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小さな文学少女が友達を欲しがっていたので友達になって、ついでに自己肯定感やら友人関係を整えたら想像以上の勇者になった  作者: 夜月紅輝


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クエスト22 「姉心、弟知らず」#6

「それじゃ、アタシらは帰るわ。ちっとばかし元喜と話したいこともあるしな。

 言っておくが、くれぐれも姫に危険が及ぶような――」


「はいはい、姉さん。拗らせはその辺に。

 皆さん、今日は本当にありがとうございました。

 この恩は忘れません。もし僕でも力になれることがあったら言ってください」


 そう言いながら、元喜は未だに敬に対し小言を言う姉の京華の背中を押し歩く。

 そんな光景に、那智は肩を諫めた。

 なぜなら、さっきまであったエモい話がなかったかのような空気になったからだ。


「ま、むしろあっちの姿の方がキョンキョンらしいけどね。

 さてと、それじゃ那智達も帰りますか」


「そうね。今日は慣れないことをして少し疲れたわ」


 那智は肩にかけていたスクールバッグをかけ直し、京華は両手を組んで大きく伸びをする。

 そんな帰る雰囲気に敬も便乗しようとすると、突然那智がビシッと敬に人差し指を向けた。


「ってことで、ワンコちゃんのボディーガードよろしく!」


「私達は天子と帰る方向逆だしね」


 その言葉に、敬は小さく手を挙げた。


「あの......その理論で言うと俺も逆なんですけど」


「おいおい、もうだいぶ暗くなってきたって時にワンコちゃんを一人で帰らせるつもり?

 それは男の子としてだいぶ魅力半減だぜ~?」


「それに、今の天子はギャルコーデでバフがかかってる状態。

 つまり、全身にはちみつを塗りたくっている状態も同じよ」


「その例えはどうかと思うけど......それもそうだな」


 敬は二人の言葉に納得すると、天子の方を見て改めて聞いた。


「大撫さん、どうかこの従者めに夜道のエスコートをさせてください」


「従者?......お、お願いします!」


 少し緊張した様子で返事をする天子。

 そんな天子の反応に満足した那智と夕妃は先にこの場を去っていく。

 すると、その後ろ姿を眺めながら敬は天子に話しかけた。


「大撫さん、改めて今日はお疲れ様」


「あ、はい!......でも、上手くいったのは犬甘さんの作戦のおかげや、協力してくれた那智さんと夕妃さんのおかげです。なので、私はその、皆がいたから――」


「大撫さん、素直に受け取っても大丈夫だよ」


 敬はあえて言葉を遮ることで、天子の自己否定的な発言を止めた。

 いや、厳密には自己否定はしてないが、自分の活躍を認めず、周りを上げようとする天子に、敬は少しだけムッとしたのだ。

 しかし、それは決して声のトーンに出さず、言葉を続けた。


「今回、大撫さんは一人の友達の弟の窮地を救ったんだ。誇っていい」


「ですが......」


「今回のこと、実は大撫さんに相談される前に、編ヶ埼さんから相談を受けてたんだ。

 弟の様子がなんかおかしいから、どうにかできないかってね」


「そう、だったんですか......」


「で、大撫さんにバッタリ会うまでは一人でどうにかしようとしてた。

 頼まれたのは俺だし、大撫さんを危険な場所に巻き込みたくなかったしね」


 敬は「続きは歩きながら話そうか」と言い、歩き出す。

 その隣をトコトコついていく天子は、少しして敬に質問した。


「なら、どうして私の言葉を受け止めてくれたんですか?」


「簡単だよ。大撫さんの勇気に中てられたから」


「勇気、ですか?......私にはそんなの......」


「どうやら気づいてないみたいだけど、大撫さんはなんだかんだ思い切った行動するよ。

 最初に僕に声をかけようと追いかけてた時もそうだし、挨拶の練習をした時もそう」


 天子が勇気を出したことなど、振り返っても意外とたくさんある。

 それを敬が一番知っている。出会ってからずっと近くにいたのだから。


 それを本人が自覚していないのは、あまりにももったいないことだ。

 故に、敬は言葉にして伝える。それが天子の魅力なのだから。


「そして、今回は友達の弟のピンチに大撫さんは立ち上がった。

 それこそ、僕が一度『危険だ』と忠告しても、それを振り切って前に出た。

 そんな勇気に中てられたからこそ、僕は大撫さんを信じることができ、作戦を託せた」


 そう言った敬は、自分の言葉にハッとして「あ、今まで信じてなかったわけじゃないよ!?」と慌てて言葉を付け足した。

 そして、最後に敬は()()()()()少しだけお茶ら気ながら言う。


「それに、大撫での勇気があったからこそ、きっと百式さんも涼峰さんも協力したんだろうし。

 そう考えると、やっぱ大撫さんは勇者だ。少なくとも、俺はそう思うね」


「......っ!」


 敬の言葉に対し、天子は目を丸くした。

 その理由は、敬の口元が笑っているように見えたから。

 もちろん、暗がりのせいの見間違いという線は濃厚ではあるが。


 とはいえ、そう見えたならなんだかそれを信じてしまいたくなる天子。

 なぜなら、敬はこれまで一度も笑ったことはなかったのだから。

 そして、もしそれが笑ったのだとすれば――


(な、なんででしょう.....胸がポカポカします......)


 天子はそう思いながら、重ねた両手を胸に当てる。

 これまで何度か味わったことのある優しく包み込むような温かさ。

 それが胸の内側から広がり、全身に渡っていく。

 特に顕著なのは顔だろうか。そこだけは暖かいを通り越して熱かった。


「ん? どうした?」


「あ、その.......なんでもないです」


「そっか......あ、そういえば、大撫さんのギャル姿を見るの初めてだわ。

 幸に見せてみたいから、写真撮っていい?」


「あの、それは........後で自撮りして送ります......」


 天子の頭からは白い湯気が出ていた。


―――翌日


 昼休みの時間に、京華から呼び出された敬は、外で昼食をする際に使う体育館裏に来ていた。

 その場所には呼び出された敬以外にも、天子、那智、夕妃の姿があり、さらに呼び出した張本人である京華は敬を見て「来たか」と呟く。


 そんな京花を見た敬は、視線をチラッと動かし、他の三人も手にお弁当を持っていることに気付くと、京華に聞いた。


「おっと、これは何の集会? さすがの僕も女子会男子は恥ずかしいよ?」


「違げぇよ。そのつもりで呼んだわけじゃねぇ。

 けどまぁ、そのまま移動だけで貴重な昼休みを使わせるのもなんだったから、弁当持って来れば? って提案しただけだ」


 敬の相変わらずの軽口に、京華は頭を掻きながらため息を吐いた。

 そして、敬が天子の隣に立ったところで、四人の前に立つとしゃべり始める。


「悪りぃな、急に呼び出して。

 四人を呼んだのは、改めて姉としてお礼を言いたかったからだ」


 そう言いながら、京華はビシッと気を付けをすると、そのまま勢いよく頭を下げた。


「弟を......元喜を助けてくれてありがとう。おかげでアタシが抱えていたモヤモヤも晴れた。

 それもこれも、四人の助けがあってこそだ。だがら......本当にありがとう」


「もう、大丈夫だよ~。那智達が勝手にやったことだし」


「えぇ、そうよ。それに友達の助けになりたいって思うのは普通じゃない」


「むしろ、私の方こそ勝手に首を突っ込んでしまってごめんなさい。

 ですが、助けになれて良かったです」


「という皆さんの意見だ。つまり、気にすんなってことさ。だから、もうこれで言いっこなしな」


 那智、夕妃、天子がそれぞれ返答し、なぜか敬が皆の意見をまとめる。

 そんな四人の温かい言葉に、京華はそっと顔を上げると、「そうか」と嬉しそうに笑った。


 すると、その話題で元喜のことが気になったのか、天子は京華に対して元喜の様子を尋ねた。


「そういえば、元喜さんは大丈夫なんですか?

 その一応あの時は上手くいきましたけど、昨日の今日で酷い目に遭ってないといいですが......」


「あー、それなんだがな......実は、さっき元喜からレイソが来ててさ。

 なんかギャル三人のことを教えてくれだかなんだかで、付きまとわれてるらしい。

 だが、決していじめを受けてる感じじゃないみたいだ。

 むしろ、性格が真反対になったみたいで気持ち悪いとか言ってたな」


 京華は元喜の近況を笑いながら話した。

 そんな元喜の様子に、ギャル三人こと那智、夕妃、天子はホッと安堵の息を吐く。

 また、敬はというと腕を組みながら、顎に手を当てうんうんと頷いた。


「やはり、男子中学生にとって女子高生......それもギャルという存在は魔女だったわけか。

 まさかこんな形でQ.E.D.が出来てしまうとは......人生何があるかわからないもんだな」


「犬甘.......」


「あ、いや、別に大撫さんをギャルにしたら面白いだろうなとか微塵も思ってません!

 いや、ぶっちゃけ似合うんじゃないかとか、可愛いだろ絶対とかは思いました!

 なので、半分下心で立案した感は否めません! 慰謝料払いますのでどうか許してください!」


「いや、名前呼んだだけだろ。後、その言い分は姫への被弾が凄いから止めろ」


 再び姫の自称護衛騎士の京華に怒られると思い、洗いざらい白状する敬。

 そんな敬の調子に京花は腰に両手を当てると、肩を諫めた。

 そして、顔を真っ赤にしている天子をチラッと見ながらも、あえて触れずに敬に話しかける。


「犬甘、今回はお前の機転で元喜は助かった。

 それに.......その、なんだ、アタシ自らの助けにも応えてありがとなっ」


 京華はそっぽを向きつつも、頬を朱色に染め、毛先を指でいじりながら感謝の言葉を述べる。

 その言い方は先程のような堂々とした感じらしさではなく、年相応の恥じらいがあった。


 そんな京華の反応に、那智と夕妃は珍しいものを見たとばかりに目を丸くする。

 しかし、すぐに顔をニタァと歪めると、京華にうざ絡みし始めた。


「おっと~? 男子相手にそんな女の子の反応なんて珍しいねぇ~。どうしたんだい~?」


「言ってやるな、那智。今までこんな機会なかったんだ。恥ずかしいんだよ。でしょ?」


 那智と夕妃、両サイドから京華の肩に手をかけ、ニヤニヤたっぷりの言葉責め。

 その言葉に、京華はプルプルと震え耐えつつも、数秒と持たず爆発した。


「だー! うるせぇー! アタシだってこんなん初めてで、どうやって反応したらいいかわかんなかったんだよ!

 けど、感謝しないとなんかスッキリしなかったし! これで終わりだ! 終わり!」


「えぇ~、もっと反応楽しませろよ~」


「ぶっちゃけ、京華をいじるのは楽しい」


「お前らなぁ!」


 キャッキャする那智と夕妃に対し、京華は顔を赤くしガァーと怒る。

 その時、そんな三人のやり取りを見ていた敬は思った。


(見えた! 隙の糸!)


 この瞬間、確かに京華をいじるための糸口は見えた。

 そして、それを楽しむ二人がいる。つまり、味方がいるということ。

 となれば、バカたるもの前進あるのみ。

 敬は京華の前にそっと立ち、右手を左胸に当てながら、ホテルの支配人のような挨拶でもって言った。


「どうも編ヶ埼さんの”初めて”を奪いました、犬甘敬です」


「ヒュ~~~♪ きっめぇ!

 だけどだけど、そっか~。キョンキョンは先に言ってしまったんだね~、うんうん」


「子供の成長とはかくも早いものね。あらどうしよう、来年にはおばあちゃんかしら」


「きめぇのはテメェら二人もだ! なんでこんなバカの悪ノリに付き合うんだ!

 .......あ、そういや二人ともアタシをいじるの面白がってたんだ」


「「「気づけて偉い」」」


「ぶっ殺す! そこに座れテメェらあああああぁぁぁぁ!」


 それから、大人しく正座した三人に、腕を組みながらガミガミと説教を始める京華。

 そんな賑やかな光景を天子は微笑ましそうに眺め、そのせいで昼食を食べ損ねるのであった。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)


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