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小さな文学少女が友達を欲しがっていたので友達になって、ついでに自己肯定感やら友人関係を整えたら想像以上の勇者になった  作者: 夜月紅輝


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クエスト29 「種族デビルとの戦い」(前半)#2

 数時間後、幸からの衝撃的な事実から立ち上がった敬は、風呂上がりで自室に戻っていた。

 もうすでに必要十分な勉強は済ませており、後は寝るまでプライベートタイム。


 本日は金曜日なので、敬は夜更かしする気満々である。

 もっと言えば、そのつもりでしかない。

 明日は休日なのだから、もっと時間を有意義に過ごすべきだ。

 なので、ゲーム三昧......と行きたいところだが、そうは妹が問屋を卸さない。


「お兄ナニしてたらメンゴ! ゴールド曜日だよ!

 なんだったら、明日からゴールデンウィークだよ! 怖くて寝れない☆」


「そんな元気な子が寝れんはずなかろうが。あと、余計な気遣いをするな」


 兄の部屋のドアを蹴破る勢いでガタッと開けたのは、当然幸だ。

 そんな幸の装備は全身寝間着一式であり、小脇にはアイテムのマイ枕をセットしている。

 そして、何食わぬ顔でズカズカと敬のテリトリーに侵入し、ベッドに腰掛けた。


「やぁ、マイブラザー。今週もこの曜日がやってきたね。たっぷり寝かせてやるZE☆」


「普通”寝かさないぜ”が常套句だと思うんだが」


「夜更かしはお肌に悪い。ピチピチは一日にしてならず。

 ってことで、明日に備えて寝るよ。ほら、子守歌歌ってあげるから」


「僕がおいくつにお見えで? わしゃ兄ぞ?」


 そう言い返す敬であるが、結局幸に無理やり寝かされる。

 一方で、幸はというと、敬の枕のよこに自分の枕をセットすると、そのまま添い寝した。


「喜べ、この現役JK幸様が寝そべってやろうというのだ。

 世の兄では早々体験できないことだぞ? いや~、選ばれし者だな~」


「毎度思うが、なんで金曜日は必ず俺の部屋に来るんだ?」


 敬の言う通り、幸が兄の部屋を訪れるのは今に始まったわけではない。

 3年前のある日、突然幸が「寝れない」と言って兄に一緒に寝てもらうことをせがんだのだ。


 その時は敬も思い当たる節があったため、一緒に寝ることを許可した。

 がしかし、それが3年も続けば話は変わってくる。


 その当時の幸ですら中一であり、女の子としては男女の差に思春期を感じてもおかしくないころだ。

 それが今や高校1年生。その思春期は前よりも増して感じやすくなってるはず。


 にもかかわらず、幸は金曜日になると必ず兄の所へやってくる。

 まるでそれが日課であるかのように、家にいる日は欠かすことなく。

 敬とて妹がブラコンであることには気が付いているが、これは少々度が過ぎてる。


「え、今更?」


 そんな敬に対して、妹は「何言ってんだコイツ」みたいな顔で答えた。

 しかし、それは至極真っ当な返答であった。本当に今更な質問である。


「そ、そうなんだけどさ。もう幸だってお年頃だろ?

 こうも無防備にされると、普段からそうなんじゃないかって兄としては心配なんだよ」


「大丈夫、やっても安全そうな人にしかやらないから。

 ニヒヒ、そこら辺の見る目は抜かりないのだぞ」


「お前なぁ、もし俺がその日に限ってリビドーがほとばしってる時だったらどうすんだ?

 俺が一時の過ちでお前に手を出したらどうするつもりだ?」


 敬がそう言った瞬間、幸は何かを思い出したように口を動かす。


「あー、確かにお兄のスマホに近親相姦ネタあったね」


「アレはストーリーと関係性と作画と描写が非常に良かっただけです! それ以上の他意はありません!」


 幸からの思わぬ攻撃にダメージを受ける敬。

 そのネタが把握されてるということは、リビングでの発言は嘘では無かったということだ。

 つまりそれは、敬は今後の兄の威厳を妹に掌握されたことを意味する。


「まぁ、お兄はチキンだからね~。こーんなに近くにいても寝ることしかできないから」


 そのせいか幸は漏れなく絶好調である。

 しかし、その相手が兄の敬だからいいものの、もし別の、それも年齢の近い男子に向けたらどうなるか。


 まず間違いなくその男子は激しく性癖をブレイクされ、恋した相手に取りつく亡者となるだろう。

 そして、その亡者は死した肉体でもって、リビドーの許す限りその相手に付きまとう。


 そうなれば、待っているのは死を恐れぬ亡者によるストーカー行為。

 レ〇プネタなど敬がエロ漫画で最も忌避するネタである。

 つまり、幸がそのネタのヒロインにならないためにも、兄として厳しく対応せねばならない。


「あまり兄を舐めるなよ?」


 敬は体を起こすと、すぐさま横にいる幸に覆いかぶさった。

 両手は顔の横に置き、圧をかけるように真上から見下ろす。

 もはや構図で言えば、エロ漫画のエロシーンの挿入部分である。


 もちろん、敬は幸をどうこうするつもりはない。するわけがない。

 しかし、そんな敬の見せかけの行動に気付いているのか、幸はニヤリとした顔で言った。


「へぇ~、出来んの? お兄ごときに」


 若さほとばしる瞳に、艶やかな金色の髪。

 それでいてスベスベしてそうな肌に、童顔よりの顔立ち。

 そして、その顔から放たれるウザたらしくも可愛く卑しい表情。


 もしその表情が漫画のワンシーンであったのなら、今頃コメント欄には「誘い受けのメスじゃねぇか!......好き」とコメントされていることだろう。


 そう、つまりは兄の威圧など全く通用していない。

 まるで襲われないことが分かっているかのように幸はニマニマしている。

 そんな幸に対して敬は――


――父さん!


「っ!?」


 脳裏に刻まれた過去の記憶を確かに聞いた。

 幸を見下ろす構図に、見ている視界にノイズが走り、敬の網膜に過去の映像を映し出す。


 それはとある雨の日の出来事。

 道路で額から血を流す父親を抱きかかえ、泣きながら声をかける自分。

 父親からの返答は無く、ただひたすら声をかけるだけの記憶。


「お兄?」


「っ!......あぁ、何でもない。どうやら俺はヘタレチキンのようだ」


 敬は幸の上から離れ、定位置に戻ると、幸に背を向けるように横向きに寝た。

 その姿はまるで雷に怯えてうずくまる子供のように。


「温度差で風邪引きそうだから寝る」 


 そんなことを言う敬に対し、幸は眉尻を下げつつも笑った。

 そして、背中に両手を当て、気持ちを込めるように額を当てるとボソッと呟く。


「そっか......まだがんじがらめにしちゃってるんだね。

 でも大丈夫、必ずわたしがその呪縛をといてあげるから」


「......」


「ねぇ、今のすっごくアニメキャラっぽいセリフじゃなかった!?」


「あーもう風邪引きそ! ほら、寝るぞ!」


「おっけ~♪」


―――翌日


 敬は自然と目を開けた。

 しかし、すぐに目を閉じると、そのまま仰向けを横に向け、二度寝を決め込む。

 瞬間、敬の額に一瞬の痛みが走った。


「こら、何気の向くままに二度寝しようとしてんの」


「幸......」


 敬がゆっくり目を開けると、幸がベッドにもたれかかるようにして覗いていた。

 そんな朝起こしに来る幼馴染のようなワンシーンに敬は――


「おはよう......おやすみ」


 負けじと二度寝を決め込んだ。

 長年、一緒に過ごしてきた兄には妹の魅力に対しても耐性ができているのだ。

 ちょっとやそっとでは動くことはない。されど、それは妹て同じ。


「起きろ!」


「あいたっ!?」


 幸は左手を支えに右手を敬の額に近づけ、力を溜めこんだ中指を一気に解放した。

 瞬間、幸の強烈なデコピンが敬の意識を痛みでもって覚醒させる。

 そして、敬が額を押さえながら起き上がれば、幸はニコッと笑って言う。


「おはよう。朝ごはん出来てるからさっさと食え」


「.......うす」


 まるで張り付けたような笑みに何も言えなくなった敬は、情けなく従っていく。

 その後、朝食を食べ終えた敬がリビングのソファでまったりしていると、オシャレな服を着た幸が敬に近づいた。


「どうした? 可愛いじゃん」


「でしょ~♪ お兄、こういうガーリーな服意外に好きだよね」


「というか、幸が着れば大抵なんでも可愛いけどな」


「おいおい、急にわたしを口説こうなんてお兄のくせにやるじゃん。

 そっか~、可愛いか~。どうやら溢れ出るこの色気がお兄を惑わせてしまったか」


 幸はそう言いながら、その魅力を溢れ出すようなポーズを決めた。

 そんな幸に対し、敬は幸を見て尋ねる。


「朝からテンション高いじゃん。どったの?」


「土曜だからね。それに、そろそろ長い出張で寂しくしてるであろう我が母に、兄妹のイチャイチャラブラブしてる姿を見せてやろうと思ってね」


「兄妹でその姿を見たら母さん卒倒しちゃだろ」


「そうだね、赤飯食べちゃうかもね」


「違う、そうじゃない」


「ともかく、今からわたし達が元気にやってる写真を撮ろうと思います!

 というわけで、スタンドアップ!

 今からお兄にはわたし達が仲のいい写真の構図を考えてもらいます! さぁ、どうぞ!」


「任セロリ」


 幸の指示で立ち上がった敬は、早速妹に指示を出して二人でポーズを撮った。

 例えば、社交ダンスで女性が大きく腰を逸らし、男性が腰を持って支えるポーズ。


 例えば、小学生の組体操である二人一組で作るサボテンのポーズ。

 例えば、背後に強いスタンドの幻影を見せ、ゴゴゴゴと擬音まで聞こえるようなジ〇ジョ立ちのポーズ。


 そして、それらのポーズを幸のスマホのタイマー機能で写真を撮れば、二人で映りを確認する。

 すると、敬はその出来栄えに満足したように頷いた。


「よし、完成だ」


 二人が撮った写真は、紛れもなく兄妹の仲の良さが現れた写真であった。

 それこそ、今時こんな仲良くポーズを撮って写真を撮る兄妹は稀であろう。

 いや、むしろ母親とて「仲良過ぎない?」と驚くレベルかもしれない。


「まともなの一つもない」


 が、幸は気に入らないのか口を尖がらせて不満を漏らす。

 まるで望んでいたのはこんな写真じゃないとばかりに。

 そんな幸に対し、要望には応じたのにこのポージングの何が不満なのかわからない敬は、首を傾げながら聞いた。


「妹よ、何がそんなに気に入らないのだ」


「いやね? 確かに、仲の良さはこれでもかって溢れてるよ?

 でもさ、やっぱないんだよ――イチャラブ感というのが!」


「それそんな重要項目だった?」


「わたしはお母さんの心臓を止めるぐらいびっくりさせたいんだよ! いや、もはや止めたい!」


「この子、ナチュラルに母親の殺害予告しましたよ」


「というわけで、今度は私のターン。お兄、遅れずついて来いよ?」


 そう言って幸は早速敬に指示を出した。

 幸は敬にスマホをもたせると、その右腕を大きく伸ばさせた。所謂自撮りの構図である。

 そして、幸はというと、敬の体に背中を預けた。


「やっぱこのぐらいやんなきゃね」


「もはやカップルの距離感だけどな。

 お兄ちゃん心配だよ、妹がこんな小悪魔に育ってしまって」


「ふっ、甘いねお兄。まだギアは上がるぜ」


 幸はさらに敬に指示を出し、スマホの手とは反対側の手である形を作らせる。

 すると、幸はその手に合わせるように自分の手で同じ形を作った。

 直後、スマホのインカメラを通して見ていた敬は驚きの声をあげた。


「こ、これは.......!?」


「そ、二人で作るハートポーズ。これでお母さんもイチコロよ」


「もうこれ端から見ても完璧に誤解するやつやん。

 もう母さんどころか、俺すらも殺しに来てるやつやん」


「安心しな。死ぬ時は二人で、だぜ?」


「だから、その場合死ぬの俺と母さんなんだって」


「それじゃ、撮るよ! はい、スリーカウントで!」


「え、あ、はい......スリー、ツー、ワン」


 瞬間、幸はチラッと敬を見上げ、少しだけ背伸びすると頬に口を近づけ――チュ。


「っ!?」


 直後、スマホからカシャと音が鳴り、シャッターが切られた。

 すると、幸は素早く敬からスマホを強奪し、そのまま画面を確認してみれば、犯行現場がバッチリ映っていた。


「ニヒヒ、どうよこの敬さんし尽された完璧なタイミングの不意打ち。

 さすがわたし策士~♪ ほら、見なよ。お兄も――」


 そう言いながら幸が敬を見た。

 すると、敬は口元を手で押さえ、目線を遥かかなたの方へ向けているではないか。

 そんな敬に対し、幸は一瞬目を大きく開きながらも、すぐにニンマリ笑った。


「わぁ~お、クリティカ~ル♪」


 一方で、絶賛デビルモードの幸に対し、敬は一度強く目を閉じ、その後目を開けた後に幸を見た。


「幸、今のは......?」


「そりゃもちろん、メンタルブレイクよ」


「お兄ちゃんが長男じゃなかったらどうすんだよ。

 次男だったら耐えられなかったはずだ」


「お兄ちゃん一人っ子じゃん。何言ってんの」


「それにお兄ちゃんのメンタル繊細なんだから、もう少し丁寧に扱ってよ......」


「ハハハ......ってことで、このまま買い物付き合って」


「いや、どういう流れで?」


 もはや幸に主導権を握られ、おもちゃのように弄ばれる敬。

 そんな敬が取れる選択は――


「いや、土曜だからいい。明日なら未だしも」


 逃げる一択であった。そして、敬は早速逃げ出した。


「いや、決定事項だから」


 敬は逃げられなかった。幸との戦闘は続く。

 そして、幸のターンとなれば、一気にフィニッシュを決めるように言葉を叩き込んだ。


「いい、お兄。全世界のお兄という存在は妹のわがままを聞く権利があるの。

 いつでもどこでもどんな時でも。サービス、ノーギャラ、報酬は過労。やったね!」


「最悪のブラック企業じゃねぇか。

 お兄ちゃんそんなとこに就職した覚えないんだけど」


「残念ながら、妹が出来た時点で永久就職です」


「嘘だろ。終わってんなこの国」


「というわけで、今からショッピングにレッツゴー!」


 そして、敬バーサス幸の戦いは、幸の圧勝に終わった。

 次回、ショッピングモール編。犬甘敬、死す。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)


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