クエスト15 戦士と僧侶と魔法使いが仲間になった#3
「んじゃ、今更だけど改めて。アタシは編ヶ埼京華だ。
呼び方は、財布でもATMでもペットでもいい」
「出オチやめろ~。那智は百式那智って言うよ。那智でいいよ」
「私は涼峰夕妃。私も夕妃でいい。よろしくね」
しばらくの間長い茶番があったが、京華、那智、夕妃の三人は改めて自己紹介した。
その言葉に、天子は丁寧に頭を下げる。
「私こそ、お願いしましゅっ!」
((((噛んだ))))
この時、天子以外の四人の心の声がユニゾンする。
一方で、噛んだことに気付いた天子はカーッと顔をリンゴみたいに赤くし、手元に持っていたお守りでもって顔を隠した。
((((可愛いかよ))))
またもや心の声がユニゾンする四人。
これが可愛いは全てを救うということなのかもしれない。
とはいえ、全員が天子の可愛さに浸っていれば、天子が居たたまれない気持ちになる。
なので、その空気を壊すために、一つ咳払いした敬が口火を切る。
「さて、無事友達になれたことだし、どうすっか」
敬が腕を組み、今後の展開を考え始めれば、そこにツッコんだのは京華だった。
「どうすっかって帰るに決まってるだろ。何言ってんだ」
「そっか~。帰るのか~。いやさ、せっかく友達になったばかりだってのに、このままおさらばってのもな~~~.......ってさっき大撫さんが言っててさ」
瞬間、言った覚えのない言葉に天子がバッと敬を見る。
そして、必死に目線で訴えた。
『犬甘さん! 突然何言うんですか!?』
と、言っている気がする。
なので、敬は――
『バッチリお膳立てしといたぜ。これで誘ってみればどうだ?』
敬は腕を組んだままサムズアップを送り、ついでにウインクで視線を送り返した。
すると、その視線の意図を汲んだ天子は唾をゴクリと飲むと、震えた声で言い始めた。
「あ、あの、その......もし良かったらなんですが、その放課後とか、もう少しお話出来たらな~と......どう、ですか?」
天子は緊張で赤らめた顔のまま、上目遣いでギャル達を見た。
もっとも、身長差で勝手に上目遣いになってしまっているだけだが。
そんな小動物感溢れ、ついでに庇護欲溢れる天子の言葉の矢は、容易くギャル達の心を射抜く。
「もち」
「そうね。なら、もう少しだけ」
那智は腕を伸ばしサムズアップして答え、夕妃も静かに頷いた。
そんな中、狂信者である京華だけが腕を組み、非常に難しい顔で悩んでいた。
「う~~~~~~ん、その、なんだぁ......行きたいのは山々なんだが、アタシらガキンチョどもが多くてさ。
いや、前までだったら適当に弟に押し付けて行ってたと思うんだが.......」
「あ、あの、無理にとは言いませんし......それにまたその一緒にとか」
「っ!?」
天子がそう声をかければ、京華は体を震わせ、膝から崩れ落ちた。
そして、両手で胸を押さえつけるようにして悶え始める。
「そんな......アタシなんかにもったいない御言葉。姫、次は......次こそは必ず行きます!
そして、その時は全てアタシの奢りです! いや、奢らせてください!」
涙ながらに天子に懇願する京華。
そんな様子に、当の天子はというと「はは......」と若干引く。
その一方で、敬はというと良いことを聞いたとばかりに割って入った。
「それじゃ、焼き肉行くか」
「殺すぞ、お前」
敬、空気の読めないバカをやったばかりに殺害予告をされる。
ギリッと睨む京華の目に、敬はそっと目を逸らした。
しかし、そんな茶番が一通り終わると、京華は背中を丸めながら帰っていく。
その後ろ姿を眺める天子は、廊下の方を向いたまましゃべり始めた。
「あの......このまま遊びに行ってもいいんでしょうか?」
「いいんじゃね? たまたま都合が悪かったってだけだろうし」
「それじゃ、あんまり遅くなる前に私達も移動しましょう」
「んじゃ、僕は帰るよ。大撫さん、楽しんでってね」
那智と夕妃が移動を始めるというので、邪魔者はクールに去るぜとばかりに敬は帰ろうとする。
しかし、その行動を敬の裾を掴む小さな手が制止させた。
敬が振り返れば、そこにいるのは当然天子である。
「あの......帰っちゃうんですか?」
「え?」
天子の言葉に、敬の思考は一瞬フリーズする。
いや、正確には天子の仕草も含んでいるというべきかもしれない。
なぜなら、敬の脳内には、今の天子がスモックを着ているように見え、さらに懐いた大人に寂しさを露わにするように見えたからだ。
(な、なんだ.......この、悲しませるのが辛いという感情は!?)
敬は天子の姿を見てはそう思った。
現在、天子という園児が敬という幼稚園の先生に懐いており、「帰りたくない」と言っている。
そこまで懐いてもらえたなら、それは先生冥利に尽きるというもの。
しかし、那智と夕妃という保護者がいる以上、まだ構ってあげたくても送り出さなければいけないという悲痛さ。
(こ、これが父性というものなのか......!?)
敬、レベルアップにより父性を覚える。
もっとも、相手に対しての攻撃力は無く、自傷ダメージしか与えないが。
敬は体ごと向き直すと、思春期男子らしい言い訳をした。
「けど、僕は男子だし......大撫さんもせっかく得られた同性の友達なんだから、僕なんか気にせず行ってもいいんだよ?
ほら、女子同士の方が話しやすいこともあるだろうし」
「それは.....そうなんですが.......」
天子は言葉を尻すぼみにし、やがて引き結ぶと、顔を下げた。
しかし、表情とは裏腹に手は依然として敬の裾を掴んだままだ。
その時、天子の表情から何かを察した那智は、そっと敬の肩に手を置く。
「まぁまぁ、犬甘君が気にしちゃうのもわかる。
だが、考えてみぃ? 世の男子がギャルと関わる機会はそう多くない。
ましてや、陰キャほど。しかし、今は絶好の機会が巡って来た。
それも両手に華どころかワンコちゃん付きの役満チャンス。逃す手はなくね?」
「っ! 確かに......人生一度切り。それこそ高校生活なんて今だけだ。
なら、乗るしかねぇ! このビッグウェーブに!」
同行する口実を得た敬は、一気に遊び人モードへのスイッチが入る。
しかし同時に、敬はこうも思った。
(とはいえ、さすがに女子会男子みたいなポジションは苦手だな)
敬とて女子に囲まれる状況には若干の抵抗はある。
特に、ヲタクの敬にとってギャルの話題にどこまでついていけるか。
いや、そもそもついていけると思う事がうぬぼれかもしれない。
であれば、ついていける存在になればいい。
では、ついていける存在とは何か? そんなの決まっている。
なるしかあるまい――自分も女子に。
「よし、そうと決まれば、僕――ギャル子になる!」
「どうしてそうなる」
「ブフォッ」
敬の意味不明な思考回路にツッコむ那智と、その横で浅い沸点で吹き出す夕妃。
また、その敬の言葉には、天子も裾から手を放すほど頭にはてなマークを沢山浮かべた。
一方で、そんな三人を置いていくように、敬はスクールバッグからジャージの上と輪ゴムを取り出し、ジャージの上は腰に巻き、輪ゴムは前髪を上げるよう縛って止める。
そして、最後は両目の少し上に、横向きのピースを添えれば完成。
その姿はさながら完璧で究極のアイドル。
「犬甘敬改め、犬甘敬子。うちのことは敬子でよろ☆」
「お前、狂人かよ。仏頂面だから余計に印象酷いぞ」
「ブッフォ! くふふふふふ、あははははは!」
めっちゃ毒を吐く那智と、バカウケしてお腹を抱えて笑う夕妃。
混沌というものは、いとも簡単に作り出されるものである。
すると、敬はポーズを決めたまま、天子を見る。
「大撫さん、うち可愛い?」
「……あ、はい、可愛いです」
「ワンコちゃん、乗らなくていいよ」
天子は若干反応に困りながらもしっかり返答し、そのことに那智はツッコんだ。
また、那智は自分が始めたこととはいえ、終点が見えないこの事態をどう終わらせるか考え.......そして、めんどくさくなってやめた。
「んじゃ、行くぞ~」
「「おー!」」「お、おー!」
*****
「ねぇねぇ、百式さん。なんかいいニオイしなーい?」
「ん、どったの敬子ちゃん。あ、確かにあっちの店から美味しそうなニオイするね」
「うんうん、たぶん食べごろよね――あの男子二人」
「そんな生肉に飢えてねぇんだわ。悪いな、自分甘党なもんで」
那智は敬の腕を掴むと、「おら、甘いもん買いに行くぞ」と言いながら、少し遠くに見える店に向かって引っ張っていく。
そんな姿を見てた天子は、同じくその光景を見ていた夕妃から話しかけられた。
「天子は犬甘君のことどう思ってるの?」
「うぇ!?」
突然の質問に、声が裏返る天子。
天子にとって夕妃は友達になった相手だ。
とはいえ、まだまだ初対面に等しい相手でもあり、すぐに慣れた感じで話すのは難しい。
加えて、夕妃からされた質問は、まるで敬に対して気があるかを確かめるような質問だ。
当然ながら、恋愛経験など皆無の天子には、一体どう答えればいいのか見当もつかない。
天子が両手の五指を合わせ、眉を寄せながら考え始める。
すると、そんな様子が伝わったのか、夕妃は言葉を付け加えた。
「別に変な意味じゃないわ。ただ単純に気になったの。
ほら、同じクラスになってすぐに仲良くなって話してたわけじゃないでしょ?
でも、気が付いたら廊下とかで二人の姿を見かけて」
「あー、そういうことですか......」
天子は質問の意図を理解すると、これまでの敬との思い出を振り返りしゃべり出した。
「そ、そうですね......私にとって犬甘さんはやはり恩人でしょうか」
「恩人?」
「はい。私、昔から友達がいたことなくって......小中とずっと一人で過ごしてました。
本があったので、一人の時間が苦ではありませんでしたが、それでも周りで友達としゃべっているのを見ると......なんだか無性に寂しく感じるものもありました」
天子はロクな思い出が無い。
それは不幸なことばかりで、いい思い出が少ないという意味ではない。
たた単純に一人で過ごしただけの思い出ばかりという意味だ。
もちろん、学校行事などで面白いイベントはあった。
しかし、それらは大抵一緒に盛り上がれる相手がいてこそのイベントだ。
ボッチの天子には、雰囲気は楽しめてもそれ以上の盛り上がりはない。
また、そういうイベント系で、”好きな人と組んでいい”みたいな流れになると、まず確定であまりものになる。
とはいえ、天子は女子であったために、どこかのグループの女子が受け入れてくれることはあった。
が、居心地がいいかと聞かれれば、答えは否だ。
ボッチという生き物は、一人の時間が長くそれに適応した生き物である。
そのため、集団でワイワイとするグループに入ることをとても不得手とする。
もっといえば、集団でいることが苦手なのだ。
集団に属する以上、その空気感を壊さないようにと努める必要がある。
しかし、天子はそもそも経験不足で空気の馴染み方を知らず、結果変な出しゃばり方になり裏目に出る。
ただでさえ低い自己肯定感が、その結果によりさらに低くなる。
さらに、空気を変にしてしまった罪悪感で余計に居心地が悪くなる。
そして最後には、スーッと空気に溶けるように、自ら一人になることを選ぶ。
とはいえ、その時ばかりは一人でもいいと思っても、時間が経てばやはり友達が欲しくなる。
悲しきボッチの習性である。
「高校に進学して一年経過した時も、状況は変わりませんでした。
当然の話ですよね、自分で動こうとしない限り何も今を変えられないのは。
そんなある時です。犬甘さんと出会ったのは」
それからの流れは、天子は経験した通りのことを話した。
とはいえ、未だなぜ敬なら友達になれると思ったのかはハッキリしてない。
そんな天子の話をじっと聞いていた夕妃は、自分のターンが来ると返答し始めた。
「なるほど、そういう流れで......確かに、そう考えれば友達が欲しい天子にとっては、犬甘君は恩人のように映るかもしれないわね。
とはいえ、突然あのような奇行に走られると怖いものじゃない?」
「はい、それは少し怖いです」
「即答した......」
天子の淀みのない返答に、夕妃は目を剥きながら呟いた。
しかし、現に今でも”敬子”でいることを考えると、天子がそう答えても致し方なしだろう。
夕妃とて敬と話す前は、バカというよりただの異常者だと認識していたのだから。
「あ、で、でも、慣れてくるとその......なんか可愛いかもーなんて......」
「その方向にアンテナを向けるのはやめなさい。拗らせるよ」
恩人の悪口を言ってしまったからか、なんとかフォローを入れる天子。
しかし、そんな天子を、夕妃は戻れなくなるうちに引き上げた。
即ち、敬を可愛いと認識し始めたら、恐らく色々なものの見方が歪む、と。
「おーい、二人とも~。なにやってんのよ、遅い遅い~☆」
前方から聞こえてきた声に、天子と夕妃は目を向ける。
すると、数メートル手前の方で、ぶりっこした敬が手招きしていた。
また、その横には大量の紙袋を持つ那智の姿があり、両手に揚げパンをもって食べながら、二人の到着を待っていた。
「行きましょうか」
「はい」
そして、二人は敬と那智に合流し、そのままショッピングモールへと入っていった。
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