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小さな文学少女が友達を欲しがっていたので友達になって、ついでに自己肯定感やら友人関係を整えたら想像以上の勇者になった  作者: 夜月紅輝


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クエスト41 林間学校(一日目)#6

 敬と京華が出発してから数分後、天子と夕妃も出発した。

 暗い森が左右に広がる中、夕妃が懐中電灯を片手に進んでいく。

 その横では天子がちょこちょことついてくるが、その間には会話が無かった。


 二人の間には妙な気まずさが流れていた。

 別に二人の距離感は友達の友達という遠さでもないというのに。

 もっとも、原因は明白で、全ては敬というあのおかしな人間のせいだ。

 それから少しして、夕妃が沈黙を破るように話しかけた。


「天子、大丈夫? 怖くない?」


「え?......あ、はい。怖くはないです。

 夕妃さんがいるので、そこまで恐怖は感じません」


「なら、犬甘と京華のことが気がかり?」


 夕妃がそう聞いた瞬間、天子はわかりやすくビクッと反応した。

 そして、胸の前で合わせた両手の五指をモジモジと動かすと、それとなく夕妃に尋ねる。


「京華さんはその......どうして犬甘さんとペアを組んだんでしょうか?

 あ、いや、別にお二人が誰と組もうがお二人の自由なんですが、なんというかその.......」


「もやもやする?」


 天子の言葉を端的にまとめた夕妃。

 そんな言葉に、天子は頭を小さくコクリと動かした。

 それから、そのもやもやの理由についてしゃべり始める。


「京華さんの態度はおかしいものでした。

 最初は誰とも組むつもりはなかったみたいなのに、犬甘さんが来た瞬間.......。

 犬甘さんは人の変化を察することが得意な人です。最近、そう思います。

 だからこそ、京華さんのなんらかの変化をキャッチして、助け船を出したんだと思います」


「そこまでわかっていて何がもやもやするの?

 犬甘君が良いことしているなら、別に気にすることじゃないのに」


「そうなんですが.......なんか少し変な感じがして。

 最近もそうなんです。些細なことで変な感じになって」


「些細なこと?」


 天子の言葉に、夕妃が首を傾げれば、天子はゴールデンウィークでの出来事を話した。

 夕妃の妹である朝奈と顔を合わせた時、その人物と敬の関係性を間近で見て思ったことを。


「犬甘さんが朝奈さんのことを名前で呼んでいたんです。

 もちろん、そこには真昼さんもいたので、区別のための名前呼びなんでしょうけど。

 その時にも妙な感覚を感じることがあって......それが今と似ていて」


 そんな言葉を俯きながら語る天子を、夕妃は隣でじっと見ていた。

 さながら天子の心の内を透かして見つめるように。

 そして、一つの答えに辿り着くと、言った。


「それはたぶん嫉妬ね」


「嫉妬、ですか......?」


「自分ではない誰かを羨むこと。

 自分よりも優遇されている誰かを見てもやっとすること。

 自分が特別だと思っている人にされるほど感じる感情かもね。

 実際、天子にとって犬甘君という人物は特別なのでしょう?」


 その言葉に、天子は沈黙した。しかし、それは肯定も同じでああった。

 天子にとって、今という状況は全て敬によって導かれたものだ。

 敬と出会い、敬が繋げてくれた縁によってこの場所がある。


 そういう意味では、天子からすれば敬は神様みたいな存在だ。

 それは過言なのではなく、正しく望むものを与えてくれたのだから。

 そういう意味では、天子が敬を特別視しているのは、何もおかしい話ではない。


「でも、友達に嫉妬なんて......」


 天子はにわか知識ながら知っている。その感情は他人を羨む気持ちだと。

 しかし、それを向けるのが赤の他人なら未だしも、今回相手は友達だ。

 それが天子の心を暗くしている原因だ。


 友達に嫉妬してはいけない。天子にはそういう気持ちがある。

 なぜなら、その欲望はあまりにも醜いから。

 わがままで、自分勝手で、自己利益しか考えていないような気持ち。

 そんな感情は友達にぶつけるものではない。


 それを理解してるからこそ、天子は心に蓋をしているのだ。

 自分が我慢することで守られる調和がある。

 加えて、これは自分で紡いだ縁でもなければ、与えてもらった縁。

 自分の感情より優先すべき守る事案なのだ。


「何が悪いの?」


 そんな天子に対し、夕妃はケロッと答えた。

 まるで何か悪いことでもあるのと言わんばかりの顔だ。

 そして、そのままの顔で続きをしゃべり始める。


「誰かを羨む気持ち。誰かのものを欲しがる気持ち。

 それ自体は正常な感情の働きよ。何もおかしいことではないわ。

 だから、友達に対して嫉妬するのは何も悪いことじゃない。

 当然、私だって二人に嫉妬するわ。もちろん、天子にもね」


「私にも、ですか......?」


「例えば、私の表情。私の顔は犬甘君と似てあまり表情が出ないの。

 そのせいで誤解されたこともたくさんある。だから、すぐに表情に出る天子は羨ましいのよ。

 まぁ、感情が冷めているからと言われれば、さして間違ってないのかもしれないけど」


「そ、そうなんですか.......」


 夕妃の言葉に、面を食らう天子。

 なぜなら、天子は自分が羨ましがれる人間とは思っていないから。

 身長は平均より大きく下回り、その上で大人しく引っ込み思案のボッチ。


 思考もポジティブとは言い難く、服すら基本姉妹に選んで貰うのが基本。

 そんな褒めるよりも欠点を指摘する方が多い自分に、他人から羨ましがれると要素があるとは思わなかったのだ。


 そんな天子に対し、夕妃は正面から「羨ましい」と言葉にした。

 加えて、”友達”でありながらだ。

 天子がしないようにしていた言動を、夕妃はやって見せた。

 だからこそ、天子は驚いたのだ。


「はい、原因解明」


 その時、夕妃はパンと一度手を叩き、話に区切りをつけた。

 その上で、改めて最初の疑問に戻るように、天子に話しかける。


「それで、天子は京華に対して何を羨んでいたの?

 些細なことでも自覚するとしないとじゃ気持ちのもちようとか変わると思うけど」


「そうですね......」


 天子は過去の自分の行動を振り返り、嫉妬の原因を探った。

 そして、曖昧な考えながらも、それをなんとか言葉にして出した。


「まだハッキリしたことはよくわかっていませんが、まず思うのは近さだと思います」


「近さ?」


「最近の犬甘さんは少しわからないことが多くて、グッと近い時もあれば、途端に距離を取ろうとするようなこともありますし......ですが、私としては犬甘さんとはもっと仲良くなりたいんです!

 具体的にどのくらいとかは全然ありませんが、とにかく仲良くなりたいんです!」


 天子は両手の拳を胸の前に揃えて掲げ、強い眼差しでもって夕妃に伝えた。

 それは嫉妬というよりかは願望であったが、夕妃に見せる初めての感情の吐露。

 それは夕妃の目を丸くさせるには十分すぎた。


「ふふっ、やっぱりそうやって感情を吐き出せるのは羨ましいわ。

 私はあまりそういう気持ちにならないもの。

 なら、私の手助けが必要な時は言って。いつでも力になるわ」


「ありがとうございます!」


 夕妃のおかげでスッキリした気分になった天子は、犬が尻尾を振るようにルンルンな気分で夜道を歩く。

 その後、道中にたくさんの脅かし要素があったが、二人は特別驚くことなく談笑しながら進んだ。


 数分後、天子達は無事にゴールへ到着。

 するとそこには、先に肝試しを終えたクラスメイトの姿があった。


 というのも、予定ではクラス全員が集まったら揃って帰路に着く予定なのだ。

 故に、そこでは全員が集まるまでの間の雑談タイムが行われている。


「あ、いました!」


 天子は大勢のクラスメイトの中からすぐさま敬達のグループを見つける。

 そして、子犬が飼い主のもとへ走るように、駆け足で近づけば声をかけた。


「お待たせしました」


「姫! 無事だったか! 大丈夫か!? 夕妃の奴に変なことされてないか!?」


「京華じゃないからするわけないじゃない。

 ま、強いて言うなら普段ならあまり話せないことも話したわね。

 まさか天子があんな悩みを抱えて他なんて。おっと、これは二人だけのヒミツだったわね」


「ぐぬぬぬ、この女......! 姫に何しやがった!」


「別に......何も」


 雰囲気からして煽り散らかすような夕妃の態度に、京華は憤慨した。

 京華も気が付けばすっかりいつものテンションである。

 そんな二人の一方で、天子は悠馬と話す敬に話しかけた。


「犬甘さん、肝試しどうでしたか? 怖がりと言ってましたが、大丈夫でしたか?」


「あぁ、大丈夫。脅かし要素が来た時に、それはもう水が上から下に流れるように自然にちびってしまったが、実はこんな時のために大人用おしめを履いていた甲斐があった」


「それどこにも大丈夫なように聞こえないんですが」


「安心してくれ。ニオイ対策もしてあるから臭くないはずだ」


「もっと別の要素で安心させてください」


 敬の小ボケを軽快に捌いていく天子。これも心に余裕が生まれた証だ。

 そんな天子の態度の変化に気付いた敬は、腰に手を当てると聞いた。


「なんだか悩みが解決したって感じの顔だね。

 うん、憂う顔より、そうやって僕の話にツッコんでくれる方がありがたいよ」


「夕妃さんのおかげで少しだけ自分の気持ちを理解できたんです。

 何と言いますか、やっぱ私って犬甘さんと話すのが好きなんだなって」


「え?」


 突然の天子から放たれた言葉の矢が、敬の左肩に刺さる。

 後数センチずれていれば確実にクリティカルであっただろう。

 しかしそれでも、天子の屈託のない笑みからすれば大ダメージだが。


「そ、そうなんだ。それは嬉しいね。

 やっぱせっかく友達ならもっと仲良くならなくちゃ損だしね」


「私も同じことを思ってました。

 私、犬甘さんを友達だと思っていて、それでももっと仲良くなりたいと思っていて。

 だから、これからもたくさんお話しましょうね!」


 なんだかいつもよりテンションハイになっているのか、積極性が増している天子。

 そんな天子に敬は若干タジタジになりつつも、反撃するように返答した。


「えぇ、いいの? 男女の”仲良く”はそれはもうマリアナ海溝より深い意味があるんだけど?

 それを理解してなきゃ今にも怖~い目に遭っちゃうよ?」


「深い意味ってなんですか?」


「それはね、一言で言えばセッ――」


「何姫に対してキモイこと言おうとしてんだテメェコラ!」


「がはっ!」


 敬が深淵からの言葉を言おうとしたその時、すかさず京華からの膝蹴りが炸裂。

 それは敬の脇腹に突き刺さり効果は抜群だ。

 そして、敬は流れるように地面へと倒れる。


「お、おぉ、思ったよりえぐい角度で入ったぁ......」


「お前が変なことを言おうとしてるからだ。お前が悪い」


 脇腹に抑えながら苦悶の表情を浮かべる敬。

 そして、それを見下ろすように腕を組みながら仁王立ちをする京華。


 そんなある意味いつもの光景だが、暴力という要素が混じったことで、いつもなら傍観してる天子は敬に近寄った。


「大丈夫ですか、犬甘さん!? 京華さん、さすがに膝蹴りはやりすぎですよ」


「姫、ですが.......!」


「ふはは、どうだ見たか()()! 大撫さんは弱者の味方なんだ!

 そして、弱者とは俺のこと! つまりは俺が一番偉いんだ!」


 虎の威を借る狐ならぬ天子の優しさを借りる敬。

 その姿は男としての情けなさがこの上なく発揮されていた。


 そんな勝ち誇る敬の一方で、天子の思考は止まっていた。

 なぜなら、先の言葉で確かな違和感を感じ取ったからだ。


「京華さん......?」


 肝試しの前まで、敬の京華に対する呼び方は「編ヶ埼さん」であった。

 しかし、肝試しが終われば、いつの間にか下の名前呼びになっている。

 それは天子にとって衝撃的な事実で、この瞬間確かに心に黒いもやを感じた。


「......さん。大撫でさん?」


「え、あ、はい! なんでしょうか!?」


「もう立ち上がれるから離れてもらえる?」


「あ、はい。わかりました」


 天子は言われた通りに、立ち上がり数歩下がる。

 それによって出来た空間で敬は立ち上がり、お尻の土誇りを払いながら言った。


「ともかく、僕には偉大な大撫神のご加護がついているのだ。

 そんな僕に攻撃でもしてみろ。京華に対する大撫さんの評価はどうなるかな?」


「ぐぬぬぬ.......!」


 敬の強気な態度に、京華は何もできず唇を噛みしめる。

 しかしその時、そんな京華に偉大なる神からのお告げが下った。


「いいえ、今は見逃します。京華さん、好きにしてください」


「え、ちょ、大撫さん!?」


「ヒャッハー!聞いたか()

  加護が無ければお前なんて雑魚同然だぜ!」


 そして、京華は体を丸くして縮こまる敬を蹴り始めた。

 さながら、砂浜にいるウミガメを蹴る子供たちのように。


 そんな光景が目の前で行われてる一方で、上手く状況が読み込めない夕妃は那智に聞いた。


「那智、二人の呼び方が変わってるんだけどどういうこと?」


「さぁ、那智達に会う時にはそうなってたから。

 キョンキョンに聞いてみても『編ヶ埼って呼ばれ方長くて好きじゃないんだ』ってことらしいんだけど、なんというかまぁ......ただそれだけのようには感じなくて」


「そうね、心なしかいつもより京華が楽しそうに笑ってる。

 まぁ、喜々として犬甘君をボコれてるのもあるだろうけど」


 そんな風に那智と夕妃が話していると、そこに天子がやってきた。

 そして、天子は目の前のいじめ現場を眺めながら言った。


「夕妃さん、私......一つだけハッキリしたことがあります」


「天子?」


「私、犬甘さんと名前で呼び合いたいです」

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)


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