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小さな文学少女が友達を欲しがっていたので友達になって、ついでに自己肯定感やら友人関係を整えたら想像以上の勇者になった  作者: 夜月紅輝


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クエスト13 戦士と僧侶と魔法使いが仲間になった#1

 週が明けて水曜日。

 今日も今日とてデイリーミッションが行われていたが、この日常に少しだけ変化が起きた。


「おはようございます」


「おはよう。今日も一日になるといいね」


 登校中の時間。

 それも敬が正門から下駄箱の道中で天子から挨拶を受けたのだ。


 加えて、発せられた言葉からも詰まりが無くなり、淀みなく言葉が出ている。

 敬は天子と一緒に歩きながら、そのことに触れた。


「綺麗に挨拶できたね。もう僕の魅力に慣れちゃった感じ?」


「そうですね。なんか今日は言える気がするって思ったら、出来ちゃいました。えへへ」


 天子は空に上る太陽に負けない明るさの笑顔を浮かべた。

 まるでピカーと放たれる幻の光に、敬は咄嗟に手で遮る。

 なんという光量か。このままでは目が潰れてしまう。


「あの、どうしました?」


「いや、やっぱこういう成長していく過程って美しいんだなって思って」


「?」


 敬の言っている言葉がわからず、首を傾げる天子。

 そんな天子を横目で見た敬は、「そろそろかな」と呟き、流れを変えるように一つ咳払いをした。


「コホン......大撫さん、そろそろ次なる冒険に出る時が来たようです」


「冒険......ですか?」


「そ、大撫さんには申し訳ないが、これまで僕とやってきたのは全てチュートリアルと言っていい。

 つまり、大撫さんに僕以外の友達が出来た際に、こんな感じで動けばいいって指標みたいな感じかな」


 その言葉を聞いた天子は、頭に思い浮かべる項目を言葉にしながら、数えるように指を折った。


「えーっと、犬甘さんとやったのは、挨拶、ゲーム、頑張ったことを話すこと、昼ご飯、放課後で......ん、買い食いですかね?」


 天子は「デート」というのが恥ずかしかったのか、赤らめた顔を咳払いしてごまかし、言葉を変えて言った。


 どうやら勇者天子もまだその言葉を使いこなすのは早いらしい。

 敬は内心で「可愛いかよ」と叫びながら、そのことには触れず返答する。


「ま、それらは大撫さん特別メニューみたいなものだったけどな。

 けどまぁ、トランプは友達とやったらいいし、昼ご飯や放課後に出かけるのだってそうだ。

 頑張ったことを話すなんてのも、別にその時の話題に沿って話したらいいだけだし。

 要するに、これらを上手く使いこなせれば、友達作りもそう難しくないってこと」


「なるほど......」


「とはいえ、ここでいきなり大撫さんに全てを投げ出すのは違うと思ってね。

 実は、次に大撫さんが友達になれそうな相手を、こっちで勝手に見繕っておいたんだ」


 今の天子は、言うなればゲーム初心者が初めてオープンマップゲームに触れるような感じだ。

 慣れ親しんだ人であれば、誰に指示されることもなく勝手に探索を始めるだろう。


 しかし、慣れていない人からすれば、どこへ向かって何をすればいいかわからない。

 広すぎて自由度が高すぎるからこそ、逆に数多の選択肢に圧し潰され身動きが取れなくなる。


 また、ゲームであれば、画面にあるミニマップが目標地点を表示してくれたり、画面端に次にすべき行動が指示してくれていたりするだろう。

 それを進めるなり、無視して探索するなりはプレイヤーの自由だ。


 しかし、ここは現実。

 当然ながら、指示もなければ、目標ピンもない。

 故に、誰かがガイドする必要がある。

 それを敬が担うというわけだ。


「というわけで、僕にも少し準備があるから大撫さんは少し待機ね。

 そう待たせないつもりだから、それまで好きなように過ごしてていいよ」


「わかりました。連絡待ってます」


―――放課後


 本来、誰もいない空き教室には四人の人影があった。


「で、お前だよな? 前からチラチラとアタシらのことを見てたのは。

 放課後に呼び出して何の用だ?」


 そう強い口調で言ったのはまたしても金髪ギャル。

 しかし、その人物一人ではなく、両サイドには銀髪ギャルとピンク髪のギャルが立っていた。

 そう、敬の目の前にいるのは、学校にいる野生のギャルである。


 金髪ギャルの名は【編ヶ埼京華(あみがさき きょうか)】。

 切れ長の目元に、キリッとした意志の強い目つきをしており、自分に自信があるように胸を張っている。


 それから、腰まで伸ばした長い金髪をしており、髪はフワフワとしてカールがかかっている。

 耳には輪っか型のピアスをしており、服装はブレザーは着ておらず、ワイシャツのみの腕まくり状態。


 そして、胸元はギャルらしく開け、割に胸の主張があるのか、そこからは谷間が見えている。

 身長は165センチと女子にしては高く、ボンキュボンのモデル体型だ。


 銀髪のギャルの名は【涼峰夕妃(すずみね ゆうひ)】。

 どこか冷たそうに感じる目をしており、表情の乏しさは敬に近いものがある。


 そのギャルも腰まで長い髪を持っているが、京華と違いストレートである。

 耳にはイヤーカフを右耳だけにしていた。


 また、夕日は京華よりも少しだけ制服を着崩している感じであり、ブレザーを着ているものの、ワイシャツの第一ボタンだけ開けていた。

 身長は京華より少し小さいぐらいで、胸は控えめである。


 ピンク髪のギャルの名は【百式那智(ももしき なち)】。

 そのギャルは他二人に比べれば、一番温和そうな優しい目をしており、口は常にデフォルトしたカモメを逆に描いたような口をしている。


 髪型は頭に二つのお団子を乗せるスタイルで、服装は第一ボタンを開け、ワイシャツの上にニットベストを着ていた。


 そして、そのギャルの一番特徴的なのは背の大きさだ。

 身長が185センチとあり、敬の身長を軽く上回るほどだ。

 それ故なのか、バストサイズは三人の中で一番である。


 そのギャル軍団を呼び出したのが敬である。

 敬はギャルという覇気に気圧されながらも、微動だにしない表情筋でもって平静を装って返答した。


「まぁまぁ、落ち着きたまえギャールズ諸君」


「ガールズみたいに言うな」


「三人を呼ばせてもらったのは他でもない。

 いや、もっと言えば僕の狙いは最初からあなただったんだよ――編ヶ埼さん」


「ハァ? アタシ?」


 敬は左手を胸に当て、右手をそっと京華に伸ばして言った。

 その言葉に、京華は苛立ちを隠すことなく眉間にしわを寄せたまま敬を睨んだ。


「だったら、他の二人は呼ぶ必要なかったじゃねぇか」


「まぁ、二人はぶっちゃけ編ヶ埼さんが反応すれば、面白がって来るかなって」


「つまり、それって遠回しにアタシがチョロそうって言ってんのか?」


 ギャルというよりヤンキー感の方が強い京華。

 そんな京華の反応に、敬は内心ビビりながらも、腕を組み堂々と言い返した。


「あぁ、その通り!」


「おい、コイツ殴っていいか?」


 京華は拳を構えたまま、友達に許可を求めるように振り返った。

 その言葉に、那智と夕妃は「まぁまぁ」と宥めながら返答する。


「一旦、落ち着きなって~」


「まだ用件を聞いてない。行動はそれから」


(いや、殴る許可は出すんかい)


 夕日からの思わぬ言葉に焦る敬。

 これは言葉の選択肢を間違えれば、漏れなく鉄拳が飛んできそうだ。

 しかし、ここで臆するようであれば、本物のバカとは言えない。


「編ヶ埼さん、あなた......小さい物が好きでしょ?」


 瞬間、京華の眉がピクッと反応した。


「だったら、なんだ? お前には関係ない話だ。それともバカにしようってか?」


「まさか。そんなあなたに今宵素敵なプレゼントと思いましてね。

 まぁ、”物”というより人を表す方の”者”なんだけど」


 その言葉に、首を傾げる京華だったが、すぐに何かに気付き目を剥いた。


「お前、まさか......!」


「ご明察でございます。では、お呼びしましょう。ヘイ、ミス大撫カモーン!」


 敬が後ろを振り向き呼び掛ければ、天子が教室の様子を覗き見るようにひょこっと顔を出した。

 瞬間、同じくその姿を見た京華が体をブルッと震わせた。


「ど、どうも......」


 天子は背中を丸めた状態で、ゆっくりと敬に近づく。

 そして、敬の隣に立てば、そっと敬の制服の裾を掴んだ。


 瞬間、京華が両手で心臓を抑え、苦しみ始める。

 そんな彼女を目を細めてみる敬は、何事も無かったようにしゃべり出した。


「では、ご存じの方もいるでしょうが改めて。

 こちらにいますは大撫天子さんです。そう、皆ご存じ勇者大撫です」


 その言葉に、天子がバッと敬を見た。

 「一度も呼ばれたことないんですが!?」と訴えかけるような瞳をしているが、敬はそれを華麗にスルーして言葉を続ける。


「そして、僕が猫様に組み敷かれ、座椅子になることに喜びを感じるヒエラルキー最下位M男、犬甘敬だ」


「ブフッ」


 敬のわけのわからない謎の自己紹介に失笑したのは夕妃であった。

 どうやら夕妃は、どこに笑いのツボがあるかもわからない自己紹介がお気に召したらしい。


(なんか受けた!)


 そんな夕妃を見て、滑り倒すだろうなと思っていた敬は思わず内心でガッツポーズ。

 その嬉しさのまま、敬はさらに言葉を続けた。


「現在、勇者大撫は”青春”という名のクエストに挑むために、友達(なかま)を集めている真っ最中だ。

 というわけで、編ヶ埼さんひいてはお三方に、大撫さんの友達になって欲しい。

 とはいえ、いきなり友達になってくれと言われて『はい、わかりました』とはならないだろうから――」


 敬がしゃべっていたその時、突然京華が敬の肩をガシッと掴む。

 普通であれば、勝ち気なギャルに強い口調で問い詰められる流れかもしれない。


 しかし、敬には自信があった。この戦い勝てるという自信が。

 そして、その自信を裏付けるように、京華は輝かせた瞳で敬を見た。


「お前.....見る目あんじゃん。これから同士と呼ばせてもらう」


 京華はそれだけ言うと、今度は流れるように天子の前に跪き、右手を胸に当て顔を伏せた。

 その行動に、天子がビクッとするが、京華は気にせずしゃべり出す。


「アタシ、編ヶ埼京華は()のことは一年生の時から知ってた。

 で、同じ教室になって以来、常々話したいと思ってた。

 だけど、アタシはこんな見た目だし、話しかけると怖がられると思ってた控えてたんだ」


 瞬間、京華は天子に向かって顔をバッと上げる。


「けど、姫から友達になって欲しいと言うならば、アタシは喜んで友達になる。

 むしろ、こっちからお願いしたいぐらいだ。

 アタシと......友達になってくれ」


 京華から向けられる強い眼差しに、天子はキョトンとした顔をする。

 その瞳から一切の虚言が無いことを汲み取ったからだ。

 しかし、ここですぐに「お願いします」と言えないのが天子だ。


 天子がしゃべり慣れた相手はあくまで敬だけであり、ましてや相手は陰の自分とは正反対の陽である。

 加えて、ギャルという点においてはあの”幸=D=草壁”と同じである。


 故に、未だ一部意志薄弱の部分がある天子は、この状況の判断を敬に任せた。

 天子が敬を見ると、視線から言葉を汲み取った敬はコクリと頷く。

 すると、天子はようやく言葉にして返答した。


「そ、その......よろしくお願いしましゅっ!」


 勢いよく返答したのはいいものの、勢い余り過ぎて事故った天子。

 言葉を噛んだことに気付いた天子は、即座に口を本で隠し、顔をカーッと赤くする。


「可愛すぎんだろ......!」


 そんな天子に、まるで砲撃を食らったかのように全身を消滅させる京華。

 もちろん、それは比喩表現であるが、なぜか現実でも京華はパタリと床に倒れていた。

 その姿に、さすがの敬も京華の友達二人に確認する。


「なぁ、さすがに拗らせ過ぎじゃないか?」


 その質問に、那智と夕妃は互いに顔を見合わせると、それぞれ返答した。


「いや、まだかな」


「うん、こんなもんじゃない」


「嘘だろ......」


 二人の言葉に敬が驚いていると、それを証明するかのような事が起きた。

 京華は起き上がると、体勢を崩したまま天子に話しかける。


「なぁ、姫.....」


「あ、あの、その姫ってどういう――」


「アタシのことはATMだと思ってくれ」


「「っ!?」」


 京華から飛び出した言葉に、敬と天子は目を剥いた。

 そして、天子は即座に敬を見れば、視線で言葉を送る。


『これ、犬甘さんの仕業ですか? 仕業ですよね?』


『いや、違う。全然違う。ここまでの反応は想定外だよ』


 敬が首を横に振って視線で返答して見せれば、天子はさらに戦慄したような顔をする。

 そんな天子に見つめられた京華は、ほんのり顔を赤く染めて言葉を続ける。


「姫、アタシという存在はこれから姫の財布だ。必要な時はいつでも言ってくれ。

 大丈夫だ。少なくなったらバイトしてでも、臓器売ってでもお金を算出するから」


「犬甘さん、この人怖いです!」


「安心してくれ、姫。僕も戦慄してる」


「ついでのように姫呼びしないでください!」


 天子からのツッコみを受けつつ、敬は今の京華の状態について、改めて友達二人に確認した。


「なぁ、編ヶ埼さんはその......重度のロリコンなのか?」


「そうだよ~」


「小さくて可愛いものをこよなく愛でる変態」


 那智と夕妃のまさかの言葉に絶句する敬。

 そんな二人の会話を聞いていた天子は「私はロリじゃ......」と否定しようとするが、その言葉を言い終わる前に京華が先に否定した。


「おい、犬甘......否定しろよ、その言葉」


 京華はゆらゆらと体を揺らしながら立ち上がると、すぐさま敬の胸倉を掴んだ。

 そして、ガンギマリの瞳でもって強い口調で主張する。


「アタシはなぁ! ベビコンでも、ハイジコンでも、アリスコンでも、ロリコンでもねぇ!

 そのすべてを兼ね備えた――究極の紳士だよ!!」


「もっとやべぇバケモンじゃねぇか」


 敬はそう言葉にしながら静かに後悔した。

 開けてはならないパンドラの箱を開けてしまったのではないか、と。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)


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