クエスト28 「種族デビルとの戦い」(前半)#1
犬甘敬には一つ下の妹がいる。その名も犬甘幸。
4月2日生まれ。年齢は16歳。
胸はB寄りのCカップであり、体重は乙女のヒミツ。
幸は犬律高校に通うJKであり、さらにギャルである。
そんなギャルの一日は早い。ただし、早起きは兄に負ける。
兄が朝ランニングに言ってる間、幸は二人分の弁当を作るのが仕事だ。
「ふんふふんふふ~ん♪」
制服の上にお気に入りのエプロンを身に着け、フライパンで出し巻きたまごを作る。
もう何年も作り続けたその手つきは洗練されており、余裕はそれこそ鼻歌が出るほど。
「よし、出来た♪ 今日も完璧~♪」
綺麗に形作られた出し巻きたまごをまな板に載せ、人数で食べやすい大きさにカット。
すると、玄関からドアが開く音がし、兄の敬が「ただいま」と帰って来た。
幸は「お帰り~」と声をかけつつ、そのまま弁当作りを続行。
それから数分後、弁当が完成すれば、そのまま昨日の夕飯の残りで朝食づくりをしていく。
「おいおい、わたしってば毎朝弁当と朝食とか妻力高すぎかよ」
「どうした~?」
幸が自分の能力に自画自賛していると、シャワーから出てきた敬が声をかけてきた。
すると、まるで犬が耳をピクッと立てるように、幸はすぐさま反応を示す。
「おっ、やっと来たなお兄。見よ! そして恐れ慄け! この妻力を!
全く、こんな妹を持って幸せ者だなぁ。激しく感謝しろよ?」
「どうしたどうした? 今日はいつになく恩着せがましいな」
「金曜だからね」
「金曜っていつもそうだっけ......いや、感謝はしてるよ。とりあえず、1万でどうだ?」
「感謝でお金とか逆にナンセンスだよ。
そりゃもちろん、アレだよアレ。まさか忘れたとは言わせんぜ?」
幸は敬を覗くように上から目線をしつつ、挑発するように人差し指をクイクイと動かす。
瞬間、幸のして欲しいことを察したようにハッと目を開く敬は、そっと右手をあげた。
「サンクス」
そう言って、敬は幸の頭を優しく撫でていく。
撫でて撫でて撫でて。その手は次第に頬を伝ってあご裏に移動する。
そして、幸をまるで猫を撫でるようにあごを擦り始めた。
「よしよ~し、ここがええんじゃろネコ助」
「にゃ~ご......じゃねえええぇぇぇ! なにやらすんじゃー!」
「ぐへぇっ!?」
瞬間、幸の羞恥心と怒りはマックスになり、すかさず兄の頬に怒りの鉄拳。
その拳を受けた敬はそのままテクニカルノックアウトし、床に寝そべった。
「お兄ぃ......そりゃねぇよ。なーんで余計な行動を足しちゃうかな。
そのまま行けば妹好感度パーフェクトで終わったものを。
こういうことなんて言ったっけ? 変速?」
「蛇足でっせ、妹よ。好感度をどうギアチェンジするつもりだ?」
「何寝そべってんの。お兄の汚い体液で床汚さないで」
「今日はいつになく絶好調だな」
そして兄が起床後、幸は二人揃って朝食を食べ始める。
それが終われば今度は二人揃って仏間の方へ移動し、一家の大黒柱に朝の挨拶。
「今日も元気にバカやってきます!」
「今日も元気にお兄がバカやり過ぎないように見守ってきます」
相変わらず気合の入れ方が間違ってる兄の姿を、幸は横目に見つつため息を交えながら、敬と同じくいつもの宣言を済ませた。
その後は登校時間まで適当に動画で時間を潰しつつ、兄よりも早く家を出る。
幸が早く出る時、敬には”友達と待ち合わせしている”という理由で済ませているが、実は閑静な住宅街の雰囲気を味わうのが本音だったりする。
「相変わらずあの公園小さいな~。
でも、お兄と一緒に遊んでた時は気にならなかったよな~」
その際、見かけた誰もいない公園で、敬との思い出を振り返る幸。
そのような言葉を通りがけに毎度言っているわけではないが、思い出は割と高頻度で思い出したりしている。
それからしばらく歩き、登校すれば教室には幸一人。
それほどまで早い時間に登校してやることは一つ――机の整理整頓。
元来綺麗好きな幸は、毎朝早く登校しては机を綺麗に並べ直している。
しかし、そんなものは本来掃除の時にでもすればいい話だが、周りから”綺麗好きと思われたくない”という謎の行動心理から幸は毎朝机を整理しているのだ。
そして、それが終わるとスマホを見――ではなく、サッと机の上に勉強道具を取り出し、友達が登校するまでの間勉強して暇を潰していく。
一体どこら辺がギャルなのか見た目だけではないか、とツッコみたくなるが、これでもクラスでは十分すぎるぐらいカースト上位のギャルと君臨している。
「おっはー」
「......うす」
十数分後、幸の教室に二人のクラスメイトが登校してきた。
一人は銀髪のふわふわロングの髪型で、デフォルトジト目の女子【涼峰朝奈】。
ふわふわなのか髪型だけではなく雰囲気もまた然りで、一目では何考えてるか予測がつかない。
そんな彼女の体躯もまた局所的にフワフワである。
身長は152センチとそこまで大きくないものの、局所部分は主張が激しく、アルファベット順で言えば6番に該当するロリ巨乳である。
そしてもう一人が、短い銀髪に、キリッとした甘いマスクが特徴の男子【涼峰真昼】。
片手には常にラノベを持っている文学少年であり、クールで寡黙が印象的である。
もっとも、寡黙なのは単純にしゃべるのが面倒という理由であるが。
そんな日本人離れしたルックスと、クールな印象は女子に非常にウケがよく、一言で言えばモテ男である。
しかし、恋愛には興味ないのか中学から高校入学の間、斬り捨てた女子の数は十本指を超える。
ちなみに、朝奈と真昼は苗字から夕妃の双子の妹弟である。
また、朝奈と真昼での上下関係は朝奈が姉であり、真昼が弟となる。
そして、そんなとんでもねぇ見た目スペックを持つ双子の友達が幸なのだ。
「アサナン、マヒルンおっはー! アサナン、今日も可愛い! 抱きしめたい!
抱きしめてもいいかな、いいよね、抱きしめるよマヒルン!? 」
「姉が抱きしめられちゃうよ? 百合百合領域が発動するよ? 衝撃に備えてね」
「.....うざ」
真昼の冷めた返事を聞いた直後、朝奈は両手を広げ「カモーン」と待ち構える。
瞬間、幸は真昼を抱きしめ、百合百合領域発動!
二人の周囲には良いニオイがしそうな空間が広がっていく。
その一方で、真昼はそんな二人をそっちの気でラノベを読みふける。
というのも、この光景は毎朝行われていることだったりするのだ。
逆に言えば、真昼は毎度この二人に朝からウザ絡みを受けてるということでもある。
そしてしばらくの間、二人のギュータイムが続いた後、朝奈から離れた幸は真昼に近づいた。
その手には勉強道具をもって。ついでに姉の朝奈もバッグからノートを取り出して。
「マーヒルン、勉強教えて♪」
「端的に言えば、写させて」
「お前ら......自分で何とかしろよ。
つーか、中学の時からそうだが、お前らそれでいて俺より成績いいだろ。
俺に聞くより自分で何とかした方が明らか早いだろ」
そんな真昼の苦言に、幸と朝奈は顔を一度見合わせると同時に言った。
「「楽できるから」」
「クソ女どもめ」
といった友達との楽しい会話をしつつ、幸は日常を過ごしていく。
そんな幸の高校生活では、兄の敬とはあまり接触しない。
単純に階層が違うというのもあるが、特別敬と話すことが無いのだ。
なぜなら、兄妹である以上、話すのは家でもできるから。
「よしよし、今日もお兄に変なところはなさそうだ」
......という前置きを掲げつつ、実の所幸は意味も無く兄の教室の前をふらついてたりする。
そして、母親が子供に友達がいることに安心するように、敬を見ては嬉しそうな笑みを浮かべるのだ。
それから放課後になり、幸は途中まで友達と一緒に下校。
家に帰ってくると、玄関に珍しく敬が先に帰ってきていることを示す靴が置いてあった。
また、遠くの方からは丁度シャワーを浴び終わったような音が聞こえた。
「ニヒヒ♪」
瞬間、幸は額からニョキと角を生やし、悪魔のような笑みを浮かべる。
そして、音を立てず抜き足差し足忍び足と脱衣所まで近づくと、ガバッとドアを開けた。
「敵将打ち取ったり~!」
すると、幸の目の前にはバスタオルでたまたま局部を上手く隠していた敬がいた。
一方で、敬は幸に急に裸を見られたことに体をよじらせる。
「キャー! さっちゃんのエッチ!」
「ん~、表情がないのと、やっぱ男のスケベイベントは需要ないな~。
だけど、細マッチョの肉体はある意味エッチなので、加点して35点」
「加点しても低っきぃなオイ。いや待て、50点満点という可能性も――」
「いや、100点満点だから。うぬぼれんな」
「やっぱ低っきぃな。後、急に辛辣なのなんなん?」
すると、敬は幸の点数に不服だったのか「リテイク!」と言って再審査を求めるように、脱衣所のドアを閉じる。
そこから、幸は3秒数えてドアを開けると、敬はフロントダブルバイセップスのポーズ。
加えて、敬は律儀にトランクスを履いていた。
「......」
幸は真顔のまま素早くドアを閉めると、すぐさまガバッとドアを開けた。
すると、今度の敬はサイドトライセップスのポーズ。
そんな敬にポーズ以外の違いがあるとすれば、あの一瞬でシャツを着ていることか。
「......」
やや眉間にしわを寄せた幸がドアを閉めると、再びドアを開けた。
すると、その次の敬のポーズはあの有名なサイドチェスト。
ちなみに、今回はズボンを履いていた。
「いや、ポーズよりも一秒も満たないドアの開閉で服着てる方がよっぽどびっくりだわ」
「自分、早く着替えるという特技を身に着けるために、ここ数か月特訓を怠らなかったからね」
「はいはい、無駄な努力乙で~す」
家でも学校と変わらないバカ丸出しの敬を適当にあしらうようなツッコミする幸。
そして、ようやく兄妹の仲のいい茶番が終わった所で、敬は幸に聞いた。
「で、結局お前は何がしたかったんだ?」
「そりゃ、お兄に対してのラッキースケベイベントを意図的に発生させようと思って」
「意図的なラッキースケベって、もはやただのスケベじゃねぇか。
いや、本当のこと言えよ。実はなんか目的あったんじゃないのか?」
そう言って敬は深読みするも、質問された方の幸はキョトンとしながら言った。
「いや? 全然」
「え、ただ自分の愉悦のために俺の裸辱めたの? やっべぇなお前」
「途中でノリノリになるお兄も大概だけどな。
けどまぁ、ブラコンだから許せ」
「いや、それそんな便利な免罪符じゃないから」
まるで全く悪びれる素振りも見せず、幸は元気よくサムズアップした。
そんな妹の予測不能な言動に、敬はツッコみつつため息を吐く。
そう、あの基本ボケの敬がツッコみをせざるを得ない相手が幸である。
それから、幸は自室に戻って部屋着に着替えると、敬の夕食が出来るまで宿題を終わらせる。
夕食の時間が来たなら、相変わらず恋人同士のようなワチャワチャとした会話をし。
その時間すらも終わったなら、二人してソファでまったりモードである。
もっとも、幸が兄に膝枕してもらって一方的にまったりするだけの時間だが。
そんな人物が敬の妹犬甘幸であり、誰しもがその行動力とユーモアに惹かれるわけだが、その妹の言動に靡かない人物もいる。
その人物は兄の敬であり、そして膝まくらで寝そべりながらスマホで動画を見る妹を見て思った。
(え、なんか妙に近くね.....?)
敬が妹と仲が良く、比較的距離感が近いことも理解している。
しかし、その距離もあってせいぜい足置きにされるぐらいだ。
頼まれもせず妹を膝枕することなど、過去にあっただろうか。
「あの......幸、なんというか近ない?」
「え、嫌?」
「いや、兄としては『この妹可愛いかよ』という感じで大変ご満悦であるが、それはそれとしてこの状況が不可解過ぎて聞きたくなったというか」
敬がそう聞くと、幸は腕を組み数秒だけ目を閉じて考えた。
そして、パッと目を開けると答える。
「ん~、時期的にそろそろかなって」
「え、何の話?」
「別にすぐに起きるわけじゃないよ。でも、早めにやっとこうって感じ。
まぁこっちの話でお兄は首つっこまなくていい話なんだけど......それじゃ納得できないだろうし」
「そうだな。もう少し情報プリーズ」
「そうだね、一言で言えば予防って感じ。
ほら、お兄って自分のことあんま顧みないじゃん?
だから、溜まってても気づかないというか......あ、下の話じゃないよ? 勃たせんなよ?」
「文脈からそうじゃないことぐらいわかっとるわい!
妹よ、あまり女の子がみだりにそういう言葉を使うでない。
つーか、僕のせいで多少ヲタクの影響を受けてるとはいえ、その手の話は自重してたのに」
「お兄のスマホのあるエロ漫画読んでたから」
「.............ぅゑ!!??!?」
その時、敬の眉間に凄まじくしわが寄り、同時に敬の脳は一瞬フリーズした。
その顔はまさに信じられない言葉を聞いたという感じで、仏頂面の敬がここ最近でまともに表情を作った瞬間でもある。
そんな敬に対し、幸は――
(あ、この手の話は表情変わるんだ)
と思いつつも、何事も無かったように話を進める。
「で、私はそんなお兄に妹愛情パワーをあげようって話で」
「どぅえ、え、ちょ、待って待って待って! 普通に話進めないで!
え、待って......嘘だろ? じょ、冗談だよね?
幸、冗談って言って! お願いだから!
ちょ、これ兄の尊厳に関わることだから!」
「でも、これって実は今に始まったことじゃないんだよ?
まぁ、別にこっちは気づいてもらおうとやってたわけじゃないし、いいけどさ」
「いや、全然話入ってこないから! え、嘘。
な、なぁ、幸、お前何を読んだ? いつから読んでた?
あ、いや、その前になんで俺のスマホのパスワード知ってる!?」
「とはいえ、あんまり気づかれないのはちょっと寂しかったりしたな~。
逆にどこまで行けば気付くか試したかったけど、でもそれじゃ予防の意味無いし」
「全っ然答えてくれない! ちょっと待ってストップ!
わかった、その話は聞くから。後でちゃんと聞くから!
その前に聞くべきことがある。家族会議だよ。
内容はどうして僕のスマホのパスワード知ってる&いつの間に人のエロ本読んでる件について」
「わたしは与えたかったのだ。妹の癒しパワーというやつを。
だから、お兄は何も気にしないで妹様に甘えられていればいいのだ」
「受け取りたい! 非常に受け取りたい!
だがしかし! 今の僕は非常に思考回路が不味い状態になってる!
先に言った『癒し』が『卑し』に聞き間違えたぐらいだ!
はい、この話終わり! レッツ家族会議ターイム!」
敬は声を荒げながら、話の区切りをつけるように一回手を叩く。
すると、幸はキョトンとした顔をするやすぐにガバッと上体を起こした。
そして、ソファから立ち上がると、颯爽とリビングのドアに手をかけた。
「え、幸......? いづこへ?」
幸の突然の行動に対し、敬が戸惑っていると、幸は肩越しに振り返って言った。
「え、話終わりって言ったじゃん」
「いやいやいや、そっちじゃなくてあっちで」
そう言うと、幸は仕方なさそうにため息を吐くと、ドアを開けながら答えた。
「スマホが教えてくれるよ。あと、何でもかんでも保存するのは良くないよ。
んじゃ、そろそろ風呂が沸き上がりそうだから入ってくる」
そして、幸はガタンとドアを閉めた。
そんな幸の姿を眺めつつ、いなくなったタイミングで画面の暗くなったスマホを見つめた。
瞬間、スマホは画面を明るくし、同時にパスワードが解除された。
「な、なるほど......顔認証か......。
って、ことは僕が寝てる間に忍び込んだか、あるいは......いやいや、それは考えすぎだ」
敬は一瞬過った考えを拭うように頭を振った。
そして、今度は幸が敬のスマホのエロ本を読む際に必要なサイトのパスワードなのだが.......
「おっふ、ク〇ム先生......」
敬は顔を手で覆いながら、ガックシとうなだれた。
読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)
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