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小さな文学少女が友達を欲しがっていたので友達になって、ついでに自己肯定感やら友人関係を整えたら想像以上の勇者になった  作者: 夜月紅輝


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クエスト33 「種族デビルとの戦い」(後半)#6

 幸の結果発表により、敬はそれを聞いて固まった。

 そんな兄をよそに、幸は天子に瞬〇殺の如くスススッと近づくと、今の気持ちを尋ねた。


「勇者先輩、良かったですね。勇者先輩テイストがお気にらしいですよ。

 ねぇ、勇者先輩どんな気持ち? 今どんな気持ち?」


 まるでメスガキが煽るような口ぶりで聞く幸。

 その顔は天子から何かを期待しているような口ぶりであった。

 しかし、天子は特に深く捉えることもなく答える。


「そうですね、やっぱり嬉しいですね。

 こうして誰かに褒められるのって家族しか経験ないので。

 なので、友達の犬甘さんの目を楽しませることが出来たなら良かったです」


 天子はニコッと笑った。

 その笑みはまるでその言葉以上の意味は一切ような感じで。


 瞬間、その言葉を少し遠くで聞きピキーンと反応したのは敬だった。

 そして、幸と同じように瞬〇殺をするようにスーッと天子の前で跪くと、胸に手を当てて答える。


「さすが我が勇者だ。最高の言葉を頂き恐悦至極。

 僕は()として大撫さんのことをとても誇らしく思うよ。

 これぞ僕の()()()だ。これからもよろしく頼むよ」


「はい、よろしくお願いします!」


 敬と天子は互いに顔を見合わせ、友情を確かめ合った。

 一方で、その光景を見つつ後退した幸に対し、隣に立つ朝奈は僅かにほくそ笑んで言った。


「ふっ、残念だったね。上手く誘導できなくて」


「う~ん、まぁまだ想定内だから。それに現状どんな感じか確認できただけでもマシだから。

 にしても、まさか自分が贔屓されるとでも思った?」


「思ってない。けど、ここまで堂々とやられるとこっちもビックリ。

 本当にそういう所が嫌らしいと思う。でも、そこが好き」


「どうも~♪」


「で、ゲーム的にはお兄さんが勝ったわけだけど、どうするの?」


「そんなの決まってるじゃん」


 朝奈の質問に対し、幸はニヤッと笑うと注意を引くように拍手した。

 そして、天子と敬の視線を集めると、ゲーム報酬について話始める。


「さてさて、敬ちゃんこれでゲームは終わったわけだけど、まさかこれで終わるわけないよな?」


「なぁ、その呼び方まだ続けるのか?」


「こっちが飽きるまで続けるんだよ! で、どうなの?」


「どうなのって言われても......」


 敬がふと天子を見れば、天子もこれで終わりとばかりに首を傾げる。

 すると、そんな二人を見て幸はやれやれと言わんばかりのジェスチャーをすると言った。


「おいおい、まさかこのまま解散ってか? そりゃねぇぜ。

 勇者先輩って如何にも引きこもり文学少女って感じで外に出かけるタイプには見えないじゃん?」


「うぐっ!」


 幸の突然の鋭い攻撃によって、先ほどのフワフワした気分から一転して現実に戻される天子。

 ただでさえ、陰キャは陰であることを自覚しているのに、それを陽キャから言われれば効果は抜群だ。

 そんな幸の物言いにはさすがの敬も反応した。


「ちょい幸! もうちょい歯に衣着せて言いなさいよ!」


「というわけで、ここはいっちょ敬ちゃんがエスコートしてあげなさいな!

 勇者先輩は敬ちゃんにとって大事な『推し友』なんでしょ?

 だったら、それぐらい出来るよねぇ?」


 そう言って、幸は口元に手を当ててニヤニヤと笑う。

 そんな幸の言葉の意味を理解しつつ、敬が天子の方をチラッと見れば、どこか期待したような眼差しで自分をみているではないか。


「言っておくけど、言葉以上の意味はないよ。敬ちゃんは邪推するのが悪い癖だから」


「だったら、紛らわしい言い方をして、ニヤニヤ笑うな」


「デフォなもんで」


 幸の口車に上手く乗せられたような気分になりながらも、最終的に敬はため息一つで受け入れた。 

 そして、天子の方を振り向くと、今後の天子の予定を尋ねていく。


「大撫さん、というわけなんだけどどうかな?

 もちろん、家族と来てると言ってたし、無理はしなくていいけど」


「そ、そうですね......でも、休日にこうして友達と出かけるのは初めてですから、せっかくですし遊びたいです」


「そ、そっか......わかった。なら、いこっか」


「んじゃ、いってらっしゃーい」


「「っ!?」」


 瞬間、幸の言葉に敬、天子、朝奈の三人がギュインと顔を高速で向けた。

 そして、三人して驚いた顔をする中、敬が代表して幸に聞いた。


「ちょいちょい幸さん、全員で遊びに行くんじゃないの?」


「はいぃ? わたしなんかぶっちゃけいつでもできるでしょ?

 それにアサナンとマヒルンだって。アサナンに限っては忙しくても来るよ。

 でも、敬ちゃんはまず休日はバイト以外外に出ないじゃん!

 ってことで、勇者先輩を連れてレッツデート!」


「さっちゃん、それはさすがに私も看過できな――んむっ!?」


 幸は抗議してきた朝奈の口を素早く塞ぐと、自身のあごをクイッと動かして「はよ行け」と、まるで自分のことはいいから先に行けと言わんばかりにジェスチャーで伝える。


 そんなお転婆すぎる妹の行動に、敬は天子をチラッと見て大きくため息を吐くと立ち上がった。

 理由を挙げるとすれば、いい加減この強すぎる小悪魔達から逃げるため。


「わーったよ。ふぅー......さて、大撫さん、クラスメイトと休日デート行こうじゃないか。

 今日という日を忘れられない思い出にしてやるからな☆」


「で、デート......ですか。な、なら、せっかくですし、この服のままでもいいですか?」


「......あぁ、もちろんさ! 俺も可愛い女子とデートしてるとなれば、男の箔もつくってもんだしね」


「か、可愛い.....えへへ」


 というわけで、幸の提案により敬と幸の二人には急遽デートイベントが始まった。

 もっとも、敬にとってはあの小悪魔達との戦いから逃げる意味合いもあったが。

 そして、敬は幸に念入りに服装や持ち物チェックをされると、天子と二人で移動を始める。


「......なんというか騒がしくしてごめんな」


「いえ、そんなことは......」


「本当は?」


「幸さんの苦手意識をよりハッキリ感じました......」


「正直でよろしい。まぁ、あんま気にしててもしょうがないし忘れよう。

 それよりも、どこ行きたい場所ある? 大撫さんだったら本屋とか?」


「そうですね、普段ならそうでしたが、今は気になってるものはなくて。

 まぁ、見てるだけでも楽しかったりするんですが。

 犬甘さんが行きたい場所でいいですよ」


「僕が行きたい場所か。そうだな......」


 犬甘は腕を組みこの後の時間の潰し方を考え始めた。

 敬は妹とのデートなら経験はあるが、同年代の女子とはない。

 そう、あの朝奈ともないのだ。その時ですら妹同伴である。


 故に、これが敬にとって初めての休日デートであり、緊急であるため当然プランは無し。

 パッと思いつくことはあるが、それで天子を満足させられる自信もない。


「もうすぐ昼だけどお腹空いてる?」


「いえ、言うほど......なので、私のことは気にしなくていいですよ」


「そっか」


 しかし、それを露骨に出すのは友達としてよくない。

 出来れば、天子にはこのまま今日一日良い気分で帰って欲しい。

 つまり、上手く時間を消費しつつ、これ以上の関係性の構築を防ぐ方法があるとしたら、それは――


「映画ですか?」


「うん、映画。実は見たいものがあってさ。どれかわかる?」


「どれ......」


 敬に質問され、天子は壁に設置されたポスターを眺めていく。

 そこには恋愛もの、海外のホラー映画、アニメものなどよくありそうな話題の映画が並んでいた。

 そのポスターを一通り眺めると、天子は一つのポスターを指さした。


「アニメものですか? 犬甘さん確かああいうジャンル好きでしたよね?」


「よく知ってるね。そういう情報を男子ポイント高いよ。是非他の男友達にも言ってみよう。

 とはいえ、今回はちっがうんだな~。正解はこれ」


 そう言って、敬が指をさしたのは今巷で流行っているホラーパニック映画だ。

 そんな敬の正解発表に、天子はキョトンとした様子で聞き返す。


「えーっと、これって所謂ゾンビ映画ってやつですよね?」


「ザッツライト! この映画、今SNSとかで話題みたいなんだよ。

 で、そういう流行に乗っかりたがる若者の僕は、是非とも乗っかりたいってわけ。

 さて、僕はこれが見たいわけだけど、大撫さんはどうする?」


 敬がそう聞けば、天子は考えるように視線をポスターに向けた。

 そしてしばしの沈黙の後、敬の方へ向いて言った。


「いいですよ」


「え、いいの!?」


「はい。たぶん大丈夫です」


 天子からの予想外の返答に、敬は目を白黒させる。

 なぜなら、天子のような大人しい文学少女であれば、その手のジャンルは苦手だと思っていたからだ。

 しかし、その予想を裏切るかのような天子の反応。


 敬は「無理しないでね?」と声をかけるも、天子が平然とついてくるので、宣言通りにその映画のチケットを買い、ついでにドリンクも買うと座席の方へ向かった。


「あの、本当に奢ってもらって良かったんですか?」


「これぐらいの甲斐性は僕の美徳だと思ってくれ。

 ま、正直言えば幸や朝奈の相手をしてくれたお礼だよ。あの二人は俺でも手を焼く二人だから」


「あの犬甘さんにそこまで言わせる二人だったんですか......」


「おいおい、僕をなんだと思ってるんだ?......斎藤さんだぞ」


「ではないことは確かですね」


 敬の小ボケはあっさり流され、二人は指定席につく。

 開演ギリギリだったこともあり、話題の映画だったことでもありで、周囲には多くの観客がいた。

 割合としては、男の方が多かったが、それでも多少はカップルぽい男女を見かける。


(カップルでこの手の映画見に来るか? 普通)


 そんな激しくブーメランな感想を敬は浮かべつつ、暗転した会場で映画は始まった。

 映画の内容を簡単に言えば、大学の映画研究部が学園祭の出し物のために、近くの山の中にある怖い噂のある村に行ってみれば、部員の一人が誤って祠を壊してしまい、そこからゾンビのようになった死者が襲い掛かるようになり、映画研究部はその村から脱出するという物語だ。


 あらすじだけ聞けば、どこかにありそうなB級映画っぽいがいざ見てみればあら不思議。

 意外や意外に見入ってしまうではないか。

 かくいう敬もハラハラドキドキ、時折ビックリな展開を楽しんでみていた。


 そんな楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、気が付けばエンドロール。

 映画の主題歌&スタッフロールを最後まで見て聞いて、会場が明るくなると、敬は大きく伸びをした。


「う~ん! たはぁ~~......面白かった。

 先が読めるような展開に思えたけど、そう思っても意外に楽しめた。

 まさかあそこまで人が死ぬとは.......大撫さんはどうだった?」


「とっても面白かったです!」


 さらりと聞いた敬の質問に、天子は瞳を輝かせて答えた。

 その目はまるでヒーロー映画を見たような輝きを放っている。


「そ、そっか......それは良かった」


 敬は思ってもいなかった反応に戸惑いつつ、一先ず会場の外へ。

 映画を見たことで昼を大きく過ぎており、二人とも昼食を取っていなかったので、ファストフード店に向かうことになった。

 その道中、会話が無いのも変なので、敬は先程の映画について触れた。


「あの映画、割と驚かせ要素あったけど、大撫さんはああいうの平気なタイプ?」


「う~ん、そうですね......どちらかというと平気なタイプかもしれません。

 昔も、テレビでやってた『本当にあったかもしれない恐ろしい話』も、家族の中じゃただ一人離脱せずに見てましたし、むしろ面白がってた気さえします」


「意外だね。俺はてっきり苦手だと思ってたよ」


「普段読んでいる本と同じで、あの映画も創作なので......たぶんそう思うと見れるんだと思います。

 そう考えると、犬甘さんが無茶ぶりしてくる時の方がよっぽどビックリしますね」


「おぉ、まさかの催促? 何度も味わっちゃって病みつきになっちゃった感じ?

 OK把握了解承知かしこまり、これからもビシバシ無茶を振り回し続けるからよろ☆」


「もうこの反応にビックリですよ。全然なってませんから」


 そんなこんなの会話をしながら、二人がファストフード店に付けば、互いにメニューを注文した。

 その際、再び敬が奢ろうとしたが、それは断られ割り勘となった。

 そして、近くの席に二人掛けの席に座れば、仲良く食べ始める。


「ん~美味しいです。こういうの滅多にしないで、なんだか不思議な気分です」


「お、なら、一緒にこの店のメニューを制覇しちゃう?

 心は満足、胃は満腹♪ お腹は拡幅、体重は増幅♪ そして、お財布すっからかん♪」


「とても酷い悪魔の囁きじゃないですか。もう少し悪魔さんだって言葉選びますよ」


「いいね、最近大撫さんもツッコみが冴えてきてるよ」


「なんか不本意な鍛えられ方してますけどね」


 そう言いながらも天子は気にしてなさそうに笑みを浮かべ、ハンバーガーを食べ終えると、包装を丁寧にたたんで小さくしていく。

 すると、自分が食べたものをぼんやり見つめながら、天子は口を開いた。


「やっぱり今日は勇気を踏み出して良かったです」


「そうだね、僕的にも助かったよ。大撫さんに二人を押し付けることができて」


「やっぱそうだったんですね。まぁ、わかってましたが。

 ですが、それも含めて今日という一日は私にとって特別な思い出になったと思います。

 何度も言ってしまいますが、私にとって友達と出かけるなんて、小学生から思い出してもたぶん初めてで......その相手が犬甘さんで良かったです」


 天子は敬に向けて満面の笑みを浮かべた。

 そんな見たらどんな悪霊でさえも浄化してしまいそうな輝きを放つ天子に、敬は僅かに目を大きく開き、そしてその言葉を受け流すようにお茶らけて返答していく。


「ふっ、どうやらこの僕が大撫さんの初めてを奪ってしまったようだな」


 女子に対して言うべきではない十分な下ネタラインの返答。

 普通の女子ならこの返答の時点で、心の中では「ないわぁ」と引いているだろう。

 しかし、相手は陰キャボッチの天子。そんな相場は容易く超える。


「ふふっ、そうかもしれませんね」


「.......そうきたかぁ」


 恥ずかしそうにしながらも、ニコッと笑いながら返答する天子。

 そんな見事なカウンターに、敬は口を隠すように頬杖をつき、直視しないようにそっぽ向きながら言葉を呟く。

 そして、気を取り直すように咳払いすると、天子の方へ向いた。


「ありがとうはこちらもだね。

 今日は幸達のことを抜きにしても、久々に楽しめた気がする。

 やっぱり大撫さんは最高の友達だ。

 これからも友達で居続けるために僕も色々と頑張らないとな。

 ってことで、今後とも友達として仲良くしていこう」


「はい! 仲良くしましょう!」


 そして、二人は熱く手を握り交わし、友情を確かめあった。


*****


―――その日の夜


 国民的キャラクターのぬいぐるみ多めなファンシーな部屋は、幸の自室である。

 そして幸はというと、風呂上りに自室に戻れば、ベッドの上にダイブ。

 その状態のまま置かれた一つの機械に触れた。


 それを慣れた手つきで操作すると、耳に当てて再生ボタンをポチ。

 すると、流れてくるは敬と幸の会話のやり取りだった。


『ありがとうはこちらもだね。

 今日は幸達のことを抜きにしても、久々に楽しめた気がする。

 やっぱり大撫さんは最高の友達だ。

 これからも友達で居続けるために僕も色々と頑張らないとな。

 ってことで、今後とも友達として仲良くしていこう』


『はい! 仲良くしましょう!』


「あらあらまぁまぁ、こんなに”友達”を連呼しちゃって。

 まるで友達でないと不都合みたいな言い方をするねぇ。

 そして、それに全く気付いてない勇者先輩も可愛い♡」


 幸はゴロンと寝返りを打つと、その機械をあごに当てながらほくそ笑む。


「さてさて、これからどうしよっかなぁ~。とりま、様子見かな。

 ふふっ......それじゃ勇者先輩、また遊びましょ♡」

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)


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