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小さな文学少女が友達を欲しがっていたので友達になって、ついでに自己肯定感やら友人関係を整えたら想像以上の勇者になった  作者: 夜月紅輝


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クエスト34 林間学校(前日)#1

 ゴールデンウィークが明け、平日の学校の朝。

 誰しもがゴールデンウィークでの生活を話す中、敬と天子もまたその話題で盛り上がっていた。


「へぇ~、それじゃ大撫さんは俺と会った別の日に編ヶ埼さん達と一緒に遊びに行ってたのか」


「はい。遊園地に行ってきました。

 友達と行ってきたのは初めてなので、とっても楽しかったです。これ、その時の写真です」


 そう言って、天子は自分のスマホの写真フォルダから写真を見せた。

 すると、そのスマホには遊園地にある大きな城をバックに、動物のカチューシャをつけた天子、京華、夕妃、那智の四人の姿があった。


「なんか凄いはしゃいでるね。楽しい様子が伝わってくるよ。

 それにこの写真に写ってる大撫さんの服って、幸達に選んでもらった服じゃない?」


 その天子の服装(そうび)はスラブ楊柳フリル袖ブラウスに、テープストラップジョーゼットオールインワンという幸が紹介したフェミニン系の服であった。

 そんな敬の指摘に、天子は気づいてもらったのが嬉しいようでニコニコしながらしゃべり出す。


「そうなんです。あの時、選んで服で行ってみようって思いまして。

 そしたら、皆さん『可愛い』って褒めてくださいまして......それがとても嬉しくて。

 だから、幸さんと朝奈さんには改めてお礼しなきゃと思いまして」


「なら、一緒に一年の階に行くかい? 二人ならたぶんすぐにわかるよ」


 敬がそう提案した途端、天子は急に渋い顔をし始めた。

 その顔はさながら会いに行くのはいいが、また絡まれるんだろうなとでも言いだけである。

 やはりあの時の二体の小悪魔との戦いは、天子にとって堪えるものだったらしい。


「だ、大丈夫です。行きます」


「いや、さすがに無理せんでも。

 同じ学校なんだからまたいつでも会えるだろうし、そん時でいいと思うよ。

 別に幸も見返りを求めて何かしたわけじゃないだろうし」


 敬がそんなことを言うと、今度は天子の顔が少しだけシュンとした。

 わかりやすく眉尻が下がり、悲しそうな顔で敬を見る。

 そして、その表情のまま零すは不満の声。


「......やっぱり幸さんのことはよく知ってるんですね」


「まぁ、そりゃ妹だし......」


「え?」


「あ」


「ええええぇぇぇぇ!?」


 敬の滑らした言葉に、今度の天子の表情は驚きであった。

 とはいえ、それは当然の表情で、なぜなら天子は幸をずっと敬の家にホームステイしている人物だと思っていたからだ。


 そんな天子に「今日は表情がころころ変わるなぁ」と敬が思っていると、天子が驚いた顔のまま敬に問い詰める。


「そ、それって本当なんですか!?」


「え、あ、うん。なんか騙しててごめんな。幸に口止めされててさ。

 けど、幸が妹っていうのは本当だ。今度幸に会ったら確かめてみるといい」


「その反応、本当なんですね」


「おいおい、僕が嘘をつくような人間に見えるか? ほら、見てくれ! この綺麗な瞳を」


「よく無茶ぶりする人の目ですね」


 天子はジト目でもって敬を見つめる。

 一体誰が何を言ってるのかとでもいいげな目で。

 しかし、そんな天子の気持ちは通じていないのか、敬にはサムズアップにウインクつきで返された。


 そんな敬に、天子がため息を吐いていると、ホームルームの時間を告げるチャイムが鳴り、同時に教室へ担任の夏目女教師が入ってくる。

 そして、夏目先生はクラスの出席を確認すると、教卓に手を付けて言った。


「よう、お前ら! ゴールデンウィーク楽しんできたか?

 そんなお前らに朗報だ。もうすぐ学校行事で二泊三日の林間学校がある。

 だから、今のうちに班をつくっておけ。

 ちなみに、班は四人な。男女混合じゃなくてもいい」


「林間学校......」


 夏目先生の言葉に、天子はその言葉に想いを馳せる。

 林間学校......それは山奥という緑の深き地にて、学校生活を離れ、友達と協力しながら色々な行事を体験していくものだ。

 そして、協力を通してクラスメイトと仲を深め合うのが主な目的である。


 つまり、これまで友達がいなかった天子にとってその行事は過酷を極める旅路であった。

 しかし、今は頼もしい仲間がおり、自分の行動次第でパーティ編成も可能。


「私はどうしましょう......」


 そう言いながら天子は後ろを振り返る。

 といっても、天子が選ぶとすれば、男子パーティとか女子パーティのどちらかである。

 加えて、天子が女子であるならば、選ぶのは女子パーティ一択である。


 そして、業務連絡のようなホームルームが終わると、天子はどちらか悩みつつ、一先ず敬へと近づいた。

 するとその時、天子の悩みの種に気付いた様子で、敬が天子に話しかける。


「おや、どうやらここに悩める子羊がいるようですねぇ~。

 一体どされたのですか? この神父犬甘が悩める子羊に導きの言葉を授けましょう」


「その、実は班で誰と組むかを悩んでまして......それで、京華さんはきっと夕妃さんと那智さんと組むでしょうし、犬甘さんは男鹿さんと相沢さんと組む予定ですよね?」


「そうだな。つまり、どちらと一緒に班になるか悩んでいるってことだね?」


「はい、そうです。それで悩んでいまして.......」


 天子が真剣に悩みを打ち明けると、敬は腕を組んで考え始めた。


(つまり、大撫さんはどちらかを選べば、選ばなかった方と禍根を残すのでは......と考えてるわけか。

 ぶっちゃけ考えすぎもいいとこだが、友達がいなかった大撫さんにとって悩める議題。ならば――)


 頭の中で考えをまとめた敬は、内心でニヤッと笑うように天子を見る。

 そして、神父のオーラを纏って天子に信託を授けた。


「悩める子羊よ、あたなのお悩みしかと受け止めました。

 では、こう考えてはいかがでしょう。

 どちらかを選べば、どちらかに角が立つのかもと悩んでいるならば、どちらも選ばなければいい」


「え......?」


「ここで大撫さんに神様からの信託を授けます。

 大撫さんと友達でない相手と班になり、親睦を深めるのです。

 さすれば、大撫さんはさらに人間として成長し、勇者としてふさわしい人間になるでしょう」


「え、えーっと、つまり、京華さん達や犬甘さん達以外の班に入れってことですか?」


「その通り。大撫さんが友達を頼るのはいいことだ。

 しかし、頼り過ぎては大撫さんの当初の目標から遠ざかる。そのための行動さ。

 もちろん、班行動以外では自由に僕達に会いに来てもいい。さて、どうする?」


 敬の言葉に、天子はすぐに答えず顔を下に向け、お腹の前で手を組みながら考えた。


(確かに、これまでの私は何かと皆さんに頼っていた気がします。

 ゴールデンウィークに行った遊園地だって、誘ったのは私ではありませんし。

 これが犬甘さんからのクエストというなら、私も頑張りを見せないと!)


 そう考えた天子は敬に視線を向け答える。


「わかりました。私、頑張ってみます!」


「.......そっか。なら、頑張れ。僕は応援しているよ」


「はい! なので、見ててください!」


 天子はニコッと笑うと、「では、京華さん達に伝えてきますね」と言ってこの場を離れた。

 そんな天子の小走りに歩く後ろ姿を見ながら、敬は背中に後ろに隠した右手でガッツポーズした。


―――昼休み(いつもの体育館裏)


「うわああああああああ! 姫"、どう"じでだよ"ぉ"ぉ"ぉ"ぉ"!」


 京華は地面で四つん這いになりながら泣き叫んでいた。

 理由は明白で、ホームルームの時に天子からパーティ申請を断られていたからだ。


 つまり、それを聞かされてから数時間経過しているわけなのだが、この泣き叫びよう。

 もはや若干どころか普通にキモイ域のファンとなりっている。

 そんな京華に対し、夕妃と那智は冷めた目で友を見ながら、那智が天子に話しかける。


「にしても、随分と思い切った行動をしたね。何かわけでもあったの?」


「そういえば、理由をお話してませんでしたね。

 実は私......班決めの際、京華さん達の班に入ろうか、犬甘さん達の班に入ろうか悩んでいまして」


「そんなん姫がうちに来る一択しかねぇだろ!」


「うるさい。外野は黙ってな。そっかそっか、ワンコちゃんには大事な選択だもんね。

 こんな変態がいる班か。もしくはこの学年が始まってから世話になっている人か」


「那智、それだと選択の余地がない」


「そうだぞ、那智ィ! アタシは変態じゃない!――紳士だっ!」


 那智の問題発言に、京華はキメ顔で発言した。

 その顔はまるで自分は何も間違ったことは言っていないと言わんばかりの顔。

 そんな京華に対し、那智は「同義語じゃねぇか」とツッコみつつ、天子へ再び話しかける。


「で、それがどうしてどちらでもない別の班の加入になるってのさ」


「私が犬甘さんに相談しに行ったら、『どちらか選んでどちらかに角が立つと思うようなら、選ばなければいい』とおっしゃいまして。

 加えて、私の成長を考えるなら、ここはあえて関わったことのない人に話しかけるのもアリという感じで」


 その天子の言葉を聞き、夕妃は瞑目すると賛同するように頷いた。


「確かに、天子ちゃんがそれでどちらかに負い目を感じるなら止めた方がいいかもね。

 もちろん、私達は......いや、あの厄介ユニコーンを除けば、どっちの班になろうとも構わないわけだけど」


 夕妃の言葉には那智も頷いて同意する。

 その時の那智の頷きは、まるで真理とでも言わんばかりの深き頷きであった。

 その一方で、厄介ユニコーンはその鋭い角でその意見に突撃した。


「んなわけあるか! 姫が男三人のとこに一人で行ってみろ! 一体どんな目に遭うか!」


 その言葉に、那智はハッとする。


「 確かに! 犬甘君達と仲良いことを知らない人達には、ワンコちゃんが男を囲ってるように見える!

 おいおい、普段めんどくせぇくせにここぞとばかりに良いこと言うじゃん」


「違げぇ、パーティクラッシュが発生する」


「おい、那智の関心を返せ」


 那智の京華に対する上昇した株は、未曽有のデフレが起きたように下落していった。

 せっかく言いことを言ったと思った次にはこれである。


 前まではただの可愛い物好きだけだったのに。

 今はもう他に言い表しようのない変態だ。

 そんな那智が京華を見下している一方で、夕妃は先程の話題について話を続けた。


「とはいえ、確かにその状況はどっちに捉えても良くないわね」


「と言いますと?」


「例えば、私がめんどうな女子だとすれば、”天子ちゃんが男を誑かしてる”か逆に”犬甘君達が一人の女子を囲っている”という悪印象を周囲に与えかねない」


「なるほど......となると、私はそもそも班決めの時点で、選択肢は”京華さん達の班”か”他の女子グループの班”しかなかったんですね。

 友達なのに犬甘さん達と組めないのは残念ですね.....」


「もう少し班の人数が多ければ良かったかもしれないわね。

 でもまぁ、こればっかりは思春期の男女の(さが)ってやつよ。

 あまり気にしてもしょうがないわ」


「しょうがない、ですか......」


 夕妃の言葉の意味を理解しつつも、腑に落ちないのか眉尻を下げる天子。

 天子はこれまで友達がいなかったため、男女の空気感に詳しくないのだ。


 特に異性と関わった際の周囲へとどのように伝わるかということが。

 すると、しょんぼりする天子に対し、那智が説得するように言葉をかけた。


「しょうがない、だよ。周囲の空気ってのは、個人の力だけじゃどうにもならないから。

 それこそ、よっぽどの有名人かカリスマ性を持っていれば別だけどね。

 それに、そういう意味合いなら、那智達だって他の子達に比べれば浮いてるんだよ?」


「そうなんですか?」


「ギャルを公言......ってわけじゃないけど、わかりやすく制服を着崩して陽キャ感出してるしね。

 賑やかで楽しいのは身内だけなんだよ。遠方から見る人にとってはただのノイズでしかない」


「そんな! 皆さんはとっても仲良くしてくれますし、話してて楽しいですよ!」


「ありがと~、ワンコちゃんがそう言ってくれて嬉しいよ。

 でも、それはワンコちゃんが犬甘君に紹介されて関わったから知れたことだよね?

 逆に言えば、関わらなければ、今こうして話すことは無かった」


「そ、それは......」


 天子は咄嗟に反論しようとも、言葉が思い浮かばず口をパクパクさせるだけ。

 すると、ようやく立ち直った京華が天子の横に座り、その話に割って入った。


「実際、浮いてる話ってのはこれだけじゃねぇ。

 姫は知らねぇと思うが、今こうして昼休みを抜けている間も噂されてんだ。

 表では仲のいいフリをしてるけど、裏では実はイジメられてんじゃねぇかってな」


「そう、なんですか.......」


 天子はその言葉を確認するように、夕妃と那智に視線を向ければ、その二人はニコッと笑うだけ。

 それはもはや無言の肯定と同じであった。


 その現状にショックを受ける天子であるが、だからといって自分に何ができるか。

 そんな落ち込む天子を見ながら、京華がしゃべり出した。


「だから、アタシ達に必要なのは程よく空気を読む力なのさ。

 例えば、体育祭や文化祭とかで協力的な姿勢を見せる。

 アタシ達(こっち)クラスの奴ら(あっち)もケンカがしたいわけじゃない。

 ただ、最低限居心地の良い教室を作ろうって話なだけだ」


「でも、それでも良くない噂は流れてるんですよね?」


「それは私達がこうして自分の色を出してる以上仕方ねぇことさ。

 出る杭は打たれるっつーか......いや、違げぇな。

 単に自分の肌に合わない異物に嫌悪してるだけさ。

 それはアタシ達にだってあるし、そこに腹を立てても仕方ねぇだろ?」


 そう言って京華は天子に笑顔を向けた。

 その笑顔が天子にはなんだか張り付けたような笑顔に見えた。


 ある程度自分を犠牲にしなければ、クラスの空気を守ることはできない。

 それが空気を読むことであり、お互い様である以上、どちらかが大人にならないといけないのだ。


 そんな現状は天子にとって驚くべきことであった。

 が、それはあくまで天子がボッチだったから知らなかっただけである。

 そして、今この瞬間集団でいることが良いことばかりじゃないことを理解した。


「ま、つまりだ。姫がいつも通りならアタシ達も嬉しいってことだ」


「そーそー。関わらない奴にとやかく言われて、それを気にするのも面倒だしね」


「私達は互いに好きな空気があって、それがいくつもあるだけ。

 なら、干渉する際に気を付ければいいだけで、それ以上気にかけることはしなくていい。

 下手に無理に気を配り続ければ、自分の時間が無くなって疲れるしね」


「皆さん......」


 京華、那智、夕妃の言葉に、天子は目を大きく開かせた。

 その時の瞳に抱いた感情は、言うなれば”尊敬”であろうか。

 ひたすら流れに従うだけの自分とは違い、意思を持ちつつも柔軟に対応する三人の姿勢がカッコよく映ったのだ。


「よし、この話終わり! なんか別の話題にしようぜ」


 その時、京華が一度手を叩き、空気を強制的に断ち切った。

 すると、那智が顎に指を当てて話題を出す。


「そうだな~......あ、そうだ!

 確か、林間学校の時に肝試しあるって聞いたけど、ワンコちゃんは夜道とか平気?」


「少し怖いですけど......でも、ホラー映画とか普通に見れますから。

 この前も犬甘さんと一緒にホラーパニック映画を見に行きましたから」


「おい、その話詳しく! 事と次第によらなくても犬甘は殺す!」


「黙れ、ユニコーン。また角へし折られたいのか」


 それから昼休みの残り時間、女子四人はホラー映画について話し続けた。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)


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