたことか。

 そういう意味では大気圏へと引き戻してくれた幸音には感謝である。


 とはいえ、思考が戻って来たのはいいものの、それで終わりではない。

 むしろ、始まりだ。思考が戻ってきてようやくスタートラインだ。


 正直、今でも続けるべきか迷いものだが、それによって膨れ上がったこの気持ちのモヤモヤはどうすれば。


 逃げ道はある。しかし、このままではいけないという気持ちもある。

 であれば、勇気を持って前へ。それが敬から学んだこと。

 天子は短く息を吸うと、重たい口を開いた。


「.......先程の質問は、その......どういう意味ですか?」


 意を決して投げかけた天子の質問に、聞かれた百合が目を丸くした。

 自分から聞いてきたのに一体どういう反応なのだろうか。


「その話題は続けてもいいのかしら? わたくしは一向に構いませんけど、先の反応を見るにこの手の話題は不得手ではなくて?」


 百合の反応は単純な気遣いであったようだ。

 確かに、あのような反応をされれば、誰だって不適切な話題だったと思うだろう。


 にもかかわらず、天子の質問はその話題を続ける姿勢そのもの。

 あえて自分の苦手な話題を自ら進んで触れるのはおかしいと思われても仕方ない。


 しかし、天子の腹はすでに決まっている。

 話題から逃げない。それがこの場での彼女の選択だ。

 だからこそ――、


「得意、不得意で考えたらたぶん、そんなに得意ではないかと思います。

 でも、興味がないかっていうと嘘になりますし。

 それに単純に先程の質問の意図が気になるというのもありまして」


 実際、天子の最近の愛読ジャンルは「異世界恋愛」である。

 恋愛したことはないが、恋愛小説やラブコメ漫画で胸を高鳴らせる.....といった感じには親しみがあるのだ。


 加えて、人は自分よりも他人の恋愛にちょっかいを出したくなるというもの。

 もっとも、先ほどの質問は思いっきり自分に対してだったが。


 そんな天子の回答に、百合は「そう」と受け止め、逡巡とばかしに目を背ける。

 しかしそれもすぐに終わり、質問という形で話題を続行した。


「では、改めて話を戻すけれど、わたくしの質問は理解していますか?」


 真剣な眼差しで言ってくるあたり、からかっている感じではないだろう。

 それを理解した天子は、改めて百合から投げられた質問の言葉を思い出した。


『――時に、大撫さんは好きな人がいるでいいのよね?』


 もう一度思い返して再度爆発しかける質問内容。

 しかし、今度は脳内で暴れる言葉を、踊り食いならぬ踊り飲み出来た。

 決定的な違いがあるとすれば、やはり心構えと言えるだろう。


 脳内で染み渡る言葉に理解を促し、質問の意味を正確に理解する。

 しかし、理解したからこそ出てくる疑問もある。

 それは――


(私って好きな人がいるんですか......?)


 生まれて十六年、否、今年で十七年へと差し迫る人生の中。

 不肖、大撫天子は一度もまともに恋愛したことがない。ましてや、好きな人なんて。


 どういう気持ちかわからないわけではない。

 保育園の時、男性の保母さんに対して子供ならではの憧憬を覚えたことはある。


 しかし、それを思春期の恋愛と比べるなど筋違いもいいところだろう。

 加えて、小学生の時のトラウマ以来、好きになる男子など皆無と言っていい。


(そんな自分が誰かを好き......?)


 質の悪い冗談......とまでは言わないが、間違いなく「冗談」の類の話だ。

 これまで男子との接触を避けていた自分が誰かを好きになるなんてありえない。


 とはいえ、先ほどの質問に百合が冗談を言っているようには思えない。

 もしこれで冗談だったのならば、いっそ清々しいほどの騙しっぷりだ。

 大女優の素質があるだろう。


 だからこそ、それが本気だった場合の答えに困惑するのだ。

 だってその場合、必然的に今ぐらいしか男子の関わりが無くて。

 それでいて好きになる相手なんて、それって――


「――っ!!」


 思考が答えを受け取るのを拒否する。

 喉まで出かかった言葉が出ないように、思考が一定以上働かない。

 しかし、体は逆に雄弁に「熱」でもって答えを語る。


 胸から込み上げた灼熱が、一部が両腕に広がり、本体はそのまま太い首をこみ上げる。

 やがて顔中にある毛細血管を炙るように、激しい「熱」が顔中を覆った。


 熱い。めちゃくちゃ熱い。熱すぎる。

 しかし、その熱の一切に不愉快さを感じないというのが、困惑に拍車をかける。

 もはや確かめようもなく、顔も耳も首も、ましてや手まで赤くなっているだろう。


 しかし、そうまでしても理解には一歩及ばない。及ばせてはいけない。

 内側から込み上げるマグマに蓋をし、理性がかろうじて息をする。

 それが今の天子の状態。関係を維持するための最善策。


「.......大丈夫?」


「え、あ、はい! 大丈夫です! ただちょっと今も衝撃にビックリしちゃって......」


「一度聞いた内容にもう一度ビックリするなんて、なんか器用というか不思議というか......」


 スカートの裾をギュッと握り、茹タコのような天子を前に、百合が頬杖をついてため息を吐く。

 その姿は上位品であった彼女が初めて見せた素であった。


「それで、その、改めてどうしてそんな質問を?」


 天子はおずおずと身をよじらせながらも、最終的には質問した。

 質問とは相手にとって何か知りたい意図があり発生するやり取である。


 普遍的な質問であれば、相手の意図を知らずとも答えることはできるだろう。

 しかし先の質問は相手の心情に入り込むタイプの質問。

 その場合には、答えるためにも最低限の信用が必要である。


 そしてその信用は、この場合、相手が質問の根拠を離すことで成立する。

 答えることに躍起になっていた天子だが、思考が一度上限に達したことで逆に思いついた感じであった。


 そんな天子の質問に、百合は姿勢を正すと一つ息を吐いた。

 同時に、閉じていた目を開き、茶色の瞳が真っ直ぐ天子を捉える。


「端的に言えば、あの堅物メガネを落とすためね」


「........え?」


 数秒の沈黙の後に出た驚きの声。

 その後、視線を幸音に向けて無意識の確認を取れば、コクリと頷かれたので言葉のままの意味ということだ。


「え?」


 だからこそ、もう一度声が漏れる。

 ただし、今度のは驚きではなく、疑問の類の「え?」である。


 なぜなら、前述の通り、天子は恋愛経験皆無の女子である。

 加えて、皆無は皆無でも小学生の義務教育すら満足に卒業出来ていないレベルだ。


 そんな相手にこの状況で、この質問。

 間違いなく相談であると推測できるが、だとすれば尚更相手が間違ってるとしか言えない。

 それこそ、隣にいる酸いも甘いも知ってそうなメイドの方が答えられるはずだ。


「......申し訳ありませんが、お恥ずかしながら、私もその手の会話は不得手でして。

 一応、パートナーは欲しているのですが......なにぶん職業柄にお眼鏡に遭う殿方が見つからなくて困っているのです」


「もっと言えば、幸音もこう見えて恋愛経験ゼロイコール年齢の人間よ」


 天子が思い浮かべた疑問を読み取ったように、幸音が答え、その回答に百合が付け足した。

 そんな二人の回答に、天子は当然目を回した。


 天子からすれば、百合は自分のレベル100みたいな存在だ。

 百戦錬磨の武将とでも言うべきか。

 ともかく、自分よりは何もかも経験していると思っていた。


 しかし、ふたを開けてみれば、恋愛に限った話であれば全くの同じ土俵。

 がっかり.....かどうかはよくわからないが、少なくとも縋るものがなくなり、困った状況である。


「あの、私に相談したのって――」


 そして同時に、理解した。百合がわざわざその質問をした意図を。

 いや、思えば小説でも何でも、この手の質問はセオリー中のセオリだ。

 つまり、目の前のお嬢様が自分に求めていることは――


「私に相談して......いえ、もっと言えば恋のキューピッドになって欲しいからですか?」


「えぇ、なって欲しいのよ。私のエンジェルに」


 恥じらうこともなく、むしろ堂々と返答し、百合は微笑んだ。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)

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