前編
「コルネリア・アイテール!!」
今日は学園の卒業パーティー。
そんな祝いの席にも関わらず、金髪の軽薄そうな男が声高々に叫び出した。
この国の王太子フィリップ・アストレアである。
対峙しているのはその婚約者、コルネリア・アイテール公爵令嬢。
聖女でもある彼女は、いつも優しい微笑みを浮かべており、今日も崩れることはない。
「貴様はここにいるか弱いハンナ・リーデル男爵令嬢を虐めたそうだな!!」
険しい顔で捲し立てる王太子の隣に、婚約者を差し置いて立つハンナ。
目が合うと、怯えた表情でそっと王太子の腕に縋り付いた。
「そんな者は国母に相応しくない!
よって貴様との婚約は破棄だ!!」
そこまで言われても、コルネリアの表情はいつもの微笑みを浮かべたまま。
「――王太子殿下
私は誓ってそのようなことはしておりません」
澄んだ声で自分の身の潔白を主張する。
「ふん、しらじらしい
証拠はたくさんあがっているのだ
聖女の様に優しいのが、貴様の唯一の取り柄だというのに
裏ではとんだ悪女ではないか」
実際には、唯一の取り柄とかそんなことはなく、可愛らしさを感じる容姿に、透き通るような金色の髪と瞳。
それに学力も高く、王太子妃教育もすでに終了しており、優秀とされている。
そのことに気付いていない王太子は、側近に証拠を出させる。
次から次へと、コルネリアの悪事が証明されていく。
それでも彼女の表情は、いつもの微笑みのまま変わることはなかった。
周囲は聖女がそんなことをと思いつつも、確実な証拠を見せつけられ、動揺が広がって行く。
「衛兵よ!!
この悪女を捕らえ牢に入れよ」
その一言で、彼女は衛兵に拘束される。
ーーーーーーーー
一連の流れを見ていた、ブルートパーズのような瞳をした少女。
クレメンティアは大きくため息をつく。
「はぁ、やっぱりこうなってしまうのね」
予想通りになってしまい、これからのことを考えると少し憂鬱。
でも彼女の為にも、ここが踏ん張り所ね。
「ねぇ、少しお待ちくださいお兄様」
ろくに話したこともない兄へ、声を掛けて止める。
私の声を聞き、あからさまに不機嫌な顔を見せる。
「王家のお荷物の分際で、この俺の決めたことに口出しするつもりか」
お荷物というのは、私たち兄妹は腹違いなのだ。
兄は正妃の子であるが、私は国王がお忍びで街へ降りた時に、平民であった母にお手つきをして、妾として連れ帰ってきたのだ。
にも関わらず、それ以降会いに来ることはなく、寵愛などまるでない為、王城では虐げられることばかりだった。
でも今日は違う。
「お荷物…お荷物ですか
果たして本当にお荷物なのは、誰なのでしょうね」
冷たい瞳を兄へ向ける。
「お前、一体何様のつもりだ!!
この学園生活の間に、自分の立場を忘れたか!」
いつもと違う私の態度に、兄の怒りはヒートアップしていく。
「立場…ですか
ではお兄様は、この国の成り立ちはご存じですか?」
「当たり前ではないか
魔女から世界を守る為に、星の女神であるアストレア様が、この国を創った
その子孫が王家だ、それがなんだ!」
「そうですね
でも、おかしいと思ったことはありませんか?
なぜ星の女神を祖先に持つのに、王家の魔法は雷属性なのか」
「何を言う!!
王家の魔法は雷属性に似てはいるが、全くの別物
これだから、卑しい血の混ざり物は」
「それは違いますぞ」
兄の罵倒を遮り、アイテール公爵が歩み出てきた。
今日の卒業パーティーは、卒業生の身内なら参加が可能となっている為、公爵も参加していた。
「これはこれは、公爵代理ではないか
娘が悪女ではないと庇うつもりか?」
少し冷静になったのか、嘲笑うような表情に戻る。
しかも婿養子である公爵のことを馬鹿にして、代理を付けて呼ぶことから、どれだけ見下しているのかよく分かる。
アイテール公爵家は、建国から支えた家で今でも、代々聖女を輩出している名家であるというのに。
「滅相もございません
本当に娘がしたのならば受け入れましょう
しかしその前に、代々聖女の血筋を守ってきたアイテール公爵家には、建国の際の文献もあるのです
そこにはこう書かれておりました」
そう言って彼は古びた本を取り出した。
『星の女神アイテールは、星読みを得意としており未来が見える
その力で国の危機を何度も救った
そして次の王となる者は王冠を被り、星読みの能力を存分に発揮するであろう
そして資格なき者に王冠を被ることは出来ず、偽ることなど出来ぬ』
「なっ…そんな物は偽物であろう」
初めて聞く話にあからさまに狼狽えている。
「いいえ、これは本物です
この本には特別な魔法が掛かっており、その王冠を触れさせることで反応するはずです
どうぞお試しください」
アイテール公爵は本を差し出す。
「――では……試してみよう」
これまで静観していた国王が立ち上がり、公爵へ自分の前へ来る様促す。
公爵は王の前で膝を折り、本を頭上に掲げる。
王冠は杖と一体になっている為、いつも王は持ち歩いている。
そして王冠が、そっと本に触れる。
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