クエスト32 「種族デビルとの戦い」(後半)#5
幸と朝奈プレゼンツのファッション対決フューチャリング天子。
その審査員兼プレイヤーである敬は、審査会場である試着室前で佇んでいた。
そして、その試着室の中には今まさに新たな服に身を包んだ天子が。
すると、主催者である幸が口火を切った。
「ではでは、ファッションショー開幕――と行く前に、改めてルールの確認をしとこっか。
このファッションショーは二つの目的がある。
一つは勇者先輩で遊ぶ.....ごほん、オシャレに無頓着な勇者先輩の意識改革」
「今、完全に遊ぶって言ったね。なんなら、その発言二回目だね」
敬が無難にツッコめば、幸の言葉に朝奈が続いた。
「そして、もう一つがお兄さんの一日独占券をかけた勝負。
お兄さんには、私達がそれぞれ選んだ服の中から一つ選んでもらいます。
全部で四着あって、三着が私、残り一着がさっちゃんの。
そして、さっちゃんのを選べばお兄さんの勝ち」
「それ、僕にメリットなくない?」
「おいおい、お兄わかってないなぁ?
美少女! ギャル! JK! そしてヲタクに優しい!
こんな属性てんこ盛りの相手にメリットがない?
むしろ、メリットしかないじゃん!!
ホントお兄はダメだね。ダネダネ」
「え、今否定形フシ〇ダネいなかった? いたよね?」
「それに何より、一番に私達にメリットがある! ならもうやるっきゃない!」
「結局、自己利益の追求じゃねぇか。僕、ただ巻き込まれてるだけじゃん」
「うっせぇなぁ......テメェは従え。以上!」
「正体......現したネ!」
「敬さん、なんだかんだでノリノリっすね」
そんなこんなで無事逃げ切れなかった敬は、改めてファッションショーに参加することになった。
こうも頑固になってしまった幸はテコでも動かないのだ。
ならば、兄が折れてやるしか話は進まない。敬もまた妹に甘いシスコンなのだ。
「ではではでーは、ファッションショーと行きましょう。
それでは勇者先輩、もう着替え終わってますよね?」
「は、はい......」
「では、オープン!」
幸の言葉に、天子は試着室のカーテンをゆっくり開けた。
その時の天子の服装を端的に表せば――
頭:赤いベレー帽
上半身:グリーンのワイシャツ
下半身:チェック柄のミニスカート
装衣:短め丈の白のカーディガン
――である。
その服の簡単な解説は幸がした。
「公平にするためにこれからの説明は私がするよ。
ま、お兄に難しいこと言ってもあれだからテーマだけ。
この服のテーマは、元気いっぱいの春のガーリーコーデ。
もう見るだけでくぁわいいって思わない?」
幸の言葉を聞きながら敬が天子を見れば、天子は恥ずかしそうに顔を赤らめモジモジ。
しかし、天子は着替えたなりの反応は見たいのか時折チラリと敬に視線を送る。
それに対し、敬は――
(くぁわいいぃぃぃぃ!!)
脳内で激しく悶えていた。
気分はさながらアイドルに向かって両手に持ったペンライトを振るファンの如く。
しかし、それを体に出してしまえば、幸及び朝奈の思うつぼである。
故に、敬は悪役が登場するようにゆっくり拍手しながら、堂々と言い切った。
「はい、くぁわ......ごほんケフン、ベリーキュートッ」
「あ、ありがとうございます......で、では、次に行きますね」
敬からの惜しみない誉め言葉を受け取り、天子は顔を真っ赤にしながらカーテンを閉めた。
そして数分後、幸の合図に天子は新たな服装に身を包んで現れた。
続いての天子の服装は――
上半身:スラブ楊柳フリル袖ブラウス
下半身:テープストラップジョーゼットオールインワン
――である。
「この服も春夏寄りだけど、さっきのガーリーよりも可愛さを控えめにしたフェミニン系。
言うなれば、大人の上品な雰囲気と可愛らしさを含めた服装だね。
ぶっちゃけ、勇者先輩は身長が低めだから、見た目だけで可愛さが勝っちゃって大人っぽさを出すのは難しんだけど......うん、イイじゃん」
「お兄さんはどう思います」
「お、おおおお......素ん晴らしい! 不味い、僕の性癖が刺激される」
「お、お兄さん......!?」
「おや~、順調にダメージを受けているようだねぇ。心の声が漏れてるよ~」
心臓を押さえる兄を見て、幸はもう何度目かのニヤリ顔をする。
すると、敬を見ていた朝奈はムッとし、同じく敬を見ていた天子はぎこちないニヤケ顔を浮かべ、一人若干蚊帳の外の真昼はため息を吐きながら事の成り行きを眺めた。
「では、次に行きますね!」
若干テンションが上がり始めた天子は、カーテンをシャッと閉め、次の服装に着替えていく。
そして、次なる天子の服装は――
頭:キャップ帽
上半身:白のTシャツ
下半身:カーキー色のベイカーパンツ
――である。
「この服装は五月なのに夏みたいな季節に適応しつつ、可愛さを完全に引いたボーイッシュコーデ。
素の可愛さを活かしつつ、それでいてカッコいい系の勇者先輩が見たかった!......というマヒルンの意見です」
「そうなのか?」
「いや、敬さんの横にずっといたでしょ」
「良い趣味してるな。もう今にも爆発しそうだ」
「恐縮です」
全く自分の発言ではないが、敬に褒められて礼を言う真昼。
男子二人がそんなこんなの会話をしていると、天子が催促するように口を開いた。
「あ、あの.....,この服は.....その、犬甘さんにはどう映ったでしょうか?
いや、その、別に大した意味ではないんですが......」
「僕の中のけヘケ太郎が涎をまき散らしてるところだ」
「え、えーっと、つまり......?」
「今、大撫さんの魅力で冷静さを欠こうとしている。
それほどまでに似合ってると思う」
「そ、そうですか......えへ、えへへへ......」
天子はまるで猫の可愛さに服従する飼い主のように頬を緩め、「次行きますね」とカーテンを閉めた。
一方で、そんな初々しい友達以上恋人未満のような関係を幸にニヤつき顔で見られつつ、敬は内なる荒ぶる火山を必死に抑えていた。
(あ、あぶねぇ......後少しではかい〇うせんばりの”好きィ”という言葉を吐き出すところだった。
しかし、これは考える以上に不味い事態だな。簡単に言えば、心が持たない)
そう思いながら、敬は次の服装を見ることに覚悟を決めた。
言うなれば、心の好きが体表に出ないようにするダムの建設。
これ以上、ヲタク心を刺激されれば、幸の思うつぼである。
故に、これ以上の心のかき乱され方は許されない。
その時、幸が妙に自信ありげな顔で敬を見る。
その相変わらずのニヤニヤした目と口は、まるで敬の覚悟をあざ笑っているかのようで。
「お兄、そんな覚悟で大丈夫かい?」
「.......大丈夫だ、問題ない」
「そっかそっか、なら最後の披露と行こうじゃないか。
さぁ、勇者先輩! この仏頂面朴念仁に目にもの見せてやって!」
まるで悪役が調教しているモンスターをけしかけるように、天子を呼ぶ幸。
すると、これまでの敬の反応で混乱している天子は勢いよくカーテンを開け、敬に攻撃を仕掛けた。
そんな天子の服装は――
上半身:レーストップス
下半身:リボンスカート
装衣:デニムジャケット
――であった。
そして、その攻撃は――敬の急所に直撃した。
「......」
敬は右手で口元を覆い隠し、目線をそっぽ向けた。
これまで軽口やおふざけが息を吸うようにしていた敬が黙りこくる。
そんな敬の態度を敏感に感じ取ったのは、幸と朝奈だ。
「おぉ~やぁ~? まさか見ただけでクリティカルとは.....思ってるよりも入れ込んでるみたいだねぇ」
「まさかこの程度であの兄さんがクリティカルを!?
でも、あの人は私達の着せ替え人形になってるだけだし。
あの先輩一体どんな手品を使ったの......?」
「手品ねぇ......そう思ってるうちはまだまだ手玉には取り切れないよ」
「......っ!」
まるでバトル漫画の主人公の親友が、主人公のライバルに実力差を諭すような会話を繰り広げる幸と朝奈。
一方で、二人が作り出すシリアス空気についていけない真昼は、それとなく状況がわかりそうな敬に聞いてみた。
「あの......これなんの会話すか?」
「すまん、まるで分らん」
真昼に聞かれたてと、敬とて実はよくわかっていない。
なんだったら、幸が良く使う「クリティカル」の意味もサッパリだ。
ただ、なんとなく良くない意味で使われているような気がすることだけはわかる。
そんなことを思う敬の横では、幸が簡単に解説を始めた。
「今回のこの服装は清楚コーデでありながら、大人っぽさも足してみました。
キャー♡ 勇者先輩、デニムジャケット似合ってますよー!
ほら、おに.....敬ちゃんも同級生の目線として何か言ったあげないと」
幸はちょんちょんと肘内することで、未だ若干呆けている兄を覚醒させる。
すると、思わぬ大ダメージで怯んでいた敬は、存在しない口の端から流れる血を拭いながら言った。
「おいおい、これ以上僕の性癖を刺激するなよ。拗れちまうだろうが」
「おっと、まだ言語野に損傷を受けてるようだな。
勇者先輩、お兄はめちゃくちゃ似合ってるだってー!」
「そ、そうなんですか.....?」
明らかにストレートなセクハラを受けた気がしなくもなかったが、敬のそういった言葉もそろそろ慣れてきた様子で深く考えずスルーすることにした天子。
そして、天子はニコニコしながらゲームの結果を見届けることにした。
その一方で、幸は天子の様子をチラッと見つつ、ゲームの答えを敬に求めた。
「さてさて、敬ちゃん、今の四着のうちわたしが選んだのは一着。
それがどれかわっかるっかなぁ~? 当てたらわたし的にポイント高いよ」
「あの中の服で幸の選んだのが一着......」
敬は腕を組み、真剣に考え始めた。
とはいえ、敬は女子の服に関してはてんでわからない。
幸に付き合わされて買い物に来ているが、その時もせいぜい荷物持ちだ。
なので、その中から幸の服を選ぶというのは至難の業である。
そこで敬は現在の幸と朝奈の服装を見て考えることにした。
所謂好みの傾向があるのではないかと踏んだのだ。
(今日の幸は可愛い系の服だが、どことなく元気さのある雰囲気も感じる。
そう踏まえて考えると、あの四着の中で可愛さと元気っぽさがあったのは一着めの服だよなぁ)
そう考えながら、敬が顎に手を当てながら幸の服を見ていると、視線に気づいた幸が途端に身をよじらせた。
「ちょっと敬ちゃん、いくらわたしが可愛すぎるからって見すぎ。それ以上はお金取るよ」
「相場は?」
「一般には一分五万。けど、敬ちゃんは特別に一分五百円!」
「よし、乗った!」
敬は財布から百円を取り出し、幸に支払う。
そして、気前よくポージングする幸を眺めると、次は朝奈の方へ視線を移した。
(一方で、朝奈ちゃんの方はというと、フリルのついた白い服に黒いスカートとシンプル。
可愛いが、それと同時に清楚さを感じる......気がする。
となると、四着目は朝奈ちゃんで確定か?)
そう考える敬だが、朝奈に限ってはまだ残り二着選んでいる。
つまり、せめて後一つは朝奈の服を確定させないと、二分の一で賭けすらできない。
故に、敬は朝奈に質問することで候補を絞ることにした。
「朝奈ちゃん、質問いいか?」
「スリーサイズですか?」
「それはもっと親密になったら聞かせてもらうわ。
それで、今日の服って朝奈ちゃん的にどうしてその服を選んだの?」
「まぁ、パッと選んで決めただけですかね。シンプルでも形になるんで。
そういう意味ではシンプルな服は好きかもしれません。
ちなみに、お兄さんに会うとわかっていれば、下着の方も覚悟決めてきます」
「とても人様には聞かれたくない回答をどうもありがとう。
Hei,Mahiru! 朝奈のシンプル以外の服といえば?」
「たぶん可愛い系とかじゃないすかね。
あ、でも、大人っぽく見られたいとか言ってたような」
「あ、こら真昼!」
(なるほど、となると二着目は朝奈ちゃんの選んだ服の可能性が高いというわけか。
つまり、俺が賭けるべきは一着目か三着目のどちらか。
加えて、幸がズボンを選ぶことはあっても、朝奈ちゃんにパンツのイメージはない)
そう考えた敬は、「真実はいつも一つ!」と言わんばかりにビシッと指先を向けた。
「俺の回答は三着目が幸の選んだ服だ!」
「つまり、三着目の服が一番気に入ったってこと?」
「そういう聞き方は良くない。正直、俺は他の服も良かったと思う。
けど、その中で幸が選びそうなものって言うからこれを選んだだけだ」
「そっかそっか。確かに、その聞き方は良くなかった。ごめんね~。
じゃあさじゃあさ、敬ちゃん的にどの服が一番好みだった?」
「そりゃぁまぁ、どれが一番グッと来たかと聞かれれば、一番最後になるけど」
「ふ~ん、そっかあ~」
敬の発言を聞いた瞬間、幸はニヤニヤとした顔を強めた。
同時に、朝奈からの視線も強くなる。
そのことに嫌な予感を感じていると、幸は大々的に正解発表した。
「それでは、正解発表と行きましょう!
正解は~......三番目の服がわたしのでしたー! パチパチパチ。
そんでもって四番目の服はなんと!
アサナンの服に勇者先輩が味付けしたものでしたー!
つまり、勇者先輩の大大大しょう~~り~~~!!」
「えっ......」
ほくそ笑む幸、睨む朝奈、もう収拾がつかなくなってため息を吐く真昼、ニコニコ顔の天子。
三者三様の顔ぶれが揃う中、敬はこの結果に僅かに眉間を寄せた。
読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)
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