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小さな文学少女が友達を欲しがっていたので友達になって、ついでに自己肯定感やら友人関係を整えたら想像以上の勇者になった  作者: 夜月紅輝


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クエスト12 遊び人の友情イベント#4

 突然、天子の目の前で繰り広げられる甘い空間。

 その馴染みのない空間に、天子は無事固まる。

 すると、天子に気付いた敬が、幸に声をかけた。


「ほら、幸。友達の前だ。だから、一旦挨拶しな」


「それもそうだね。では、改めて――」


 敬に挨拶を促されると、幸は突然眼鏡クイみたいなポーズを取った。

 そして、その手をバッと横に伸ばすと、今度は目元に横向きのピースを添える。


「はっじめまして! わたしは幸=D=草壁って言うの!

 皆からは”さっちゃん”って呼ばれてるので、是非そう呼んでくださいな!

 よろしくお願いしますね、せーんぱい♪」


 決めポーズで元気よく自己紹介する幸に、敬は思わずバッと横を見た。

 すると、正面にいるギャルの後光によって、眩しさに耐えられなくなっていた天子がいた。


 そんな天子が目をしょぼしょぼとさせているうちに、敬はガッと幸の肩を掴むと、小声で話しかける。


「(おい、幸!)」


「(や~ん、だいた~ん♪)」


「(ゲヘヘ、初心な小娘だぜ。どこから頂いちまおうか......じゃないのよ。

 今はボケてる場合じゃないのよ。なんだ今の挨拶は?)」


「(パッと考えた決めポーズ様になってたでしょ?)」


「(意外と悪くなかった......じゃなくて!)」


「(はいはい、黙ってて。理由は後で話すから)」


 幸は強引に敬の体を引き離すと、改めて天子に向かい合った。

 対して、天子はようやく混乱の状態異常から解放されると、緊張した様子で言葉を紡いだ。


「あ、え、そ、その......お、お、おお大撫天子です。

 い、い犬甘君とは普段から、その、お世話に......」


「へぇ、大々撫さんね。いや、さんじゃなくて、ネクタイの色的に大々撫せんぱいか」


 天子の噛み噛みの言葉から名前を拾い上げ、微妙に間違える幸。

 すると、隣にいた敬が首を横に振って、すぐさま訂正した。


「違う違う。今のは声が震えただけ。大撫天子さんね」


「大撫せんぱい、ね。オーケー、頭に入れた。

 で、なになに? 敬ちゃんが放課後に出かけるなんて珍しいじゃん。

 それにこんなちっちゃ可愛いせんぱいと放課後デートなんて隅に置けねぇなぁ、このこの」


「ふっ、僕の魅力にかかればこのくらい朝飯前さ。

 それより、さっきから気になってんだが――」


 敬が幸に質問しようとすれば、幸はそれを遮って天子の前に立つ。

 そして、目線を合わせるようにしゃがみこめば、天子にニコッと笑って見せた。


 その行動に天子が目をパチクりさせていると、途端に幸はニヤリとイタズラっぽい笑みに変化させた。


「敬ちゃんとの関係......気になる?」


「っ!」


 その言葉に、天子は体をビクッと反応させた。

 そして、うんともすんとも答えなかった天子であったが、心の中では頷いていた。


 敬と幸のあまりに近い距離感。

 しかし、二人ともその距離感が当たり前のように恥じらいが無い。


 だからこそ、一瞬兄妹とも考えた天子。

 とはいえ、それにしては顔のパーツに類似性を感じない。


 もはや赤の他人と考えた方が正しいぐらいだ。

 故に、そんなちぐはぐとした二人の関係性が、天子にとって気にならないと言えば嘘になる。

 

 されど、天子はボッチを拗らせた文学陰キャである。

 「二人のどういう関係なんですか?」などおいそれと聞ける勇気はない。


 それが例え、幸の方から問いかけられたものだとしても。

 すると、そんな天子の考えを見抜いたように、幸は勝手にしゃべり出す。


「私ね、帰国子女なの。

 母方が外国人で、親の都合でこっちに来たんだけど、親が毎日いっそがしくてね~。

 というわけで、昔から親同士で交流があった敬ちゃんの家に、今はホームステイさせてもらってるの」


「そ、そうなんで――」


 残りの「すか」という言葉を天子が言い終わる前に、幸はスッと耳元に顔を寄せた。

 そして、敬に聞こえないような小さな声でボソッと呟く。


「(というわけで、血が繋がってないの。それも今は二人暮らし。この意味わかるよね?)」


 幸は元の位置に戻ると、天子にニコッと笑みを向ける。

 一方で、天子は脳内で良からぬことを考えてしまい顔を真っ赤にさせた。


 さらに、首を縮め、伸ばした両手はスカートの裾をギュッと握った。

 それはつまり――


「そ、その、お、おおおお二人はつき――」


「いや、全然。恋人同士でも何でもないよ」


「......へ?」


 あまりにもケロッと言う幸の言葉に、天子は無事処理落ちした。

 呆けた顔で呆けた声を出し、頭を”Now Loadinng”させながら、首をコテンと傾けた。


「ど、どど、どういう......?」


 天子が僅かに動いた思考で問いかければ、途端に幸はニヤッとした口に揃えた手を添える。


「べっつに~。ただ普通に言葉の意味を確認しただけだよ~」


 ニヒヒとでも笑いそうな顔で幸は言って見せた。

 瞬間、天子は戦慄しながら思った。


(あ、悪魔がいる.....!)


 目の前にいるのは、言葉巧みに人を誑かす悪魔そのもの。

 今はどこにでも居そうなギャルの姿をしている。


 しかし、夜になれば途端に角や羽、尻尾を出して本性を露わにするかもしれない。

 そんな悪魔が現在、敬と同じ家で同居している。


 こんなのいつ食べられてもおかしくはないじゃなかろうか。

 それこそ、敬は変人だが、人並みの思春期を抱えているだろう。


 自分を助けてくれる恩人をこのままにしておけるか。

 答えは否。助けられるのは自分しかいない。


(だけど、今は無理......!)


 今の天子は、さながらレベルアップ最中に運悪く強敵に遭遇した感じだ。

 それもタイプ相性が最悪の敵。

 もはや今の天子に勝てる道理も無く。


 天子は幸に対し、強い苦手意識を持つとともに、「恩人を魔の手から助ける」という内容をやりたいことリストに追加した。


「さーてと」


 幸は天子の瞳の奥から微かに感じる意思を汲み取ると、満足した様子で立ち上がる。

 そして、クルッと振り返れば、敬に向かって言った。


「んじゃ、わたし、友達待たせてるから。まった後でね~。あ~楽し♪」


「おい、本音漏れてるぞ」


 幸はルンルンとご機嫌な様子で遠くにいる友達へと歩いて行った。

 そんな姿をある程度見送った敬は、視線を天子の方へと戻す。


「あー、その.....なんだ。普段から明るい奴なんだが、からかうのは気に入った相手しかしないんだ。

 だから、大撫さんは幸に気に入られたってわけで......うん、人間色々な奴がいる。あんまり気にするな」


 天子にかける言葉が見つからず、言葉に詰まった敬は、最終的に雑なまとめ方をした。

 そして、同時に幸の方を見てはこう思った。


(あんにゃろ、やってくれやがった。

 まだ始まりの村周辺でレベルアップ中の大撫さんに、ボスクラスのお前の方から絡んでくるなよ。

 これで大撫さんが友達作りに委縮しちまったらどうすんだ!)


 幸との出会いは、敬にとって本当に偶然であり、仮に幸を紹介するとしてももう少し後であった。


 それが気付けば、嵐のように天子の心をかき乱し去っていく。

 もはやその存在は抗いようのない災害と同じであった。


(大丈夫かな。変に考え込んでないといいけど......)


 天子を見つめながら、敬は首を擦る。


「わ、私......」


 するとその時、天子が声を震わせながら声を出した。

 バッと顔を上げると、敬に宣言する。


「さ、幸さんと友達になってみたいです!」


「っ!?」


 その言葉に、敬は目を剥く。

 そして、思わず言葉の真意を尋ねた。


「えっと......どうして?」


「そ、その、なんというか、変な動機なんですが......このまま逃げちゃ自分は変われないと思ったんです。

 そ、それに、い犬甘さんがいてくれれば、どうにかなるかもって」


「大撫さん......」


「も、もちろん、無理はしてません! でも、高い目標だとは思います!

 で、ですから、犬甘さんにはその......そこまで上がるための階段を、一緒に考えていただければ、と......」


(ハハッ、なんだやっぱハート強いじゃん)


 敬の揺るがぬ表情筋は、この時ばかりは僅かに口角をいつもより大きく上げた。

 敬は天子のことを常々”勇者”と称してきたが、それは案外間違っていないのかもしれない。

 なぜなら、天子は確かに”勇気ある(ひと)”なんだから。


「もちろんさ、我が主。不肖ながらこの敬、改めて大撫さんの友達作りに協力することを誓うよ」


 敬はその場で跪き、右手の拳を左胸に当て、左手はそっと天子へ伸ばす。

 その姿はさながらミュージカルに出てくるプリンセスに求婚する王子のよう。

 そんな敬の手を、天子はそっと手に取った。


「はい、よろしくお願いします!」


 天子の返事は淀みが無く、そして確かな意思が宿っていた。


****


 放課後デートが終わり、敬は帰宅した。

 「ただいま」と言いながら靴を脱ぎ、そこからは自室に向かい、着替えればリビングへ。


 ドアを開くと、すぐ近くのソファには、贅沢にもその上で横になる幸の姿があった。


「お、()()お帰り~」


 ソファの腕かけを枕にしながら、仰向きでスマホをイジる幸。

 そう、先の幸の発言の通り、幸は敬の妹であり、名前は【犬甘幸】。


 元ギャルの母親と元ヤンの父親の血を引き、ヲタクの兄の影響を受けたハイブリット妹なのだ。


 故に、決してホームステイしている帰国子女ではない。

 だからこそ、敬はあの時の天子への自己紹介が気になった。


「なぁ、幸、お前なんであの時――」


「まぁ、待たれよ。座って話したらどう?」


 幸は寝そべったまま両足を上げ、ショートパンツから伸びる美脚を敬に見せつける。


 そんな姿に、敬は特に反応することもなく幸が足を上げた位置に座ると、それを確認した幸は敬の太ももの上に足を降ろした。


「で、なんだっけ?」


「自己紹介の話。なんであんな帰国子女みたいな設定にしたんだ?」


 敬の質問に、幸はスマホの画面を親指で横にスライドさせながら答えた。


「そりゃもちろん、一目見て可愛い! 好き! いじりたい! って思ったからに決まってんじゃん。

 で、名前はここ最近ワ〇ピ読んでたから。読むとつけたくなるよね、D」


「お前の年齢でつけはしないと思うがな。ましてや、その見た目で。

 だが、気持ちは非常にわかる。僕もつけよっかな......ミドルネームにD」


「やめて。それじゃ、わたしの帰国子女設定死んじゃうじゃん。

 こういうのはバレるまで反応を楽しむのが醍醐味なんだから。

 特に、大撫せんぱいみたいなタイプは一年生のこと全然把握してなさそうだし。

 お兄だって勘違いした時の反応......気にならない?」


 幸はスマホをズラし、ニヤリとした顔で敬を見る。

 その顔は実に邪気に溢れていた。

 可愛らしい方の邪気ではあるが。

 そして、その意見には敬は意外にも賛成気味だった。


(大撫さんの色んな顔か......)


 敬は腕を組み、瞑目しながら思った。

 敬とて、天子と関りを持ってまだ数日。


 加えて、あれほどの面白い逸材は見ていて飽きないし、もっと知らない顔を見たくなる。

 しかし、それを素直に肯定していいものなのか。


 安易にその案に乗って天子に嫌われるのは避けたいし、単に幸の案に乗るのも癪。

 故に、敬が決めかねていれば、敬の頬に幸の足がぺたっと触れた。


「ほれほれ、悩むぐらいならやっちゃいなよ~。我慢せずにさぁ」


「......何か企んでそうな顔だな」


「やだなぁお兄、疑うのは良くない。お兄ラブリーさっちゃんだよ?

 ほら、JKの生足に踏まれて喜びながら、ついでにシスコンかませって」

 

「兄は変態だが、TPOは弁える変態だ。

 しかし、そちらがその態度なら、こちらも動かねば不作法というもの」


 敬は顔に触れる幸の足をガッと掴み、太ももまで降ろす。

 そして、もう片方の手はワキワキと、まるでイソギンチャクのように指を動かした。


 そんな兄の行動を見て、妹は目を剥き、頬を引くつかせた。


「ちょ、お兄、何してるの? やめよ? その手は絶対にいくない」


「ほぉ、兄ラブリーなのだろ? ならば、その体に兄を受け入れろ」


「なにその薄い本の挿入みたいな――」


「南無三ッ!」


 敬は幸の足の裏に、ワキワキとさせた指先を触れさせた。

 力加減は表皮をなぞるようにソフトに。


 されど、ちゃんとくすぐられてることか感じるようにの絶妙なライン。

 そして、それを敬は全力で行使する。


「アッヒャ! アヒャヒャヒャヒャッ! イヒヒヒヒッ!」


 幸はスマホを投げ出し、大声で笑いだしながら体を何度もよじる。

 時折、「もうやめっ」と声を出すが、敬は無表情のままくすぐり続ける。

 端から見れば一種のプレイそのものであった。


 数分後。笑い疲れ、目に涙を浮かべながらぐったりする幸。

 そんな幸を横目で見ながら、足をどかして立ち上がった敬は、何事も無かったかのように声をかけた。


「そろそろ、飯作るけど特に何でもいいよな?」


「い、いいよ~~。お兄に任せた~......ハァ」


「んじゃ、余りもんで少し考えてみるわ」


 幸の言葉を聞いた敬は、冷蔵庫の中身を確認し始めた。

 今日も犬甘家は平和である。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)


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