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好きですって言われたから

作者: 夏月 海桜

モヤモヤエンド?です。

胸糞ではない……はず。(多分)

年齢を明記していませんが大体15歳前後です。

「好きです」


 茶色のふわふわした髪の女の子からそう言われた。髪と同じ色した目はクリクリしてて子犬みたい。ふわふわした髪も触れば子犬みたいにふわふわしているのかな。あまり背が高くない僕よりも更に低い背。余計に子犬みたいだな。


「あの……恋人がいなければ、恋人になって下さい!」


「いいよ」


「えっ、ほ、本当ですか?」


「うん」


 だって、()()()()()この子が気に入ったし。折角僕のことが好きって言ってくれるなら、別にいいかなって思うし。それに子犬みたいだからさ。構えば子犬みたいに愛らしく見えない尻尾を振って従順かもしれないし、ね?


 ーーこんな僕の考え方が二人の始まりだったから、後々あんなことになっても仕方なかったのかもしれない、とあれから何年も経ってようやく考えられるようになった。


 僕は自分の顔がイイことを理解している。よく一目惚れされるらしくてキャアキャア騒がられるし、こうやって告白も受ける。でも僕自身は一人の女の子に縛られたくないし、気分で告白を受け入れたり断ったりしてる。背があまり高くないことだけが僕のコンプレックスだけど。年上のお姉様相手にはこの背丈で上目遣いをするだけでコロリと堕ちてくるから、まぁコンプレックスを跳ね除けているつもり。


 彼女は僕の名前を知っていたから、僕の顔を見て直ぐに告白してきたわけじゃなくて、きっと前から知っていて色々と情報を仕入れて来てから告白してきたんだろう。

 まぁね、青い髪はサラサラしているし? 目も髪と同じ青で海みたい、とか言われて女の子達はまたキャアキャア騒ぐくらいだし。全体的に母に似た顔立ちはバランスよくパーツが収まっていて「整っていて美しい」 とか言われちゃうし? それなりに家は裕福でその跡取りだから結婚相手にも不服なし、と評価されているらしいし? 性格はまぁ自分で良い、とは言わないけど、悪くはないと思うし?


 そりゃあ告白が後を絶たないよねぇ。


 で。目の前の、僕に告白してきた彼女。

 名前は名乗ってもらったけど、いつ別れるか分からないから呼ぶ気もないし覚える気もない。だから「名前で呼び合うんじゃなくて、お互いに“君”と呼ばない?」 って言ってみた。彼女はちょっと不満そうな顔をしてから。


「あなた、はどう?」


 という。いいよって頷き僕は彼女を“君”。彼女は僕を“あなた”って呼ぶことになった。名前を呼び合う気がなかったからどう呼ばれてもよかったんだよね。そうして僕達は一応恋人同士になった。

 現在富裕層の平民と下位貴族が通う学園生の僕達。同い年の君と僕。貴族ばかりが通う学園とは違い、騎士科だの淑女科だのなくて。ただ、入学試験で成績が良い順に1クラス・2クラス……と分かれたクラス別になる。僕のクラスには居なかったから、僕に一目惚れでもしたとかってヤツだろう。ちなみに入学してから一ヶ月ほどだから入学式にでも一目惚れされた? まぁその辺は知らなくてもどうでもいいから、聞く気はないけど。


 一応、恋人ってことだから昼は一緒がいいらしい。まぁそれくらいならいっか。近い者は家から通うけど家が遠い者は寮に入る。僕は王都内に家があるから通っているけど、君はかなり地方? へぇ。寮暮らしか。だから登園も降園も一緒にならない、と。ふぅん。そんなに束縛されないのはいいね。

 元々モテる僕だからさ。入学前に一応付き合ってた女の子()が、朝から夜までずっと一緒に居て、とか言ってくる子ばかりでウンザリしていたからね。それなら昼だけ一緒の君の方が遥かにマシだよね。学園の休みは、まぁ気紛れに? 気が向いたら? 偶にデートくらいしてあげてもいいよ。君も休みは全部デートして欲しい、とか我儘を言う子じゃなくて良かった良かった。


 それから二週間。意外と僕達は上手くいってた。


 いや、ほんとに驚くよね。今までの女の子達は我儘ばっかりで

「毎日朝から夜までずっと一緒に居て欲しい」

 とか

「あのペンダントが可愛いから買って! あ、こっちのリボンが可愛いから買って! あ、あの靴、私に似合うと思わない?」

 とか

「毎日好きって言って! 他の女の子と会わないで!」

 とか

 次から次へと我儘ばっかり。だったんだけど。君はずっと一緒に居たいとも言わないし、あれが欲しい、これが欲しいとも言わないし。好きの催促も無いし。

 こんな子も居るんだなって驚いてた。


「好きです。付き合ってください」


 そんなある日、君との昼前に僕は女の子から呼び止められて、告白された。あー、そろそろかなぁとは思っていたんだよねぇ。君と付き合ってから二週間。噂になり始めたから。なんか、女の子ってさ、自分の方が可愛いから自分が告白すれば上手くいくって思っている子が多いんだよねぇ。


 その自信、どこから来るの?

 って思うけど、まぁ自信を持つ程度に可愛い子とか結構居るし。そういう子達が告白してくるのも経験済み。まぁ僕は珍しくあまり我儘を言わない君のことは割と気に入っているから。まぁ、まだ別れなくていっか。とは思ってて。

 でもさ。折角可愛い子から告白されているわけだし?

 断るなんてするわけないよね。

 だからいいよって言ってさ。まぁ今日は君と昼を一緒にするけど、これからはこの子とも昼を一緒にしないと、ね。


 そう思って、君には「友人と昼を一緒にする日も出来た」 なんて言ったら、君は信じたらしくて。ちょっと寂しそうに笑って頷いた。地方から出て来た所為か、人の言うことを疑わなくて。ちょっと笑える。そんなに直ぐに信じちゃったら騙されるよ? なぁんてね。でもまぁ最初の印象通り従順な子犬なのかもね。


 まぁ次の日から告白して来た女の子と昼を一緒に過ごすようになって。そうしているうちにまた別の女の子から告白されて、その子とは登園と降園を一緒に過ごして。

 そうしているうちには隠す気もなかったから、一ヶ月もしないうちに、君の耳にも入ったんだね。


「あなた! 他の女の子と仲良くしないで! なんで仲良くするの? 私と恋人でしょ!」


 なんて君が文句を言って来たから、ちょっと幻滅した。全然我儘を言わない君だから別れて来なかったけど、やっぱり他の女の子達と同じように、僕を君の所有物のように言うんだね。残念だなぁ。


「なんで仲良くするって。好きですって言われたからに決まってるでしょ。君だって好きですって言ってきたじゃん。僕が女の子達から好きになられる顔なのは分かるでしょ? 気に入らないなら別れるけど?」


 君は、怒りから悲しみや絶望? って感じの表情で、色々考えていたみたい。少ししてから「別れたく……ない」 って小さく呟くように言った。


「じゃあ、僕が何をしようと文句は言わない。言うなら鬱陶しいから別れて」


「分かった……」


 僕のやることに文句を言わないで、と言ったら、君は本当にそこから何も文句を言わなくなった。だから君以外の女の子と過ごす姿を君が目にしているのを気付いても、僕はなんにも言わなかった。

 驚くほど君は何も言ってこないし、肩透かしなほど言わない。時折君が悲しそうに僕と他の女の子を見ているのは知ってたけど、僕は相変わらず何も言わなかった。


 そうして、君と昼を一緒に過ごさなくなってから一ヶ月と半分くらいの頃。

 学園の定期試験期間になって。僕は女の子達の中で一番勉強の出来る君に声をかけた。君がとてもとても嬉しそうに笑う。その笑顔に何かの記憶が重なった気がしたけど。……何も思い出さないから多分気のせいだろう、と思いつつ。それでもこんなに喜んでくれることに少しだけ罪悪感を覚えた。


 だってさ。学園に入学してから告白して来た女の子達、やっぱり最初のうちは穏和なフリしていて。

 結局、他の女とは手を切れ、とか。あれが欲しい、これが欲しい、とか。他の女の子達に見せびらかすように学園内で腕を組むし休みの日の予定も勝手に組まれて「何時にどこそこに集合ね! デートしよ!」 とか我儘ばかりだし。


 だから君に会うのは本当に久しぶりだった。


 ……そういえば、君に告白されて二週間くらいしか、君と一緒じゃなかったっけ……。あれ。君と登園も降園も無いし、休みも出かけてないし、昼も一緒じゃないし、クラスも別だし。

 僕に「他の女の子達と仲良くしないで」 って言いに来た君に対して、僕が「気に入らないなら別れるよ」 って言ったあの日以来、僕は君と会ってない? だから本当に久しぶり?


 君は、僕の言うことをよく聞いてくれる従順な子。

 そして、僕が声をかけるまでずっと待ってたなんて。

 うん、やっぱり尻尾振ってついてくる子犬みたいだね。


 こんな子初めてだなぁ。……でもまぁそれもいつまで続くのかって話だけど。全然会ってなかったから、君のことは結局、よく知らないし。そのうち、本性出して我儘言って振り回して来るんだろ? 女の子なんてみんなそんなもんだからね。

 でもいいよ。僕も可愛い子達から「カッコいい」 とか「好き」 とか言われてチヤホヤされるの、大好きだし。モテない男達からの嫉妬にも「いいだろ、女の子達に囲まれて羨ましいんだろ」 って優越感を覚えてるし。

 君が他の女の子達と同じように振る舞って来ても、まぁ君だって可愛いからね。許してあげるよ。勉強も出来るから、勉強を教えてくれるし、ね。


 それから最初の定期試験。

 僕は君の分かりやすい勉強の教え方のおかげなのか、入学試験よりも順位を二十人程抜いた結果を出した。順位を発表する張り紙がされて確認した。この時の僕は君の順位にまるで興味がなかった。だから君は上から数えて八番目で入学試験の時と同じ成績だった、と随分後になってから知ることになる。この時は、結局君の名前を覚えてない僕は、そんなことすら知らなかった。


 良い成績が取れたなぁ。

 よし、これからも定期試験の時は君と一緒に勉強して成績をあげることにしよう。そうだ。良い結果を出すことになったお礼に君とデートでもしてあげようかな。

 そんな軽い気持ちで僕が君に声をかけてデートの約束をした時。周りには沢山の人がいて。当然、君以外の女の子達もいっぱい居て。それを聞いていた子がたくさんいた、なんて、この時はなぁんにも考えていなかった。


 その僅か三日後。

 君とデートの約束をした前日。

 学園の校舎内の階段から転がり落ちた女の子の噂を聞いた。昨日だったらしい。聞いた時は、可哀想に。怪我、大したことがないといいよね。

 ……なんて、他人事のように考えていた。


 実際、誰か、なんて知らなかった。

 君の名前が八番目の成績の女の子と同じだなんて知らなかったし、覚えてもなかったから、落ちた女の子の名前がクラスで噂されていても、君だって気づかなかった。だから階段から落ちた女の子の名前を僕が聞いても普段と変わらない僕を見て、周りが心配してないのか? と聞いてきたことも理解出来なかった。

 学園終わりに君に明日のことを確認しようと、君のクラスまで行こうとしたところで、最近ずっと、他の女の子達と手を切れって言って来るウルサイ女が、上機嫌で僕に近寄って来た。


「あの子とデートの約束なんかしているから、あんな冴えない女の子とデートなんてって腹が立ったけど、階段から落ちたことを聞いても心配する素振りもなかったね! デートの約束すら忘れる程、何とも思ってない子だったんだ! もう、そうならそうって言ってよ! 嫉妬しちゃった! それなら私とデートしよ!」


 そう言われて、初めて僕は階段から落ちた女の子の名前と、成績八番目の女の子と君が同じ人だって知った。


 名前を覚える気がなかったから、他の女の子達だって名前なんて覚えてないんだけど、それでも名前呼びを強制して来たから仕方なく呼んでやってただけで。でも君は強制してこなかったから、名前を覚えてなかったから、成績八番目だってことも今、知ったし。階段から転がり落ちたのも君だって今、知った。


 僕は、目の前に居る勝手に腕を組んで来たこの女の話が本当なのか、と顔を見て。いつも通りの表情……いや、ニタニタ笑う表情を見て、本当だって理解して。周りからなんで階段から落ちた女の子を心配しないのか、怪訝そうに見られた理由も理解して。


 僕はようやく、現実を知ってゾッとした。


 この女が君を階段から突き落としたんじゃないか、とも思ったけど。そんなことは一言も言ってないし。階段を転がり落ちた君を見た人は居ても誰かに突き落とされた、とかそんな噂もないし。

 いや、それよりも!

 僕は腕を組んでいた女から離れて、寮へ向かう。階段から落ちた女の子は講義も受けられない程の怪我って噂を聞いていたから。


 慌てて女子寮に向かい、寮長に君のことを尋ねる。学園は男女別の寮に分かれていて、それぞれに寮長が存在する。親くらいの年代で学園生達を見守ってくれている存在で、寮生と会うには、必ず彼らに面会の申し出をするのだ。今回のことでようやく覚えた君の名前。寮長は怪訝そうな顔をしながら、僕の名前を尋ねてきて。僕が名乗ったら、ハッとした顔をしてから僕のことを白い目で見て来た。こんな目で見られる理由が分からなかった。


 寮長は、表向き、贔屓しているように見られたくないから……と黙っていたようだが、君と寮長は親戚で、地方から出て来た君の親代わりみたいなものらしくて。こっそりと僕と恋人になったことを話していた、とか。階段から落ちたのは昨日だというのに、学園内で噂は広まっていただろうに、昼休憩にも来ないで何を今頃……ようやくお出ましか……と、文句を言いながら寮長はまだ退院出来ていない、と言う。


 病院に運ばれる程の大きな怪我だったことも、ここで初めて知った。

 階段から転がり落ちたって言っても精々数段だと勝手に思ってて、捻挫とか、擦り傷とか、そんな小さな怪我だと勝手に思っていて。

 でも寮長の話では、君の怪我は……階段の一番上に近いところから転がり落ちたから、かなりの大怪我らしくて。僕は病院を教えて欲しいって頭を何度も何度も下げて頼み込んで、渋々教えてくれた寮長に礼もそこそこに学園が終わっていたから、そのまま病院へ行って。意識はある、と聞いていた君の病室を訪ねて。僕は君に声をかけた。


「君……」


「あ……あなた、聞いたのね」


 頭も腕も包帯が巻かれた痛々しい君。布団に隠れた君の他の身体の部分も包帯が巻かれているんだろうか。


「あの」


「ねぇ、あなた。お別れしてください」


 僕が何を言えばいいのか分からないまま、何か言おうと口を開いたら、君はそんなことを言った。


「……え」


「もう、あなたが他の女の子達と仲良くしているのを見るのも嫌だし、私みたいな冴えない女の子とデートの約束をするなんてって嫉妬されて階段を突き落とされるのも嫌だわ」


 冴えない女の子……。

 やっぱり、あの女か! だけど、ああいう女は誰かに見られていない限り、自分がやったことは認めないだろう。


「ごめん」


「謝らないで。私が浮かれていただけよ。私が暮らしていた地方で、迷子になったあなたと少しだったけれど、過ごした時間を忘れられなくて。あなたの顔を覚えていた私が、あなたに告白して。恋人になってもらえたって喜んで。……それに浮かれてた私が悪いんだわ。ありがとう、あなた。私に付き合ってくれて」


 僕は、君の話にようやく以前、君の笑顔を見て、何かを思い出しそうだったことを思い出した。


「君は……五年前に女の子達から追いかけ回されて、大通りから外れて迷子になった僕を助けてくれた……?」


「ああ、思い出してくれたのね。あなたが私と恋人になるって言ってくれたのは、あの日のことを覚えていてくれていたからって思っていたんだけど。直ぐに違うことに気づいて。いつか思い出してくれるかなって期待していたけど。あなたは他の女の子達と仲良くするし。嫉妬されてこんな風になってしまうし。もう、疲れちゃった……。あの日、心細そうに大通りとは違う道を歩いてたあなたに声をかけて。大通りまで連れて行ったら、心から笑ってくれたあなたの笑顔に、私は恋をしたけど。その思い出だけでは、もうあなたと恋人で居るのは難しいわ……。少しの間だったけど、私と恋人になってくれてありがとう」


 僕は、君の気持ちを聞いて、君が僕の顔なんかじゃなくて、心から感謝した笑顔に惹かれたって言ってくれたことが嬉しかった。きっと僕は、顔とか僕の親が持ってるお金とかじゃなくて“僕”を見て欲しかったんだ。誰か一人でいいから、女の子達に“僕”を見て欲しかった。


 それが君だったのに。


 僕の所為で君は僕を諦めるらしい。


「い、嫌だっ! 別れないで欲しい! 他の女の子達とは手を切るから! 君とだけ居たい! 君と一緒がいい!」


「……無理よ」


「嫌だ! 直ぐ、直ぐに別れて来るから!」


「無理なのよっ!」


 半泣きになって縋ろうとする僕に、君は強い口調で僕を否定して。僕が驚いて黙って君を見たら。君は泣きそうに笑いながら言う。


「もう、歩けないんですって」


 息が止まるかと思った。


「ある……けない」


「ええ。お金を貯めて外国に行って手術をしてもらえば歩けるかもしれないけど、この国では手術が出来るお医者さまが居ないから、歩けないって。買うと物凄く高い車椅子って椅子に乗らないと自分で動くことも出来ないって。だから」


 無理なのよ。


 君は力なく笑う。

 僕は口をパクパク開け閉めして、息が苦しくて。声も出せなくて。


「あなた、さようなら」


 でも、君のその一言を聞いてしまったから。


「い、嫌だっ! わ、別れないっ! 歩けなくていい! 手術したいなら僕が親に頼むから! だから!」


 僕は今頃になって君の大切さに気づいて後悔する。


「すごく……複雑だわ。私もあなたを今でも好き。階段から突き落とされたことは許せないけど、そういうことをしてしまった彼女の気持ちも分かる程、私もあの子もあなたが好きなの。でもあなたは結局誰のことも好きじゃなくて。それなのになぜ私とお別れしてくれないの?」


 君が泣いて僕を詰る。静かに静かに涙を流す君。

 もう、子犬みたいな君はどこにも居ない。

 それでもっ。


「僕は、顔でも金でもなくて僕を好きになってくれる女の子を探してた。それが君だったから。ようやく君がそんな女の子だって分かったから! お願いだ! 別れないで!」


「それも結局、あなた自身の気持ちの押し付けで、私の気持ちも何も考えてないじゃない! だけど……私はバカだわ。そんなあなたでも大好きで、そう言われて嬉しいって思っているの。今でも好きなんだわ」


「じ、じゃあ」


「でも、やっぱり無理よ。……もう、あなたを信じられないもの。きっと好きな気持ち以上にあなたが他の女の子と仲良くすることをずっと疑ってしまうわ」


 それは僕が悪い。

 そう思わせてしまうことをしてきた僕の所為。


「それでも、いい。君が、いい。ずっと疑って構わない。だから、別れないで」


「いつか、あなたが嫌になって重荷になるわよ。歩けない私のことも疑ってばかりの私のことも、重荷になるわ」


「そんなことない。そんなことないってずっと言うから、だから」


 別れないでください。


 僕は小さな声で願う。

 君は……、暫く黙ってから溜め息をついて言った。


「いつか、私か、あなたがお互いを思い遣れなくなって潰れそうになったら、その時は別れましょう。私も潰れたくないし、あなたにも潰れて欲しくないから、どちらか、或いは二人の人生がこれ以上一緒に居るのは無理ってなるまで。その時までは、あなたと一緒に居るわ。その時が来たら、別れてください」


 それが君の答え。それでも僕は構わない、と願った。


 君とずっと一緒に居たいから。


***


 その後のことを少し。

 僕は君以外の女の子達との関係を僕から謝って終わらせた。「今までありがとう。そしてきちんと向き合って付き合わなくてごめん」 と一人一人に頭を下げて。あっさりと分かってくれる子。本命が居てもいいから今までと同じような付き合いを望む子。泣く子。バカにしないで、と頬を平手打ちしてきた子。そして……


 君を突き落としただろう彼女は、泣き叫んで「別れたくない」 の一点張りで。僕がたった一人を大切にしたい、と真摯に話してようやく彼女は……


「やっぱりあの女なのね! だから突き落としてやったのにっ! 生きてるなんて!」


 と本性を剥き出しにして君を罵った。

 この彼女に会う時には、女子寮の寮長さんを密かに呼んで話を聞いていてもらうようにお願いしていた。彼女が突き落としたことを口にするかどうかは分からなかったけど。もしかしたら……と思って。


 そうして彼女は君を階段から突き落としたことを口走ったと同時に寮長さんが現れて話を詳しく聞かせるよう問い詰められた。僕を睨みつけて「他人に盗み聞きさせるなんて卑怯者!」 と罵る彼女を、寮長さんは学園長の元に連れて行った。


 後から寮長さんに聞いた話では、学園長の前で寮長さんが君と親戚だということを彼女に話して、故に他人ではないことを説明してから再度彼女を問い詰め……彼女は項垂れて、君を階段から突き落としたことを認めたという。


 学園長は彼女の両親を呼び出し、王都内から通っていた彼女の両親はその日のうちに娘が行ったことを知って、寮長と学園長に謝った。学園長はその日に停学を言い渡した。彼女に反省が見られれば、被害者の君の意見を聞いてから、退学か引き続き在籍可能か、判断する、と。取り敢えず十日間の停学。その間に君の意思を確認する、とのことで。

 そして寮長はあくまでも親戚だから……ということで後日、君の家に彼女の両親と彼女は謝りに行ったらしい。


 そこで君の両親は君から「突き落として来た女の子が謝って来たら、おおごとにしたくないから、治療費だけ支払ってもらうことにして欲しい」 と君の意向を聞いていた、と。君の両親は本当はもっと怒ってるし、治療費だけじゃ許せないと思っているけれど、君の意向を優先する、ということで。彼女の一家は君の治療費を支払うことを約束した、とか。そして彼女は君の意向を聞くこともなく、自ら退学をした。最後に僕に言ったのは。


「こんな女好きのどこが良かったのか、分からない。恋って盲目よね。でも、あんたみたいなクズにあの子みたいな女の子はもったいないと思うわ」


 だった。……僕は君から捨てられかけているけど、それを彼女に言う必要はなくて。彼女は「あんたと別れられてよかったわ。目が覚めた」 と清々した顔で学園を去った。少しずつ少しずつ、彼女が君の治療費を支払っていることは知ってる。


 僕は君以外の女の子達と全員手を切った時。正直なところ、直ぐに他の女の子からまた告白されるんじゃないかって思ったし、それを断れる自信があるのか、なんて思ってた。でも実際は、僕が色んな女の子達と仲良くしていた所為で、女の子の一人は怪我をして、女の子の一人は学園を去って行ったことが直ぐに噂になって。


 僕に告白をする子なんて居なかった。だから断れる自信がどうとか、それ以前に何もなかった。

 そうして僕は毎日君のお見舞いに行って、女子寮の寮長さんや彼女の家族や友達に白い目を向けられながらも、君と一緒に過ごせる時間を楽しんだ。


 僕は、いつ君から捨てられるか分からないけれど。

 捨てられなくても信じる心が君に戻って来ないかもしれないけれど。


 それでも僕は。君に捨てられるまでは……捨てられたとしても君とずっと一緒に居たい。




(了)

お読み頂きまして、ありがとうございました。

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