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小さな文学少女が友達を欲しがっていたので友達になって、ついでに自己肯定感やら友人関係を整えたら想像以上の勇者になった  作者: 夜月紅輝


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クエスト17 「姉心、弟知らず」#1

 放課後に集団で遊びに行った翌日の昼休み。

 現国の授業が終わり、天子が使った教科書を机に閉まっていると、机の横にかけているスクールバッグのポケットに入れてるスマホから音が鳴った。


 天子はスマホを手に取り、画面をタップ。

 真っ黒の画面から購入時から変わらない花の画面を表示する。


 すると、その画面にはレイソによる通知が来ており、その相手は昨日の遊びの帰りに友達登録した那智からであった。


『やっほー、ワンコちゃん元気〜? 良かったら、お昼ご飯食べない?』


 天子は内容を確認すると、チラッと後ろを振り向いた。

 そこには座る夕妃の近くに集まる京華と那智の姿がいる。

 そして、那智は天子の視線に気づくと、スマホを持つ左手を小さく振った。


 そんな反応に、天子はペコッと軽く頭を下げる。

 それから、スマホのロックを解除し、レイソのアプリを開いた。

 そして返信しようとしたその時、突然手が止まった。


(そういえば、ここ最近は犬甘さんとずっと食べてました......)


 ふとこれまでのことを思い出し、そう思う天子。

 これまでの天子は敬しか友達がいなかったため、敬が気を利かせて誘ってくれていた。

 しかし、それは昨日までの話で今は違う。


 京華、夕妃、那智というギャルの友達が出来た。

 加えて、昨日の放課後は自分のコミュニケーション能力に不安があったため、敬という潤滑油が必要であった。


 だが、もう既に夕妃と那智の人となりは知っているので、必要かと問えば必要では無い。

 とはいえ、天子にとって敬はすっかり本代わりみたいな存在だ。


 それこそ、等身大の本と言っても過言では無い。

 故に、いてくれれば安心する。

 しかし、そうまでして敬を頼るのもどうなのか。


 天子がスマホ画面とにらめっこしながら、敬を誘うかどうか葛藤し始める。

 その瞬間、スマホに新たな通知が来た。その相手は敬だ。


『大撫さん、スマン! いつもなら昼休みを一緒に過ごしてると思うんだけど、ちょっちゅ用事出来たから適当に過ごしてくれ。あ、いつもの場所使っていいよ』


「犬甘さんは用事か……」


 結局誘おうと思っていた相手からの昼食キャンセルに、天子は少しだけ眉尻を下げた。

 しかし、相手が用事なら致し方なし。

 天子は那智のレイソに返信して、いつも敬と昼休みを過ごす場所で昼食を取る事にした。


――数分後


 天子はいつも敬と食べている体育館外の階段にやってきた。

 そこにはいつもの顔ぶれでない京華、夕妃、那智の姿があり、那智が一番最初に階段に座った。


「そういや、レイソで誘ってごめんね〜。

 本当は直接声かけようかとも思ったんだけど、なんか変に見られそうでねー」


 那智はそう言うと、天子に自分の隣に座るようポンポンと階段を叩いた。

 その行動に促さされるままに、天子は隣を座ると、那智の言葉に返答する。


「いえ、謝る必要はないですよ。こうして誘ってくれただけでも嬉しいです。

 でも、私の心がもっと強くなったら教室とかで一緒に食べたいとは思ってます」


「そうかそうか、なら人の目を気にしなくて済むぐらいもーと仲良くならないとな!」


 那智は天子の返答に嬉しそうに抱き着いた。

 すると、天子の横に座った夕妃も那智に続いて言葉をかけた。


「いいわね、天子にBLの世界へ案内してあげる」


「おい、姫をお前の沼に沈めるな。後、しれっと隣に座るな」


 京華は夕妃の言葉に鋭くツッコむ。

 加えて、姫の自称紳士は腐の因子を持つ夕妃が隣に座ることが不満の様子だ。


 しかし、そう指摘しながらも特に天子から引き離すこともなく、京華は夕妃の隣に座ると、お弁当を食べ始めた。

 そして、全員がお弁当を丹部始めたところで、天子は皆のお弁当を見て口を開く。


「なんというか、皆さんお弁当なんですね。特に、那智さんはおっきいですし」


「那智は食に関してはガチ勢だからね」


 天子の質問に、那智はサムズアップして答えた。

 那智の弁当は一言で例えれば、運動会のお弁当だ。


 三段弁当のうち、上と中間は色々なおかずで敷き詰められており、下段は真っ白なご飯の中央に梅干しがポツン。まるでおせちのようだ。


 運動部の男子ですら早々食べない量を、那智は一人で食べている。

 そんな那智の姿を見て、天子は那智が色々と大きいことを理解した。


「那智のやつ、これで毎日だぜ? 正直、那智一人でうちの家族の弁当が足りそうだ」


 那智のお弁当を見て、京華は肩をすくめる。

 すると、卵焼きをパクッと食べた夕妃は、天子のお弁当を見ながら質問した。


「天子のそのお弁当は、天子が作ってたりする?」


「はい。そういうのが好きで……皆さんはどうなんですか?」


「私は弟だけど、二人は確か作ってるんだったよね?」


 夕妃がそう聞くと、質問された那智と京華は答えた。


「もち、食ガチ勢だからね」


「アタシんところは、チビどもが多いからな。昔っから作っててその延長で今もって感じだ。

 だから、自分の好きで作ってる姫は凄い。そして、そのキャラ弁可愛い。姫最高」


「急に気持ち悪い感情吐き出すなー」


 そんなこんなで、特に困る様子なくギャル達と会話を続ける天子。

 その会話は天子にとって初めての楽しい女子会と言えた。


 というのも、会話することに慣れてきたこと。

 ギャル達が和気あいあいとした空気感を出していること。

 それらが天子が気にしていた空気を壊すという懸念もなくなったからだ。


 それが天子の楽しいゲージを上昇させ、今や箸が転がっても笑ってしまうような気分にさせている。


 しかし、そんな楽しい会話は、ある話に入ると少し状況が一変することになる。

 その話題の口火を切ったのは那智であった。


「そういや、話してて思ったんだけど、京華ってワンコちゃんとレイソ交換したっけ?」


「不味い、してない! これじゃ姫を守れない! 姫、どうかこのアタシとレイソ交換してください!」


「あ、はい……」


 京華の圧に押されるままに、天子はレイソ交換した。

 京華のレイソの友達登録に天子の名前が入ると、京華は二ヘラァと気持ち悪い笑みを浮かべる。


 そんな京華を見て、那智はニマニマしながら「んじゃ、グループ作るね」と言って友達グループを作り、そこに爆弾を投稿した。


「あー、うっかり昨日のプリの写真送っちゃったー」


 那智がわざとらしく投稿したのは、天子と一緒に撮ったプリクラだった。

 そのプリクラでは、手前にいる天子と夕妃が互いに片手を合わせてハートを作っている。


 また、その後ろでは敬と那智ぎ両手の拳を顎に合わせてぶりっ子ポーズ。

 そんな仲睦まじいの様子のプリクラを見て、京華は発狂した。


「羨ましい〜〜〜!!!」


 そう叫ぶと同時に、京華は立ち上がり、夕妃の前に立つと、スマホで拡大したプリクラ見せた。


「おい、夕妃! お前、何勝手に姫とハートポーズ決めてんだ!こんなこと許可した覚えはねぇぞ!」


「黙れユニコーン。私は天子と楽しさを共有しただけ。あの時いなかった京華が悪い」


「あの時は色々とやむを得ない事情があってだな……だが、普通は全員が集まった時にだろ!?」


「それは那智がいたから仕方ない」


「仕方ないなぁー。ぶっちゃけ京華がうるさいって分かってたし、ちゃんと京華入りの写真あるよ」


 プンスカと怒る京華に対し、那智はスマホを操作し、新たにグループにプリクラを投稿した。


 すると、そのプリクラは加工されており、プリクラの僅かな空きスペースに、さながら集合写真で欠席した生徒の如く京華の写真が貼られていた。


「いや、そうじゃねぇよ! アタシが入ってないことを確かに気にしたけど、それで納得するわけねぇだろ!」


 京華、すかさず怒りのツッコミ。

 しかし、那智はその怒りに特に反応をせず、眉尻を下げながら返答した。


「えー、てっきり自分がいないから怒ってたと思ってたのに。ね、ワンコちゃんもそう思うよねー?」


「え!? わ、私ですか!? 私は……その……」


 突然、那智から話題を振られて焦る天子。

 そして、ご飯を摘もうとした箸を止め、回答を探し始める。

 そんな天子を擁護するように、京華が割って入った。


「おい、姫を困らせるな。姫はそんな事思わない」


「あれじゃない? 那智、生産者の顔が見えないからだと思う」


「なーる」


 夕妃に指摘され、那智は新たな写真をレイソに投稿した。

 その写真とは、加工アプリで顔が一部獣っぽくなった敬のピース写真であった。

 昨日の放課後に那智がノリで撮ったものである。


「はいこれ。京華(ハナハナ)の写真を加工してくれた人」


「いや、だから野菜を作ってくれた人の顔が見えなくてキレてんじゃねぇんだよ! 怒涛にボケ続けるのやめろ!」


「はい。オマケにこれワンコちゃんのニャンコ写真」


「悪い、アタシが、浅はかだった。那智、あんたは最高の友達だ」


 京華は那智が投稿した天子のソロ写真を受け取ると、膝から崩れ落ち、スマホを両手を持って天を仰いだ。


 その京華の姿に、那智は「チョれぇ〜」とケタケタと笑い、隣にいた天子は微妙に空気についていけず苦笑いしながら、とりあえず京華入りのプリクラと敬のソロ写真を保存した。


 すると、そんな京華を見ていた夕妃が、京華を可哀想な人を見る目をしながら聞いた。


「京華、そんなんでもし天子に彼氏出来たらどうするの?」


「姫に彼氏なんかいねぇよ! 一生いねぇ! ふざんけんな!」


「急にユニコーンの角とんがらせて突っ込んでくるの止めて」


「コイツの情緒どうなってんだ」


 京華の反応に、夕妃と那智はドン引き。

 直後、那智はチラッと置いてけぼりの天子を見ると、その話題を振った。


「天子ちゃんだって恋ぐらいしたいよね?」


「え、あぅ、私は……」


「嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌!! 姫に彼氏なんて出来ない。

 一生のこのまま身も心も純潔なの。強いて、認めても処女受胎」


「なぁ、夕妃(ユウユウ)早く何とかしないとダメじゃないか?」


「いや、もう手遅れかもしれない」


 京華の痴態に、夕妃と那智は二度目のドン引き。

 すると、今度は回答を真面目に考えていた天子は、今の気持ちを正直に吐き出した。


「私は……その、そういうことを今は考えていません。

 そういうことが出来るような人になれたわけじゃないし、それ以前にやるべきことがある気がしますから。

 ですが、全く興味が無い訳では無いので……その、もしそういう、す、素敵な人が現れたら、してみてもいいんじゃないかな……って。あ、ごめんなさい、真面目に考えて!」


「いいよいいよ、それでこそワンコちゃんだから。あーホント可愛いなぁ!

 恋に興味あるかー。なら、その時が来たら全力で手伝っちゃるよ」


「害獣駆除は任せて。すぐさま角へし折ってくるから」


 天子の言葉を聞いた夕妃と那智は、あまりの純粋さに二人して天子の頭をワシャワシャと撫でた。


 その行為に天子が満更では無い顔をしているその一方で、三人の正面で立ち膝する京華が、苦しそうに右手で胸を抑えながら口を開いた。


「そ、そうか……姫がそういう気持ちでいるなら、姫の気持ちを一番に考える以上、アタシは姫の気持ちを優先する。

 だから、アタシは姫に好きな人が出来たなら止めない!」


 その言葉に、夕妃と那智はすかさず顔を見合せた。


「聞いた那智? このユニコーンはまだ症状を緩和できるかも」


「聞いたよユウユウ。まだ救いがあるかも」


「ただし!」


 瞬間、京華から発せられた言葉に、夕妃と那智は「流れ変わったか?」と思ったような顔で、再び京華の顔を見た。

 そして、キリッとした顔をする京華の口から飛び出た言葉は――


「その相手が姫に取って相応しいかチェックさせてもらう。

 容姿、性格はもちろんのこと、成績、運動能力、家族構成、姫のために何を捧げられるか、その他諸々全てをな!」


「ダメだ、那智。やはり手遅れだ。体を抑えておいて。

 今すぐあの厄介ユニコーンの角をへし折るから」


「了解。せめて那智達が楽にしてやるからな」


 那智がすかさず京華を羽交い締めにすると、夕妃が京華の額辺りの空を握り、見えない角をへし折り始めた。

 すると、それに抵抗するように京華は足をバタバタとさせる。


 もはややってることは男子中学生の茶番のようなものであり、京華は現在進行形で痴態を晒し続ける。


 そんな中、天子はこれまでの人生の中でなかった昼休みを経験し、三バカの楽しそうな雰囲気を見て、これが三人の友達の空気感だとわかると楽しそうに笑った。


*****


 時間は経過し、下校時間。

 以前敬がおススメしたクレープを天子が気に入り、今度は天子から敬を誘っての二度目の放課後デートが行われ、そして今は帰り道の住宅街を歩いている最中だ。

 もっとも、天子に放課後デートの意識など微塵もないが。


「――という話をしたんです」


「それはそれは、なんとまぁ面白い話だね」


 天子が話したのは昼休みでの楽しい出来事だ。

 京華が相変わらずヤベー奴であり、那智がドカ食い毒舌部であり、夕妃が厄介ユニコーン駆逐人という話。


 結果から言ってしまえば、その会話の中で天子がしゃべった部分はは少ない。

 しかし、その時の昼休みが楽しかったという気持ちは本物のようで、天子は終始ニコニコと笑みを浮かべながら話していた。


 そんな天子の姿は身長差も相まって、さながら父親に小学校の楽しかった出来事を話す小学生のようであった。


 一方で、敬はというと天子の話す姿を横目で見ながら、うんうんと頷き、時折大きくリアクションを取った。


 そして、全ての会話を聞き終えると、敬は気になった部分をピックアップして話題を広げる。


「さっき話を聞いてて思ってたことだけど、大撫さんって恋愛をしたいと思ってるの?」


「えっ!?」


「あ、いや、純粋に気になっただけというか......答えづらかったらごめん」


「いえ、別に......そういうわけでは......」


 そう否定する割には戸惑いが隠せていない天子。

 時折、赤らめた頬でチラッと敬の様子を伺っては、目を逸らし、両手の五指を合わせモジモジ。

 そんな天子の様子を見た敬は、天子が答えるよりも先にしゃべり出した。


「正直、大撫さんが恋愛したいというのなら、大いに賛成だ。

 いずれ、僕の男友達を紹介する機会が来るし、僕が知らないところで男子と関わることがあるかもしれない。でしょ?」


「それは.......まぁ」


「それに、今が友達作りがメインとはいえ、いつかは友情の垣根を超えた気持ちを抱えるかもしれないし。

 そう考えると、恋愛は青春クエストの醍醐味とも言えるかもね」


 敬のしゃべる声色は高く、明るい感じであった。

 故に、敬がデフォ無表情であることを知っているからすれば、相変わらずバカなことを言っていると思われるような発言だ。

 しかし一方で、天子は敬の発言に少しだけ違和感を感じた。


(今......冷めた目をしていたような気が.......)


 敬が話している際、目を見た天子が思ったことだ。

 別に、恋愛を視野に入れた天子をバカにしているようでも、恋愛に対して嫌悪感を抱いてるような感じでもない。


 しかし、どこか熱が無かった。

 これまでのバカをやってる時のテンションと違った。


 それだけは今の天子にも理解できたことだ。

 逆に言えば、その程度ともいえるが。

 それは敬との友情度が足りない故にわからないことなのか。


 天子はなんともいえないむず痒さを感じつつも、それ以上はまだ踏み込めないと思い、その場で気持ちの足踏みをする。

 そんな天子を、敬が怪訝そうに見ていると、風に流れて声が聞こえた。


「ん?......なんかよくない声が聞こえたような」


「どうしました?」


「......ごめん、大撫さん。少し寄り道していい?」


 敬の提案に、天子はコクリと頷く。

 了承を得た敬は手前の道を右に曲がり、聞こえた声がする方に足を進めた。


 すると、近づくほどその声が複数と分かり、同時にその声が近くの公園からすることに気付く。


 そして、二人が曲がり角から公園を見た光景は――地面に一人うずくまる学ランを着た男子と、その子を取り囲む同じ格好の男子三人組のイジメ現場であった。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)


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