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小さな文学少女が友達を欲しがっていたので友達になって、ついでに自己肯定感やら友人関係を整えたら想像以上の勇者になった  作者: 夜月紅輝


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クエスト19 「姉心、弟知らず」#3

 犬津高校二年、編ヶ埼京華。

 可愛い「物」もとい「者」好きが度を越していることが玉に瑕だが、生粋のギャルである。


 スタイルはモデル並みであり、それ故に異性からモテることも多い。

 しかし、鋭い眼光とヤンキーのような高圧的な口調が災いし、告白されることは少ない。

 するのは、主従で下僕を望む鍛えられた戦士(へんたい)のみである。


 性格は割にサバサバとしており、物事をハッキリ決断できる人間だ。

 つまり、Noと言える人間であり、誰に対しても基本物怖じせず言える。


 そして、その性格は環境が関係しているといえる。

 というのも、京華は編ヶ埼家において一番上だからだ。


 彼女の下には長男で中学生の元喜、さらに下に幼稚園児の双子の男児がいる。

 そんな弟達の世話をするのが彼女であり、また両親は基本忙しく家を留守にすることが多かったことも相まって、彼女は色々な決断をしなければいけなかったのだ。


 例えば、買い物の仕方、料理の献立、弟達のおもちゃなど。

 そんな世話を十年近くも続けていれば、弟達の変化など親よりも早く気付く。

 つまり、弟の変化に一番敏感に気づける人物とも言えるのだ。


「ただいま」


 エプロンをした京華がキッチンで夕飯の支度をしていると、玄関の方から元喜の声がした。

 その声に京華は玉ねぎを切る手を止め、サッと流し台で手を洗うと玄関に向かう。


「元喜、今日は随分と早いじゃねぇか」


「あぁ、姉さん......今日はちょっとね」


 元喜は硬い笑みを浮かべ、さっとすぐ近くの階段を上っていった。

 そんな元喜を見て、京華は眉を寄せ、腕を組む。


(アイツ......また傷増えてねぇか?)


 元喜の姿に、京華はそう思いながらため息を吐く。

 顎辺りに絆創膏を貼っているのもそうだが、そもそも家の絆創膏が減っている。


 つまり、それだけ使っているということなのだが、元喜本人にそれを問い詰めたところで意味なはい。

 なぜなら、以前問い詰めても本人は「遊んで転んだだけ」の一点張りだったからだ。


 元喜がそんなアクティブな人間じゃないことなど、姉である京華にはお見通しだ。

 だが、下手に問い詰めすぎて今後干渉できなくされる方が厄介なので、やはり聞くことはない。


(つーか、制服を着たまま汚れるってなんだよ)


 中学生にもなって、外で遊ぶことがわかっているなら普通はジャージにでもなるはず。

 仮に、いくらやんちゃしようとも、そこら辺の思慮分別は出来てるはずだが......。


「まぁ、さすがにアイツでも本当に困ったら言うだろ」


 京華はガシガシと頭を掻くと、夕飯の支度に戻った。

 そして夕飯の準備ができ、全員で集まって食事を取る。


 その際、京華の食卓ではなんとなくテレビをつけているのだが、その時のつけていたチャンネルで流れたニュース番組にて、別の県による学校のいじめ問題が取り上げられていた。


 京華はそれを眺めつつ食事を取り、時に隣に座っている双子の男児が好き嫌いするので、なんとか食べさせようとしていると、突然元喜が立ち上がった。


「ご馳走様」


 そう言って、元喜は食べ終えた食器を流し台に置き、まるで逃げるように二階へ上がっていく。

 そんな姿を、京華は弟の一人からパンチを食らいながら眺めていた。


―――翌日


(事態は思ったよりも酷いかもしれない。

 仮にそうじゃなくても、そうなる前には姉として止めなきゃいけない)


 昨晩、元喜の反応から悩んだ京華はそう判断し、行動に移すことにした。

 しかし、家族の距離感だからこそ言いづらいこともあるだろう。


 加えて、性別の違いも大きく影響している可能性もある。

 そう考えた結果、京華は一人の友達を呼び出した。


「どうしたの? こんな場所に呼び出して」


 放課後の時間。

 屋上に続く踊り場にて、京華が呼び出したのは敬であった。

 思いのほかすんなりと来てくれたことに、京華はホッと息を吐きつつ口火を切った。


「実はあんたに話したいことがあって」


「え!? もしかして告白!? やだなぁ、僕ってばそんな魅力的に映っちまったか」


「ちげぇ。アタシは紳士だっつってんだろ」


 いきなり両腕で自分を抱きしめながら、クネクネと動く敬。

 そんな敬の気持ち悪い言動にある意味安心しながら、京華は話を続けた。


「そうじゃねぇけど、重要な話であることは確かだ。それをあんたに聞いてもらいてぇ」


「それはいいけど......どうして僕なんだ?

 重要であればあるほど、それこそ百式さんや涼峰さんの方が言いやすいだろうに。

 それに、男子で僕を選ぶってのもね。他にも男子はいたでしょうに」


 その質問に、京華は左手を腰に当て、右手で首の後ろを触った。


「あー、それはなんというか......あの二人はアタシの事情にあんま巻き込みたくねぇなって。

 で、あんたを選んだ理由は、あんたが一番人畜無害そうだったからだ」


 その言葉に、敬は腕を組んで答えた。


「なんかそれは心外だなぁ......」


「いや、そこは逆に安心する所じゃねぇのかよ」


「だって、それは逆に捉えれば、何の意識もされてないってことだろ?

 それはなんというか......男としてのプライドに傷がつくと言うか。

 そもそも、俺にもちゃんと性欲はあるぞ?」


「は?」


 京華は眉を寄せつつ片眉を上げた。急に何言いだしてんだコイツ、と。

 そんな京華の反応を気にすることなく、敬は瞑目して答え始める。


「自慢じゃないが、俺はちゃんと女の子をエッチな目で見たことがある。

 それに、僕のスマホには年齢詐称してFA〇ZAの会員登録も済ませてある」


「ホントに自慢じゃねぇな。いっそきめぇ」


「後、ちゃんと編ヶ埼さんの谷間を見たこともあります!」


「おい、大声で気持ち悪いことを言うな!」


 京華は顔を赤くし、同時に両手で胸を覆い、そのまま上半身を捻って隠した。

 一体どういう神経で女子の前でそのようなことを平然と言ってのけるのか。

 表情が全く変わらないというのが本当に癪である。


「そんな僕でも本当に弱みに付け込まないと信用できますか?」


「スゲーな、自分でここまで信用ガタ落ちさせるなんて。ある意味正気じゃねぇよ」


 そう言いつつも京華は体勢を戻し、胸から両手を話すと、片手を腰に当てた。


「けど、それでもあんたはそこらの男子よりも信用できると思ってる」


「どうして?」


「あんたに性欲があるかどうかなんざ知ったこっちゃねぇ。

 けど、それでもあんたがアタシ達と接する時にそういう邪な視線は感じねぇし。

 それになにより、姫があれだけ頼りにしてる相手なんだ。それだけで信用は十分だ」


 その言葉に、敬は一つため息を吐くと、腕組みを解いた。

 そしてポケットに手を突っ込み、返答した。


「そうまで信用されちゃ期待に応えないわけにはいかないね。

 それに、そこで大撫さんを出すのはズルいと思うよ」


「ハッ、やっぱお前も姫には甘いんだな。

 んじゃ、用件を話させてもらうぜ。用件ってのはアタシの弟のことだ。


*****


「――じゃ、これで話は終わりだ。悪りぃな、勝手に家庭の事情を聞いてもらって」


 京華はそう言うと、一人先に階段を下りていく。

 階段の中段辺りまで降りると、振り返り敬を見上げた。

 同時に、ニコッと固い笑みを浮かべて。


「無理にとは言わねぇよ。アタシも期待半分ってところだ」


 京華は階段を降り、そのまま消えた。

 その後ろ姿を見ていた敬は、完全に姿に姿が消えたタイミングで階段に腰を下ろす。

 そして膝を太ももに乗せ、両手で口を覆った。


「ふぅー、思ったより後に引けなくなったな......」


 タイミングが良いと言うべきか、悪いと言うべきか。

 敬の考えでは、京華には悪いが、あのいじめには関わらない方向でいた。

 その理由はひとえに、天子を危ない目に遭わせないためだ。


 友達同士の些細ないざこざ程度なら、悩みの話を聞いてやればどうにかなるかもしれない。

 しかし、いじめとなれば勝手が別だ。


 それは明らかに、高校生が解決する範疇を超えている。

 それこそ教育機関がなんとかすべき問題だ。


 加えて、下手に関わって(やぶ)をつついて蛇を出すような行為はしたくない。

 それで一番の被害を受けるのは、十中八九天子であるからだ。

 故に、元喜とは関わってしまったが、今ならまだ引ける......はずだった。


(編ヶ埼さんが俺に助けを求めたのも、問題を大きくしたくなかったからだろう)


 京華がどういう家庭事情をしているかなど敬の知る由ではない。

 しかし、助けを求めてきた相手を無下にするほど、落ちぶれてもいない。

 それに、こういうことすら解決できなければ、きっと自分は変われない。


「......さてと」


 敬は立ち上がると、ポケットに手を突っ込みながら考え始めた。

 当然、その内容はどうやって京華の弟の元喜のいじめを解決するかだ。

 加えて、その際のクリア条件は”いじめを再発させない”こと。


(ハハッ、むっず......)


 もちろん、この場合の再発は、元喜が再びいじめられる状況を作らないことだ。

 しかし、どう考えても無理難題に等しい。


 元喜がいじめられる理由となった理由は、元喜の正義感によるものだが、それが悪いはずがない。


 では、いじめっ子の方をどうにかしよう......そう考えても、そもそも元喜にすら三人の行動理由がわかっていないのに、敬にわかるはずもなし。


「そもそも関わろうとすることすら難しいか。

 恐らく、ああいうことをするのは自分が優位に立って悦に浸るため。

 なら、高校生の俺が出たところで、勝てない勝負に挑みはしない」


 では、他にどういう解決方法があるか。

 全くないわけじゃないが、その方法は一人でやると決めた以上、選択肢から消えた。


「これは早期解決は難しいかなぁ......でも、間に合わなくなるのが一番最悪だし......う~ん」


 敬は腕を組み、う~んと唸り続けた。

 あれこれと考えては、客観的な視点でメリットとデメリットを考え、少しでもデメリットが上回れば、その案は棄却する。


 それを考える度、棄却案ばかりが増えて、一向に解決案が出てこない。

 そして一度前提に戻れば、そもそも一人で解決することは無理となり、今度はそこから思考しなければいけない。


「ここで悠馬と宗次を関わらせるのは絶対に悪手だ。

 それを最終手段に使うにしても、まずはいじめっ子達の背後関係を洗うことになり、そのために宗次の手を煩わせるのは友達としてダメだ」


 敬の友達の宗次は、現在この学校に通う一年生のとある女子生徒に仕える執事である。

 つまり、ここで宗次の手を借りると言うことは、ただの私情で宗次の主の権力を振るってもらうということだ。それだけはない。


「ハァ......一旦落ち着くか。少ししたら何か妙案が思い浮かぶかもだし――っ!?」


「ひゃっ!」


 敬が曲がり角をぶつかった瞬間、小さな何かが思いっきりぶつかった。

 直後、その何かは敬に跳ね飛ばされ、尻もちをつく。


「大撫さん......大丈夫?」


 敬は目の前で座る天子に気付くと、すぐさま手を差し出した。


「ごめん、よそ見してた」


「いえ、こちらこそ急いでたので......ごめんなさい。そして、ありがとうございます」


 天子は敬の手を取り、引っ張り上げてもらうと、お尻を軽くはたく。

 そして両手に持つ本をギュッと握ると、敬に視線をぶつけた。


「あ、あの! 犬甘さんにお話があります!」


「え?」


 天子から送られる強い眼差しに、敬はビクッと動揺する。

 そして、思ったのは――


(あれ? なんか怒られる?)


 普段見ない天子の強気のオーラ。

 それこそ、いつもの会話でも目が合うことが少ないのに、今やここぞとばかりに目線を向けてくる。

 そんなのもはや怒っているしか選択肢はないだろう。


 天子は敬の腕を掴むと、キョロキョロと辺りを見渡す。

 ハッと何かひらめいたような顔をすると、先導するように敬を引っ張り、移動を始めた。


「あの、こっちです」


 天子に連れていかれるままに歩く敬。

 それから数分後に辿り着くと、敬はすぐに思った。


(よりによってまたここかよ......)


 敬がやってきたのは、たった数分前に京華と話した屋上のドア前の踊り場だ。

 そこに今度は天子と二人でいる。となれば、おのずと内容は一つ。

 その話題に踏み込んだのは、当然天子だ。


「い、犬甘さん......私、これまでずっと犬甘さんに言われたことを考えていました。

 正直、犬甘さんの言っていることは最もだと思いますし、犬甘さんが私の身を案じて言ってくれてることも理解しています」


 天子は持っている本に言葉をぶつけるように、しゃべり続ける。

 しかし、それもここまでの話。直後には、一気に顔を上げ、敬を見た。


「ですが、私はやっぱり助けたいって思います!

 京華さんは私の初めての同性の友達で、その友達のご家族である元喜さんが痛い思いをしている。

 しかし、元喜さんは家族に迷惑をかけまいと、京華さんに伝えることはしません」


 天子は本を強く握った。瞬間、語気も強くなった。


「なら、今の元喜さんを一体誰が救ってあげるんですか!?」


「大撫さん......」


「無茶も無謀も理解しています。それに、私は一人では何にもできません。

 今だって犬甘さんに色々お世話になっていて、それこそ迷惑もかけっぱなしです。

 ですが! それでも! 私は私に出来る範囲でいいから助けたいと思います!」


 瞬間、天子は思いっきり頭を下げた。


「どうか私と一緒に元喜さんを助けるのに協力してください!!」


 その言葉は僅かに周囲の壁に反射し、こだまするように響いた。

 そんな天子に対し、敬はいつものお茶らけた雰囲気は一切出さず、言い返す。


「大撫さん、前にも言ったけどそうした勇気を持つことは素晴らしいことだ。

 これからも是非大切にして欲しいと思う。けど、僕としてはやはり反対だ」


「......」


 天子は下を向き、口を堅く結ぶ。

 やはり「はい」や「わかりました」と言わない辺り、やはり相当な覚悟を持っているようだ。


 そして、その気持ちは十分すぎるほど敬に伝わっている。

 故に、彼は後少しだけ、自分が一歩を踏み出す勇気のために、言葉を求めた。


「だから、もう少しだけ覚悟を問いたい」


「覚悟.....ですか?」


 敬の言葉に、天子はそっと顔を上げた。

 天子と目が合ったタイミングで、敬は続きをしゃべり始める。


「天子さんはさっき色々考えたと言ったね。

 それじゃ、元喜君を助けるために勇気を振り絞って、ある程度体を張ることを覚悟してる。

 僕はそういう認識でいるけど、それで合ってる?」


「はい。私に出来ることなら。必ずやります」


「例えそれがどんな結果を生み出そうとも?」


「危険であることは承知の上です。

 私の体もこんな小ささですし、中学生の男の子にだって力負けすると思います。

 それでも、それぐらいのリスクくら負わなければ、助けられないのであれば、私はそのリスクを負います」


「っ!」


 ハッキリと言い切った天子に対し、敬は目を剥いた。

 そして片手で両目を覆うと、大きく息を吐いた。

 そんな敬の態度に、天子は眉尻を下げる。


「......やっぱり、ダメ、ですか......そうですよね」


「いや、そうじゃない。これはどっちかっていうと感嘆のため息さ」


「?」


 敬の言葉に、天子が首を傾げていると、敬はその場に跪いた。

 そして、敬は思う。


(編ヶ埼さんには悪いことをするなぁ)


 これからやることはきっと京華の本意じゃないことだ。

 しかし、この覚悟の前ならば、後でどんな罰も受けよう。

 だから、今はただ真っ直ぐに自分の気持ちを。


「やはり大撫さんは勇気ある(ひと)だ。

 そんな勇気に当てられちゃ、応援してやりたくなるなるのが人間ってもんさ。だから――」


 敬は右手を心臓に当て、左手を天子にそっと差し出した。

 その姿はさながら勇者に仕えることを決めた道化師のよう。


「その勇気に、是非僕も関わらせてください。大撫さんの勇気に応えたくなりました」


「っ!.......はい、こちらこそよろしくお願いします!」


 天子はパァッと嬉しそうな顔をし、敬の手を取った。

 そのまま敬が立ち上がると、しばらく二人は通じ合ったように目を合わせる。


 しかし、それも数秒と続かず、次第に恥ずかしくなり顔を赤くする天子。

 それから手をサッと離すと、彼女は本でニヤニヤした口元を隠しながら、敬に質問した。


「それでその......いきなり頼ってしまって申し訳ないんですが、これからどうすればいいのでしょうか?」


 そう聞かれるやすぐに、敬は右手を左胸に当て、頭を下げる。

 その姿は主に仕える執事のようであり、その体勢のまま答えた。


「ご安心を、一つだけ妙案がございます。

 ですがその場合、勇者様には少し体を張っていただく必要がございます」


「大丈夫です! そのぐらいは覚悟してます! 自分でも言いましたし」


「左様で。では、まず作戦名から告げましょうか。

 名付けて『いじめっ子性癖破壊(ブレイク)です」

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)


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