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小さな文学少女が友達を欲しがっていたので友達になって、ついでに自己肯定感やら友人関係を整えたら想像以上の勇者になった  作者: 夜月紅輝


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クエスト26 「天子と愉快な仲間達」#4

(おかしい.....なんでそうなった!?

 今、確実にキモイ発言したよな!?)


 表には決して出さず、されど内心で激しい動揺をする敬。

 なぜなら、敬のプランであれば、今頃天子はドン引きしたような顔で、さらに上半身を逸らしているはずだからだ。


 にもかかわらず、今の天子はその反応の真逆といった表情をしている。

 顔は赤く、瞳はやや潤み、それでいて視線は敬に向けたまま微動だにしない。

 反応に困って固まっているだけの可能性もあるが、それにしても表情はおかしい。


「あ、あの......大撫さん?」


「......え、あ、はい! あ、その、すみません.......びっくりしちゃって」


「そ、そうなんだ.....なら、いいけど」


(絶対そんな表情じゃなかったけどな!)


 天子の返答に、敬はそう思いつつもあえて触れなかった。

 いや、触れるのが躊躇われた。

 とても冗談を言えるような空気ではなかったから。


 そんな敬と同じように、天子もそこから言葉を発さない。

 故に、二人の間に甘いとも気まずいとも言えない妙な空気が流れる。

 その一方で、悠馬と宗次は二人の空気に顔を見合わせた。


「......ゴホン、それで大撫さんは誰の言動が一番キモイと思ったかな?」


「え......その、えーっと......」


 敬の質問に、天子は視線を悠馬、宗次、敬の順にゆっくり巡らせる。

 その際、悠馬と宗次は普通に視線を合わせたのに、敬に対しては赤らめた顔でチラ見だけ。

 そして、最終的に天子が出した優勝者は――


「その、犬甘さんで!」


「よっしゃああああ!」


「それは喜んでいいものなのか?」


「私達は安堵しているレベルだぞ」


 大声で空気をかき消しながらガッツポーズで喜ぶ敬に対し、悠馬と宗次は冷静にツッコむ。

 されど、空気は変わらず。しばらく、そのままが続いた。


 数分後、目的地のラウンド〇ンに到着した敬達。

 最初に四人がやり始めたのはスポッ〇ャのスポーツではなく、ボウリングだった。


「さて、最初はスポーツを......と思っていたけど、意外と歩き疲れたのでボーリングで足を休めつつ、そんでもって遊ぼうと思う。

 言っとくけど、これも当然俺達の中で敗北者を決めるためのゲームでもあるから」


「わーってるよ。言っとくが、俺はボーリングには自信あるからな」


「奇遇だな。私も得意なんだ」


「奇遇だな。僕もガーターばかりなんだ」


「「それは奇遇じゃない」」


「それじゃあ、早速始めよう! 僕達のゲームを」


 そして、敬達は各々順番に第一投を投げ始める。

 結果、悠馬はスペア、宗次はストライク、天子は7ピン、敬はガーターであった。

 それからニ投目、悠馬が投げ終わった辺りで、何を思ったのか天子が話しかけた。


「あ、あの、男鹿さん......」


「あ? なんだ?」


「その、変な質問だと思いますが、男鹿さんから見て犬甘さんってどんな人ですか?」


「そりゃ、変人だな。バカともいう」


 悠馬の即答に、天子は少し驚きつつも、特に淀みない声色で聞き返した。

 

「男鹿さんも犬甘さんの評価はそんな感じなんですね」


「”も”ってことは大撫もか。にしちゃ、妙な反応だったが......。

 けどまぁ、アイツに関しては深く考えるべきじゃないと思うぞ」


「それは.....どういう意味ですか?」


「そのまんまの意味だよ。アイツは前からああなんだ」


 そう言いながら悠馬が話始めたのは、敬との出会いの話だった。

 悠馬が敬と出会ったのは、丁度季節は今頃に差し当たる。


 その当時の悠馬は、まさしく一匹オオカミという感じであった。

 金色に染めた髪、ピアスにネックレスとヤンキー風の見た目、当たりの強い言動。

 そして何より溢れんばかりの近寄るんじゃねぇオーラ。


 もはやそんな人物に話しかける人間は誰もいなかった。

 たまに幼馴染が話しかける姿が目撃されるらしいが、あってもその程度。

 そんな人物に話しかけた人間こそが狂人の犬甘敬である。


『もっし~、うちうち、犬甘敬だよ~。よろしゅうね~』


『......ハァ?』


 悠馬に話しかけた時の敬は、もはや今と変わらない。

 まるで初めから友達のような慣れ慣れしさでもって悠馬に話しかけたのだ。


 そんな声掛けに当然、悠馬は威圧で返した。

 しかし、敬は無表情でもってその威圧に微動にしない。

 それどころかより一層に厚かましく声をかけたのだ。


『いやさ、最近久々に不良漫画を読んだんだよね。

 でさ、読み終わった後にさ、急に強気になるっていうか、そんな気分になるんだよね』


『それがなんだよ。つーか、話しかけんな』


『んで、そん時の主人公に寄り添うヒロインの心情が知りたい』


『その文脈でその流れはおかしいだろ。日本語わからんのか?』


 敬はどこまでいっても敬であった。

 そんな敬に対し、当然最初はぞんざいに扱う悠馬。


 しかし、敬のしつこさといったら並外れており、事あるごとに悠馬に絡み、それでいて特に悠馬の話を聞くわけでもなく一方的にしゃべり続けた。


 そんな時間はやがて悠馬に諦めという感情を湧き出させ、さらにはなんだかんだで関わっていくうちに普通にしゃべるようになって......と、まるで空気の読めない主人公に落とされる不良少女みたいな展開でもって関係は続き、現在に至るのだ。


「アイツに関しちゃ真面目に関わろうとすると疲れるぞ。

 なんというかこっちがバカを見るというか。

 だから、適当に流すぐらいが丁度いいと思うぞ」


「そうなんですね......」


 そう納得する天子であったが、どこか浮かない顔をしていた。

 そんな天子の表情に、横目で見ながら気付いた悠馬は片眉を上げる。


「なんだ? なんか気になることでもあんのか?」


「いえ.......その、時々犬甘さんって妙に冷めた目をする時ないですか?」


 その言葉に、悠馬は腕を組み、視線はおもむろに上に向けた。

 それから数秒後、首を傾げながら天子に返答する。


「まぁ、あるような無いような。

 こういっちゃなんだが、プライベートの付き合いっつーのはあんま無いしな。

 たまに放課後にゲーセンとか、カラオケ行ったりすることはあったけど、土日はまずねぇ。

 だから、その質問に答えられるほどの情報を持ってねぇな」


「そうなんですか。すみません、変な質問をして」


「別に。それよか、長話しちまったな。ほら、順番回ってるぞ」


「あ、はい!」


 そして、天子は引き続きボーリングを続けていく。

 その後の最終的な結果は、宗次、悠馬、天子、敬という順になり、敬は宣言通りほぼガーターであった。


 それから敬達は次なる遊びを求め、ス〇ッチャのコートスペースにやって来た。

 その場所にてバトミントンのラケットを持つと、自称司会進行役の敬がしゃべり始める。


「さてさてさーて、足もだいぶ回復したことでしょうし、次はバトミントンと行きましょう。

 当然、4人いることだし2対2でね。また、大撫さんが居る方が負けた場合、負けポイントが2倍になるから気を付けるように」


「つまり、この遊び自体はそもそも大撫さんを楽しませる主旨がある。

 それでいて負けたら負けポイント2倍となれば、大撫さんと組む場合勝つのは絶対条件ということか」


「そういうこと。勝つことに拘って大撫さんが楽しめないような状況になれば、もし勝ったとしてもその人は敗者となるわけだ。

 そしてその場合、その人物は大撫さんに土下座し、さらに大撫さんに頭を踏んでもらうことします!」


「っ!?」


 またもや唐突に来た敬の無茶ぶりに、天子の顔がギュンと敬の方に向く。

 そして、ただひたすら首を横に振るだけの機械となって、敬の無言の抗議をする。

 そんな天子に、敬は「まぁまぁ」と言わんばかりに手をかざすと言った。


「大丈夫、わかってる。大撫さんだって、実は人を踏んで愉悦に浸るような特殊性癖の人物であることがバレちゃ困るもんね」


「全然何もわかってないです! そんな性癖は持ってないです!」


「お前......女子に変な事言わせんなよ」


「仮に、本当にそうだったとしても、今貴様のせいで露呈したがな」


 全員から白い目で見られる敬であるが、その視線がむしろ心地よいとばかりに気にせずしゃべり続ける。


「そんでこれはガチなんだが、悠馬には踏まれて喜ぶM属性がある。

 だから、気を付けてくれ大撫さん。奴は変態だ」


「そ、そうなんですか......?」


「さっきのコイツの言葉でそれを信じるのか!?」


「これはガチだ。全く度し難いほどの変態だな......シネッ!」


「おい、宗次! お前まで手のひら返しすんじゃねぇよ! 俺にそんな性癖はねぇ!」


「ということで参りましょう! レッツプレイ!」


 敬達は手のひらで裏か表でチームを決めた。

 その結果、チームは敬&宗次ペアと悠馬&天子ペアとなった。

 そして、それぞれネットを挟んで並ぶと、早速敬と宗次がガヤを飛ばし始める。


「くっ、なんたることだ。大撫さんが変態と一緒のペアに! 今助けだしてやるからな!」


「悠馬、指一本でも大撫さんに触れてみろ。シャトルが貴様の眉間を打ち抜くぞ」


「ホント、コイツら俺相手になると絶好調で煽ってくるな。

 ハッ、お前らみたいな性根の腐った奴らに大撫を任せられるかよ!

 やるぞ、大撫! アイツらの顔面にシャトルぶつけてやる勢いでな!」


「は、はい! お二人の頭を粉砕します!」


「大撫さんが一番過激なこと言ってない?」


 天子から飛び出た思わぬ言葉に、敬は思わずツッコみつつもサーブをしてゲームを始めた。

 その後の勝負は、意外にも白熱した勝負展開になった。


 序盤は敬&宗次ペアが点差を広げていったが、家族とバトミントンをしていた経験のある天子が次第に調子を上げ、敬&宗次ペアに食らいついていったのだ。


 また、敬と宗次が点数が入ると煽っていたことが、かえって悠馬の負けん気に火をつけたようで、点差はついに20-20。

 本来のダブルスではないローカルルールを採用しているので、次の点を入れたペアの勝者となる。


「ハァハァ、やるじゃな~い。正直、二人を侮ってたよ」


「大撫さんが小さい身長を活かして的確にシャトルを拾うな。

 にしても、ここまで動けるのは想定外だったが」


「大撫さんって意外と足速いんだよ。

 前にバレーの試合見てたけど、意外に身体能力が高いみたいだし」


「だが、我々も男のプライドとして負けられる。勝つぞ、ジョーカー!」


 そう意気込む敬と宗次に対し、悠馬と天子もまたラストゲームに気合を入れるように言い返した。


「ぶっちゃけ、大撫がここまでやるとは思わんかったから、割と驚いちゃいるが、大撫が機能する以上勝ちは俺達のもんだ。このまま押し切るぞ!」


「はい、負けません!」


 そして、敬がサーブをして激闘のラリーが始まる。

 互いに一歩も譲らぬ攻防であり、そんな彼らの光景は、まさに小学生がグラウンドでドッチボールするようなものだった。

 

 そんなラリーもしばらく続いたところで、ついに決着の時を迎える。

 それは敬がコート内ギリギリのところに落ちたシャトルを打ち返した時だ。

 そのシャトルはラケットに甘く弾かれ、ふわりと浮かんだそれはネットを超えて相手コートへ。

 

「大撫、行けぇぇぇぇ!」


 まるでスマッシュを打ってくださいとばかりの軌道で、天子のもとにシャトルが近づく。

 瞬間、天子は悠馬の応援を背中で受け、ネットを超えるようにジャンピングスマッシュ。


 そのシャトルは体勢を崩していた敬のすぐわきを通り、宗次がリカバリーに入るよりも先に、コートに着地した。


「ナイスだ、大撫!」


「はい!」


「「ちくっしょおおおおぉぉぉぉ!」」


 直後、コートには二つの正反対の光景が見られた。

 一つは勝利にハイタッチする悠馬と天子の光景であり、もう一つが四つん這いになりながら全力で悔しがる敬と宗次の光景だ。

 誰にでもわかりやすい勝者と敗者の構図である。


 そして、ひとしきり悔しがった敬と宗次は立ち上がると、ネットの方に近づき、ネットの下から握手を求めるように手を差し出した。


「大撫さん、凄いね。ここまで動けるなんて正直驚いたよ」


「えへへ、昔から家族の中では運動神経良かったんです」


「悠馬、非常に癪だがこちらの負けだ。

 しかし、最後に決められたのがお前でなくてホットとしている」


「負け惜しみ乙。俺達はペアで戦ったんだ。これが結果だ」


 敬と天子、悠馬と宗次がそれぞれ握手し言葉を交わす。

 それが終わればようやく全員は、脱力するようにその場に座り込んだ。

 それこそ、誰一人会話せず、呼吸を整えることに集中するように。

 そして、その場にいる四人の全員が思った。


((((こんなガチでやる必要あった?))))


 というのも、この状況は正直全員にとって想定外のことだった。

 試合開始前に、互いに煽り文句を言い合ったがあんなのは所詮飾り。ファッションだ。

 故に、全員がイメージしていた動きは、砂浜でビーチボールをキャッキャしながら回し合う感じ。


 しかし、どこをどう間違ったのかいつの間にかガチの試合となっていた。

 結果的に言えば、白熱して盛り上がったので問題なしなのだが、疲労感はMAXである。

 もうぶっちゃけこれで終わってもいいレベルであった。


「トイレ行ってくるわ」


「私もだ」


 そう言って悠馬と宗次がその場を離れていく。

 すると、そんな二人を見ながら敬は立ち上がり、天子がいるコートまで行くと座り、話しかけた。

 


「大撫さん、なんかごめんな。僕達が盛り上がったせいで」


「え? 何か謝ることありました?」


「いやさ、ほら、思ったより白熱しちゃったじゃん?

 でさ、最初キッチリと着込んでた大撫さんも今やワイシャツに半袖って感じでさ――」


 瞬間、敬は右手で口元を覆い、即座に顔をそっぽ向けた。

 その反応に、最初こそ首を傾げた天子であったが、自分の服を覗き込むことで気づく。

 汗でワイシャツが僅かに透けて、下着のラインが浮かび上がってることに。


「っ!?」


 天子はすぐさま両腕で胸を隠し、身をよじらせる。

 顔は急速に真っ赤になり、潤んだ瞳でもって敬を見た。

 そして、思わず尋ねる――下着を見たのかと。


「あの......見ましたよね?」


「いや、その......はい。不可抗力で。非常に申し訳ない。

 ただその、伝えたかったのは、そんなにも汗をかくほど動かして申し訳ないなってことで。

 ほら、今日って体育あったわけじゃないから、体操服の着替えとかあるわけじゃないし」


「見たから顔を背けたってことですか......?」


「.......はい」


 いつになく動揺らしき行動を見せる敬を、天子は恥ずかしさもありつつも、同時に目を開かせて物珍しいものを見たような気分になった。


 というのも、敬の表情は相変わらず特に変化は無く、それこそ赤ら顔なんてありもしないが、それでも声色は確かに漫画やラノベに出てくるような童貞主人公の声をしていたのだ。


 それが意味するは、敬は天子の意図しないチャーム攻撃にしっかりダメージを受けてる可能性があるということである。


「そ、そうなんですか......」


 とはいえ、まぁだからなんだという話でもあるが。

 結局、天子にとっては一番仲のいい男子に下着を見られたことは変わらない。

 天子の恥ずかしさはすぐさま羞恥が驚きを上回り、特殊な空気感を作り出す。

 当人達には気まずく、端から見れば甘ったるい空気感を。


「おーっす、戻った......ってどうした?」


「......どうやら面白いことがあったようだな」


 トイレから戻って来た悠馬は首を傾げ、一方で宗次はメガネクイッをしながら色々察した。

 そんな彼ら四人の遊びはまだ少し続く。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)


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