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小さな文学少女が友達を欲しがっていたので友達になって、ついでに自己肯定感やら友人関係を整えたら想像以上の勇者になった  作者: 夜月紅輝


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クエスト47 林間学校(ニ日目)#5

 全体発表まで残り30分となった頃。

 天子がいるクラスは、現在ティッ〇ックで流行っている今期某アニメEDのダンスの練習をしていた。


 なぜ全員かというと、これが学校行事であるために全員参加が義務付けられているからだ。


 学校は生徒に対し、基本誰にでも平等であり、それ故に出来る限り取りこぼしなく行動する。


 また、学校は生徒達に対して、友人を多く作り、学校生活を楽しんでもらいたいという願いもある。


 その結果、全員参加という特定の人種にとっては、大ダメージを受けるような縛りが設けられるのだ。

 そして、その人種の中には天子も含まれる。


(は、恥ずかしい~~~!)


 天子は皆に合わせて踊りながらも、恥ずかしさに今にも心臓が爆発しそうであった。

 天子の人種は、人を陽と陰に分けるなら圧倒的後者である。


 ダンスなど小学生の時のマイムマイムぐらいしか経験がない。

 そんな人物が陽キャ丸出しのティ〇クトックダンスを披露するなど、恥ずかしい以外何もない。


 しかし、皆でやるとなった以上、生まれてしまうのだ同調圧力。

 もっと簡単に言えば、一緒にやらなければ浮いてしまう。


 陰キャにとって、クラスで浮くことは公開処刑も同じだ。

 それだけは絶対に避けねばらならない。


 そんな中、天子はチラリととある方向へ目線を送った。

 それは敬、悠馬、宗次の三人がいる方向である。


 その三人は他の生徒達と違い、ダンスそっちのけで何やら話し合っているようでもあった。

 もっとも、その光景の八割は、敬がしゃべった後に悠馬と宗次が難色を示す光景であったが。


「犬甘さん達は一体何をするつもりなんでしょう......」


 ダンスをなんとか覚える一方で、天子の頭の片隅にはその疑問が残っていた。

 というのも、先ほど敬達は何かをするために三人で密談していたのだ。


 当然ながら、その情報は天子には共有されていない。

 本人曰く「お楽しみ」として楽しみに待っていてくれとのことらしいのだ。


 なので、待っている天子であるが、そう言われれば気になるというもの。

 一体何を披露するつもりなのか。そればかりが気になって仕方がない。


「姫、若干テンポが遅れてる。それだと浮いちまう。

 姫は運動神経は人並みより優れてるから、意識早めにすれば問題ないはずだ」


「は、はい! ありがとうございます!」


 そんな三人を天子が見ていれば、自称専属コーチ京華にダンスを指摘される。

 しかし同時に、京華から励まされながら、天子はダンスの練習を続けた。


 全体レクリエーション開始まで残り10分となった頃。

 天子は近くの水道へ行って顔を洗っていた。


 首にタオルをかけ、蛇口から出る水を手皿で受け取って顔にパシャ。

 冷たい水が火照った顔を冷ましていき、そこに風が当たって気持ちがいい。


 そして、今度は蛇口を上に向け、垂れてきた髪を耳にかけつつ、ゴクゴクと飲み続ける。


「ぷはっ、はぁ~~~~」


 天子は呼吸をするために口を離せば、口の中に一気に空気を取り込んだ。

 その表情はさながら、スープを飲んで美味しさに浸るラーメン通のようで。

 今にも「運動後の水ってどうしてこんなに美味いんでしょう」と言いたそうであった。


「さて、そろそろ戻りますか」


 体も冷まして気分が良くなったところで、天子は皆が待つ場所へ移動し始めた。

 その時、遠くの方から聞き覚えのある声が聞こえてきた。


 その声は京華、那智、夕妃の三人だ。

 しかし、何を話しているかはわからない。

 なので、近づいてみれば、何やら真面目な表情で話していた。


「にしても、アイツ何を企んでるのか知らんけどあの足でやるつもりか?

 表情が出ないことを良いことに、ぜってぇ今もやせ我慢してるだろ」


(あの足......?)


 京華の言った言葉に、天子はそう思いながら、近づこうとしていた足を止める。

 話題は敬のことで、自分が知らない内容を、あの三人が話している。

 つまり、これまで自分だけ共有されてない話があるということだ。

 

 となれば、それは人に隠したいことなのであまり聞き耳を立てるべきではないのかもしれない。


 だが、こと敬のことに鍵って言えば、今の天子は知りたい友達心。

 なので、天子の体は自然と木の陰に隠れ、聞き耳を立て始めた。


「本当に大したことなかったんじゃないの?

 まぁ、あの表情じゃ知ろうにも知れないけど。

 それに本人もあの調子だからわかりにくいってのもあるし」


「だよなぁ、同じ無表情組はどう思うわけよ?」


「私を同じ無表情組に括られるのは心外ね。私は笑えるわよ。

 とはいえ、そうね......あの人、一人の時だと時折眉を狭めているから、多少はまだ痛むんじゃない?

 まぁ、天子を助ける際にあれだけ滑れば当然だと思うけど」


(私を助けた際に足を怪我した......?)


 天子を敬が助けた......そんな出来事(シーン)はたくさんあるが、足を怪我する可能性があるとすれば、昨日の斜面に足を滑らせた時しかない。


 そう考えると、敬を心配して会いに行こうとした時、悠馬と宗次が言っていた言葉も嘘になる。

 あの時の敬は痛んだ昼飯を食べて会えなかったわけではない。


 足を怪我したことを隠そうとして、天子に意図的に会わなかったということだ。

 全ては自分が罪悪感を感じないようにするために。


「そんなの......酷いですよ」


 注意散漫だった自分が足を滑らせ、友達に怪我をさせた。

 それに関して罪悪感を感じるのは当然のことであり、気を遣ってもらう必要なんてない。

 しかし、結果的には気を遣われた。


 どう思ってそうしたのかはわからない。

 そんなことは友達の距離感として正しいものなのだろうか。

 それをされれば、むしろ距離があると感じてしまう。


 自分は相手を信用しているのに、相手は自分に嘘をつく。

 良かれと思ってかもしれないが、そんなのは嬉しくない。

 それに、自分の失敗を無かったことにされるのは、それはそれで嫌だ。


「私、嘘をつかれるのが嫌いなんです......」


 小学校の頃につけられたあだな「ぶー子」。

 多くの同級生からはそのあだ名を使われ煙たがられた。

 しかし、中にはそう呼ばずにいてくれる子達もいた。


 だが、それは目の前で言わないだけであった。

 陰では当然のようにそのあだ名を使っている。

 つまり、表面上で良い顔をされていただけなのだ。

 それで当時の自分がどれだけ心が傷ついたことか。


 そんなことを敬はしている。

 普段から無表情であることを良いことに。

 肝試しの(あの)時も、オリエンテーリングの(あの)時も、カレー対決の(あの)時も、そして今だって。


「たとえそれが優しい嘘だったとしても、私はそうは感じません」


 天子はそう呟き、やや怒ったような顔で歩き出した。

 そして向かったのは、目線の先にいる京華達の所だ。


「今の話って本当ですか?」


「姫......!? まさか聞いてたんですか?」


 天子が声をかけると、京華達は揃って驚いたような顔をした。

 そして、三人の中で代表して京華が尋ねる。

 その質問に、天子はうんともすんと答えず、自分の質問に対して答えを求めた。


「犬甘さんが足を怪我していたことを、皆さんは知っていたんですよね?

 それを今までずっと黙っていた......そういう認識で合っていますか?」


 天子の今までにない言葉責めの質問に、京華達は困惑の表情を浮かべた。

 そして、三人は一度互いの顔を見合わせると、諦めるように謝罪し始める。


「あぁ、その通りだ。黙っていてすまなかった。

 敬から口止めされてたとはいえ、やはり姫には事情を離しておくべきだった」


「ですが、そういう選択をしたということは、私に気を遣ってそういう選択をしたんですよね?

 私がこの行事を最後まで楽しんでもらえるように、と」


「ワンコちゃんの言った通りだよ。

 確かに、その選択をしたのは私達で、根底にはそういう願いがあったから。

 とはいえ、ワンコちゃんがこういうこと嫌いそうなのはなんとなくわかってたのにね。

 何も言わずに勝手に話を進めてごめん」


「私からも天子の気持ちを蔑ろにしていたことを謝るわ。ごめんなさい。

 けれど、これだけは誓って言えるわ。

 私達は悪気があって天子に黙っていたわけじゃない」


「そのことは何となくわかってましたよ。

 なんたって相手があの犬甘さんですからね。

 とうなると、犬甘さんは今も足に痛みを抱えているということですよね?」


 天子がそう聞くと、三人は再び顔を見合わせた。

 そして、目配せで答えを一致させると、京華が答えを言った。


「恐らくな。だが、本人にそれを言ったところで、どうせのらりくらりと躱されるのがオチだ。

 加えて、あの異常な表情の出なさは厄介だ。嘘かどうかも判断ができない」


「ですね......となれば、どうすれば犬甘さんに自分の嘘が悪いことだと認識させられるでしょうか?」


 その質問には、那智と夕妃が答え始める。


「う~ん、『悪いことだと認識させる』......ね。

 そもそも、こっちが折れて騙されてあげるってのも手じゃない?

 ほら、あっちは騙されて欲しそうにしてるしさ」


「もし、気付かせたいなら、たぶん物理的に脅さないと無理よ。

 例えば、言ってダメなら、怪我してるだろう足を触ろうとするとか。

 隠してることがあるなら、反射的に触れられるの嫌がるだろうし」


「う~ん、そこまでして問いただすのはさすがに.......。

 とはいえ、普段犬甘さんに無茶ぶりばかりされてるので、たまにはこうやり返したいと言いますか......って三人とも妙な顔をしてどうしたんですか?」

 

 そう言った時、三人がぽかんとした顔をしてることに気付いた天子。

 すると、三人は心底珍しいものを見たとばかりに、言葉を連続させて答えた。


「いや、なんというか......」


「ワンコちゃんもそういうことを考えたりするんだね」


「相手にイタズラとか、やり返したいとかしたいってことを」


 そんな三人の気持ちを聞き、天子は「あー」と声を出しながら、苦笑いを浮かべた。

 そして、率直に今の気持ちを答え始める。


「正直、今まではそういう気持ちは抱いたことはないかもしれません。

 私には姉と妹がいるのですが、二人とは良好な関係ですし。

 それに、こう言うとなんですが......これまでまともなお友達はいませんでしたし」


 天子の心境を一言で言えば、「張り合う相手がいなかった」である。

 姉も妹も家族であり、天子にとって家族は支え合う存在だ。


 また、張り合った際の些細ないざこざで仲が悪くのは避けたかった。

 したがって、張り合う相手としてはなんとなくと違う。


 そして、先の言葉通り、天子は高校で敬と出会うまでボッチであった。

 そんな彼女に、張り合う相手など当然いる由もなく。


 結果、誰かとぶつかり合うなんてほとんどしたことない。

 もっと言えば、先ほどのカレー対決が初めての自分の意思をぶつけた瞬間であった。


「でも、犬甘さんとは対等になりたいと思うんです。

 いや、厳密に言えば、犬甘さんはそう思ってくれてますけど、私はそうは思えてなくてですね......だから、こうして自分の気持ちをぶつければ、自分にも少しは自信がつくんじゃないかって」


 天子はそう言った直後に、「変な話ですよね」と照れ隠しに笑った。

 すると、そんな彼女の言葉は、自称姫の騎士である京華に刺さったようで――


「うぅ、さすが姫! その強い意思に、アタシは心より感服いたしました!

 そうと決まれば、あの男にぎゃふんと言わせるようなことをしてやりましょう!」


「いいね、ワンコちゃん。その姿勢、那智は好きだよ。那智も一緒に考えたげる」


「天子、前よりもレベルアップしているようね。

 えぇ、先ほどのお詫びも兼ねて何があの男に一番刺さるか考えてみましょうか」


「京華さん、那智さん、夕妃さん、ありがとうございます。

 私だけだとどうにも犬甘さんに言いくるめられそうなので、是非知恵を貸してください!」


 天子は嬉しそうにお礼を言う。その姿に、三人はニッコリだ。

 すると、早速京華が対敬の作戦の口火を切った。


「とはいえ、あの男をぎゃふんとか......それなりに至難だぞ?」


「そうだね~。 それになんとなくだけど、那智的に犬甘君は悪寄りっぽい感じがするからなぁ。

 なんかこう......腹に一物抱えてるっていうか。

 あの無表情が裏切りそうな糸目キャラに似てる感じで。ただの勘だけど」


「下手に練るよりもシンプルな方が刺さる場合があるわよ」


 そして、三人はレクリエーションが始まるまでその話を続けた。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)


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