クエスト24 「天子と愉快な仲間達」#2
放課後の時間。
本来なら無人の教室には、三人の男子と一人の女子の姿があった。
二人の男子に、向かい合う男女といった構図で立ち並ぶ彼らの中、これから紹介する女子の隣に立つ敬が会話の口火を切った。
「――というわけで、こちらが自慢の勇者である大撫さんです」
「お、大撫天子と言います! よろしくお願いします!」
敬の相変わらずの紹介を受け、天子は緊張した面持ちで頭を下げる。
そんな天子を見ながら、向かい合う位置にだるそうに立つ悠馬は「勇者?」と呟き、頭を掻きながら敬に確認した。
「この子が例のストーカー.......前にお前を追いかけてた子か?」
「そうだね。でまぁ、色々あって仲良くなったのが現在さ」
「何がどうなってその相手と仲良くなったのは気になる所だが......まぁ今は話を進めるべきか」
敬の言葉に、ピシッと背筋を伸ばしている宗次はメガネをクイッとしながら腕を組んだ。
一見横柄な態度にも見えるが、これが宗次のデフォルトである。
そんな態度が一部の女子には受けているようだが、小動物の天子からすれば別だった。
(は、迫力がある.......)
天子がそう思うのも無理はない。
なぜなら、天子はそもそも男子に対してあまりにも会話経験がないからだ。
業務連絡と家族を除けば、これまでの人生で男子との話したのは敬ぐらい。
故に、天子にとっていかにも自分に自信がある宗次と、オラオラしている悠馬は恐怖対象なのだ。
人間誰しも知らない最初が一番怖く感じるもので、知ってる人とは明らかにタイプが違う存在と関わるのは勇気がいる。
もっともそういう意味では、最初に自己紹介が出来たのは、これまでの天子を考えれば大きな前進であったと言えるが。
しかし、天子は二人を前に依然肩を強張らせ、持っていた本を胸で抱きしめている。
すると、そんな天子の様子を隣で見ていた敬は、背中側から肩を叩くと、天子に視線を向けさせた。
「(大丈夫。僕に任せておけ)」
敬はコソッとそう言うと、天子がコクリと頷いたのを確かめてしゃべり出した。
「で、大撫でさん。今目の前にいる金髪の男鹿悠馬がバカで、鬼畜ドS相沢宗次がメガネ。この二人が僕の友達だよ」
「おい、名前の紹介が逆だろ」
「気づけ、悠馬。例え普通に言ったとしてもバカにしてることには変わりない」
「あ、悪い悪い。イキりヤンキーチビと、鬼畜ドS調教メガネだ」
「おい、テメェ! 誰がチビだオラァ!?
つーか、さっきより酷いのはどういう意味だ!?」
「私に至ってはどれだけ”鬼畜ドSメガネ”をプッシュするつもりだ。
後、”調教”という言葉を付け足すな。それでは本当にただの変態ではないか」
敬の容赦のない悪意たっぷりのボケに、悠馬と宗次は漏れなくツッコむ。
そんな三人のやり取りを、天子は一人蚊帳の外になった気分で眺めていた。
一方で、総ツッコみを受けても堪える様子のない敬は、むしろ二人が悪いように責め立てる。
「なぁ、自己紹介でそこまで時間取るつもりないんだけど?」
「なんで俺達が悪いみたいになってんだ」
「落ち着け、チビ。コイツに乗せられて怒ってばかりは疲れるぞ」
「ハァ、確かにな......ん? 今チビって言わなかったか?
なぁ、言ったよな? お前、今サラッと俺がチビだって言ったよな? なぁ?」
メガネクイッをする宗次を、横からメンチを切るように見る悠馬。
そんな二人を見ながら、敬はパンと手を叩き、全員の注目を集める。
「ともかく、この二人が僕がお金を渡して友達になってもらってる二人だよ」
「え、お金?」
その言葉にピクッと反応する天子。
瞬間、敬は畳みかけるように言葉を並べた。
「あぁ、言うなれば僕は契約社員ならぬ契約友達というわけだ。
つまり、この二人はとーっても悪い奴なんだ。
少しでも隙を見せたら食べられちゃうよ」
「おい、敬。流れるように嘘をぶち込むな。
つーか、さっきからお前なんだ。俺達をどう紹介したいんだ」
「その話が本当だとすれば、それを知ってて平然と紹介する貴様が一番恐ろしいがな」
「というわけで、二人には愛称を込めて”童貞”と調教師”と呼んであげよう」
「結局、そこに戻ってくんのかよ。後、ど、童貞ちゃうわ!」
「貴様は私をどれだけの変態だと思っているんだ」
敬の怒涛のボケに対し、ツッコみをする悠馬も宗次もついに疲れを見せ始め、大きくため息を吐いた。
すると、そんな二人の様子を見て、天子は三人の関係性を理解した。
(な、なるほど、この二人も”被害者”なんですね......)
そう思うと、悠馬と宗次に対してどことなく親近感を覚える天子。
敬の言動はとにかくトリッキーなことが多く、それで振り回されることも多い。
それこそ、天子に至っては直近でギャルになることを強要された。
もちろん、それは合意の上でやったことなので、天子が敬を責めることはない。
しかし、それはそれとしてそこはかとない疲れを感じるのも確か。
故に、そういう意味では、二人を恐怖対象として捉えるのは間違っていると言える。
「あ、あの、なんというか......大丈夫ですか?」
天子が思わず宗次と悠馬にそう聞けば、二人は一度顔を見合わせて答えた。
「まぁ、コイツが頭おかしいのはいつものことだからな。
それとぶっちゃけ呼び方はどうでもいいぞ。
お前だったら別に変な呼び方しないだろうし」
「私も構わん。それとこの態度は基本誰に対してもこうだ。
だから、もし威圧させてしまっていたとしたら申し訳ない」
「あ、いえ.......なら、男鹿さんと相沢さんで......」
「おう」「あぁ」
モジモジしながらも名前を呼ぶ天子に、悠馬と宗次は元気よく返事した。
すると、そんな三人が少しでも仲良くなった光景を見て、敬は腕を組みながらうんうんと頷いた。
「こうも簡単に三人の仲を取り持つとは......さすが僕だな」
「なぁ、宗次。犬甘がなんか言ってるぜ?」
「そうだな。犬甘など無視して私達三人で親睦を深めるか」
「あれ? もしかして僕は逆に距離置かれた?」
敬は二人に「冗談じゃ~ん」と陽キャみたいなノリで軽く謝り、その後悠馬と宗次から普通に説教受けた後、ようやく本題へと入った。
「さて、これにて自己紹介も済んだところで、早速親睦会と行きたいんだけど......大撫さんは準備オーケー?」
「はい。ちゃんと家族にも事前に連絡してあります」
「よし。ならば、これから大撫さんの友達増やそう大作戦を始めよう。
題して『ドキッ! 男だらけの放課後スポーツ大会! ポロリもあるよ』の始まり始まり~」
「「あってたまるか」」
一体いつの時代を生きているのかという敬のタイトルセンスにツッコむ悠馬と宗次。
もはやどこまでボケれば気が済むのかという具合であるが、ツッコみがいれば増長するのがボケマシーン敬である。
「とまぁ、これからラウン〇ワンのスポッチャにて色々スポーツをしようと思うんだけど、ただ遊ぶだけではつまらない、面白くない、草も生えないの三拍子だと思うので」
「別にそんなこたぁねぇと思うけど」
「ここでゲームをしてとある称号を決めようと思います。
そう、このスポーツの中で誰が一番カッコ良かったのかを」
敬はエアメガネクイッをし、決め顔で宣言する。
そんな状況に置いてけぼりにされているのは、聞かされている三人だ。
しかし、敬は遠くにいる三人に振り返ることなく全力疾走。
「やはり男たるもの女の子がいれば、キャーキャー言われたい生き物。
それこそ、今日の体育館で得た注目なんてものじゃ足りない。
僕は望むね『キャー、犬甘君、こっちにファンサしてー!』って言われるぐらいには」
「そうかぁ? 別にそんなことはねぇけどな、なぁ宗次?」
「そうだな。だが、貴様は普通に女子の声にニヤけていたがな」
「急にはしご外すじゃん......」
「ともかく! 僕達は男で生まれた以上、そういう宿命を背負っている!
ならば、ここは女子である大撫さんに決めて貰おうじゃないか!
この中で、一番のイ・ケ・メ・ソってのをな☆」
突然の大抜擢に、天子はすかさず敬を見た。
そして、視線で「そんなの無理ですよ」と訴えていく。
しかし、その視線が敬に通じことなかった。
なぜなら、そこにはいいことしたとばかりにウインクのサムズアップをかます敬の姿があったから。
そんな敬の態度に、天子は全力で顔を横に振って抗議。
しかし、敬はもはやそれは決定事項とばかりに天子の抗議を華麗にスルーする。
それから、天子から少し距離を取ると、悠馬と宗次を手招きした。
「急に呼んでなんだよ?」
「早く用件を言え」
「実はな、最後の締めにカラオケに行こうと思ってるんだ。
で、そこでゲームをする上でかかせない罰ゲームをやってもらおうと思ってる」
その言葉に、悠馬は眉を寄せて聞き返す。
「罰ゲーム? 今度は何をするつもりだ」
「大丈夫、変なことをさせるつもりはない。
ただ敗者には大撫さんの前で全力歌唱して欲しいんだ――『ギ〇ンティックO.T.N』を」
「き、貴様、それを私達に歌わせようというのか......!?」
「え、何それ?」
「実は最近懐かしいボカロ曲を聞いちゃってね。
あ、別に『聖〇爆裂ボーイ』でもいいけど」
「選曲の話をしてるんじゃない!」
極度の焦りを見せる宗次に、悠馬は片眉を上げる。
そして、その焦りの理由を宗次に尋ねた。
「だから、さっきから何の話をしてんだよ。ただの歌なんだろ?」
「まぁ、歌なのはそうなのだが......その曲の歌詞には少々......いやそこそこガッツリに下ネタ要素のある歌詞が含まれているんだ。
だから、それを貴様らの前で歌うこと自体は問題ないのだが、問題はそれをほぼ初対面の大撫でさんの前で全力で歌えと言っているんだ」
「おぉ、なるほど......そこで歌っちまえば、いよいよ変態だと認識されかねないな......」
「そういうことだ」
敬があまりにも男子中学生的発想をしていることに、若干引く二人。
されど、狂人の行動は止まらない。
「よし、賛成多数ということで決まりね」
「「賛成してないんだが」」
「勝てばいいだけの話だろ? それとも負けるのが怖いんでぇすかぁ~~~~?」
敬、最大の煽り文句。しかし、無表情のせいで威力は半減以下だ。
しかし、その言葉は何かと負けん気の強い悠馬と宗次にはよく刺さる。
その二人はギリッと敬を睨むと、すかさず言い返した。
「テンメェ......言ってくれるじゃねぇか。いいよ、やってやるよ」
「ふん、貴様に負けるのは癪だ。この程度のリスクで私が守りに入ると思うなよ」
「決まりだな。それじゃ、誰があの曲を歌うか。白黒ハッキリしようじゃないか」
そして、三人は天子の所に戻ると、早速四人で移動を開始した。
そんなラウンド〇ンへの行き途中、先行して歩く悠馬と宗次の後ろを見ながら、敬は隣を歩く天子に話しかけた。
「大撫さん、あの二人のこと......少しは慣れた?」
「はい。犬甘さんのおかげで、あの男鹿さんも相沢さんも優しい方とわかりました。
お二人とも犬甘さんには苦労されてるようですね」
「あれ? 今、言葉のナイフで刺してきた......?」
「あ、いえ、そういうつもりで言ったわけでは........無いと言いますか.......ごめんなさい」
「大丈夫。ちょっと口の中が血の味をするけど、僕は全てを受け止めるよ」
バツが悪そうに目を逸らす天子と、口を手で押さえてオーバーにリアクションをする敬。
どうやらさしもの敬でも女子から言われる言葉にはダメージを負うようだ。
しかし、バカはこの程度のダメージではへこたれない。
とはいえ、ちょっと回復猶予は欲しいので、敬は普通に返答する。
「ま、まぁ、これで大撫さんがあの二人と仲良くなれるのなら良かったよ。
僕は大撫さんの助けになりたいとは思ってるけど、全部が全部助けられるわけじゃないしね」
その言葉に、天子は首を傾げた。
「どういう......意味ですか?」
「そのままの意味だよ。
例えば、僕が先生に呼ばれていなかったとして、大撫さんは荷物運びを頼まれたとする。
しかし、それが大撫さんにとって持ち運べないものであれば、それを持てる人に頼ることになる。
そうした時、男友達が僕だけじゃ困ると思うからね」
「確かに、そうですね......話したことのない相手に頼るのは、まだ難しいと思いますし」
「というわけで、あの二人の出番というわけさ。
もちろん、いきなり仲良くなれってのは難しいだろうから、そこは僕も考慮する。
でも、これを機に気軽に話しかけられるほどになればいいかな」
そんなことを言う敬を、天子は横からじーっと眺めた。
そして、そっと口角を上げると、パァと背景に華を咲かせる。
「やっぱり、犬甘さんは優しいですね」
「え? そうかな? 僕としては実に当たり前のことをしてると思うけど」
「こんなのが当たり前とは誰も思わないですよ。
こんなに親身に寄り添ってくれるのは、きっと犬甘さんだからだと思います。
そんな犬甘さんだと思うから、私は頼ってしまうんだと思います」
「.......」
ニコッと変わらず笑みを浮かべ続ける天子。
そんな天子の表情を、敬は目を細め、じっと眺めつづけた。
そして、腕を組みながら、何かを考えるように顎に手を当てる。
「......うん、そうだな」
「どうしたんですか?」
そんな風にして声をかける天子を無視し、敬は目の前にいる悠馬と宗次に近づくと、二人の肩をガッと掴んだ。
瞬間、悠馬と宗次は振り返る。
「なんだよ急に」
「何か用か?」
「そりゃもちろん。唐突だけど、道中暇だしゲームをしよう。
題して『誰が一番大撫さんに”キモイ”と言われるか選手権』」
「いや、ほんとなんだよ急に」
「ついに頭イカれたか?」
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