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桃華の戦機~トウカノセンキ~  作者: 武無由乃
西暦2091年
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清泉の底の泥~セイセンノソコノドロ~

 西暦2091年6月10日――、アメリカ大陸合衆国における祝日、自由記念日を前にデイビット・ジェファーソン大統領は専用機で南アメリカはサンパウロへと向かっていた。

 その行程は順調に進んでいたが、しかし、アマゾン熱帯雨林地帯に差し掛かった時に異変が起こる。


「大統領!!」

「どうした?! 先程の衝撃は何だ?!」

「地上からの地対空攻撃です!! 本機は墜落を初めています!!」


 その機長の言葉に驚きを隠せない大統領。その彼の近くに立つ男女一組のSPは静かに大統領に語りかける。


「……大統領……お手を。このまま瞬間転移にて地上に向かいます」

「わ……わかった」


 大統領は頷いてSPのうちの女性の手を取る、男のSPもそれに倣った。


「気をつけろ……、このような襲撃をかけてきたんだ、地上にも伏兵がいる可能性がある……」

「了解です……」


 男性SPに言われて女性SPは静かに頷く。それはもはや折り込み済みで行動しなければならない。

 墜落する航空機に大統領を乗せておけないし、なによりアメリカ大陸合衆国でもトップクラスである自分たちならば、困難を乗り越えて素早く安全地帯まで大統領を送り届けられるはずだ。


「しかし……、このようなこと一体……」


 大統領は独りごちるが、やりそうな組織は無数にあり過ぎて現状では特定が困難であった。


(……アメリカ合衆国が、南アメリカを併合する際にも何かと抵抗しようとする意志はあった……。おそらくはそこら辺の反政府組織……か)


 大統領はSPによって地上の森林地帯に転移移動しながら思考を続ける。無論、そのような行動は相手にとって予想の範囲内であった。



 アマゾン森林地帯、大統領から数キロ離れた地点――。

 フラメス共和国製機動装甲歩兵【TRA4A・地対空装備仕様】に搭乗している男、ジョゼがリーダーであるアルベルトに報告する。


「隊長……、大統領機撃墜……、言われた通り損傷は軽微だぜ……」

「うむ……ご苦労。撃墜したが、その余波で大統領死亡……では人質には出来んからな」


 ジョセに答えるリーダー・アルベルトは、フラメス共和国製機動装甲歩兵【TRA4S・LMCアサルトパック装備仕様】に搭乗して墜落してゆく航空機を見送った。


「おそらく……大統領は、護衛のSP辺りの超能力者によって地上に降りているだろう。予定通り制圧部隊を予測地点へと進めろ」

「了解……」


 通信を始めるジョゼを尻目に静かに空を睨むアルベルト。


(……祖父の代から続けている闘争。たとえ無意味だとしても辞めるわけはいかん……。それこそが我らが奴らに示す事のできる、我らの憎悪と抵抗の歴史表現……)



 ◆◇◆



「ご苦労さま……」


 桃華はTRAハンガーで一人コーヒーを飲むアンヘリタに話しかける。

 アンヘリタは少し驚いた表情をしてから静かに笑って言った。


「なんだ? またあたしに説教か?」


 その言葉に桃華は苦笑いして答えた。


「なに? 私ってそんな鬼軍曹的な感じに思われてるの?」

「はん……、見た目はチビスケだが……そんなもんだろ?」

「チビは余計……」


 その頬をふくらませる桃華の様子に、アンヘリタはひとしきり笑った。


「くくく……、まあ中身は素直な子どもで良かったよ……。本当に……」

「ふん……、素直な子どもって……。アンヘリタ……」


 桃華が膨れ顔から真面目な表情に変わる。

 

 【アンヘリタ・カステジャノス少尉】

 ブラジル系アメリカ人。かつてブラジルに住んでいた時に、反政府勢力のテロによって家族を失って天涯孤独になった者。

 そこからアメリカ軍人を目指し、軍人となって後は何よりテロリストへの苛烈な憎悪の籠もった行動によって、幾度も上司とやり合った者。

 場合によっては上司すら殴り飛ばして、懲罰房に送られたこともあったという。

 まさにテロリストに相対した彼女は暴の化身であり――、アンヘリタ小隊が生まれた後もエマ・ファン・アールテン軍曹、すなわち小隊副長が指揮官役を担っているのも、()()()()()()だと思われる。


 しかしながら、過去の記録を参照した桃華は、彼女に関してある事実を理解していた。だから、不意に桃華はアンヘリタに()()()()()

 

「……アンヘリタは()()()()で行くつもりなの?」

「……」


 桃華の言葉にアンヘリタは驚きの表情を作る。そして――、


「……、まあアンタならそうか……。そうだな、問題はそれほど簡単でもないし、一応皆には【信頼】はされなくとも【信用】はされている……」


 いつもの乱暴な雰囲気は消え失せて、静かな様子で語るアンヘリタ。


「アタシの過去が過去だから……、悪い意味でも【信用】されてるし、だったらそのとおりに動くのが効率もいい……」

「……いつか弊害があるよ?」

「……そうかも知れねえ。でも【■■■■■■■■■■■■】どうでもいい……」


 その言葉を聞いて桃華はため息をついた。

 このチームは優秀なメンバーが揃い、世界最強のTRA部隊にもなれる可能性を持つ。しかし、一人ひとりが重要な部分を欠けさせている。

 彼女が――アンヘリタがこう判断するのもある意味でその【欠け】が理由でもあった。


(赤の他人の言葉や訓練だけでは伝えきれないものもある。やはり彼女らがその心の繋がりでわかり合うしかない)


 一見すると仲が悪すぎるこの部隊。それはほんのボタンの掛け違いによるすれ違いである。

 ならばボタンを直せばよいのだが……。


(それは私には、そのための舞台を用意してあげることしか出来ない)


 その時、おそらくこの部隊は大変な危機に陥るかも知れない。でも――、それが救われる鍵は――。


(……アンヘリタ。貴方……ね)


 静かにコーヒーを飲むアンヘリタを桃華は黙って見つめていた。



 ◆◇◆



 西暦2091年6月12日――、ファンダム基地大隊長室にて。


「それって……まさか……」


 第三中隊隊長マシューが、その大隊長ブラッドバーン中佐の言葉に絶句した。

 藤原は静かにその二人のやり取りを聞いている。


「うむ……、最近大統領の動向が面にでてこないと思ったらそういうことらしい……」

「でも、だからって何故我々にその任務を? アメリカ軍でない藤原君たちもいるでしょうに……」

「ああ……それは……」


 ――私がいるからでしょ?


 不意に藤原の隣にいた桃華が口を開く。その言葉にアメリカ軍人二人が黙り込む。


「……私は、最強の超能力者、ようは戦略級超能力者すら退けた……、そう世界に広まっているTRAパイロット。大統領が超能力者SPに護衛されながらもアマゾン熱帯雨林で行方不明になって、最悪を予想したアメリカの上の連中が、なりふり構わず使えるものは使おうって話だよね? だから……現在私が一時的に所属扱いになってる【Task Force 211】に捜索救助任務が回って来た……」

「まあそうだろうね……」


 桃華の言葉に藤原も頷いた。

 ブラッドバーン中佐は少しため息を付いてから静かに言った。


「以前より成績が良くなりつつあるとは言え……、未だ連携が未熟なあのアンヘリタ小隊……。我が国の大統領のお命とともに君に預けたい……」


 そう言ってブラッドバーン中佐は深く頭を下げた。マシューもまたそれに習う。

 それを見た桃華は静かに頷いて答えた。


「いいわ……、でも私の思った通りに作戦も編成もするからそのつもりでいてね? 大丈夫、私の命と誇りにかけて、()()()()()()も、アメリカ大統領も死なせたりしないわ……」


 そう言って笑う桃華を、二人のアメリカ軍人達は信頼の念が籠もった瞳で見つめた。


 ――こうして、アンヘリタ達の未来が変わる運命の作戦の幕が上がる。

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