表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小さな文学少女が友達を欲しがっていたので友達になって、ついでに自己肯定感やら友人関係を整えたら想像以上の勇者になった  作者: 夜月紅輝


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/46

クエスト39 林間学校(一日目)#4

 両脇に天高くそびえたつ緑を纏った木々や近くを流れる川のせせらぎ。

 木によって日差しが遮断されたそこは、全ての生命にマイナスイオンを与えていく。

 敬が一人部屋で待機の一方で、沢登りに来ていた天子達。


 それら山の中特有の澄んだ空気で、生徒達が和気あいあいと話しながら歩く中、天子ただ一人が敬がいないことに浮かない顔を浮かべていた。


「.......犬甘さん、大丈夫でしょうか」


「犬甘が心配なのか?」


 顔を下に向けながら歩く天子の呟きを、近くを歩いていた宗次が拾った。

 すると、天子はチラッと宗次の顔を確認すると、再び目線を下げて答える。


「はい、犬甘さんも高校生活最初で最後の林間学校でしょうし。

 それに何かと積極的にイベントに参加するタイプでしょうから、こうして体験できないことに、なんというか悲しさを感じてしまって」


「......ま、自業自得と言えるだろうな。

 だが、出発前にも言った通り、大撫さんが気にする必要はない」


「このメガネの言う通りだぜ」


 二人の会話に割り込むようにして、さらに宗次の言葉に同意を示したのは京華だ。

 京華は自然な動作で宗次の位置を押しのけると、天子の横に立ち答えた。


「アイツもバカなことをしたよな。まさか昼飯で腹を下すとか。

 だけど、こればっかりは誰の責任でもない。当然、姫のこととは関係ない。

 だから、アタシ達はアタシ達で楽しもうぜ。そうだろ、那智、夕妃!」


「そうそう、かえってバカ一人いなくなった方が静かで心地よいってもんよ。

 この際、この大自然のマイナスイオンを感じ取ろうじゃないの!」


「ま、賑やかしがいないとで感じる寂しさってものもあるかもしれないけどね。

 けれど、帰ったらまたあの鉄面皮が迎えてくれるでしょうし、今は楽しみましょう。

 それよりも、今の場所はさっきより滑りやすいから気を付けて」


「そうですね、また同じことを繰り返さないように気を付けます!」


「大丈夫だ、いざとなったらアタシが身を挺して守るから」


「で、その京華(キョンキョン)をイチヤが身を挺して守るから」


「それ、大怪我してんの俺じゃね?」


 そんなこんなで天子以外の五人は敬の怪我のことを上手く躱しつつ、天子をヨイショしていった。

 また、天子が気持ちを切り替えたこともあり、沢登りは危なげなく終了した。


「―――というのが、沢登りのザックリとした内容だ。

 特別貴様に伝えておくようなことはなかったぞ。あっても言わないが」


 そして現在、沢登り後の夕食までの隙間時間。

 沢登りから帰って来た宗次と悠馬は、敬に沢登りでの天子の様子を話していた。

 天子が敬を心配するように、敬もまた天子の様子を心配していたのだ。


「ま、何もないならそれに越したことはないかな。

 正直、大撫さんにはこのまま何事もなくこの行事を楽しんでいってもらいたいし」


「それならそうとハッキリ言えばいいじゃん。

 確かに、大撫の正確なら負い目を感じるかもしれねぇけど、本人が明るければ気にしなくなんじゃねぇの?」


 敬の言葉を聞いた悠馬が、床に仰向けで寝そべりながら言った。

 そんな発言に、敬はヤレヤレと肩を諫めると返答する。


「いや~、わかってないな。悠馬きゅんは。全然わかってない。

 だからモテないんだよ。そんで身長も低くて金髪なんだよ」


「なんかもう色々ツッコみたいことあるけど、どれから手をつければいいかわかんねぇ。

 だったら、どういう意味だよ? お前はちゃんと言葉に出来んだろうな?」


「そりゃ当然、買ったばかりの靴を汚したくないのと一緒さ。

 ただでさえこれまで友達がいなかった子なんだぞ?

 大撫さんは気にするに決まってるじゃないか」


「うっ、絶妙に俺でも理解できる例えしやがって」


「ちゃんと知能にステふらないとダメだぞ?

 この世界じゃ筋力にステ振ってもあんまりだからな」


「だが、強いて言うなら素早さには振ってもいいかもしれないぞ。

 貴様はいつか女沙汰で血祭りにあげられそうだからな。

 回避率が上がれば、死なない可能性が高まるはずだ」


「俺、死ぬ前提かよ......どんだけ女運に恵まれてねぇと思われてんの?

 つーか、それを言ったら俺よりも敬の方だろ? コイツの方がやらかしそうだし」


 悠馬がそう言うと、宗次は腕を組んで敬をじっと見た。

 それから数秒後、その言葉に同意するように頷く。


「確かに......」


「なんでぇ?」


「なんでと聞かれると上手く答えられる気はしないが......貴様は八方美人なとこがあるからな」


「あらやだ、美人だなんて! もうお世辞が上手ねぇ」


「わざわざふざけなくてもいい。加えて、貴様の厄介なところは八方美人に穴があることだ」


 宗次の言葉に首を傾げたのは悠馬だった。

 悠馬はうつ伏せに寝返ると、頬杖をついて聞いた。


「どういう意味だ? 八方美人って誰に対しても良い顔をするってことだろ?

 それに穴があるってことは、全然八方美人じゃねぇじゃねぇか」


「そうだな......(コイツ)は基本的に良い人を目指している。

 それがちゃんとした良い人であればそれでいい。なぜなら、”ただの良い人”はモテないからな」


 良い人とは基本的に人に好かれる。

 相手の気持ちに寄り添い、気を遣える。約束も守れば、タイムキーパーも完璧。

 もはや好かれない要素がない。誰しもが近くに欲しい人物だろう。


 しかし、それは裏を返せば”都合の良い人物”という意味でもある。

 常に自分を尊重してくれて、一歩引いて自分を見守ってくれている。

 それは安心できることではあるが、こと女性に限っては少し話が変わる。


 女性もそういう異性がいれば安心するが、同時に物足りなさを感じるのだ。

 女性自身の中にリードして欲しいという気持ちを抱えていれば、尚更その気持ちは強くなる。


 最初はその優しさにワガママになるかもしれないが、慣れればそれは飽きになる。

 人間は飽きが最大の敵だ、という言葉もある。

 つまり、刺激が無ければ関係性もマンネリ化し、やがて関係の崩壊に繋がるのだ。


「だが、コイツは良い人を装っているが、その実そうでもないからな。

 むしろ、良い感じに程よく近く、それでいてトリッキーな動きをするというのは、人を飽きさせないという一点においては人の刺激欲を焚きつけて止まない」


「おいおい、そこまで褒められるとさすがの僕も......照れちゃうじゃないか」


「なんで若干決め顔なんだよ」


「残念ながら褒めてはないな。

 貴様のようなタイプを厄介だと思う人は多いだろうが、世の中そういう人ばかりじゃないからな」


 腕を組みながら淡々と語る宗次に、先ほどまでお茶らけていた敬の目が僅かに細くなる。


「......それは忠告か?」


「いや、予言だ。たぶん貴様は今日やらかす」


 意味深な会話を繰り広げる二人に対し、蚊帳の外の悠馬は片眉を上げながら「何言ってんだコイツら」と言った顔で見ていた。

 すると、廊下の方から足音と生徒の声が聞こえた悠馬は、腕時計を見て夕食時になったことに気付く。


「おいお前ら、飯っぽいぞ。行くぞ」


―――数十分後


 木漏れ日によって作り出された幻想的な昼間とは違い、夜の森はとても暗い。

 当然ながら街灯らしきものは存在せず、僅かな月明りさえ遮断してしまう森はさながら闇そのもの。


 そんな時間になって行われるイベントがある。そう、肝試しだ。

 夜の暗い森で懐中電灯を一つ持ち、目的の場所まで目指して歩く。


 やることはシンプルだが、明かりのない場所は何がいるかわからないという恐怖心を煽るため、ただの夜の散歩が一転してイベントへと昇華するのだ。


 そして、敬達の林間学校にて一日目の目玉行事でもある。

 全生徒達が宿泊施設の庭に集まり、そこでともにあるくペアを作っていく。

 この行事に限ってはペアは自由なので、問題は誰と組むかだ。


「完全復活!」


 十分な休息を取り、普通に歩ける程度まで回復した敬は、いつものメンバーの前で堂々と宣言した。

 加えて、その時の態度も両腕を組んだ仁王立ちという姿。

 今にも背後から巨大ロボットがせり上がってきそうな希薄である。


「不死鳥の如く舞い戻って来たぜ!

 これから僕のことはパーフェクト完全体〇ルと呼んでくれ!」


「なげぇし、呼ばねぇし、色々ごちゃごちゃとしすぎだよ」


「加えて、それだと貴様の名前はこれから敬ではなくセ〇になるぞ」


 敬のボケに対し、悠馬と宗次が慣れた様子でツッコんだ。

 そんな敬のおふざけも無事戻って来たところで、天子が敬の様子を伺いながらテクテクと近づく。


「あの、本当に大丈夫ですか?」


「もちろん、出すもんだしたらスッキリしたさ。っと、すまん下世話だったな。

 とにかく、これでもう僕の心配をすることはない。オーケー?」


「.......わかりました」


 そう返事しながらも、どこか表情が硬い天子。

 そんな天子の様子を見ながらも、敬は気を逸らすように話題を変えた。


「それはそうと、大撫さんは誰と組むかもう決めた?」


「いえ、まだです。誰と組んだらいいか、少し迷ってまして。

 なんか不思議な気分です。前までは余るまで事の成り行きを見てるだけだったのに。

 今こうして沢山のお友達の中から選ぶことになるなんて」


「でも、選べるのはたった一人。贅沢な悩みだね。

 なら、ここでアドバイス。選んだなら他の人は気にしない。

 気にしたところで別ルートが見られるわけじゃないし。

 それに、選ばれなかったことで気にする連中じゃないと思うけどね......あ、一人いたわ」


「一人.......? あ、京華さんですか?」


 敬の発言により、天子は一人の友達の名前を挙げた。

 京華という人物は天子の中でも若干ヤベェ奴として認識しているようだ。

 そして、二人が同時に見たのは、彼女を含むギャルグループである。

 そこでも同様の話題がグループ内であがっていた。


「んじゃ、那智はユウユウと組むから、キョンキョンはワンコちゃんと組むでいいよね?」


「そうね。正直、京華に預けるのは心配だけど、こと守るという点では信用してるわ。

 ただし、もし天子の服に少しでも乱れがあったら、極刑は間逃れないと思って」


「お前ら、アタシをなんだと思ってんだよ。あまねく小さな存在を愛する京華様だぞ。

 姫に対して何かするなんざ天地がひっくりかえってもあり得ない.......ことがありえない」


「おいコイツ、今裏の裏を答えやがったぞ。つまり、ただの性魔獣じゃねぇか」


「ある意味欲望に忠実ね。月明りで本性のオオカミ女がでたのかしら。

 とりあえず、一度首輪をしておきましょう」


「了解」


「痛っ、痛い! おいやめろ、蹴んな! 冗談、冗談だって! わかるだろ!」


「「チャラ男並みの信用の薄さ(だよ、ね)」」


 敬と天子が見つめる先で、突如始まるいじめもとい調教現場。

 普段クラスカーストの上位にいそうな京華が、友達の那智と夕妃にゲシゲシと蹴られている。

 京華も京華とて、頭を押さえてしゃがみこんでされるがままだ。


「ふふっ、三人とも仲が良いですよね」


「大撫さんもそろそろ認知がバグってきたようだね」


 そんな三人を見ながらほほ笑む天子に、敬は思わずツッコんだ。

 しかし、そんな天子にしたのは誰かと問われれば、敬が一番といっても過言ではないだろう。

 そんな光景を二人が眺めていると、京華は立ち上がって友達二人に言い返した。


「お、おい、もうやめ......それから少しはこっちの話を聞けって!」


「ああん? 何か反論があるとでも?」


「私達の許しが得られる反論があるなら是非聞かせて欲しいものね」


「アタシは!......姫とは組まねぇつもりだ」


 京華は右手で左腕を掴み、顔を下に向けながら言った。

 そんな京華の衝撃的な発言に、那智と夕妃は耳を疑うように、互いの顔を見合わせた。

 しかし、それでも衝撃波抜けきらず、二人揃って京華を見る。


「「......え?」」


「だから、アタシは姫と肝試しは行かねぇつもりだ」


「え......え、どうしたの? お腹痛い? それともさっきの蹴りで頭当たっちゃった?」


「落ち着いて、那智。まずは目の前にいる京華が本物かどうかから疑った方がいいかもしれないわ。

 京華、これから私の質問に答えてくれる?」


「だーもう! なんなんだお前ら! アタシはアタシだ!

 編ヶ埼京華だ! それ以上でも以下でもねぇ!

 それから、姫と組まねぇのは個人的な事情によるものだ!」


 那智と夕妃の突拍子もない言葉に、京華キレる。

 しかし、京華の意思は固いようで、その言葉に二人は困惑した。


「なら、肝試しはどうするの?」


「出ねぇよ。一人出なかったくらいでどうにもなんねぇだろ。

 それにうちのクラスは31人だ。アタシが休めば丁度偶数にもなるだろ」


「それはそうかもしれないけど......」


 京華の言葉に、二の句が継げなくなる那智と夕妃。

 一方で、当然ながらそれを遠巻きで見ていた敬と天子も、三人の予想外の展開に驚いていた。


「これはどういうことでしょうか? 京華さん具合でも悪いのでしょうか?」


「さあね。急にサボりたくなるもあるから、それじゃない。

 けど、それだと少し困るなぁ」


「え? それはどういう――」


 京華の様子を目を細めて注意深く見る敬の発言に、天子は思わず顔を向けた。

 しかし、敬は天子の疑問の様子に答えることなく、一人京華へと近づいた。

 すると、京華も敬の存在に近づき、野犬のごとき威圧でもって声をかける。


「んだよ。なんか用でもあるのか?」


「大アリさ。なんたって、こう見えても僕は大のビビりだからね。

 表情にこそ出ないかもしれないが、暗がりから脅かされたらチビっちゃうかもしれない」


 敬は滑らかな口ぶりで自分の弱点を晒すと、その場にサッと跪いた。

 そして、右手を左胸に当て、左手はそっと京華へと差し出した。


「というわけで、もし漏らしても下に弟を抱える編ヶ埼さんなら上手く対処できるかもしれないと思ってね。

 それに、せっかくの行事楽しまなきゃそんじゃないか。

 だから良かったら、僕とシャルウィーダンス?」


「なんつー最低な口説き文句」


「それに踊らないしね」


 敬の口説き言葉に、真っ先に那智と夕妃がツッコんだ。

 しかし、その言葉を受けた京華はというと、敬をじっと見ては答えることなく、そればかりかそっと敬の手を取った。


「......いいぜ、そういう理由なら仕方ねぇから組んでやるよ」


「「ええぇぇぇぇ!?!?」」


 京華の予想外の行動に、那智と夕妃は違う意味で驚き叫んだ。

 また、その光景を眺めていたのは二人だけではなく――


「.......え?」


 天子の心の中には僅かな痛みとともに、黒いモヤッとした感情が発生した。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)


良かったらブックマーク、評価お願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ