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小さな文学少女が友達を欲しがっていたので友達になって、ついでに自己肯定感やら友人関係を整えたら想像以上の勇者になった  作者: 夜月紅輝


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クエスト31 「種族デビルとの戦い」(後半)#4

「小悪魔、ですか……?」


 トイレから出来た敬が天子に会うやすぐに言った言葉に、当の天子はというと脈絡もなく提案された言葉に首を傾げた。

 加えて、突然敬に手を握られたことにドキッとして、突然平常心を乱され困惑気味でもあった。


 すると、敬はチラチラと見る手元を見る天子に気づき、「おっと失礼」と言って手を離す。

 一方で、天子は顔を真っ赤にして握られた手を擦りさがら「いえ……」と答えると、空気を紛らわすように改めて質問した。


「あ、あの、状況が読めないので説明お願いします」


「おっとこれまた失礼、少々自分本位で動きすぎたようだ。

 それで大撫さんに言いたかったのは、今前に会った大撫でさんが会ったことのある幸とその友達がいるんだが、もし良かったら会ってみないかってことだ」


「なるほど、そういう意味だったんですね。それで、会うことがどうして戦うことになるんですか?」


「だって大撫さん、幸と初めて会った時、だいぶ戸惑ってたし苦手意識持ったのかなと思って」


「よ、よく見てますね……」


 敬に図星を言われ、嬉しいやら恥ずかしいやらで口をグニグニとさせる天子。

 そして同時に、敬が"戦い"という言葉を使った意味も理解した。


 天子は典型的な文学少女であり、闇属性ならぬ陰属性なのだ。

 対して、幸は対象的な光属性ならぬ陽属性。

 それこそ、京華達のような濁りのある陽キャでは無い、パーフェクト完全体陽キャ。

 それが幸という人物。


 つまるところ、タイプ相性が悪いのだ。

 自分から覚悟を決めて関わろうとした相手ならまだしも、相手からグイグイと近寄れられると陰というのは光で消滅してしまう。


 故に、陰キャというのは基本陽キャを避けるものなのだが、先の敬の言葉はその陽キャと関われ(たたかえ)と言っているのだ。

 その言葉に、天子が返答を渋っていると、敬は立ち上がって言った。


「もちろん、無理にとは言わない。大撫さんがここにいるということは、用事があってここにいるということだからね。そっちを優先してくれて全然構わない」


「いえ、今日はお姉ちゃんと妹の二人の買い物についてきただけですので、これといって用があるわけでは……」


「そっか。なら、後は気持ち次第ってことか。

 それならさ、ここは僕からクエストを出そうかな」


「クエスト……?」


 敬の言葉に天子が首を傾げると、敬は人差し指を立てて答えた。


「これまでの勇者大撫さんの活躍を振り返ると、僕からの挨拶訓練クエスト、同性の友達作りクエスト、友達のお悩み解決クエスト、異性の友達作りクエストと4つものクエストをクリアしてきた。それは素晴らしいことだ」


「ありがとうございます……」


「しかし、ここで満足してしまえば、大撫さんという人物(キャラ)のレベルアップはここで止まってしまう。

 故に、大撫さんにレベルアップをしてもらう為に、これから大撫さんには小悪魔達と戦ってもらいます」


「その小悪魔さん達というのが、犬甘さんの居候の幸さんとそのお友達さんということですか?」


「ザッツライト! ま、仰々しく言ったけど、要は同年代だけじゃなくて年下とも交友を深めていこうってだけの話だから。さて、どうする? 」


 敬の説明により、天子の前には今二つの選択肢が現れた。

 その二つとは「わかりました」と「今はちょっと……」のYesかNoである。


 これがゲームであれば、仮にNoと答えても時間経過はなく、自分の好きなタイミングでクエストに挑むことが出来るだろう。


 しかし、ここは現実であり、時間は誰しも平等で、差異があるとすれば時間が流れる感覚の違いのみ。

 時間経過でフラグが折れ、その後永遠にイベントが来ないのは当然であり、ましてや二週目で回収など以ての外。


 故に、チャンスは今しかなく、逃せばそれで終わり。

 そんなゲーム意識が天子にあるかどうかは別の話だが、それはともかく天子は思考の結果同じ結論にはたどり着いていた。


「わかりました。私、頑張って見ます!」


「さすが、それでこそ僕の見込んだ勇者だ。それじゃ、早速現場まで案内しよう」


 敬は天子を連れて移動すると、幸達の前にやってきた。

 そんなトイレから帰ってくれば傍らに女子を連れてる敬に対し、幸は「ほぅ」と呟きながら口元を歪め、朝奈は天子を見極めるように目を細め、真昼は興味無さそうな目で眺める。


 その三者三様の視線に天子は肩を強ばらせる一方で、敬はその天子の肩が更にこわばるような発言した。


「突然だが、こちらの方を紹介しようと思う。

 こちらはあらゆる存在を切った張ったでなぎ倒し、見た目と言動の可愛らしさでもって数多の男女を制圧してきた勇者大撫天子さんだ。

 僕と同じクラスであり、今の僕の推しでもある」


「ほほぅ……?」


「推し……?」


 敬の発言の直後、幸はさらにイタズラっぽく口元を歪め、朝奈は目つきを強くした。

 また一方で、天子は再び敬のホラ吹きにギュンと視線を向ければ、ウインクにサムズアップする敬に、目を瞑りながらそっとため息を吐いた。


「お兄さん、今の言葉はどういうことですか? 事と次第によっては、強硬手段に――」


「ちょっと待てストップ。まだこちらターンだ。

 で、この三人が本日大撫さんに紹介しようと思ってる三人で、右から順に幸、朝奈ちゃん、真昼君だ」


 瞬間、天子の眉間が僅かに寄った。

 そして、心の中に湧き出た本人すら気づかないモヤッと感が言葉になって現れる。


()()()()()……?」


「?……で、朝奈ちゃんと真昼君はなんとあの涼峰さんの妹と弟なんだ」


「夕妃さんのですか?」


 先の感情が嘘のようにコロッと表情を変える天子。

 敬の言葉に、天子は目を丸くすると、改めて朝奈と真昼の顔立ちを見始めた。


「確かに、よく見れば夕妃さんに雰囲気が似てる気がします……」


「お姉ちゃんを知ってる……?」


「朝奈、前に姉さんが話してた大撫さんってこの人のことだろ?」


「あぁ、お姉ちゃんが『人形のように可愛いらしい子と友達になった』って言ってたけど、この人のことか。

 改めまして、現涼峰で将来的に犬甘になる涼峰朝奈です」


 朝奈は天子の目を見ると、堂々とした口調で言い放った。

 直後、天子は「え?」と言葉を漏らし、目を丸くしながら確認するように敬を見る。

 そんな天子の視線に、敬は何食わぬ無表情で返答した。


「大撫さん、朝奈ちゃんは僕と同じ冗談や悪ふざけがとっても好きなタイプの人間なんだ。だから、大抵のことは間に受けなくていいよ」


「いいえ、お兄さんに関してはマジのガチで――」


「それと構ってワンちゃんだから、撫でると大人しくなる」


「おおおおぉぉぉぉ♡」


 敬に言い返そうとする朝奈であったが、敬にすかさず頭を撫でられればバグったような汚い声を漏らし始める。

 いや、もはや女の子が出していけないような声とも言えよう。


 そんな朝奈を、天子が戸惑いを感じながら見ているうちに、敬は唯一の味方である真昼へと視線を飛ばし、ウインクすることで流れを元に戻すよう促した。

 その意図を的確に汲み取った真昼は、天子へと視線を向け、改めて自己紹介を始める。


「さっき敬さんの紹介された涼峰真昼。

 苗字で呼ぶとややこしいだろうから、下の真昼で呼んでくれたらいいです」


「あ、はい、わかりました」


 真昼の自己紹介に、天子が返事すると、最後に幸が手を挙げながら前に出て自己紹介を始めた。


「ではでは、ついでにわたしもー!

 敬ちゃんと一緒に住んでるさっちゃんこと幸でーす♪

 前は挨拶だけでしたけど、今日は一緒に遊びましょうね。

 大撫せんぱい……いや、勇者せーんぱい♪」


「っ!?」


 幸の挨拶が終わった瞬間、幸のニヤリとした顔を見た天子は、猛烈な悪寒を感じるように身体を震わせた。


 天子がそう感じるのは、天子は初顔合わせの時から幸の溢れ出る陽のオーラにだいぶ苦手意識を持っていたが、それが今確かな恐怖へと変わったからだ。


 また、天子は理解したのだ。

 あの時はたまたま見逃されていただけであると。

 しかしたった今から、自分は確かにターゲットにされたと。


 しかし、イベントは進行してしまっている。

 加えて、相手は天子よりレベルの高い敵。

 二つの意味で、天子はその場から逃げ出すことは出来ない。

 故に、天子が取れる行動は一つしかない。


「よ、よろしくお願いします……」


 天子は頬をひくつかせながら、幸に返答した。

 どうせ逃げるが出来ないならば、もはや前に進むしか道は無い。勇気を持って挑め。


「んじゃ、早速わたし達の着せ替え人形になってくださいね、せーんぱい♪」


「…………はい」


「そうだ大撫さん、止まるんじゃねえぞ」


 一方で、天子の表情から何となく心境を理解した敬は、鼓舞するように言葉を呟く。

 すると、敬の隣にスススと近寄った真昼が、幸と天子のやり取りを見ながら言った。


「上手くスケープゴートしましたね」


「おやおやおや、これ異いなことを。スケープゴートなんてとんでもない!

 これは友愛、友愛ですよ真昼」


「……さいですか」


 敬の言葉に、真昼はそう言葉を零すと引き続き目の前の光景を眺めつづける。

 そんな男子二人の目の前では、絶賛勇者が二体の小悪魔と戦闘中であった。

 具体的言うと、幸と朝奈によって天子が振り回されてる状態だ。


 幸と朝奈はそこら辺にある服を適当に手に取ると、天子に重ねあーだこーだと話す。

 そして、採用されたものは買い物かごに入れられ、不採用は元の場所へ返却。

 その間、天子は二人の会話がチンプンカンプンなのか、終始頭にはてなマークを浮かべていた。


 それが十数分と続くと、幸と朝奈はかごいっぱいに詰め込んだ服を天子へ押し付け、ついでに試着室へと押し込んでいく。

 天子がいなくなると、次に二人は敬の手を取って試着室の前まで移動させた。


「さて、お兄ここに連れてこられた意味.....わかるよね?」


「あぁ、もちろん。大撫さんを褒め殺しすればいいんだろ? 任せておけ」


 敬がそう言うと、幸は「ちっちっちっ」と舌を鳴らしながら、指を横に振って敬の回答を一部否定した。


「確かに、それはそれで勇者先輩の反応が面白そうだから是非ともお願いしたいけど、実はそういう目的で服選びしていたんじゃないんだよな~。

 ヒントはアサナンがこの服選びに参加していること」


「まさか......僕をダシに使ったな?」


「ご明察です、さすがお兄さん。

 さっき幸からこの服選びでお兄さんが選んだ服次第で、一日お兄さんの独占券が与えられるんです。

 その際、お兄さんは相手の言うことを()()()()聞かなければいけない」


「な、なんでも......だと?」


 その言葉を聞いた瞬間、敬は素早く幸を見れば、幸は頭の後ろに手を組み嘘くさく口笛を吹いていた。

 そんな幸に敬が抗議しようとするよりも早く、朝奈は言葉を続ける。


「いいですか、お兄さん。なんでもですよ、な・ん・で・も。

 例えば、結婚、婚約、成婚、縁組み、婿入り、婚姻、マリッジ、マリアージュ、マトリモーニョなど」


「うん、全部同じ意味だね。逆にこの短時間でそこまでの類義語が出るのが凄いよ」


「言い換えれば、既成事実を作る許可が出たということです」


「出てないね。発想を飛躍させ過ぎだね」


「というわけで、これから末永くよろしくお願いしますね」


「勝手に勝利宣言するのヤメテネ」


 朝奈からの怒涛のラブコールにたじたじの敬。

 やはり朝奈相手ではどうにも本調子が出せないようだ。

 加えて、天子を使って上手く逃げ出せたかと思えば、まだ足に絡みついていた蜘蛛の糸。

 どうやら妹は敬をこの状況からのがするつもりはないらしい。


「くっ、こんにゃろ幸め......」


 敬が幸を睨めば、当の幸はというと知らぬ存ぜぬといった顔で笑顔を浮かべるだけ。

 まるで自分が何か悪いことしましたかと言わんばかりの屈託のない笑みだ。


「ハァ.......仕方ない」


「おや、覚悟を決められましたか? 当然、私はバッチこいです」


「違う、そっちの意味の『仕方ない』じゃないから。

 これはなんとか自力で当てるしかないか、の意味だから」


「強情ですね。ですが、逃げられるほど燃えるというもの。

 それにお兄さんはどちらかというとネコっぽいですしね」


「それ誤用だから......誤用だよね?」


 敬は若干不安になって朝奈を見るが、朝奈は夕妃に似て表情が乏しい側の人物である。

 いやもっと言えば真昼もそうなので、涼峰家が基本表情の乏しい遺伝子を強く引き継いでると言えるかもしれない。


 それはともかく、朝奈の表情から上手く読み取れなかった敬は、その意味が誤用であると信じて、天子が着替え終わるのを待った。


 それから一分後、試着室の奥から「着替え終わりました」と天子の声が飛んでくる。

 その言葉に、幸が「それじゃ見せてくださーい」と合図を出すと、天子はバサッと試着室のカーテンを開いた。


「来たか」


 瞬間、敬は腕を組みながら片手を顎に手を当て、天子の服装をじっくり眺め始める。

 そして、敬の一日なんでも券回避をかけた勝負が始まったのであった。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)


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