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小さな文学少女が友達を欲しがっていたので友達になって、ついでに自己肯定感やら友人関係を整えたら想像以上の勇者になった  作者: 夜月紅輝


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クエスト56 メイドは萌えなり#3

「わぁ、お似合いです!」


 そう言って、幸音は両手を胸の前に合わせ、ニコッと頬を緩める。

 そんな彼女の誉め言葉を聞いても、天子の赤面した顔が治ることはなかった。


「だ、だと良いですが......」


 天子は正面にある姿鏡を見る。

 そこにはメイド服に身を包んだ、ちんまい自分の姿がそこに映っていた。

 メイド服を着ているというか、メイド服に着られているというか。


 やはり身長が足りないせいで、どうにも着せ替え人形感が出てしまっている。

 初めて自分の姿を見た瞬間、脳裏に過ったのはシル〇ニアファミリーだ。

 そこに自分がこの服でいたとしても、違和感は少ないだろう。


「あの、着て今更なんですが、やっぱりこの格好で仕事をするんですね......」


「そうですね。この姿が小鳥遊家では正装となります。

 確かに、初めてであれば、この姿は少々恥ずかしいかもしれませんね。

 ですが、仕事をしているうちに慣れていきますよ」


 慣れる、その言葉に天子は首を傾げた。

 自分はその慣れるに時間がかかる自覚があるというのに。

 それに――、


「敬さんはどう思うでしょうか......」


 鏡に映る自分の姿を見ながら、天子はボソッと言葉を零す。

 着せられている感は自覚している。

 だからこそ、他人からの視線......特に敬からの視線は大いに気になる。


 もしこの姿を見て、敬が微妙な顔を浮かべたら......。

 いや、そもそも表情が変わらないので、反応の見わけもつかないのだが。


「うぅ......」


 一番反応を気にしている友達のことを考え、うじうじと悩む天子。

 あの敬が自分の姿を見て変な反応をしないとわかっていながらも、林間学校の件で実は嘘つかれていたらどうしよう、という気持ちが混在する。


「......」


 その時、一人不安を抱え込む天子を見て、幸音が少しだけ口角を上げ、目を細める。

 そしてゆっくり天子に近づけば、鏡を見る天子の耳元へ口を寄せ、そっと耳打ちした。


「大丈夫ですよ。犬甘様もきっと喜んでくれると思います。

 大撫様の大切な人のことを信じてあげてください」


「ひゃっ!」


 耳元から感じるこそばゆい感覚に、天子は体をサッと傾け、耳を手で覆った。

 天子が幸音の方を見れば、彼女は母親のような優しい顔つきをしているではないか。

 年齢は二十代とそこらなのに、包容力は一時の母親のようで。


 ......いや、待て。というか、どうしてそこで敬が出てくるのか。

 もしかして、口に出していたのか?


「あ、あの......つかぬ事をお聞きしたいんですが、そ、その......何かおかしなことは言ってませんでした?」


 天子がそう聞くと、幸音は目線を斜め上に向けた。

 そして少しして視線を戻すと、彼女はサラッと返答した。


「いえ、特に私が変に感じるようなことはおっしゃっていなかったと思いますよ」


「そ、そうですか......」


 幸音の回答に、天子はホッと息を吐いた。

 どうやら先程の幸音の言葉は単なる思い違いのようで――


「安心してください。

 きっと犬甘様に大撫様の気持ちは伝わると思いますよ。

 乙女の恋心は強いエネルギーを放っていますからね。

 私は大撫様の恋の成就を心より応援しています」


「―――っ!?」


 幸音がニコッとして答える。

 なんという純度百パーセントの善性の笑みだろうか。

 悪気がない。まるでないからこそこの言葉が強すぎる。


 天子の顔が途端に熱くなる。

 肌色があっという間に紅潮していく。

 まるで図星を突かれたかのように。

 そして反射的に出たのは、否定の言葉。


「ち、違いますよ! け、敬さんにそういうことを思ってるわけでは。

 た、確かに、敬さんとはお友達ですが、そんな大層なことは.....」


「ふふっ、そうですか。余計なことを言ってしまい、申し訳ありません」


「あ、いえ、謝るほどのことでは......それよりも、お仕事って何をすればいいですか?」


「そうですね。では、仕事の方へ移りましょうか」


 そう言って、幸音が歩き出し、天子はその後ろをついていく。

 廊下を出て少し移動すると、一つの部屋に辿り着いた。

 中に入ってみれば、そこはとても大きな部屋だった。


(二つのソファに、一つのテーブル......壁に飾られた絵画や、窓際にある観葉植物。

 ここはどこかの客間でしょうか。だいぶ広いですね、私の家のリビングより広い)


 そんなことを内心で呟きながら、天子は部屋の中を見渡していた。

 その一方で、幸音は少し前に出ると、天子の方へ振り返った。


「では、まずこの部屋から掃除していきましょう。

 安心してください、私も一緒に掃除を手伝いますので。

 掃除道具に関してはこちらをご使用ください」


 幸音は背中の後ろに両手を回すと、すぐさまサッと両手を広げた。

 その時、天子は彼女の両手に目を見開く。

 なぜなら、彼女の右手に雑巾、左手にホウキが握られていたから。


「え、どこから取り出したんですか!?」


「ふふっ、メイドになればこのような小技は誰でも使えるようになるんですよ。

 では、大撫さんはこちらのホウキで、棚や窓のホコリを落としてください。

 それから、ホコリを吸わないようにこちらの布も」


 天子は幸音からホウキと大きめの布を受け取ると、布を鼻と口を覆うように巻いた。

 そして、ホウキを片手に、手始めに近くの棚の小物からホコリを落としていく。


「......」


 ポンポンポン、サッサッサ。

 ホウキを小さく振って、置物や花瓶の周りを掃除していく。


 天子の集中力は、読書モードの時ようになり、少しずつペースが上がる。

 普段からやっている大撫家の家事担当の才が光る瞬間であった。


――ガタッ


「っ!」


 ぐらりぐらり。

 逆ピラミッドのような形をした花瓶が、不安定に揺れる。

 どうやって支えているのかという小さな底面の縁を沿って、花瓶が時計回りに動いた。


「危ない!」


 天子はすかさずホウキを投げ捨て、両手で花瓶をキャッチ。

 そのおかげで花瓶の動きは止まり、天子も胸を撫でおろした。


「危なかった......」


「どうしました?」


「え、あ、その......花瓶を落としかけてしまって」


「そうだったのですか。その花瓶、聞くところによると二百万円するらしいですよ」


(本当に危なかった......!)


 その事実を聞き、かえって心臓がバクバクと動き始める天子。

 本当に壊さなくて良かった。もうそれだけで胸がいっぱいだ。

 そして、天子は細心の注意を払いつつ、掃除を続けた。


 しばらく無言という、集中した時間が続き、二人でやったおかげか、はたまた幸音が手慣れてるおかげかはわからないが、広かったはずの部屋の掃除はあっという間に終わってしまった。


「大撫様、ありがとうございます。おかげで早く終わることができました」


「いえいえ、大したことはしてないです」


「随分と手慣れた動きでしたが、普段からこういったことをされてるんですか?」


「そうですね。私は上と下に姉妹がいるんですが、その二人が基本的に、その......整理が苦手なので、それに私は家事が好きなので、続けてるうちにって感じですかね」


「それは素晴らしいですね。では、もし今後お仕事にお困りになった際は是非。

 もちろん、お嬢様にも推薦しておきますよ」


 ニコッと笑う幸音に、天子は思わず苦笑した。

 なんかよくわからないが、気が付けば将来の就職先の一つを見つけてしまったらしい。


 そう考えれば、今やってることはインターンの一環とも言えなくないが、さすがにそんな意識はない。


 それに向けてくる視線が絶妙に怖いのは気のせいか。

 まるで獲物を定めた肉食動物のように、そっちの業界へ引きずり込もうとしてるように思えてならない。


「では、次に参りましょうか」


 そう言って、あくまで自然を振る舞う幸音にビクビクしながら、彼女の後ろをついていく天子。

 部屋の外を出ると、廊下でバッタリと百合に出くわした。


 百合は特に大きく驚くこともなく、二人の姿を見やる。

 相変わらず綺麗に巻かれた金髪ドリルが、フワリと揺れた。


「あら、お二人とも励んでいるようね。調子はいかがかしら」


「はい、お嬢様。大撫様は大変素晴らしい掃除能力をお持ちです。

 聞けば、家事全般は得意とのことで、大変優良物件です」


 突然目の前で売り込みを始める幸音に、天子はビクッと肩を震わせ、顔をサッと向ける。

 誰もまさか目の前でこんなことが始まるとは思わないだろう。

 強いて言うとしても、このバイトが終わった後とか。


 いや、本音は違う。単純に目の前で評価を聞きたくなかっただけだ。

 たとえ他所でどんな評価を下されようと、聞こえてなければ気に病むこともない。

 悪い評価を耳にしたくないだけ。ただそれだけなのだ。


「へぇ......そうなの」


 百合の視線が天子へと向く。

 ギロリと擬音でもついていそうな、強い眼差しだ。

 なんとなく値踏みされてるのがわかる。

 いや、当然か。彼女は小鳥遊家のご息女なのだから。


「―――っ」


 当然、天子はその視線に目を合わせることができず、顔を下に向け、さらに背ける。

 心臓が途端にバクバクし始め、聞きたくないにもかかわらず、耳が鋭敏になる。

 そんな彼女を見て、百合は口角を少しだけ上げ、答えた。


「幸音がここまで評価するのは珍しいわ。

 だから、実際にその通りで、この家に有益と判断したから、わざわざ進言してきたのでしょう。

 であれば、私からは一つ。仕事に困ったら家を頼りなさい」


「......え」


 思いもしなかった展開に、天子から小さく言葉が漏れ出す。

 確かに、高評価が聞きたいとは思っていた。


 しかし、それは低評価を聞くよりはマシという程度で、まさか就活が決定してしまうとは。

 もちろん、すぐにこの家に勤めるわけじゃないが、なんだか将来の不安がたまたま一つ解消された気分であった。


「お、お二人さん、お元気そうで」


 その時、廊下の奥から首が凝ったような仕草で、敬が近づいてくる。

 百合を前にしてもその態度。


 現状、百合は主人の立場なので、あまりにラフすぎる。

 ある種、不敬と取られてもおかしくない行動だが、彼女が気にしてる様子はない。


 それどころか、まるでこの状況に面白さを見出してるように、頬をヒクヒクとさせている。

 端から見ていた天子には、彼女の感性がわからなかった。


「あなたは相変わらずそうね。その調子だと、無事に部屋の掃除は済ませてきたのかしら?」


「モチのロンでごぜぇます。

 お嬢様が床で寝転がってもホコリ一つ尽きません。

 ま、お嬢様が生産した汚れに関しては関与いたしませんが」


「ふふっ、相変わらず主人に対してなんて態度。

 けれど、あなたはそれでいいわ。それが面白い」


 本気で面白がっているのか、百合の瞳はルンルンと楽しげだ。

 明らかに先程、天子に向けていた視線とは違う。

 誰が見てもこっちの方が素であるとわかる。

 だからなのか、胸にズキッと痛みが生じるのは。


――乙女の恋心は強いエネルギーを放っていますからね。


 不意に脳裏に過る幸音の言葉。

 どうしてこのタイミングで、そんな言葉を思い出してしまったのか。

 まるで、そう、これはまるで......いやいや、さすがにそれは無い。

 いや、無いというのは、自分の可能性なので、そういうこと自体の可能性ではなく――、


「そういや、天子もメイド服着てるのな」


 突然の敬の言葉に、天子の肩がビクッと震える。

 まるで肉食動物の前で怯える小動物のような姿でいると、敬が腰を曲げて、わざわざ顔をメイド服に近づけ、ジロジロ見てくる。


 それはもう無遠慮に、下から上を嘗め回すように、とでも言うのだろうか。

 普通なら気持ち悪いという感覚を覚えるだろうが、違う。


(うぅ、メイド姿を敬さんに見られてる.....)


 恥ずかしさがこみ上げてくる。

 こんな格好を見せるのが恥ずかしい。出来れば見ないで欲しい。

 にもかかわらず、足はこの場から離れず、幸音の背後に隠れようともしない。


 頬が紅潮し、両手が熱くなる。

 まるでサウナの中にいるように、もはや体全身が熱い。

 見られる視線に体がビクッと跳ね、されどやはり逃げない。


(ど、どう思ってるんでしょうか......)


 同時に、心に抱えるのは、敬の評価に対する不安だ。

 ちんまい体に着るメイド服。いや、メイド服に着せられるちんまい体。

 その姿を見て、敬は一体どういう風に感じ取ったのか。


 気になる。先程まで年下からの評価にビビっていたのに。

 今は、ただ、敬からの純粋な評価を欲している。

 おかしい。最近やはりおかしい......具体的にはわからないが。


「うん、可愛いじゃん。素晴らしい」


 じっくりと眺めていた敬の腰が伸びる。

 同時に、右手からは高評価を示すようなサムズアップが送られた。


 瞬間、天子の胸の内側からじんわりと温かい気持ちが広がっていく。

 何とも言えない高揚感に、熱ぼったい瞳が敬へと向いた。

 内側から感じる「熱」が、もっと見ていたいと訴えかける。


「.......ふぅん」


 そんな二人の姿を、百合が目を細め眺めていた。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)

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