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小さな文学少女が友達を欲しがっていたので友達になって、ついでに自己肯定感やら友人関係を整えたら想像以上の勇者になった  作者: 夜月紅輝


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クエスト42 林間学校(一日目)#7

 肝試しが終わり、後は就寝するのみ。

 とはいえ、就寝時間までには少し時間があり、そうなれば始まるのが雑談タイム。


 特に、こういう行事は友達と一緒に過ごす数少ない時間だ。

 故に、生徒達はこぞって話したり、こっそり持ってきたカードゲームで遊び始める。

 それは天子がいる女子部屋でも例外ではなく、茶髪ボブの軒原園江が口火を切った。


「ねぇねぇ、せっかくだから就寝時間まで話そうよ。

 で、こういう時にやるのはやっぱりこ・い・バ・ナだよね!」


 天子のいる班はクラスカーストで言えば、中の下ぐらいの普通グループだ。

 しかし、その普通グループにも一定数の陽キャ寄りの人種は存在する。

 すなわち、限られた人数でタカが外れるタイプの陰キャだ。


「え~、恋バナ~? そういうノリ好きだよね、園江って。

 普段は推しのVチューバ―の話しかしないのに」


 そう反応したのは、園江とよく一緒にいる赤髪メガネ女子である谷口佳代だ。

 佳代がメガネのレンズをメガネ拭きで拭きながら言うと、園江は人差し指をゆっくり降った。


「チッチッチッ、普段じゃないからやるんだよ。特別感の演出ってやつ。

 それはともかく、普段話さないような話をするのがいいんじゃん。

 渡辺さんもそう思うよね? あ、ついでだから下の名前で呼んでいい?

 確か、春香だったよね?」


「距離感詰めすぎ。なんかテンション舞い上がってんじゃん。

 ごめんね渡辺さん、園江って内弁慶みたいなところあるからさ。

 特に、こういう明らか陽キャがいない所じゃ、途端にはっちゃけるというか」


「大丈夫だよ、それに話しかけてもらってむしろ助かったって感じだから。

 自分で言うのもなんだけど、私はその......人に話しかけるの得意じゃなくて。

 受け答えはできるんだけどね。あ、春香でいいよ!」


 黒髪で顔にかかる長い前髪が特徴的な女子の渡辺春香は優しい口調で言った。

 春香の印象は初期の天子のような大人しさがある。


 そして、園江は春香へ挨拶を済ませると、最後に天子へと目線を向けた。

 その視線に、無意識のA〇フィールドを張っていた天子はビクッと反応する。


「それじゃ最後に、大撫天子ちゃんだよね? ようこそ、うちの班へ!

 私のことは園江でいいよ。だから、天子って呼ばせてもらうね」


「は、はい.......よろしくお願いします」


「もうその距離感の詰め方やめなって、怯えてんじゃん。

 改めて、私は佳代。私のことも名前で呼んでくれたらいいよ。

 ごめんね、園江がうるさくって。めんどくさかったら無視してくれていいから」


「いえ、少しどうして接したらいいか迷っていまして......ですが、もう大丈夫です。

 はい、天子です。こちらこそ、よろしくお願いします」


 天子は一つ深呼吸をすると、そう答えた。

 最初期に比べれば、全くどもらずに言えているため、とても進歩していると言える。


(犬甘さんとの特訓の成果が出ました! さすが犬甘さんです!)


 そのことに天子自身も内心ご満悦である。

 とはいえ、その褒める方向は自分ではなく敬の方であるが。

 そして、無事自己紹介が終わると、園江は早速話を戻した。


「んじゃ、全員の自己紹介が済んだところで恋バナと行きましょう!」


「結局やるのね。っていうか、園江は恋バナとかできるの?

 あなたからそういう浮いた話聞いたことなんだけど。

 あと、自分の推しの話するのは禁止ね」


「.......どうやら私はこれまでのようね」


「やっぱないじゃない」


「いいのいいの! 私は聞く専門だから!

 で、佳代はどうせアイドルのアイドル行ってるだけだから、次は春香ちゃん!」


「は、はい!」


「春香ちゃんにはそういうのなんかない?

 別に好きとかじゃなくてもさ、なんかこう気になってるとか」


「え、えぇ......」


 春香の急なガン詰めに、春香は体を仰け反らせて反応した。

 また、表情にもしっかりと”困惑”の二文字が刻まれている。


 そんな春香を見ながら、天子は矛先が自分に来なくてホッとしたところで、それとなく聞き耳を立てた。


 天子もお年頃の女の子なのだ。

 ただ、ボッチであったためにそういうこととは縁遠かっただけ。

 なので、自分の布団の枕を抱えては、じっと展開を見守っていた。


「え、えーっと、その......」


 春香は口をもごもごとさせ、状況打破の危機を伺っていた。

 そして、天子の方へチラッと見ると、何かに気付いたようにハッと口を開く。


「お、大撫さんはどうなんですか!? ほら、犬甘さん達とよく話してますよね!」


「え......!?」


 安全圏で見守っていた.......と思いきや、突然背後から刺されたような気分の天子。

 あまりの唐突な展開に、脳内はプチパニックを起こす。


 しかし、そんな天子対しても時は平等に流れる。

 春香の行動に、園江はため息を吐きながらも、すぐに立ち直っていった。


「あぁ、早速メインディッシュに手を付けちゃったかぁ......。

 まぁいいや、私もこの話題を出したのって、ぶっちゃけ天子ちゃんのを聞きたかったからなんだよね。

 だって、こん中で一番大人しそうな見た目して、一番男子と関わりあるんだから」


「え......いや、その......あるといっても特定の方としかないですよ?」


「あのね、私達はその特定の男子もいないんだよ?

 たまにどこかの芸人とかが『女子と一切かかわらず高校生活終えました』とかいうけどさ。

 あの言葉は別に男の人に限った話じゃないと思うわけよ。

 だって、実際気が付けばもう一年が過ぎてるわけだし.......]


 そう言いながら暗い影を落とす園江。

 その見た目は、まるで婚期を逃してくたびれてるOLかのようである。

 

 男子が”高校生”という期間限定の時期に、誰かと付き合いたいと願うように、女子もまた一部ではそういう出会いを求めているのだ。


 その一部というが園江ことであり、そんな彼女にとって、男の影......とまでは言わないが、男子と日常的に関わっているという時点で、天子を標的にするには十分なのだ。

 そして、恋に彷徨う亡者は、男子と関わる生者を見つけては襲い掛かるのだ。


「だから、なんかないの? こうさ.......なんか!」


「ずっとアバウトな事しか聞いてないじゃん」


 園江の食いつきに佳代は肩を諫めながら、ツッコんだ。

 しかし、話のは流れを止める気はないようで、聞き耳を立て天子に視線を送る。

 そんな四面楚歌な状況に、天子はあたふたとした態度を見せた。


 いつもなら手元にある本でとりあえず「ぼうぎょ」のコマンドを選択するだろう。

 しかし、今はその本がないので「ぼうぎょ」ができない。

 また、当然ながら三人の眼差しによって逃げることもできない。


「そ、その......皆さんが期待しているほど何もないですよ?

 一緒に放課後に公園でクレープを食べたり、スポッチャで遊びに行ったりとか......」


「想像以上に活発的(アグレッシブ)にデートしてるじゃん......」


「この子、見た目の割にやるわね......」


「す、すごい......」


 どうしよもなくなった天子はありのままのことを話した。

 すると、天子の言葉に、三人は目をパチクリとさせる。


 なぜなら、同じクラスの、それもこの中ではまず男子と遊びそうにない女子が、明らかに自分達よりのはるか高みにいる者しか語れない言葉を放ったのだから。

 三人の気分はさながら「草食動物のフリをした肉食動物」と言った感じだろう。


 しかし一方で、天子は三人から送られる羨望の視線の意味をあまり理解してなかった。

 というのも、天子にとって誰かと遊んだ事実に、女子も男子もないのだ。


 友達だから一緒に遊んだ。友達に誘われたからついて行った......その程度。

 つまり、そこに思春期特有の男女の距離感などはまるでないのだ。

 いや、もっと言えば、経験値の少ない天子は気づいてすらいない。


 とはいえ、三人の視線が妙な誤解をしてることは察したのか、その時の状況について詳しく話始めた。

 曰く、敬と一緒に行動していたのは、全て自分のコミュ障解消のためであると。


「なるほどね~。だから、そうじゃないと......ふむ」


「はい、なのでただ仲良しって感じですよ。

 逆に、皆さんから見て犬甘さん達ってどう見えるんですか?」


 ここで天子はなんとなく敬に関してリサーチをかけた。

 なぜそんな行動に出たか。

 それは天子の中に敬に対する疑念があったからだ。


 ここ最近の敬の行動は不審な行動が多い......気がする。

 確信ではなく、違和感程度でしかないが、天子はそれが気になったのだ。


 当然ながら、本人に直接聞く勇気など天子にはない。

 なので、まずは外聞から情報を得ることにした。


 そんな質問に、園江は腕を組んで眉を寄せ、佳代は顎を上げて上を見て、春香が斜め下を見る。

 各々行動は違ったが、表情は概ね難色を示したような感じであった。


 そんな三人の様子に天子が首を傾げていると、園江は難しそうな顔で言った。


「なんというか.......その、ね? 悪く捉えないで欲しい......は無理があるか。

 正直言うと、評判は微妙というかなんというか......いや、私はそこまで変には思ってないんだけどね!?」


「どうしたんですか? もしかして犬甘さん達は嫌われてるんですか?」


 心配そうな顔をする天子に、佳代は顔を元の位置に戻すと言った。


「クラス全員がって感じじゃないけど......まぁ一部はそうだろうね。

 ほら、犬甘君達って良くも悪くもう浮いてる感じじゃない?

 金持ち執事の相沢君、見た目不良の男鹿君、そしてネジが外れたブリキ人形の犬甘君」


「ぶ、ブリキ人形......?」


「基本テンションが高いのに、ずっと無表情だからってことで一部の女子が呼び始めたあだ名かな。

 ブリキ人形みたいに滲み出る妙な不気味さがあるとかなんとかで」


「一方で、相沢君は人気ですよね。

 ファンクラブもあるとか、どこかで聞いたことがあります。

 だからこそ、あの相沢君があの二人と一緒にいるのが不思議なんですよね。

 あ、その、悪い意味とかでは全然なくて......!誤解させたらごめんなさい!」


 憶測で批判してしまったことを謝罪する春香。

 そんな謝罪に対し、天子は「気にしなくて大丈夫ですよ」と言いつつも、内心穏やかではなかった。


 今の天子の気持ちは、妙な意見が広がっていることに対する怒りよりも、悲しみの方が大きい。

 なぜなら、天子も似たような過去があるから。


 天子がボッチになった原因は、遠足で毛虫に腕を刺されて、腕を腫らしてしまったことだ。

 子供という存在は、良くも悪くも純粋であり、自分に合わない異物を排除しようとする。


 つまり、その当時の天子は片腕だけが”おかしい”異物であったのだ。

 いくら包帯で隠そうとも、毛虫に刺されただけと言い訳しようとも、広まり強まった同調圧力に勝てるはずもなく。


 結果、天子はボッチとなった。加えて、「ぶー子」という不名誉なあだ名も貰って。

 また、その環境によってもともと控えめだった天子のコミュ障は加速していき、敬と出会う今の今まで友達という存在が皆無だったのだ。

 

 だからこそ、敬の今の状況が過去の自分に重なるようで、聞いていて胸が苦しい。


(犬甘さんがまさかそう思われてたなんて.....)


 三人の意見を聞き、天子は内心呟く。

 そして、知らなかった状況に対し、自分を恥じた。


 今の今まで助けてくれた恩人が、実はそんな風に思われてたなんて。

 本人が全く気にした様子が無かったから気が付かなかった。

 だからといって、仕方ないで済むかどうかは別だ。


 特に、天子の性格で言えば、そう思う可能性は限りなく低い。

 とはいえ、そんな状況に対し何ができるかと考えても、特に何もない。

 むしろ、下手に介入して拗れる方が不味い場合もある。


 身動きが取れない。

 それが今の天子の全てであった。

 何もできない自分に、甘えてるだけの自分に、苛立ちが募る。


「ま、まぁ、ともかく、私達は面白い人だと思ってるよ.......? うん。

 ほら、クラスにムードメーカーとかってやっぱ必要じゃん?」


「そうね。それに、時折聞こえる犬甘君達の掛け合いとか、漫才みたいで面白いし。

 別にクラスに大きな迷惑をかけてる感じじゃないから大丈夫だと思う」


「は、はい、園江さんと佳代さんの言う通りだと思います。

 それに、犬甘さんなら『黙ってればカッコいい部類』って言う人もいるぐらいですし」


 瞬間、天子の黒々とした視線が春香に向いた。

 すると、その目を見た春香はというと、思わず体をビクッとさせる。

 しかし、一度まばたきをすれば、元の目であったので春香は首を傾げた。


「色々と聞かせてくださってありがとうございます。

 あの、そろそろ消灯時間みいなので、私は先に失礼します。おやすみなさい。

 また、明日のオリエンテーリングと昼食づくりはよろしくお願いします」


「あ、うん......おやすみ......」


 園江の言葉を背中に受けながら、天子は自分の布団へ移動していく。

 そして、一人先に布団の中に潜ると、目を瞑った。

 しかし、それから部屋の電気が消されても、天子はなかなか寝付けなかった。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)


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