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小さな文学少女が友達を欲しがっていたので友達になって、ついでに自己肯定感やら友人関係を整えたら想像以上の勇者になった  作者: 夜月紅輝


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クエスト38 林間学校(一日目)#3

 前日に降った雨の影響か、もしくは山による朝露の影響か。

 とにもかくにも、地面に足を滑らせた天子は、肩にかけていた大きなショルダーバッグを落としながら、斜面方向へ体を傾けていった。


 そんな状況の中、いち早く危機を察知したのは敬であり、敬も同じく肩にかけていた荷物を投げ捨てつつ、今にも落ちそうな天子へと手を伸ばした。


「間に合え!」


 天子の体勢が完全に傾く直前、敬は天子が伸ばしていたてを掴むことに成功。

 そして、そのまま腕を引っ張ると、天子を内側に抱きしめつつ、代わりに斜面を滑って行った。


 地面は腐葉土であり、さらにその上に落ち葉が落ちていて大変滑りやすい。

 加えて、二人が滑っている場所には遮蔽物が無く、上手く足でブレーキをかけなければ際限なく落ちていくだろう。


 故に、敬は自らの足を伸ばし、それをストッパーにしてブレーキをかけた。

 ズザザーッと滑った斜面はあっという間に数メートル。

 ようやく止まった頃には、二人以外の姿がはるか上に見えた。


「大撫さん、大丈夫?」


「はい、犬甘さんのおかげで......そ、それよりも、あ、あの、大丈夫ですか!?

 私の不注意のせいで、犬甘さんに迷惑をかけてしまって......ごめんなさい、ぐすん」


 浮かれていた自分への叱責か、敬に迷惑をかけた罪悪感か。

 どちらにせよ、天子は涙ぐんで敬を心配しながら、挙句には泣いてしまった。

 そんな敬の胸の中で泣く天子に対し、敬は表情に出ない代わりに気さくな声で返した。


「大丈夫だって。これでも僕は鍛えてるしね。これぐらい大したことない――っ!?」


 その時、敬の左足に僅かな痛みが生じ、その痛みに一瞬左まぶたを縮めた。

 しかし、敬の無表情もあってか、それが天子に気付かれることはない。

 その状況を利用して、敬が天子を立たようとしたその時、上から聞こえる音に顔を向けた。


「姫ええええぇぇぇぇ! 大丈夫かああああ!」


 その時、京華が叫びながら勢いよく滑り落ちてくる。

 それこそ、自分の身すら顧みないような猛スピードでもって。

 それでいて特に危なげなく敬達の所に辿り着くと、すぐさましゃがんで天子へと目線を合わせた。


「姫、大丈夫ですか!? お怪我は!?」


「大撫さんは大丈夫だよ。怪我はしてないはず」


「そ、そうか......んじゃ、ついでにお前の方は?」


「え、僕?」


 心配されるとは思っていなかった相手に心配され、敬は僅かに目を見開く。


「なんだよ」


「いや、心配されるとは思ってなかったから......」


「お前、アタシをなんだと思ってんだよ。

 つーか、お前が無事じゃねぇと姫が悲しむだろうが。

 問題ねぇようならさっさと上に行くぞ」


 そう言って、京華は天子の手を引いて立たせると、さっさと斜面を上がっていった。

 そんな京華の運動神経に敬は感心すると、足の痛みを我慢しつつ、京華の辿った道を続いていく。

 そして、一番上まで上がれば、さすがのこの状況には悠馬と宗次からも心配の声が寄せられた。


「敬、大丈夫か? がっつり滑って行ったが」


「すまない、私の不注意だ。この詫びはいずれしよう」


「いや、不注意は僕もだから問題ないさ。

 それよりも、ジャージのズボンめっちゃ汚れてない? 後、若干お尻が濡れて冷たい」


 敬は悠馬と宗次からすぐに不幸な話題を逸らし、お茶らけた雰囲気で場を和ます。

 そんな敬の話題転換には悠馬と宗次も察し、あえて先の滑落事故については話を避けた。

 そして、敬は天子が落ち着いたところを確認すると、そっちの方へ振り向いた。


「大撫さん、落ち着いた?」


「はい......すみません、お騒がせして。

 それから、改めて助けてくださりありがとうございました。

 それでその.....怪我とかしてませんか? 凄い滑ったような気がして」


「怪我? 全然! ほら、こんな具合にピンピンしてるさ」


 敬は突然その場で軽く数回ジャンプし、着地すればマッスルポーズでアピール。

 敬がその行動をするのは、当然天子に足を痛めたことを知られるわけにはいかないからだ。


 天子は昔からボッチであり、友達が出来たなどこの高校生活が初めて。

 となれば、初めての友達には出来る限り気を遣おうという意識が働き、それでもし粗相をしようものなら、まず間違いなく罪悪感に駆られることだろう。


 つまり、今この状況で天子が敬が足を痛めていることに気が付けば、まず間違いなく自分の不注意を責める。


 そしてそうなった時、そのことに誰もフォローに入れない可能性がある。

 なぜなら、天子の不注意そのものは決して揺るがぬ事実なのだから。

 そうなれば、天子と周囲で距離が出来るのは必然であり、その距離を作るのは天子本人だ。


 そうなれば、せっかくの天子の友達作りもあっという間に破綻する。

 敬にとって、天子に依頼されたそれだけは決して避けなければいけないこと。

 故に、敬の取る行動は一つ――虚勢を張ることだ。


「いや~、にしても、地面を滑るなんて小学校以来の気分だね。

 あ、別に大撫さんを責めてるわけじゃないよ? むしろ、楽しかったぐらいさ。

 ほら、小さい頃に芝生の斜面で段ボールのソリで滑らなかったかい? あれ思い出しちゃって」


「......あの、無理はしてませんよね?」


 敬の饒舌を不審に感じたのか、天子が敬の顔をじっと見る。

 それに対し、敬は元気よくサムズアップしながら答えた。


「モチのロン! 僕が無理をするようなタイプに見えるかい?

 むしろ、真っ先に嫌なことは逃げ出すタイプさ。

 だから、安心してくれ。僕は大撫さんに嘘はつかないよ」


 敬はしゃがんで天子の両肩に手を乗せると、力強く言った。

 そして、天子が反応するよりも早く立ち上がると、さっと振り向いて進行方向に向かって歩き出した。


「さ、ちゃっちゃと進もう! ほら、あんまり遅れると先生も心配するだろうし」


 そして、元気よく歩き出す敬を、天子は妙な面持ちで見つめた。

 それから十数分後、敬達は無事宿泊施設の方へ到着。


 その頃には時刻はすっかり十二時ぐらいになっており、全体集会が終われば、各自用意してきたお弁当で昼食タイムとなった。


 するとその時、敬が雄大な自然の中で悠馬と宗次と一緒に飯を食ってると、そこに京華が救急箱片手に近づいてくる。

 そして、京華は敬の前に立つと、強い口調で命令した。


「おら、犬甘......さっさと足出せ」


「え?」


「足だ、足! さっさとしろ!」


「だから、何だよ」


 京華の命令に対し、敬は身を縮め困惑したようなボディーランゲージを取る。

 そんな敬の態度に対し、京華は痺れを切らしたようにため息を吐くと、その場にしゃがみ込んで敬の左足首をガシッと掴んだ。


「痛っ!?」


 瞬間、敬に目元が歪むほどの激痛が走った。

 それこそ、気を抜けば目元に薄っすら涙が溢れ出そうだ。

 すると、そんな敬を見た京華は再びため息を吐いた。


「ハァ、やっぱ痛いんじゃねぇかよ。平気なフリしやがって。

 男だからって強がるんじゃねぇよ、アホ」


 京華は苦言を吐きながらジャージのズボンの裾をめくれば、敬の足首は僅かに赤く腫れていた。

 その時、その怪我を同じく見た宗次と悠馬が各々違う反応を示す。


「やはり怪我をしてたか。歩き方が妙に左足を庇ってたからおかしいとは思っていたが」


「お前、怪我してたのかよ!? んだよ、早く言えば肩貸してやったのに」


「言わなかったんだよ、わざとな。

 大方、姫の罪悪感を減らすための行動だろうが......確かに、姫の気持ちを鑑みたのは評価してやる。

 だが、こういうのは後から知った方がかえってダメージがデカいもんなんだよ。

 つーか、それ以前にこの怪我を応急処置もせず放置しとくな、バカ」


 京華は散々敬を罵りながらも、慣れた手つきで敬の靴と靴下を脱がし、ねんざ箇所に弁当に入っていただろう保冷剤を当てながら、保冷剤ごと包帯を巻いて行った。

 すると、そんな光景を見ながら敬は京華に尋ねる。


「......なんでわかったんだ?」


「アタシが一体下に何人弟を抱えてると思ってんだ。三人だぞ、三人。

 加えて、つい最近まで元喜のバカも似たようなことしてたんだ。嫌でも目に付く。

 それにな、アタシ自身も見て見ぬフリは止めたんだ」


「だけど、編ヶ埼さんは大撫さんが無事ならそれでいいのでは?」


 敬がそう聞いた瞬間、京華はピタッと手を止めた。

 そして、敬の方へ向けば「何言ってんだコイツ」とでも言いたそうな顔で見る。

 そんな怖い顔に、敬の発言(こうげき)力は下がった。


「お前のこと散々バカだと思っていたが、まさかここまでバカだったとはな。

 アタシをなんだと思ってんだ? そんなに薄情な人間じゃねぇよ。

 お前は元喜を救ってくれた恩人だ。恩人を蔑ろにするほど落ちちゃいねぇ」


「それも僕はあくまで作戦を立案しただけさ。行動を移したのは大撫さんだ」


「立案だって立派に協力じゃねぇか。ハァ、妙なとこで自己評価低いな、お前って。

 まぁいいや、幸い軽傷っぽいしこのまま冷やしとけばだいぶマシになるはずだ。

 あ、だけど、下手に激しく動くなよ。悪化しても知らねぇぞ」


 京華は救急箱をもって立ち上がると、敬を見下ろした。


「それと、この後の沢登りは止めておけ。安心しろ、姫はアタシがちゃんと見とくから」


「......ありがとう、治療してくれて。それとこれはお願いだけど、このことは――」


「わかってる。姫には言わねぇよ。けど、バレた時は知らん。お前で何とかしろ」


 そう言って京華は颯爽とこの場を離れて行った。

 そんな後ろ姿を敬が見ていると、同じく見ていた悠馬が敬の方へ顔を向ける。


「にしても、お前も無茶するよな。その足の状態で無事なことをアピールするために大撫の前でジャンプしてみせたんだろ? アホかよ」


「僕の無表情が為せる技さ。おかげでこうしてバレてない」


「それはどうかな。私達でも気付く奴は気づくし、今後気付かないとも限らない。

 ともかく、今言えることはさっきの貴様のふざけた発言は微塵も面白くない。

 編ヶ埼の言う通り、このまま大人しくしてろ」


「.......っ」


「だな。怪我人は黙って人の言うことを聞いていればいい。

 大撫には適当にごまかしておくからよ。

 ハハッ、今日はお前にバカにされても痛くもかゆくもなさそうだな」


「そこは大丈夫だ。宗次がいる」


「任せろ」


「任されるな」


 その後、敬達は昼食を済ませ、沢登りへ出発する時間がやってきた。

 しかし、敬は怪我のため一人部屋で待機となり、それを知らない天子は一人敬の姿を探していた。


「あの......犬甘さんの姿がありませんが、どうかしたんですか?」


 天子は近くにいた悠馬と宗次に、敬の所在について尋ねた。

 すると、二人は一度顔を見合わせ、天子に返答する。


「敬の奴なら昼に食った弁当が痛んでたみたいで、腹痛でアウトした。

 だからまぁ、戻ってくる頃には体調も良くなってるだろ」


「全く、だからアレほど山に生えているキノコを食すなと言ったのに!」


「おい、友達想いの俺の華麗なる(はなし)に急な設定ぶち込んでくるんじゃねぇ」


「間違ってないだろ。アイツは確かに言っていた――『この大自然が僕の弁当だ』とな。

 そして、おもむろにそこら辺の山菜をむしっては食べ、むしっては食べ、そして挙句に1アップキノコだといって明らかにヤバイキノコを食ったじゃないか」


「......あの、どこまでが本当の話なんですか?」


 宗次の口からスラスラと流れる言葉に、天子は眉を寄せて首を傾げた。

 そんな天子に対し、宗次はメガネクイをすると答える。


「信じるか信じないかは大撫さん次第だ」


「急な丸投げ......」


 ......という、宗次の返答を聞き、天子は「恐らく男鹿さんの話が本当だろな」と解釈した。

 すると、天子の解釈を後押しするように、悠馬も発言した。


「このバカメガネは放っておいていい。どっちの言葉が正しいかなんて聞くまでもねぇしな。

 ともかく、敬は今はダウンしてて、そのことに関して俺達がこれ以上心配することはない」


「アイツは言っていたぞ、『大撫さんには僕のことを気にせず楽しんで欲しい』とな。

 そういうわけだ。心配しすぎもかえって迷惑になることもある。

 確かに、敬には負い目はあるだろうが、恩人の言葉は信じるべきだ。違うか?」


「.......そう、ですね。はい、わかりました」


 天子は納得したように返事をすると、ペコリと一礼して京華達の方へ向かっていった。

 そんな姿を見ながら、悠馬はボリボリと頭をかき、ため息を吐く。


「なんかあそこまで純粋だと、嘘ついて騙してる自分がスゲー汚れて見えるぜ」


「安心しろ。貴様はすでに汚れている。

 ユー〇ューブにあるカーペットクリーンのショート動画並みに汚いぞ」


「あのどう汚せばあんな汚くなるやつと一緒かよ!

 ってか、それを言うならお前も似たようなもんだぞ。自覚あんのか?」


「最悪、全部敬に指示されましたで済ませばいい。

 どっちにしろアイツの希望通りではあるからな」


「うわ、汚ねぇ。お前の方こそペンキで黒く塗ったように真っ黒じゃねぇか」


「例えが雑だ。25点」


「採点すんな」


「ともかく、俺達も気にせずいつも通りにすればいい。

 ただ、アイツは少々大撫さんを侮っているようだから、少しは痛い目に遭えばいいがな」


 腕を組みながらそう呟く宗次は、後ろにある施設の敬がいる部屋を見ながら呟いた。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)


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