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小さな文学少女が友達を欲しがっていたので友達になって、ついでに自己肯定感やら友人関係を整えたら想像以上の勇者になった  作者: 夜月紅輝


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クエスト46 林間学校(ニ日目)#4

「うぅ......ゲㇷ゚、も、もう食えない......」


 現在、敬は極度の満腹状態に苦しんでいた。

 というのも、カレー対決の審査の際、夏目先生の横で地味にカレーを食べていたのだ。


 それも、それぞれのチームのカレーを一人前ずつ。

 二人前の量は大抵の人にとって、それだけで満腹状態になるには十分だ。


 しかし、敬が食すカレーはそこで終わらない。

 なぜなら、自分の班のカレーも控えていたからだ。

 加えて、敬の班は悠馬と宗次を含めた三人班。


 基本班の人数は四人であり、敬のクラスは奇数人数であるため、必ずどこか一人少なくなるか多くなる。

 また、基本四人であるため、食材の量も四人が食べきれる量となっている。


 つまり、敬はただでさえ他の班より量が多い自分の班のカレーを食べる前に、よそのカレーを食べてしまい、すでに満腹状態から自分の班のカレーを押し込んだということだ。


 完全に敬の自業自得であるが、そのせいで敬は動くことができない。

 そんな状態で机に突っ伏す敬に対し、宗次と悠馬は席から立ち上がった。

 それぞれ自分の使った皿を手に持った状態で。


「すでに二人前を食べた状態でよくぞ食い切ったものだな。

 料理を残さず食った点に関しては評価してやる。

 それを踏まえて、カレー作りをサボったことはチャラにしてやる」


「カレー食って完全にグロッキーになってんじゃねぇか。

 ......ハァ、洗い物はこっちがやっとくから、お前はそこで大人しくしてろ」


「す、すびばせん.......よろしくお願いしま――うぷ!」


「「吐くなよ?」」


 宗次と悠馬は言葉をユニゾンさせると、二人は洗い場に向かって歩き出した。

 その際、悠馬が気を利かせて敬の使った皿を持って行ったようだ。


 そして、敬が一人静かに石像のように固まっていると、そこに金崎がやってきた。

 金崎は敬を見るやすぐに「ざまぁねぇぁ」と鼻で笑いながら、同時に話しかける。


「おい、犬甘......大丈夫か?」


「な、なんとか......でも、しばらく動けないかも。

 漫画的表現をすれば、お腹が以上に膨らんでいる状態」


「なんで漫画で表現したのか知らんけど、これでお前らへの借りを返したってことでいいんだよな?」


 金崎がそう言うと、敬はゆっくり顔を上げた。

 そして、金崎の顔へと目線を合わせれば、申し訳なさそうな目で見る。


「なんというか、今更ながら損な役回りさせて悪かったな。

 誰かもわからない人の悪口を言わせて、それでいて謝らせるって。

 正直、頼んだ手前ここまでやってくれるとは思わなかったよ」


「いいよ、別に。ま、めっちゃやりたくなかったけどな。

 それでも、オリエンテーションの時に、道に迷ってマジであぶねぇ状況になった時に、たまたまとはいえ助けてくれたのはお前達だしな」


「え、優しすぎじゃん! 好きになりそう。え、もしかして誘ってる?」


「まずはそのふざけた態度をやめろ。ハァ、ほんとよくわからん奴だな。

 んで、わからないついでに聞くが、どうしてわざわざあんなことをしたんだ?」


 金崎は首に手を当てながら、敬に問いかける。

 その質問に、敬は首を傾げた。


「ん? なんのこと?」


「今更惚けんなよ。あの大撫って小さい子いたろ?

 見た感じ、お前らはそれなりに交流があると見た。

 それも、あっちの方はだいぶお前に対して信頼寄せてるみたいじゃないか。

 にもかかわらず、お前は私達を使ってわざとあの子を煽るようなことをした」


「あーそれね。ま、強いて言うなら、大撫さんの今の行動力を見たかったって感じかな。

 自分が抱える気持ちがあって、それがどこまで行動に直結するかってことを」


「正義感を持ってるかどうかって話か?」


「う~ん、若干違うけどおおよそそんな感じ。

 っていうのもさ、今の大撫さんはあんな風に行動できる子じゃなかったのよ。

 言うなれば、大人しく引っ込み思案な子.......加えて、陰キャボッチ」


「お前......確かにわかりやすい言葉だが、直球過ぎるだろ。

 例え、それが事実だとしてももう少し言葉選んでやれよ。

 友達なんだろ?......それとも違うのか?」


「いや、友達だよ。それだけは断言する。

 だからこそ、今の大撫さんの行動力を見る必要があった。

 ここ最近何かとアグレッシブだからね。

 対策のための材料集めぐらいしないと」


「......」


 敬の言葉に、金崎は僅かに目を細めた。

 しかし、何も言うことなく、大きく肩を落としてため息を吐いた。

 それから数秒後に、金崎は口を開く。


「......ま、お前らが何しようと私には知ったこっちゃねぇけどな。

 だが、今回で私も学びを得たぜ。無表情には気をつけろってな」


「それって僕限定だったりしない?」


「どうだろうな。だが、間違いなくお前は含まれる。

 今回のことでそれがよくわかった。

 義理は果たしたから、もうこれ以上の頼み事は勘弁だぞ」


「安心してくれ、もうこれ以上こんな頼み事はしないから。

 あ、これは頼み事じゃなくてお願いなんだけど、良かったらレイソ交換しない?

 僕、君みたいな優しい人とは是非とも仲良くしたいと思うタイプなんだよね」


「よくまぁ回る舌でこって。それにかこつけて変な要求してくんなよ?」


「おすすめのエロ本教えてとか?」


「私は中学生か! つーか、死ね!」


*****


 昼のカレー作りが終わり、今はしばしの空き時間。

 一度自分の部屋に戻って来た天子は、力を使い果たしたように座り込む。


 するとその時、同じようにリラックスモードで大胆に足を伸ばした園江が口を開いた。

 話題は当然先程まで行われていたカレー作り対決に関してだ。


「いや~、それにしても勝てて良かったね。

 負けた時はどうしようかと思ったよ」


「まぁ、仮に負けても実害は無かったんだけどね」


 園江の言葉にツッコんだのは佳代であった。

 そして、その言葉は正しく、害があっても被るのは敬である。

 とはいえ、誰かが被害に遭うのは変わりないので、そのことに春香が返答した。


「だ、ダメですよ......それだと天子ちゃんのお友達が傷つきます。そうですよね天子ちゃん?」


「そうですね、さすがに犬甘さんが傷つくのは見たくなかったですし。

 そういう意味でも勝てたとのは良かったと思います。

 そして、改めて私のわがままに付き合ってくださりありがとうございます」


「いいよ~、別に。なんだかんだで楽しかったし」


「うん、ある意味いい思い出になったと思う」


「大丈夫です。何も気にすることはありませんよ」


「そう言ってもらえると助かります」


 天子は皆から送られる温かい言葉に、頬を少しだけ紅潮させた。

 同時に、胸にはポワポワと温かさがこみ上げ、それがじんわりと全身を巡って気持ちがいい。


(最初は犬甘さんから提案されたことでしたが、勇気を出してみて良かったかもしれません)


 今こうして園江、佳代、春香の三人と思い出を作れるのは、天子が犬甘達の班や京華達の班に入ることを断った結果。


 頼れる人はおらず自分の力だけで進むのはとても勇気がいることだ。

 しかし、その進んだ先にはこんな風に良い人達の縁が待っていると知れば、その足も軽くなる。

 

(それもこれも、全てのキッカケをくれた犬甘さんのおかげですね)


 天子はそう思うと、一人「フフッ」と笑って笑みを浮かべた。

 その表情はまるで背中から花畑が見えているようだ。

 そんな天子に、園江達もニコッとすると、園江は話題を変えるように佳代に話しかけた。


「ところで、次なんだっけ?」


「確か、クラス対抗レクリエーションよ。

 だけどその前に、一時間ぐらいクラスごと集まってどんなパフォーマンスをするか決めるらしい。

 ちなみに、持ち時間は1クラスあたり十分ぐらい。そして、全員一回は参加」


「全員参加ですか......なんだかあまり気乗りしませんね」


「そうですね。でも、他の皆さんもいますから、なんとかなりますよ」


 そして、その話題を含めた雑談をしながら数分後。

 天子達は集合時間が迫って来たので、全員で外へ移動していく。

 すると、クラスごと集まった場所に敬の姿を見つけたので、天子は駆け足で近づいた。


「犬甘さん犬甘さん」


「はいはい、なんでごぜぇでしょう?」


「あの後は大丈夫でした? その、私達の班と金崎さんの班とで二つカレーを食べた後に、相沢さんと男鹿さんに連れていかれましたが......。

 あれって犬甘さんは自分の班のカレーのために連れていかれたってことですよね?」


 天子がそう聞いた瞬間、敬は「あー」と声を出しながら若干顔を青くした。

 そして、その時の状況を思い出したかのように口を手で押さえる。


「まぁ、なんとか大丈夫って感じだったかな。

 でもまぁ、正直あんまり思い出したくない感じかも。

 カレーの拒絶反応を起こしてる感じ」


「そ、それほどなんですか......すみません、余計なことを聞いて」


「いいよ別に。心配して聞いてくれたんだろ?

 だとすれば、むしろその気遣いのおかげで俺の心はハッピーになった感じさ。

 それよりも、これからクラスで何やろうかって話し合う所さ。

 見ててくれ、俺達のパフォーマンスはきっと印象に残るだろうぜ」


「おい、その”達”ってまさか俺達を数にいれてないだろうな」


「だとすれば、今すぐにでも激しく抗議したいものだがな」


 敬の言葉に反応し、わらわらと集まって来たのは悠馬と宗次である。

 その二人の顔はまさに物申したいと語っている。

 しかし、敬はそんな二人に特に何も気にすることなく接し始めた。


「おー、二人とも丁度いい所に。実はこれからのことを話そうと思ってたんだ。

 というのもさ、やっぱこういう行事だからこそ、パーッと盛り上げたいじゃん?

 ってことでさ、是非とも二人に協力してもらいたいんだ」


「「断る」」


「よし、二人とも了承してくれるって」


「「勝手に話を進めるな」」


 敬の言葉に、悠馬と宗次は息ピッタリに反応する。

 そんな二人に対して、天子は面白そうにクスクスと笑った。

 そして、先ほど敬の言葉について尋ねた。


「それで、先ほど『これからのことについて話す』と言ってましたが、何かやろうことしてることがあるんですか?」


「ふっふー、それは見てからお楽しみってことで。

 そっちの方が楽しみが増えるでしょ?

 ってことで、ここからは男だけの秘密の相談ってことで。アディオス」


 そう言って、敬は悠馬と宗次の背中を押しながらどこかへと進んでいく。

 その姿が少し遠くなるまで見つめると、天子は次に京華達の姿を探し始めた。


 ぐるりと視線を動かして見ると、丁度斜め右方向に京華達の姿を発見。

 天子はすぐさまテクテクと近づくと、京華に話しかけた。


「京華さん、クラスでやるレクリエーションについて何か聞いてたりしますか?」


「おぉ、姫! いや、アタシ達も今来たばっかりで正直じゃ話について行けない感じだ。

 まぁ、仮に話しかけてもいい返事が聞けるとは思えねぇがな」


「なんせ全員参加だしね。全員で参加できるものがあるとすれば、ダンスぐらいじゃない。

 とはいえ、全員でダンスなんてできるのかも正直怪しいよ」


「一応、現状では音源とかも相まってポケットワイファイの使用も可能だから、それを使えばなんとか。

 後は施設のワイファイを利用させてもらうかのどっちかだね」


「お、踊れる気がしません......小学校の時のマイムマイムですらだいぶぎこちなかったですし。

 それを考えると、例えば今のティッ〇トックの踊りをやれと言われたら。

 もはや泣きたくなるような黒歴史を生むかもしれません」


「おい、誰だ姫を泣かそうとしてる奴は!?

 安心してください、今からそいつ絞めるんで」


「やめろやめろ、仮想の敵を作り出して殴りこみしようとするな」


「おちつけ出しゃばり厄介ユニコーン。

 あなたみたいな人間がいるから天子みたいな子は苦労するのよ」


 京華が怒りを露わにする態度に、隣にいる那智と夕姫は鋭くツッコむ。

 その扱いはもはや友達と呼べるのかも怪しい。

 いや、友達だからこそまだそのような距離感で接しているのかもしれない。


 そんな三人を目の前に、天子はもはや慣れた様子で気にしていなかった。

 それどころかいつも通りの感じに安心しきった顔を浮かべている。


「良かったです。もう気にしてないんですね」


「気にする? あぁ、昼飯の時のやつか。

 まぁ、なぜか一角で料理対決が行われてることにはビックリしたが、それだけだ。

 悪口自体はこんなナリだからよく言われるしな。今更気にすることでもねぇ」


「そうだね。むしろ、そうひがまれてるって思うと嬉しくなってくるよね。

 自分にない物を持っててうらやましいんだろ? ざまぁみろって感じで」


「この二人は特殊な訓練を受けてるからこんな感じだけど、私は少し凹むわ。

 とはいえ、聞いているとそのうち慣れてくるものよ。

 人間って慣れる生き物っていうし、その辺何か関係あるのかしら」


「さすがにないと思いますが......ですが、そのメンタルは私も見習いたいです!」


 そう言うと途端に三人はキョトンとした顔をした。

 そして、顔を見合わせると同時にクスッと笑う。

 そんな三人に天子は首を傾げた。


「え、何か変なこと言いました?」


「いや、姫はさすがだなって」


「うんうん、ワンコちゃんは可愛い!」


「天子と書いて『てんし』と読む。うん、いいね」


 そして、三人は一斉に天子の頭を撫で始めた。

 一方で、三人の言葉に対し、何一つ理解できなかった天子だったが、とりあえず今の状況を楽しむことにした。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)


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