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薬物地球  作者: 紫 和春


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第32話 一騎打ち

 松代町内にある公園。そこで、吉斗とパイシーズは相対していた。

 観客として亜紀、レミ、ゴン、キャンサーが少し遠くにいる。

「本当に戦うんですか?」

「当然だ。たった一個人のために人類を犠牲にするなんて、外道にも程がある」

「今からでも遅くありません。一度手を組みませんか? お互い『グリムリーパー』の恩恵を受け取っている身ですし、何かと融通が効くと思うんです」

「嫌だ。俺は俺なりのやり方をする」

「はぁ、そうですか……。残念です」

 吉斗は右半身を引き、左の拳を前に出す。パイシーズは自然体で立っていた。

「手加減はしないぞ」

 吉斗は警告する。

「もちろん。そのつもりで来てください」

 静かな時間が数秒流れる。

 先に動いたのは吉斗のほうだった。右足で地面を蹴り、左足で着地。そのまま左足で加速する。10m動くのに0.5秒もかからなかった。

 吉斗は右の拳をパイシーズの顔面に向けて、全力で振る。しかしパイシーズもただではやられない。吉斗と同じ反射スピードで顔を横に動かした。

 だが吉斗の攻撃はここでは終わらない。突き出した腕を曲げて、顔面にエルボーを打ち込もうとする。

 さすがにこれには対応しきれないのか、吉斗の肘がパイシーズの皮膚をわずかに擦る。

「チッ!」

 パイシーズは思わず声を上げる。反撃に出ようとして、体を吉斗の拳と同じ方向に回転させつつ、その回転力で左の拳を脇腹に持っていく。

 しかし、吉斗は肘を出していたことで、想像以上に体が前に進んでおり、パイシーズの拳は空振りに終わる。

 結局二人は、ただ単純にすれ違っただけに終わり、一度距離を開ける。

 この間、わずか2秒にも満たない。

「い、一体なにが起きてるの……?」

 亜紀の目では、ただすれ違っただけのように見えるだろう。

「『グリムリーパー』の効果を発揮出来る人間だけがたどり着ける境地のようなものです。おそらくは、肉弾戦だけでなく、心理戦も混じった、複雑な戦いです」

 レミが解説をしつつ、キャンサーのほうをチラリと見る。おそらく、今の攻撃はキャンサーには見えているはずだ。

 吉斗とパイシーズは再びにらみ合いながら、ジリジリと距離を詰める。

 そして拳をぶつけ合う。一見すれば、総合格闘技の試合のようにも見えなくはないが、そこにはスポーツには存在しないであろう「殺意」が確実にあった。

 互いが相手を殺すための戦い。命のやり取りをしている場面である。

「……ッ!」

 思わず見ているだけの亜紀にも力が入る。

 最初は互角に見えた殴り合いも、次第に変化が見られる。パイシーズの攻撃が増え、吉斗は防御に回らざるを得なくなってきたのだ。

 吉斗が下がろうとすると、パイシーズは容赦なく距離を詰める。だからといって吉斗が詰めようとすると、パイシーズはわずかに拳の圏外へと下がる。

 体格差はほとんどないはずだが、なぜかパイシーズのほうが有利に戦いを進めていた。

「防戦一方ですねぇ、それもそうでしょう。相沢吉斗の情報は筒抜けです。あなたの血中の『グリムリーパー』の量は、僕たちはおろか一般人よりも低い。仮に全力でかかってきたとしても、僕は赤子の手をひねるようにあなたを殺すことが出来ます」

「パイシーズ……、一体どこでそんな情報を……」

 その言葉に、ゴンが小声で反応する。おそらく、どこかのタイミングでゴンから情報が流出したのだろう。

 その間にもパイシーズは、一方的に吉斗のことを殴り続ける。吉斗は防御の構えをしているものの、次第にダメージが蓄積していくことだろう。

 そしてパイシーズから、重い蹴りを入れられる。吉斗の体は一瞬だけ宙を舞い、パイシーズから離れる。

「相沢吉斗、そろそろ降伏したらどうです? 今なら見逃してあげますよ。それとも、ここで死にたいのですか?」

 パイシーズが提案する。しかし、吉斗は顔の前へ腕を構え、防御の姿勢から動こうとしない。

「……沈黙は肯定とみなします」

 そういってパイシーズが全力で地面を蹴る。見ていた亜紀は、吉斗の死を覚悟した。

 次の瞬間。

 パァンと甲高い音が響き渡る。亜紀の目でもしっかり分かる。吉斗がパイシーズの攻撃を右手で受け止めたのだ。

「吉斗!」

 亜紀は驚きと喜びで、吉斗の名を叫ぶ。

 しかし、一番驚いていたのはパイシーズであった。

「なぜ僕の全力の攻撃が受け止められているんだ……?」

「当たり前だ。お前が獲物だからだ」

 その時パイシーズは、吉斗の目が赤く光ったように見えた。

「な、なんでそんな力が出るんです……! 確かに『グリムリーパー』の影響は格段に低いはずなのに……!」

「俺は普段から動物の肉を食っている。『グリムリーパー』が少ないわけないだろ……!」

 そういって吉斗は全力で力むと、体内にあるエネルギーを変換させて体表面にパワーとして顕現させる。これが吉斗の本気である。

 吉斗はそのまま、掴んでいたパイシーズの拳を簡単に砕く。パイシーズの手は複雑骨折のようになった。

「ば、馬鹿な……。これほどの力が一体どこにあるというんだ……」

 パイシーズは思わず後ずさりする。

 しかし、それを逃さないように、吉斗は一瞬で間を詰める。その移動と共に拳を振るい、パイシーズの肩を粉砕する。

「ガァァァ!」

 思わずパイシーズは悲鳴を上げる。

「俺はお前らとは違う……! 人類を救ってみせる!」

 そのまま、ほぼ無防備状態のパイシーズに格闘ゲームの如く攻撃を浴びせる。

 その様子を見ていたキャンサーが、その場に力なく崩れ落ちた。誰よりもパイシーズのそばにいたからこそ分かる。あんなにやられているパイシーズは見たことないと。

「グッ、こんなはずでは……!」

 何とか体勢を立て直そうとしたパイシーズに、吉斗の渾身のパンチが鳩尾に入る。

 それによって、パイシーズは地面に伏すことになった。

 そして吉斗は、そのままキャンサーのほうを見て、ゆっくりと接近してくる。

「あ……、あ……」

 キャンサーは武器である鎌を構えて、吉斗に対抗しようとする。しかし、先ほどまでの吉斗の攻撃を見て腰が抜けてしまったため、うまく立てない。

 そんなキャンサーの前に飛び出る影。ボロボロになって、立つこともままならないパイシーズだ。

「頼む……、キャンサーだけは見逃してくれ……」

 吉斗は少し考えた後、返事をする。

「いいだろう。その代わり、お前には死んでもらう」

「……分かった」

 その瞬間、吉斗はパイシーズの頭全体をねじる。ものすごい勢いであったため、パイシーズの首は簡単に折れて、そして体は再び地面と接する。

「あ、あ、い、嫌……」

 キャンサーは尻もちをついたまま、動かなくなってしまった。

 そんなキャンサーを横目に、吉斗は公園の出口へと向かっていったのであった。

「よ、吉斗……!」

 吉斗の後を追いかけるように、亜紀が小走りする。それに続くように、レミとゴンも出口へと向かった。

 残されたキャンサーは、パイシーズの体を抱きしめる。

 しばらく涙を流したキャンサーは、パイシーズの体を背負って公園を出る。

 顔を伏せていたキャンサーの前に、一つの黒い影。

 キャンサーが顔を上げると、そこには吉斗の姿があった。しかし、それは一瞬の光景だった。

 次の瞬間には、パイシーズと同じように、キャンサーの頭が回転する。そしてキャンサーの体は、パイシーズの体に押しつぶされるように倒れたのだった。

「ちょ、吉斗! キャンサーは見逃すって話じゃ……!」

「見逃したよ。一度だけ」

「そ、そんなの屁理屈に過ぎないよ! なんで殺しちゃうの!?」

「こいつらは敵だからだ」

 そういって吉斗は、二つの遺体をそのままにして帰路につくのだった。

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