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雨のち晴れー訳ありS級男女ー  作者: 三愛 紫月


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出会い【side 月野里桜(つきのりお)】

高校三年、最後の夏。

朝の満員電車で、私は痴漢というものにあった。

いつもは、母が車で送ってくれたり、女性専用車両に乗ったりしているのだけれど……。

今日に限って、15分遅刻してしまったのだ。

遅れたせいで、私は痴漢にあってしまった。

誰が悪いわけでもない。

寝坊した私が悪いのだ。


満員電車は、身動きがとれない。

たぶん、後ろにいるであろう痴漢は、私の手を握りしめてくる。


「や……やめて……ください」 


大きな声を出せばいいのに、私は小さく消えそうな声を出していた。


「嬉しいくせに……」


痴漢は、耳元で私にそう言うと自分のそれを握らせる。

初めて触れるそれの感触が気持ち悪くて、手をのけようと頑張ってみるけれど……。

男である痴漢の手を振りほどけない。


「もしやめるなら、ここでしてもいいよ」


お尻から前に手を滑らされそうになった私は、とっさにそれを握る。

すると、痴漢は「いい子だね」と言ってやめてくれた。

痴漢は、私の手でそれを擦りながら、興奮しているのか耳元で息を吹きかける。


【早く終わって、お願い早く】


心の中の願いもむなしく。

三駅先まで、それは続き。

ようやく終わったのは、花園学園前の駅に停車する15秒前の事だった。


プシューー。


扉が開いて、私はダッシュで駅のトイレに駆け込んだ。


【最悪……。気持ち悪い】


手に出された白いものを何度も何度も洗い続ける。

それでも、取れてない気がしたけれど、学校に遅刻しそうだったから洗うのをやめた。

あの感触が手に残ってる。

初めて触ったあの感触。

気持ち悪い……。

早く忘れたい。

トイレを出た瞬間だった。


「あっ、ごめん」

「こちらこそ、ごめんなさい」


男子トイレから、出てきた人の左手とさっき洗い続けた右手がぶつかって感触を忘れたかった私は、とっさにその手を掴んでしまった。

彼もなぜか私の手を握りしめてきたように感じた。


『花園の人?』


一緒にハモったのは、お互いに花園学園の制服を着ていたからだ。


「制服……」

「そうだよね。同じだね」

「ですね」

「よかったら、一緒に行く?」

「はい」


昨年夏にリニューアルされた花園学園の制服は、濃いブルーから淡い水色へと変わった。

女子生徒達は、リニューアルするならセーラー服になって欲しいと切望したけれど……。

形は、変わらずブレザーのままだった。


「あっ、自己紹介しなきゃだよね。俺、三年の星浦拓斗ほしうらたくと

「同じく三年の月野里桜つきのりおです」 

「俺達、三年なんだ。お互い……」

「ですね」


同じ学年にいながら、気づかなかったのは不思議に思うかも知れないが……。

花園学園は、昨年まで花園女学院と花園男子高等学校の二つの学校だったのだ。

今年の二年生からは、男女混合クラスになっているが……。

私達、三年生はまだ男女別々のクラスなのだ。


「去年統合されたけど、三年は別々だもんな」

「確かに……。一、二年生は男女混合クラスにですもんね」

「そうそう。花園女学院のクラス使ってるんでしょ?」

「はい」

「やっぱりね。こっちは、男子しかいないからね」

「これって、子供達が少ないからですよね」

「そうだよね。少子化の影響。まあ、元々理事長は同じだったみたいだから……。経営不振で潰れちゃうよりマシじゃないかって親が話してた」

「そうなんだ……」


淡い栗色の瞳をして横顔が綺麗な星浦さんは、すごくモテるのがわかる。

男女混合クラスになっていたら、星浦さんを見つけない事はないだろう。

噂されてもおかしくないぐらいのいわゆるS級男子って奴だ。


並んで歩いていると、手がぶつかった。

手に集中するとさっきの感触がよみがえってくる。


どうしよう。

どうしよう。

他に集中しなきゃ……。

星浦さんに話かけて、会話を盛り上げよう。


えっ……。


「ごめん。また、当たった」

「離さないで」

「えっ……?」

「少しだけでいいから、離さないで……ください」

「いいよ。俺もその方が嬉しい」


星浦さんは、私の手を優しく握りしめてくれる。

私も星浦さんの手を優しく握りしめた。

夏の日差しのせいで、体がジリジリと暑くなる。

星浦さんの手の温もりが、私のさっきの嫌な思いを消し去ろうとする。


「初めて……痴漢にあったんです」


誰かに打ち明けないといられなかった。

さっきの光景が、まだ目の中に映っていて……。


「それで、握らされて……。その感覚がずっと消えなくて……」


初めて触れるなら、好きな人のがよかった。

初めてを奪われたわけじゃないのに奪われた気がした。


「ごめんなさい。こんな話して。もうすぐ学校つくから大丈夫です」


星浦さんは、私の手をさっきとは違って強く握りしめる。


「あの……」

「今日、サボろうか?」

「えっ?」


星浦さんは、私の手をひいて来た道を戻っていく。

学校をサボるなんて、初めての経験に胸がドキドキしているのか……。

星浦さんに連れ去られてドキドキしているのか……。

何かわからないけれど、心臓が痛いぐらいに鼓動をたたいている。



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