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小さな文学少女が友達を欲しがっていたので友達になって、ついでに自己肯定感やら友人関係を整えたら想像以上の勇者になった  作者: 夜月紅輝


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クエスト54 メイドは萌えなり#1

 翌日、敬はいつも通りの表情で登校した。

 いや、厳密には表情はいつも通りだが、内心ヒヤヒヤだ。

 その理由は一つ――天子になんて声をかければいいのか。


 昨日の交差点の出来事は、天子にも悪い所はあった。

 だがそれ以上に、自分の露出した感情のせいで余計に状況が悪化してる部分はある。

 あんなの二人の仲であれば、ちょっとした注意で済むはずなのに。


「ハァ......このまま悩んでいても仕方ない。

 今まで通りいこう。その方が相手も受け入れやすいはず」


 関係性が悪化した時、それも友達同士であれば、気を遣った方が逆に気まずい場合がある。

 互いに距離感を測っている状態ではいつまで経っても仲直り出来ない。


 そしてそれを考慮した時、天子は確実に気を遣うタイプだ。

 彼女にとってあの時のやり取りは、初めて友達とケンカしたようなものだ。

 長年ボッチに仲直りのセオリーなどわかるはずないだろう。


 だからこそ、敬から歩み寄る必要がある。

 特に負い目を感じられている方からラインを引いた方が、相手も歩み寄りやすいはずだ。

 というわけで、それにはまず自身の精神(マインド)を整える必要がある。


 正門を歩く敬は、そこから自分の教室がある方へ視線を向けた。

 するとそこには小さな人影が見える。大撫天子だ。

 彼女と目があった(ような気がした)瞬間、彼女はサッと窓際から姿を消した。


「......警戒されてるのか?」


 いや、違うか。どちからというと顔が合わせずらいという感じだろう。

 なぜなら、この状況のキッカケは間違いなく天子の不注意が限界なのだから。


(まずはどうにかして近づかなきゃな.....)


 敬は右手で首の後ろを擦りながら、下駄箱に向かった。

 他の登校する生徒と混じって下駄箱で上履きに履き替えていると、隣から気配を感じた。

 直後、そこからは「あ、あの.....」と震えた声が聞こえてくる。


「っ!?」


 天子だった。天子がすぐそばにやってきていた。

 その事実に敬は声こそ出さずとも、わかりやすくビクッと肩を震わせる。

 なぜここに天子が? 明らか自ら話しかけるようなタイプじゃないのに。


「お、おはよう......」


 出鼻をくじかれた敬の挨拶は僅かにどもっていた。

 本来ならおふざけスイッチをオンにして挨拶していたはずなのに。

 これでは昨日のことを意識しているようで、余計に気まずくなるじゃないか。


「......ごほん、朝からどうしたんだい? そんな僕に会いたかったのか?」


「はい、会いたかったです」


「そ、そうなんだ......」


 天子のあまりにストレートな言葉に、敬はどう返せばわからなかった。

 一先ずそれとなく返答をしたが、相変わらず自分のペースは掴めないまま。

 それどころか未だこの状況に困惑している自分がいる。


「......とりあえず歩いて話そうか。ここだと邪魔になるしね」


「そうですね。わかりました」


 敬が歩き出すと、天子もその横をついて来る。

 距離感はどことなく近いが、そこから話しかける様子は無し。

 となれば、気まずい時間が続くだけなので、今度はこちらから話しかけよう。


「にしても、朝から僕に会いたいなんてどうしたの?

 それこそ窓辺で目が合った瞬間には動き出してたじゃん。

 さながら、ご主人の帰りを待つワンちゃんのように」


「そ、そんな感じでしたか!? それはその.....なんというか......」


「いや~、なにせ女の子に朝からお出迎えされるなんて初めての体験だ。

 話しかけられた時は予想外の状況にビックリしちゃったね。

 でも、次からは『おはようございます。ご主人様』.....これでいこう」


「それあらぬ誤解を生みだしませんか!?

 で、でも、その.......敬さんが望むなら......」


 頬を赤らめて目を横に動かしながら戸惑う天子。

 しかし、何かを決心したように目線をキリッと向けると告げた。


「私はその罰を受ける覚悟は出来ています!」


 罰......つまり、天子は敬の言葉をそう認識しているようだ。

 自分の言葉はいつも通りのおふざけモードで口から出た戯言に過ぎないのに。

 つまり、彼女は昨日の出来事に負い目を感じているということだ。


 相手に悪いことをしてしまった。だから、相手の言い分を受け入れる。

 その考えは悪いことではないが、一歩間違えれば危険な考えでもある。

 相手が狡猾な人物であれば、ひとたび見せた弱みに容易く付け込まれる。


 そこら辺の距離感が甘いのは、天子の友達歴が短いからだろう。

 ケンカの一つや二つなんて本来小学生の時に経験するものだ。

 しかし、彼女にはその経験をする相手がいなかった。


 故に、天子は今学びも真っ最中である。

 友達である自分が教えるべきことは、正しい距離感。

 しかし昨日の夢のことを思えば、近くなるような行動は悪手。

 つまり、自分は反面教師として動くべきだ。


「天子、そんなに物分かりがいいと悪い人に騙されちゃうよ? そう、僕のような悪い男にね!

 というわけで、今日の昼休み屋上へカモン。僕がメイド道を指導したあげよう」


「よ、よろしくお願いします......?」


―――昼休み


 その時間は本来、学生達にとって憩いの時間である。

 午前中に酷使した脳、あるいは体を昼食でもって回復させていく。


 また、昼食のために長く確保された時間は友達同士の貴重なコミュニケーションタイムでもある。

 故に、学生達にとってその時間は貴重であり、同時に死服でもあるのだ。


 そんな中、屋上ではその時間を使ってとあることに挑戦する一人の女子生徒がいた。

 そしてその前には「自称メイドマエストロ」と名乗る男子高生のフリした不審者。


「いいかい、天子。自らメイドになることを望んだ以上、君にはこれからメイド道を歩んでもらうことになる」


「別にメイドになることを望んだわけでは......その、昨日の罪滅ぼしがしたかっただけで」


「だが、君は僕の言葉を受け取った。ということは、その意思があるということだ。

 それとも天子が言った言葉は嘘だった......そんな悲しいこと言わないよな?」


 敬は無表情ながらも、口調はやや高圧的に言って見せた。

 さながら、女の子の弱みに付け込んで悪さするクソ男のように。

 そして案の定、天子は自らの言葉で動けなくなり、小さくコクリと頷いた。


「良い子だ。ならば、最初に問おう。メイドに一番必要なことは?」


「メイドに必要なこと.....周囲への気配りでしょうか」


 天子はあごに少し折り曲げた人差し指を当て、答えた。

 その回答に、敬は「うんうん、それもある」と頷きながら肯定する。


「だけど、それは真面目にメイドをする場合だ。

 しかし、今回僕が主であり、そして求める答えは違う。

 僕が求めるのは......ズバリ、愛嬌と従順さだ!」


 敬は人差し指をビシッと向け、力強く宣言した。

 しかし、天子にはあまり響いて内容で小首を傾げられる。

 頭の上にはてなマークでも浮かんでいるようだ。


「えーっと、それは.....?」


「簡単に言えば、僕はメイド喫茶で働くようなタイプのメイドを所望してる。

 こちとら貴族を味わいたいわけじゃない。

 自分を立ててくれるような可愛いメイドを見たいんだ」


「は、はぁ......?」


「というわけで、これから天子にはメイドとなるための訓練を受けてもらう。

 では早速行こうか。一番最初に覚えて貰うのはこれだ。

 リピートアフターミー.....『お帰りなさいませ、ご主人様』」


 恥ずかしがることもなくキリッとした目つきで言葉にする敬。

 そんな彼の表情は心なしか決意に漲っているように見える。

 即ち、「据え膳食わぬは男の恥」という心境だろうか。

 当然、バカスイッチが入ってしまっていることも理由の一つだが。


「え、あ、え......」


 天子は戸惑うように目線をキョロキョロさせる。

 それは目の前の敬の迫力か、はたまたメイド用語を言葉にする羞恥心か。あるいはその両方か。

 しかしすぐに、目を一度ギュッとさせると、顔を真っ赤にさせながら口を動かし始めた。


「お、おおお、おか......」


「おぉ、頑張れ!」


「お、おか、お帰りなさいませ......ご、ご主人.....様」


「おぉ~~~~っ!」


 なんという可愛さであろうか。

 天子の可愛らしい見た目にプラスされた言葉の破壊力。

 さながら萌えの砲弾。すさまじい威力だ。

 致命傷で済んだのが幸いというべきか。


 一方で、天子は顔を真っ赤にしていた。

 理由は言わずもがな。普段言葉にしないようなこと口にしたからだろう。

 もっとも、敬からすればその羞恥心すらもご褒美であるが。


「天子、ちなみに今の感想は?」


「言葉にした感想.....ということでしょうか?

 そ、そうですね.....妙な恥ずかしさといいますか、なんか口が重たかったです。

 『本当にこれを言うの!?』みたいな理性がストッパーとして働いていたみたいで」


「なるほど、どうやらそれが天子の今後の課題になりそうだね」


「え?」


 腕を組み、意味深に頷く敬に天子は首を傾げた。

 彼女の目から、まるで何か考えがあるのか? と期待がこもった視線が送られる。


「天子は勇気を出す前に、一歩引いて考える癖がある。

 それはとても大切なことだ。人間誰しも未来を見れるわけじゃない。

 後に起こり得るリスクを回避しようとするのは当然のことだ」


 人間、未来が見えれば自分の都合の良い方しか選ばないだろう。

 自分が楽に楽しく過ごせれば、人生結局そんなもんでいいのだから。

 しかしわからないからこそ、人はリスクヘッジという作業を行う。


 天子もその作業を無意識に行っているのだ。

 特に、彼女が人と接する時、「どう話しかければ自然か」や「どうすれば失礼にならないか」などを考えるのがまさにそれ。


 そのリスクが自分の行動メリットを上回らない限り、行動として現れない。

 人間が生きていく上ではとても素晴らしい生き方といえるだろう。

 しかし、人間誰しも自身の損得勘定で生きているわけじゃない。


「とはいえ、人間時に理屈抜きに感情で動くことも必要だ。

 例えば先のように、どうせバカなことを言うなら、ハッキリバカになった方がいい。

 天子は少々理性が強すぎる気がするからね。ちょっと頭のネジ外そうか」


「な、なるほど......! 頑張って見ます!」


 敬が長々と語った言葉に、天子は目を輝かせて反応した。

 まるで言った言葉が全部正しいと信じて疑わないように。 

 実際は、敬が今のメイド天子を堪能するための嘘というのに。

 もちろん、全てが嘘では無いというのがミソだ。


「それじゃ、次の言葉を練習しようか。

 リピートアフターミー、『ご主人様、本日のお食事はいかがなさいますか?』.....はい!」


「ご、ご主人様、本日のお食事はいかがなさいますか?」


「『本日のスペシャルメニューは、萌え萌えデラックスオムライスです。オプションでケチャップでお名前を書かせていただきます』.....はい!」


「.....? 本日のスペシャルメニューは.....えーっと、萌え萌えデラックスオムライス? です。

 オプションでお名前を書かせていただきます」


「そして最後は、締めの萌え萌えビームだ。動きはこうだ!」


 敬は不意に立ち上がると、凛々しく立ち尽くした。

 刹那、両手を頭上にかかげ、大きく弧を描くようにゆっくり下に降ろす。

 同時に、左足はキリッと引き絞りる。構図としては片足立ちだ。


 最後は胸の前で「ご主人様と出会えたこれまでの全ての感謝」をこめたハートを作り、その気持ちを打ち出すように前に着きだす。

 当然、その行動にも技名が必要だ。


「萌え萌えキュンストリーーーム!!」


「っ!?」


 敬の行動に、天子の目が止まった。

 いや、それどころか感情全てが止まっていた。

 敬と天子の間にヒューと空っ風が吹き抜ける。

 天子の栗毛色の髪がゆらりと動いた。


「はい!」


「え!? あ、いや......え、でも.....」


「はい!!」


「あ、も......萌え萌えキュンストリーム!」


 敬の圧に屈した天子。

 羞恥心で顔を真っ赤にしながら、半ばやけっぱちで敬の動きを真似た。

 もう全身から「穴があったら入りたい」と伝わってくる。


―――ガチャッ


 その時、屋上のドアが突然開いた。

 そこから現れたのは、イケメン執事の宗次と金髪縦ロールをした女子生徒。

 敬はもう羞恥心を置き去ったのでノーダメージであるが、天子は違う。

 顔はもうこれでもかというほど赤く、なんなら頭から湯気が出ていた。


「......何をやってるんだ?」


 宗次からごもっともな質問が投げかけられた。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)

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