第73話 家探し
「あら、あなたは噂の使徒様ではありませんか」
声をかけられた。ただそれだけのことなのに身体のそこからゾクゾクとする。
「そう言えばあなたはお話にならないそうですね。それでは私からご挨拶をさせて頂きます。私はこの国の第一王女ミネルウァと申します。宜しく」
「………………」
俺が無言のまま立ち尽くしていると、ミネルヴァ姫はそのまま横を通り過ぎて行った。
今のが人とは思いたくない。彼女の後ろに地獄を見た。多数の魂が蠢いてそして生きる者を恨んでいた。
あそこまで酷いのは初めてだ、悪霊…だとは思うが、次元が違いすぎて別物になっている。何なんだあれは?
俺はどうすれば良いか考え立ち尽くす。
そして今はどうにもならないと思い帰宅する。
………………………▽
「ただいま」
家に帰るとガヤガヤとすごく騒がしい。
「これ頂戴!頂戴!頂戴!」
「レイチェルさん待ってください!蒼字さんが帰って来たら相談しますから!」
リルとレイチェルは何をしてるんだ?
「何を持ってるんだ……あれってボスリッチのドロップアイテムじゃん」
レイチェルはリルが持っているネックレスをぐいぐい引っ張っているがまったく動かない。リルに力で勝てるわけが無い。
「あーーそうじ〜これ頂戴!」
レイチェルがこちらに走ってきてこの一言……
「その前に言うとのがあるだろうが!」
走って来た。レイチェルにチョップを当てる。
「あ、痛〜い………おかえり」
「ただいま、レイチェル」
挨拶はそこそこに……
「これってリッチのネックレスだろ、確か結構貴重品だった気がするんだけど」
「そのと〜り、このネックレスに付いている宝石は星竜の涙と言われる超レアアイテムなんだよ!これがあればあんな物やこんな物が、グッフッフ」
「ん〜俺は良いけどリルは良いのか?」
「えーーーっと……そうじさんがよければ」
リルがうるうるした目でこちらを見ているので、恐らくリルも欲しいのだろう。さてどうしたものか……
俺が悩んでいると、
「リルもこれ、欲しいの?」
「え、あの、なんと言いますか……」
リルはなかなかはっきりと言えないようで、ごもごもと口を動かしている。
「はい、リルが欲しいなら良いよ」
「えっ!?」
レイチェルはリルにネックレスを渡す。リルはさっきまでと違いあっさりと渡され困惑する。
「あの〜良いんですか?レイチェルさんこのネックレスすごく欲しいんですよね!」
「うん!すご〜く欲しい!けど、リルが欲しいなら我慢する」
「フッ、そうか、レイチェルえらいじゃん!リルの為なら我慢出来るってわけだな!」
「もちろんさぁー友達の為なら、このくらい楽勝だよ」
レイチェルは言葉とは裏腹に腕がカタカタと動いている。たぶん我慢をしている。これはリルに俺からもお願いしてみるか。
「レイチェルさん、これあげます」
「え!?良いの?」
リルはレイチェルにネックレスを渡す。
「すいません、私…商売のことしか考えていませんでした。そうです。友達が欲しいと言っているんですからあげるべきなんです」
お互い譲り合うなんて優しい奴らなんだな〜と、俺は少し胸が熱くなった。
「うんうん、そうだな、二人共偉いぞ。どっちが貰うか決めるのは難しいな。どうするか………そうだ!お互いが納得できるように、商売で役に立つ発明をレイチェルが作れば良いんじゃないか?」
その言葉を聞いて二人は納得、レイチェルがネックレスを受け取りウキウキで発明にいそしむことになった。
そしてそこで俺は初めて気がつくことになった。
ある一室が実験室になっている事を……
「う、うぉーい、なんだコリャー」
「へ?どうしたのさ〜蒼字」
「どうしたじゃない!いつの間に部屋を改造したんだよ!ここ人ん家」
「ん〜〜ここに来てすぐ?」
しまったあんまり気にしてなかったけど、こんなことに……そうだ!チーちゃ〜ん」
「チーちゃん、チーちゃんどこだ〜」
それからチーちゃんを呼び話を聞くと、レイチェルはここに来てすぐに自分が使いやすいように部屋を勝手に改造、パンさんも半分呆れつつ放置してくれているらしい、ごめんなさいパンさん。
「リル、レイチェル緊急会議だ〜」
俺は二人を呼んだ!
「俺は今思ったことがある。それはパンさん達に甘えすぎていたことだ!そろそろ俺達はここを出なければならないと思う。二人はどう思う?」
「そうですね。居心地が良くて、いつかは出ようと思っていましたがすっかり忘れていました」
「え〜チーちゃんのご飯美味しいのに〜出るの?」
レイチェルやかましい〜。
「いいか!レイチェル甘えるんじゃない!いつまでもお世話になってはいかんのだ。それで俺は借家を借りようと思っている。どうだ?」
「私は賛成です!それで宛はあるんですか?」
「ない!これから考える」
何故なら今思ったから……
そして次の日、家を探す為、何故か商業ギルドに行く。
「まったく、そんなことで私を呼ぶんじゃないよ」
サリーさんは不機嫌、ま〜当然かも副ギルドマスターともなれば忙しいはず。
「サリーおばあちゃんごめんなさい、つい呼んじゃった」
サリーさんの顔が一気に緩み、
「良いんだよ〜私はリルちゃんに会うのが楽しみなんだから、むしろ毎日来て欲しいくらいだよ」
すでに当たり前のような手のひら返し……
「あ〜そうかい、いくつか紹介出来る物件があるからまずは見に行くと良い。案内役を付けるから行っといで〜」
…………………▽
「こちら、なかなかいい家だから」
俺達はハンナさんと言う獣人の女性に案内して貰っている。これで5件目になるのだが、なかなかですわ。想像以上にボロい、全然住みたくない。どうしよう。
「あの〜もう少し綺麗な物件ありませんか?多少値が張っても良いんで」
「え!ん〜〜でも皆さんお金そんなに持ってないんでしょ。あんまり無理するとあとが大変よ」
ハンナさんが心配してくれているけど、ボロい家はイヤだ!でも考えてみれば家賃の話をしてなかった。
「あの〜すいません一般的な相場感を教えて頂けますか?」
……………▽
「えーーそんなにあるんですか!それならもっと早く言って頂ければ、もっと中心街をご紹介しましたのに」
そうか……俺達はお金がないと思われてたのね。
「はい、それでは改めてお願いします」
話はついた。
気分を変えて次の物件をと思っていたら、
「あ!すいません紹介しようと思っていた物件につきましたけど、一応見ていきます?それとも次へ行きますか?」
喋りながら歩いていると次のオンボロ物件についたようだが、これは……
「え……これが次の物件ですか?」
目の前には大きく立派な屋敷が建っていた。
「はい、ここが次の物件になります。恐らく驚きになっていると思いますが、ここの物件に関しては家主の方は無料でも構わないと言っておられます」
「言っている意味がわからないのですが、こんな大きな屋敷がタダとかあり得ないですよ!」
「そうですね……何といいますか」
「は〜そういうことか、なんか曰く付きなんですね」
「は……い、コノヤシキハ、ファビーサマノモノ、ナンビトタリトモ、ウバウコトハデキナイ……サレ」
ハンナさんは急にガクンっと首を落としカタコトの言葉でここから去れと言っている。
「ハンナさん、憑かれてるよこれ〜……あっち行け」
俺は軽く手を振って霊気を当てるとスーっと離れて行った。
「あれ?私どうしたんでしょうか?」
「ハンナさん、この家について教えてくれます」
「あ、はい、もちろんです」
ハンナさんの話によるとこの屋敷は昔ヒルトン伯爵の別荘だったようで、ヒルトン伯爵はこの場所を非常に気に入っており、良く来ていたそうだ。ある日野盗が屋敷に侵入、ヒルトン伯爵を含む家族、メイド、兵士計15人が殺害された。その後犯人は捕まったが、数日後に全員牢屋の中で恐怖の形相で亡くなっていたのが見つかった。それ以来この屋敷に近づくものは必ず不幸が訪れるなんて言われるんですよ〜怖いですね!
「俺はそんな物を勧めるあんたが怖いよ!」
しかしこれは……チャンスかもしれない。
ただでこんな豪邸が手に入るかもしれん!
「ハンナさん確認なんですけど、本当にここはタダで借りられる……いやタダってことは貰ったのと変わらないですよね?」
「え〜もちろんです。こんな場所手放したいんです。でも管理上はうちの物になっているので、貰って頂けるなら…むしろお願いします」
ハンナさんはブルブルと震えて頭を下げる。
さっき取り憑かれて怖くなったんだろう。
「それじゃ〜契約書を……」
「そうじ〜さん本当にここにするんですか?何か出ますよ!絶対……」
「ま〜幽霊屋敷だからね。もちろん出るよ幽霊」
「いっやーー」
リルが暴走俺の周りをぐるぐると回る。
そうかリルは幽霊ダメなんだ。パワータイプは攻撃が当たらない幽霊は苦手なのは相場で決まっているってか!
それからリルを落ち着かせ、早速契約して俺達は屋敷のドアを開いた。
「ごめんくださ〜い」
「わぁーそうじさん出ます出ますよ!」
リルが俺の腕に抱きつくが、美少女にくっつかれるのはご褒美なのだが、リルの場合は当てはまらないようだ〜腕が千切れ〜る。
「お、落ち着け、痛い、落ち着くんだ!痛い、大丈夫だから痛い、放して〜」
「リル、落ち着くんだ、ご主人様の腕が取れてしまう」
「あ!ごめんなさい。つい力が入って」
ジャンヌが現れリルを止めてくれた。助かった〜。
「リル、怖いなら外で待ってていいぞ、俺はここの幽霊を除霊して住める環境を整えてくるから」
「でも、蒼字さん達だけに任せるなんて申し訳なくって」
「リル気にすることはない。ご主人様ならすぐに幽霊を倒してくれる。待てば良いのだ」
ジャンヌがリルの頭を撫でる。
お互いに分かってないな、リル、ジャンヌは幽霊だぞ。ジャンヌお前は怖がられている幽霊たぞ。
「ま〜良いか、ジャンヌはリルを護衛しつつ俺達についてきてくれ」
「はい、ご主人様」
「蒼字さんありがとう」
「それにしても中は綺麗だな!
まるで掃除したあとみたいだ」
屋敷の中は薄暗くはあるが塵一つない。ここには家主の者も入ってすらいないと聞いている。つまりこれは誰か他に侵入者がいるか、それとも……現れたか!
「カラカラカラ」メイドがカートを引いてやって来た。
「早速現れてくれて助かるよ。あの〜すいませーん!お話良いですか?」
カタカタカタと不気味な動きをして顔を上げると、
「ギャーーー」リルの叫び声が響き渡る。
うん!顔なしだね!怖いよね!




