クエスト27 「天子と愉快な仲間達」#5
「ふぅー、遊んだな~」
「ぶっちゃけ、もう本題関係なしに遊んでる気がするわ」
手の甲で汗を拭う敬と、腰に手を当てる悠馬は、先ほど終わったパターゴルフを眺めながら感想を呟く。
すると、その二人に宗次が近づき、脳内での集計結果をまとめつつ聞いた。
「ジョーカー、この競技でまた勝敗が着いたわけだが......まだやるか?」
「いや、時間的に厳しいかな。ま、ぶっちゃけカラオケなんて別でもいいんだけど、どうせならこの勢いで行きたい気もするし」
「そうか。ちなみに、勝敗のつけ方なんだが、勝者一人以外は敗者という認識でいいのか?
それとも、二位以下にも得点の配分とかあったりするのか?」
「無いね。二位以下も負け。つまり、勝者の一人勝ち」
敬の回答を聞き、宗次はメガネクイッをしながら薄気味悪く笑う。
そして、メガネクイッしたままの状態で顎を上に向け、敬を見下した。
「そうか。それを聞いて安心した」
「ど、どういう意味だ......?」
宗次の不審な笑みに対し、敬は警戒するように身構えた。
直後、宗次は敬に人差し指を向け、会心の一撃を与える。
「今回の勝負......貴様の負けだ、ジョーカー!」
「な、なんだと!? どういうことだ!?
得点は!? 得点はどうなってる!?」
「ここに来るまでの道中にやった最初のゲーム。
アレは貴様の一人勝ちで、私達に負け点数が入った。
しかし、俺はボーリングで、悠馬はバトミントンでそれぞれ勝利し、勝ち点を得た。
その結果、バトミントン終了時点では俺達の点差はイーブン。つまり、勝者無しなんだ」
その言葉を聞いた瞬間、敬は目を剥いた。
なぜなら、敬は知っているから――先程のパターゴルフでの結果を。
故に、敬は表情こそ変化しなかったものの、両手はプルプルと震えた。
そんな瀕死の敬に、宗次はトドメの一撃を与える。
「だが、このパターゴルフで偶然にも私と悠馬は同点優勝!
そう、この瞬間貴様の一人負けは確定したのだ!
つまり、罰ゲームを受けるのは貴様なんだよ、ジョーカー!」
「く、クソったれぇぇぇぇ!」
敬はその場に崩れ落ち、両手の拳と額を地面にこすりつける。
そして、凄まじく悔しそうな声を響かせ、拳を何度も地面に叩きつけた。
その姿はどこぞの騙し合い漫画でありそうな敗者の姿そのものであった。
「つまり......僕が罰ゲームを受けるという事なのか?
あの歌を!? 女子の前で!? なんと卑劣な男だ! やっぱ鬼畜眼鏡だな!」
「おい貴様、変な濡れ衣を着せるのはやめろ。
アレは貴様が設定した罰ゲームだろう。
大人しく罰を受け入れろ。自業自得というやつだ」
「くっ.......仕方ない。悠馬、少し気分転換に付き合え」
「おう、どうした? なら、UFOキャッチャーでも行くか?」
「そうだな。実はさっき通りがかった女性が、カ〇ビィの巨大クッションを持っていたのが気になってな。
アレに一目惚れしてしまった。端的に言えば欲しい。手伝ってくれ。いや、金をくれ」
「ドストレートにクズだな、お前」
そう言って悠馬は敬を蔑みながら見つつも、結局は敬に同行してゲームセンターに向かった。
それによってその場に取り残された天子と宗次。
すると、天子は脳内に二つの会話選択肢を浮かべ、そのままこの状況を使って悠馬と同じように質問した。
「相沢さんは犬甘さんと、その、友達になって長いんですか?」
「そうだな......恐らく大撫さんが思っているほど長くない。
私とアイツの出会いは丁度今頃だ。
まぁ、なんというか出会った時からだいぶ変だったな」
「みたいですね。男鹿さんも似たようなことを言ってました。
ちなみに、相沢さんと犬甘さんとの出会いはどんな感じだったんですか?」
「なんてことは無い。ただの普通の出会いだ」
そう言って宗次は敬との出会いを簡単に話し始めた。
宗次と敬の出会いは、やはり敬の一方的な絡みから始まる。
その当時の宗次は、悠真と違う意味で孤高という感じであった。
宗次はもうこの時点では、とある令嬢に仕えており、宗次の思考は基本仕事一色。
また、宗次という人間は、ルックス、品行方正、文武両道とまるでラノベの超絶美少女を体現したような完璧超人であった。
そんな宗次の特殊性故に、宗次は女子から限りなくモテ、男子からは限りなく嫉妬を向けられた。
それこそ、女子からはGPS入りのぬいぐるみをプレゼントされたり、男子からは言われのない逆恨みをされたりというほどには。
しかし、宗次は持ち前の強メンタルで、仕事に差し障りない以上気にする事はなかった。
もっとも、気にしても仕方がないと理解していたからかもしれないが。
とはいえ、常々その環境下には辟易していたのも事実。
その環境を変えたくとも、基本一人でなんでも出来る宗次は友達を作ろうともしなかったので、友達が皆無。
故に、出来ることは早く社会人になるまで耐えるのみ。
そんな風に思って中学生を卒業し、入学した高校で青天の霹靂が起きた。
そう、狂人との出会いである。
狂人こと犬甘敬は、本当に面倒な人間であった。
誰に言われたでもなく、相手の様子を気にかけるわけでもなく、半ばストーカーじみたしつこさでもって宗次に話しかけたのだ。
そのしつこさは、もはや周囲の醜い嫉妬の視線そっちのけで敬の方がウザいレベル。
しかし、敬の行動は本来なら毛嫌いする人がほとんどであるが、こと宗次に限ってはウザいの他に別の印象を抱いていた。それが"新鮮"である。
宗次は完璧超人としての姿が良くも悪くも存在感を放ち、それが周囲から浮くような状況を作っていた。
言うなれば、街中で見かけた芸能人を遠巻きで見るような感じだ。
そんな中、空気を読まない狂人はその特性を多大に発揮し、宗次へと接したのだ。
それが逆に宗次の心を開くキッカケとなり、最終的に宗次は諦めと興味で持って敬と関わりを持ち始めた。
ちなみに、その時にはもう悠真もいて、悠真も良くも悪くも人に気を遣わないタイプだったので、宗次とはソリが合った。
「という感じだ。そして今では、この高校で変人3人組と呼ばれてる。
ふっ、中学ではしたことない経験だな。だが、悪くない」
「ふふっ、なんだか嬉しそうですね」
「嬉しい?……そうか、この状況下で、あの二人とつるんでいるのが嬉しいのか。俺も存外単純だな。
とはいえ、アイツと関わって常に楽しかった訳じゃないぞ?」
「ケンカでもしたんですか?」
「いや、ケンカという程でもないが……俺は代々執事の家系でな。
今の俺にも仕えているお嬢様がいて、その方が特長的な髪形をしているのだが、その方に敬が会った瞬間とんでもないあだ名をつけたのだ。その名も『ドリ金タロー』」
宗次は未だ納得していないような顔で、自分が仕えるお嬢様のあだ名を言った。
その名前に、天子も「ドリ……え?」と首を傾げる。
「えーっと、どういう意味ですか?」
「ドリル金髪縦ロール……要はお嬢様の髪形をいじったあだ名なんだろうが、その時ばかりは流石の私もキレてな。
しかし、お嬢様も……その、変わったお方ではあるから『おもしれー男』で気に入ってしまい、それ以降怒るに怒れなくてな」
「わぁ……」
「もう知ってると思うが、昔からヤツはそんな人間だ。
と言っても、知ってるのはあくまで去年までだがな。
しかし、どうしてそこまで気になるんだ? 悠真にも聞いたんだろ?」
その質問に、天子はそっと顔を下に向け、五指を合わせながら答えた。
「その......ですね、何と言いますか、一番最初に友達になった人のことを知りたいと言いますか。
あ、その、別に相沢さんや男鹿さんに興味がないとか全然そういうことではなくて!」
「大丈夫だ。わかってる。それに人を深く知りたいということは自然なことだ。
だから、その行動には胸を張るといい。気にすることじゃない」
「あ、ありがとうございます......」
恥ずかしがりながら感謝を述べる天子を横目で見つつ、宗次は「私達も移動するか」と天子に声をかけ、パターゴルフ会場から出ていく。
そして、遠くで巨大ぬいぐるみUFOキャッチャーでわちゃわちゃしている敬と悠馬を見つけると、改めて天子に声をかけた。
「それでまだ何か聞きたいことはあるか?」
「あ、えーっと......なんでわかったんですか?」
「そういう機微には気づくよう訓練を受けている。
遠慮することはない。答えたくないものは堪えないだけだからな」
「なら、その......たまに相沢さんが犬甘さんに対して言ってるあだ名が気になりまして......」
「”ジョーカー”か。ふっ、我ながら割と上手いあだ名のつけ方だと思うがな。
ちなみに、どういう意味でつけたかわかるか?」
そう聞かれた天子は胸の前で両手を握り合わせながら、少し考え答えた。
「その単語の意味を考えると”道化師”という意味でして、その、犬甘さんも奇行が目立ちますから、そういう意味では的確なあだ名かと......」
「惜しいな。半分正解と言ったところだ。この名前の由来は映画から来ている。
ま、その映画では常に笑ったようなメイクで、ヤツの場合は常に仏頂面だがな」
「そんな理由が......」
「そう納得しつつも妙に不服そうな顔だがな」
宗次はチラッと見えた天子の表情を指摘する。
というとのも、天子の眉が下がっているからだ。
すると、天子は自分の中でも不完全な部分を話し始めた。
「なんというか、犬甘さんは今見せている姿と別の姿を持ってるんじゃないかと思って……」
「そんなもの誰しも持っているだろう。私だって、今のこの状況と働いてる時では違う」
「そうなんですが、そうじゃないと言いますか……すみません、上手く説明できなくて」
「構わん。それこそ、誰にでもあることだ。
なら、次は説明できるように情報収集することだな。
大撫さんが知りたいと思うだけの情報を集めるといい。
それが相手を知るということだからな」
「っ!……わかりました」
「おーい! そろそろ移動するぞー!」
その時、遠くの方から宗次と天子を呼びかける声が届く。
その声に二人が視線を向ければ、片手に大きなカー〇ィクッションを抱えた敬が、大きく手を振る姿があった。
「どうやらアイツも目的を果たしたようだな。私達も行くか」
「そうですね」
宗次は天子に一声かけて敬達がいる方向に歩き始め、その後ろを天子はテクテクとついて行く。
そして、残り最後のカラオケとなったところで、そこへ向かう道中に天子の横に並んだ敬は、抱えていたクッションを天子にプレゼントした。
「はい、大撫さん。今日の俺の無茶ぶりに答えてくれた報酬」
「え!? そんな急に……いえ、気持ちだけで大丈夫ですよ!」
しかし、天子は両手を胸の前に掲げ、否定のポーズ。
別にお詫びを貰うほどでもないというアピールであろう。
すると、敬はチラチラッと天子を見ながら、断った罪悪感を煽るように言葉を並べていく。
「そっかー、残念だなぁ。せっかくプレゼントしようと思って取ったのにー。五千円もかかったのになー」
そんな敬のわざとらしい反応に対し、天子は――
「うっ」
きまりが悪そうな顔をした。
そういう事を言われると途端に断りづらくなるという人間が天子である。
それもそのはず、これまで友達からプレゼントを貰ったこともない天子は、こういう時に強気で断るということが出来ないのだ。一言で言えば、押しに弱い。
そんな天子を目を細めて様子を伺っていた敬は、その押しの弱さに満足そうに頷いて、手に持っていたクッションを渡した。
「それじゃ、受け取ってくれ。安心してくれ。中にGPSとか隠しカメラとか仕込んでないから」
「なんで受け取りづらくなること言うんですか」
そうツッコミつつも、最終的に天子は受け取り、両手に抱えるクッションを嬉しそうに抱きしめる。
その姿は天子の大きさも相まって、さながら大きなぬいぐるみを抱えた子供のようであった。
その後、カラオケに着いて部屋に入った一同は、しばらく歌って場が温まったところで、「それじゃ、大撫さん。カラオケでは俺の歌唱に酔いしれてくれ!」となぜか自信ありげに言う敬の罰ゲームが始まった。
その歌唱力に悠馬と宗次が舌を巻く中、天子だけは歌詞の内容に若干引いていた。
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