表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
薬物地球  作者: 紫 和春
4/36

第4話 決意

 鳥獣薬物委員会の最初の仕事は、全国に存在する動物関連施設に対する薬物検査実施の指示であった。動物園、水族館、爬虫類販売店、猫カフェに至るまで、指示文書を配布した。

 さらに、全国の動物病院に薬物検査用のキットを配布することを決定。それに合わせて国民に広く周知してもらうため、あらゆるメディア媒体を使う。

『国民の皆さんの中には、犬や猫、ハムスターや爬虫類などペットを飼われている方もいるでしょう。そのペットが、最近狂暴になったりしていないでしょうか? もしそうであれば、それは薬物中毒の可能性があります。最寄り、もしくはかかりつけの動物病院にて検査キットを用いた検査を行うことをオススメします。現在まで確認されている不審な動物の死体の94%が、薬物中毒による死であることが判明しています。これは飼い主の管理下であっても同様です。皆さんの大切な家族を守るために、なにとぞ検査を受けていただくよう、よろしくお願いします』

 最初はただなんとなく聞き流していた人々だったが、メディアが繰り返し報道することで共通の危機感を感じるようになる。

 それと同時に、とある危険が人類に近づいていた。

『街中を飛ぶカラスやハトの死骸から、未知の薬物が検出されました。鳥獣薬物委員会の見解では、これは最近世界中で話題になっている合成麻薬によるものであると推測されています』

 野外を飛び交う身近な動物、鳥がだんだんと狂暴化しているのだ。その影響は計り知れない。実際に現場を取材していたテレビ局の取材班が、漫画のデフォルメされたような襲撃をムクドリの群れにされていた。

 カラスやハトも同様な状態であるため、被害は拡大する一方である。

 田舎の方では、鳥害対策用のロケット花火でどこかに追いやる事も実際にやってみたようだが、全く効果はなかったようだ。

 このような事態を受けて鳥獣薬物委員会は、政府を通じて鳥獣被害拡大防止を目的とした非常事態宣言を布告。不要不急の外出を控えるように要請した。

 このことを受けて、学校の授業をリモートで受ける吉斗。特にこれといった変化はなかった。

 授業を受けている裏で、吉斗はニュースを閲覧する。場所によっては、スズメの群衆に襲われて大怪我をした人のことがニュースになっていた。

 また北海道では、人里に降りてきたクマが民家に押し入るという被害も出ている。狂暴化したことで恐れるものは何もなくなり、窓を突き破って侵入したそうだ。幸い、警戒のために見回りをしていた猟友会のメンバーがすぐに駆け付け、クマを殺したそうである。

 そんなことをしているうちに、この日の最後の授業が終わる。

 吉斗は何か飲もうと、キッチンに入った。

 その時、外から何か物音がする。

「泥棒……?」

 吉斗がリビングの方に移動すると、窓のそばには母親がいた。

「あぁ……、うちの庭が……」

 母親がそんな風に嘆いている。

 吉斗も外を見てみると、自宅の庭の草木を滅茶苦茶に荒らしているスズメやカラスの群れが見えた。

 それを見た吉斗は、何か一種の理性のような物が切れるような感覚を覚えた。

 そしてすぐに行動する。

 自室に戻り、体操服の上下ジャージを着る。そして財布をポケットに突っ込み、自転車用ヘルメットを被って玄関に向かう。

「ちょっと、吉斗? 何してるの?」

「野暮用。そんなに時間はかけないよ」

「今は非常事態宣言が出てるでしょ? 不要不急の外出はするなって……」

「急を要することだから」

 そういって吉斗は、玄関の扉を開く。

 ここからは時間と鳥との勝負だ。

 ネットからの情報であるが、薬物中毒になった動物たちは動くものに過敏に反応するらしい。ただ例外があって、あまりにも速すぎると逆に補足することができないという。

 この情報を信じて、吉斗は全速力で自転車を漕ぐ。

 しかし速度が足りないのか、はたまた情報が間違っていたのか、近くにいたハトの群れが襲ってくる。

「このっ……!」

 吉斗は道を目一杯使って、蛇行しながら進む。

 分かる人が遠くから吉斗とハトの戦いを見れば、おそらくレイテ沖海戦を思い浮かべるだろう。まさに艦に群がる攻撃機と、その下を行く艦に見えなくもない。

 やがて吉斗は目的地に到着する。近所のホームセンターだ。

 ハトの攻撃は止んでおり、安全に店内へと入れる。非常事態にも関わらず、店頭に立っていなければならない店員に感謝しつつ、吉斗は目的の物を探しに店内をうろつく。

 そしてそれは、鳥害対策コーナーにあった。

「あった……、スリングショット……」

 運がいいことに、並んでいる在庫は残り一つであった。

 それを回収した吉斗は、なぜかキッチンコーナーに向かい、フライパンと包丁を確保する。

 それらを会計し、吉斗は再び自転車に乗る。

「待ってろよ……!」

 吉斗は来た道を全速力で駆け抜ける。

 自宅に到着する吉斗。未だカラスやハトは庭を荒らしていた。吉斗はフライパンを取り出すと、そのまま庭に突っ込む。

「やめな……さい!」

 群れのうちの1匹に、フライパンの底が命中する。それに頭に命中したようで、そのまま地面に倒れこんだ。

「うおおお!」

 群れの中でがむしゃらにフライパンを振り回す吉斗。何匹かの鳥に命中し、うち2匹は即死であった。

 吉斗の行動に影響があったのかは不明であるが、鳥の群れはそのまま去っていった。

 さくらが庭に出てくる。

「吉斗……?」

「母さん。俺、決めた。戦うことにするよ」

「戦うって、何と……?」

「決まってるじゃん。ラリった動物たちと」

 吉斗の言葉通り、世界は人類と動物との戦いになっていく。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ