後編
眩しい程の光が出て、公爵の主張する本の正当性が証明された。
王は杖から王冠を外すと、おそるおそる被る。
「そんな……
ではわしは……」
しかし王冠を被ることは出来ず、さすがの国王も、ショックを隠しきれないようだ。
生まれた時から王族として生きてきて、いきなり違ったと言われても、すぐに受け入れられる訳ではない。
「父上!!
私に被らせて下さい
次期国王はこの私なのですから」
そうだった。
ここで黙っていられるような、兄ではなかった。
呆れた視線を送るが、そんな余裕もないのか、こちらに気付くことはない。
だが勿論、王冠が反応することはなく、被ることは出来ない。
「ど、どうして
そんなはず……」
いつも自信たっぷりのナルシストな兄でも、さすがに顔面蒼白。
ついにここまできた。
ここからは失敗は許されない。
「では次は私の番ですね」
「お前が被れるはずないだろう
卑しい血の分際で図々しいぞ」
顔色が悪いながらも、こちらを睨みつけてくる。
「そう――
でも残念ね」
そう言うと、王冠の方から勝手に私の方へ飛んでくる。
私は魔法なんか使ったりしていない。
そしてそのまま、私の頭に王冠は自ら乗った。
私が主であることが分かる様に。
その瞬間王冠が光り、私の瞳と髪は本物の宝石のように輝き出す。
きっとこれが、王冠に選ばれた者の証なのだろう。
「私が、この王冠の主なの」
今まで見下してきた王族たちを見る。
全員間抜けづらしている。
表情を繕えないなんて、王族の教育はどうなっているのやら、
さぁ、これで仕上げだ。
「だから随分前から分かっていたの
この婚約破棄が起こることを
そして証拠が捏造されることも」
「だからこちらには、その証拠が偽物である、ということを証明出来る様にしてあります」
合図すれば、証拠を辺境伯家のものが出してくれる。
「ではそういう訳で…あなた方は今日から王族ではなくなります」
いつも全く表情が変わらない私だが、この時ばかりは淑女の微笑みを浮かべる。
これが一番効果的に追い詰められるのが、分かっているから。
「なっ、何を勝手な」
国王はもう黙っているが、兄は黙らない。
ここで最後のダメ押しをする。
「そもそも、この王家の正統なる血筋は私たちなのですよ
悪い魔女によって入れ替えられてしまいましたが、星の女神アストレア様の導きで、やっと戻ってこられました
王家の色は金ではなく」
「このブルートパーズの色なのですよ」
全員に、印象的な宝石の様に輝く髪と瞳を、映える様に見せつける。
「では、この国に害を為す魔女の手先である反逆者たちを拘束し、地下牢へ連れて行け」
そうして私は、この国の女王として即位した。
即位の後は、元から根回しをしてあったものの混乱は避けられず、毎日忙しい日々を送りやっと落ち着いてきたので、コルネリア様とティータイムを楽しんでいる。
「この度は、本当にありがとうございました
あの時クレア様に話を持ち掛けて頂き対処しなければ、恐らく処刑されていたでしょう」
「いいえ、お礼など不要です
あの時の私には権力が無かったので、公爵家が後ろ盾になってくださったからこそ、あの場もスムーズでしたし、即位後も安定しております」
実は私は、あの婚約破棄騒動の少し前から、未来予知をするようになっていた。
ある日とてつもない頭痛に襲われ、導かれる様に王冠のある部屋へ行った。
そこで王冠に触れると全てが分かってしまった。
魔女のせいで王家の血がすり替わっていたこと。
女神の力が働き、国王と私の母は運命の相手となっていたが、実は王妃が魔女の手先であった為妨害されてしまい、王城では母に会うことすらも無くなってしまったこと。
次代の王は私であること等々。
あの日のあの時間に導かれたのも、誰にも見つからないよう女神様の導きがあったからだろう。
その日以降私は裏で動いた。
まずはアイテール家に話を通し、辺境伯家に証拠の裏取りをお願いし、魔女側でないものには全てこちら側へ付くように手配していた。
王妃に見つかってしまうのが唯一の不安だったが、星読みの力でなんとかなった。
「ふふ、クレア様のお役に立てたのなら幸いですわ」
聖女らしい清らかな微笑みを返され、癒された気がする。
あの件で動く内に仲良くなり、今では親友となっている。
立場もあるので普段はきちんとしているが、私的な場ではお互い愛称呼びだ。
「今日は正式発表の前に、リア様に彼らの処遇を話そうと思って」
「まぁ、そうでしたの
クレア様の都合の良いようにして頂いて構いませんのに」
聖女らしくふわりと微笑む。
「何を仰るのかしら、リア様も当事者ではありませんか
まずは国王ですけれども、私の母の運命の相手ということもあり、今は王妃の影響が薄れて相思相愛のようになってしまっていて」
「まぁ」
「こんな環境の中だったのに、育て抜いてくれた母には、私も頭が上がらない所がありまして…離宮に幽閉という形を取らせて頂きました
勿論、監視は付けておきますが…」
それに私の母も女神の血筋な訳で。
母のいる前であの気弱な男が何か出来るわけない。
「それから兄の方ですが、魔法塔への生涯幽閉と致します」
「魔法塔にですか?
では死ぬまで魔力を取られていくのですね」
「甘いですか?
まぁあんな婚約破棄のような茶番をしたやつですもの――」
「いいえ、元々なんの関心も持ち合わせていなかったもので
可哀想だな……と」
嘘をつく様子はなく本当に憐れんでいるみたい
「あらそうでしたか、まぁ、リア様が可哀想と思う価値もないかと」
「それで王妃とリーデル男爵家は、公開処刑にすることにしました」
「見せしめ……ですね」
「えぇ、さすがに魔女にここまでされて、何もしないのも国として問題ですから
今後のことを考えれば当然かと」
「私も妥当ではあると思いますよ」
「リア様にそう言ってもらえると、少し心が軽くなりますね」
そのまま他愛もない話をして、その日のお茶会はお開きとなった。
その後王妃、リーデル男爵家は公開処刑を行い、他にも魔女と繋がっていた者たちも捕らえ処刑となった。
直接は繋がっていないが、悪事を働いた者は兄と同じ魔法塔へ入ってもらっている。
たまに様子の報告が届くが、兄は少しずつ衰弱していってるようだ。
私の母とあの男は、離宮の中で過ごしいちゃいちゃしながら過ごしている。
あの男のことを考えると複雑だけど、母はとても幸せそうにしているので、あまり考えすぎないようにしている。
2人だけの箱庭にいてくれるのなら、今後も大丈夫だろう。
リア様は無事に公爵家を継ぎ、当主としても聖女としてもしっかりとこなしている。
聖女の御付きとして付いていた神官と恋に落ちたようで、もうすぐ子も産まれる所で、とても楽しみだ。
そして私は、いまだに良い相手を見つけられない。
女神の直系は運命の相手がいるみたいなのだけど、忙しいからか中々見つからない。
こんなことに星読みの力を使うのも嫌だし。
「私にも早く現れないかな
運命の相手…」
「女王陛下!!
龍の獣人が現れ、国に保護して欲しいと」
慌ただしく入室してきた使者が告げる。
「分かった、今すぐ向かおう」
そして広間へ向かいながら、いつもより少し早い胸の高鳴りを感じたのだった。
これにて完結となります
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