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少女と空の王女  作者: 連星れん
中編

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87/123

閑話――仲が良い


「あ! 待った!」

「待ちません」


 ルナの静止を即座に切り捨て、マクレア先生が最後の手札を応接机に置いた。


「あがりです」

「もうっ!」


 応接机に叩きつけるように、ルナが手持ちのトランプを置く。

 午前の治療学の授業のあと、私は院長室に訪れていた。今日、稽古が休みのルナを迎えに来るためだ。そこでリエナ先生に室内に招き入れられ、目にした光景がこれだ。

 初めての状況に、私は思わずそばにいるリエナ先生を見てしまう。それに先生は小さく肩をすくめると、執務机のほうへと歩いて行った。


「ぜーたい、なんかズルしてる!」

「していません」

「それにしては引きが良すぎない? だって全勝よ全勝。いくらなんでもおかしいでしょ」

「殿下の運が無さすぎるだけです。まぁ、トランプ自体も下手ですが」

「はぁ? その減らず口、たたけないようにしてやるわ!」


 ルナはそう言って執務机に散乱したトランプを集めだす。


「どこの小物の台詞ですか」マクレア先生はため息をつくとこちらを見た。「ほら、もう授業は終わっていますよ」


 その視線に釣られてルナも振り返る。


「ユイ、いつの間に」


 普通に扉も叩いたしリエナ先生と挨拶も交したのだけれど、全然気付いてなかったらしい。


「ごめんユイ。もうちょっと待って」ルナが座るようにとソファを軽く叩く。「ほら、マクレア」


 マクレア先生はため息をつくと、配られたトランプを手に取った。


「ずっとトランプをされていたのですか」


 私はルナの隣に座りながら訊く。


「そうです。ほかの見習いが勉強している間ずーと、殿下は遊んでいました」

「仕方ないじゃない。今日はシンたち急な用事が入っちゃったって言うし、ここの衛兵に相手をお願いしても『お怪我でもさせたら責任が取れませんので……!』とかなんとか言って全員に断られるし……あ、ちゃんと基礎体力作りと素振りと剣の型はやったわよ」


 ルナが手札を一枚、執務机に置いた。


「それに体だけでなく頭を使うことも大事でしょう?」

「殿下は使っていないように思いますが」

「貴女だって運だけで勝ってる癖に」

「運も実力のうちです。まぁ、殿下には運も実力もありませんが」

「なにおう」


 そんな言い合いをしながら、一回、二回、三回と勝負は行なわれるも、ルナは一度も勝つことができなかった。


「殿下。煽り抜きで本当に運がないですね」

「うるさいー」


 ふて腐れるようにルナがソファの背へと倒れ込む。

 そんな彼女の様子にマクレア先生が私を見て笑う。


「まぁ、殿下のような人間にはトランプよりチェスが向いていると思いますよ」

「なんで」

「チェスには運が必要ないからです。なので頭は悪くない殿下には打ってつけかと」

「は、って言い方が気に入らない」

「褒めていますのに。それにチェスは戦術を学ぶにも最適だというのもあります。士官学校では授業に取り入れることもあるそうですよ」

「へぇ……チェスあるの?」

「娯楽室にあります」

「やってる人、見たことないんだけど」

「人気はないみたいですねぇ。因みに頭の良い私はそこそこ強いです」


 ルナは口を尖らせるとこちらを見た。


「ユイはチェス出来る?」

「少しでしたら」


 チェスはお父様に教えてもらって覚えた。でもお相手してくれるお父様が忙しかったこともあり、そんなに数はこなしていない。


「教えてくれない?」

「いいですよ」


 そして、とルナはソファの背から上体を起こすと、マクレア先生を指さした。


「覚えたらマクレアを打ち倒すわ」

「はいはい」


 ため息交じりにマクレア先生が笑う。

 そんな先生に執務机で書類仕事をしていたリエナ先生が近寄ってきて言った。


「院長、食事を取って来ます」

「はい。お願いします」


 リエナ先生が部屋を出て行く。


「さあさあ、貴女たちも昼食の時間ですよ。食堂に行きなさい」

「はーい」ルナはトランプを集めて整えると立ち上がった。「ユイ、行こ」

「はい」


 私もソファから立ち上がりマクレア先生に礼をする。

 それから扉に向かうも、途中でルナがふとした感じで立ち止まった。

 彼女は振り返りソファに座っているマクレア先生を見る。


「あーマクレア」

「はい?」

「前にさ、手紙のこととか、食事のこととか、からかってごめん」

「あぁ、お気になさらず。殿下はなにもご存じなかったのですから」

「知らないからといってそれが罪にならないわけではないでしょう? それに私も、子供染みたことをしたとは思ってたし……」

「まぁ正直、少し苛つきはしましたが」

「してたんだ」

「人間ですから」

「それであの仕返し?」


 マクレア先生が笑みを漏らす。

 なんのことだろうと思っていると、ルナが苦笑して「外庭でいじけていた日のこと」と教えてくれた。


「私も大人ぶってはいますが中身は結構、子供なのです」

「それは知ってるけど」

「あら」

「全然、隠せてないけど」

「あらら」


 おかしいですねぇ、とマクレア先生が首を傾げる。


「これでも私、外では冷静沈着な人間で通っているのですが」

「それは猫被っているからでしょ」

「そうでした」


 おどけるように肩をすくめるマクレア先生に、ルナがため息をつく。


「まぁ、あまり気を遣わないでください。貴女との言い合いは結構、嫌いではないですから」


 マクレア先生の言葉にルナは眉を上げると、ふっと笑った。


「奇遇ね。私もよ」


 ルナはそう言い、踵を返して院長室を出て行った。

 私はもう一度マクレア先生に礼をしてから彼女のあとを追う。

 外ではルナが待っていて、私たちは並んで歩き出した。


「やはり仲がいいですね」


 隣を歩くルナに私は以前、口にしたことと同じようなことを言ってみた。

 すると彼女は。


「そんなことないわよ」


 と笑って否定をした。



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