出会い 【side星浦拓斗《ほしうらたくと》】
いつも乗るはずだった電車が、ホームについた瞬間、走り去って行った。
遅刻は、免れそうだけど……。
これだと花園学園につくのは、ギリギリだな。
やってきた電車は、満員だ。
俺は、いつも乗る車両には乗れずに隣の車両に乗り込む。
電車が走り出すと生暖かい温もりが制服越しに伝わってくる。
満員電車、特有の人の温もりってやつか……。
嫌だなと思いながら我慢する。
うん……?何か違う?
「叫んだら、あなたを痴漢にするから」
「えっ……」
「今日の車両は、当たりだったわ」
女の人の手が俺の体を撫でるように触ってくる。
痴漢だ。
男を痴漢する人がいるって聞いてはいたけど……。
本当にいるとは、思わなかった。
「こんなにイケメンなんだから、初めてってわけじゃないでしょ?ほら、触って……」
ポケットに入れている俺の左手を掴むと女の人は、そこへ導いていく。
「や……やめて……」
消え入りそうな声で言う自分が情けない。
「どうしてもやめろって言うなら、痴漢だってあなたをつき出すけどいいの?」
俺は、必死で首を左右に振る。
「分かればいいのよ。分かれば……」
俺の意思とは反した動きを左手に強いられ続けた。
ようやく解放されたのは、花園学園の駅につく30秒前だった。
「次は、もっと楽しみましょうね」
プシューーと扉が開いた瞬間。
俺は、トイレへと走り出した。
ぬるりとした液体が、指先から掌に滑り落ちる。
気持ち悪い。
気持ち悪い。
さっき触れていた感触が指先に広がって消えない。
必死で、手を洗うけど……。
まだ、感覚が残っている。
「ヤバい。遅刻する」
右ポケットから取り出したスマホを見るとギリギリの時間だ。
俺は、急いでトイレから飛び出した。
トイレから出た瞬間だった。
柔らかい何かが俺の手に当たる。
俺は、とっさにそれを握りしめた。
「あっ、ごめん」
それは、同じ学校の制服を着た女の子で……。
彼女も何故か俺の手を握りしめてきた気がした。
自己紹介をするとお互いに三年だとわかった。
花園学園は、昨年統合したばかりだから……。
俺達、三年は男子校と女子校に別れたままだ。
もし、男女混合だったら彼女の事は噂になっているだろう。
彼女の見た目は、どうみてもS級だから……。
学校に向かう途中で、彼女が痴漢の話をした。
その話を聞いた俺は、とっさに手をひいて来た道を戻っていた。
「あの……。どこに行くんですか?」
「確かに……そうだよね」
「じゃあ、学校に戻りますか?」
「いや、俺の家に行こう。電車は……乗りたくないからバスで」
「星浦さんも、電車に乗りたくないんですか?」
淡い栗色の大きな瞳は、俺を見つめる。
「さっき初めて痴漢にあったんだ。それで、何か電車怖くて……。ごめん。男なのに情けないよな」
「ううん。男も女も関係ない」
繋いだ左手が震えるのがわかる。
「ごめん。手離すよ」
「いや」
「えっ?」
「せっかく忘れられるかも知れないの。だから、お願い離さないで」
月野さんは、ギューッと俺の手を握りしめてくる。
「わかった。じゃあ、バスで俺んちに行こう。共働きで、夜まで両親帰ってこないから……」
「星浦さんの家についたら、学校にかけないと駄目ですよね」
「ああ、だな」
「私、大人の話し方出来ます」
「そうなの?」
「小さい頃、セールスがしつこくて覚えたんです」
「じゃあ、俺の分もかけてもらえるかな?」
「はい。もちろんです」
バスがやって来て、二人で乗り込む。
満員ではない車内は、普通に座れる。
「後ろ行きません?」
「確かに、その方が安全だね」
手を繋いだのもこれが初めてだ。
見た目に反して、俺は何も知らない。
どうしよう。
女の子を家に誘った事なんて初めてだ。
やっぱりやめようって言ったらおかしいよな。
変に意識すると、手汗をかいてきそうだ。
家に行ったら、どうにかなる。
多分、なる。
絶対なる。
「よくこうやって女の子誘ってるんですか?」
「それは、たまにね……」
ちょっと待て。
何で、俺、今、かっこつけてんだ?
「そっちは?よくついてくの?」
「何回かは、あったかな?」
あんのかよ。
ってか、やばかった。
今、初めてだってバレたらやばい所だったじゃん。




