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桃華の戦機~トウカノセンキ~  作者: 武無由乃
西暦2090年
13/33

天に輝く悪神~テンニカガヤクアクシン~

その時()() ()は考えていた。


(フン……この世はキタねえことばかりってことは知っていたが――、

なんとも因果なもんだな)


その手を振り上げると、闇を纏った機甲師団がその火砲を一斉に桃華へと向ける。


(あたしら超能力者も実験動物扱いで――、

人としても見られず、泥をすすって生きてきたが――)


遥は初めて憐れむような眼で桃華を見る。


(こいつもそういう世界を生きてきたんだろうが――、

結局あたしの手にかかる――)


桃華は『一般人ノーマル』だ――。

遥にとっては『一般人ノーマル』というだけで憎悪の対象ではあるが――、

目前の桃華に対しては、それまで心に湧き上がっていた憎悪が消えうせていた。

遥は生まれて初めて『一般人ノーマル』の事を哀れだと感じていた――。


(殺すのをやめるか?)


そう考えもしたが、それはかなわない約束だろう。

なぜなら、目前の桃華は自分に対して烈火のごとき憎悪を抱いているのだから。

哀れんで手を緩めれば自分が殺される――。ならば生きるためには殺すしかない。


(ああ下らねえ――、本当に下らねえ世界だ――)


あまりにもままならない世界――。


だからこその革命――、

だからこその新国家建設――。


(悪いな嬢ちゃん。あんたはここで終わりだ――。

でも安心しな。このくだらない世界はあたしらが――

あたしが全てぶち壊して更地にする)


そして――、


(虐げられた者達が笑顔で生きられる世界を必ず創るから――)


ただ純粋に遥はそう心の中で思う。

そうやって作ろうとしている国には『一般人ノーマル』の席はなく――、

結局、虐げる者と虐げられる者が逆転するだけの事だが、それを遥は純粋に正しいと考えている。


それがわかるからこそ桃華は抵抗しようと足掻く――。

なおも桃華は肩のドランダーカノンを乱射して活路を開こうとする。

その必死の抵抗も、遥にとってはただ自分の誤りを自覚できない馬鹿が、生き足掻こうとする無様な行為でしかない。


「これはあたしにできる唯一の救いだ――、

安心して死ね――」


遥はため息をついて最後の宣告をした。


ドドドドドドドドドドドドド……!!!!!!!!!!!!!!


不死の軍勢の、死を呼ぶ咆哮が東富士演習場に響いた。


――――――――――。


――――――。


――。


これで何もかも終わった。


終わった――?


「?!!」


濛々と立ち込める土煙の向こう。もはや形すら残っていないはずである重TRAの気配を、遥は確かに感じ取っていた。


「なんだ?!」


遥は何が起こったのか理解できず疑問符を飛ばす。

不意に金属がこすれるような音が土煙の向こうから聞こえてきた。そして――、


ドン!!!


すさまじい衝撃波を伴った何かが炸裂音を伴って空を切った。


「かあああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


遥はその衝撃波に吹き飛ばされてそのまま地面に転がる。


「ぐ?! かは……」


一瞬何が起きているのか理解できなかった――。でも次の瞬間には心を抉るような激痛が遥を襲ったのである。


「げええ……!!!」


遥は大量の血反吐を吐く。そして、そうなってやっと、自分の右肩から先が失われてしまっていることに気付いた。


(な? なんだコレ……)


並の砲撃なら防ぐことはできる。しかし、その砲撃は――、


(ドランダー……カノン……?! まさか……)


右腕を失った遥は、それでもなんとか立ち上がる。

その間に、桃華と自分を隔てた土煙は消えてなくなっていた。


「アレは?!」


そこに異様な物体がいた。


「多脚戦車……だと?!」


それは、深紅に塗られた四本脚の鋼鉄の蜘蛛であった。

もちろんそれはただの蜘蛛ではない、その証拠にその背には先ほど自分を狙撃した、ドランダーカノンを収めた砲塔がある。


「ふう……間に合った」


その機体の中で藤原は安堵のため息をつく。


『大隊長。目標の損傷甚大、PSIレベルの大幅低下を確認』


「OK。ありがとオルトス。

非番だったのにすまんな……」


『いいえ? 備品に非番はありませんから!

全然気にしなくてもいいですよ!!』


(絶対気にしてるだろ……)


藤原は苦笑いしつつ操縦手(ドライバー)を務めているオルトスに心の中で謝る。


『しかし、狙い通りですね――、

あの超能力者、コンプレックス発動中は念動防御が弱くなるみたいです』


まあ、そんなことは桃華も百も承知だったろう。

ただ、マトが小さすぎて桃華のTRAのドランダーカノンではうまく狙えなかっただけだ。

藤原の場合は、不意を突いたからこそ狙撃できたのだ。もっとも、狙いは見事に外れて目標を掠っただけであったが。


――と、不意に、藤原の機体の通信機から桃華の声が響く。


「なんで? 何それ……おじさん?」


何が起こっているのかいまいちわからない桃華は、

腰を抜かした状態の重TRAを立ち上がらせながら通信を送ってきた。


「なんで? おじさん?

――指揮官が戦場に出てきていいの?」


そんなどうでもいいことを呟く桃華に、藤原は笑顔で答える。


「あの時言ったろ? モモは俺が護るって――。

あの時は、モモに『あたしで対処できない状況で、凡人のあんたに何ができるの』なんて言われたけど――。

――出来ただろ?」


「う……」


その藤原の言葉を聞いた桃華は、溢れる気持ちを抑えることができなくなった。

その瞳から綺麗な一滴が流れる――。


「俺は、これを証明したかった――、

そして証明することができた――

そうだろ? モモ――」


桃華は俺が護る――。


それは桃華の事を初めて知った時に心に誓った想い。

自分は悪人である――。政府の闇を見てもなお、それに目をつぶりそれに従って生きてきた悪党だ。

でも、それでも譲れないものが自分にはある。


悪党なら悪党らしく――、


  闇も何もかも飲み込んで――、


    悪党としてそれでも守りたいものを守ろう――。


(いつか俺は、悪党として裁かれるかもしれない。

でも……、だからこそ桃華だけは絶対守り抜いて見せる!!)


それは桃華を愛する一人の男としての大事な誓いである。


「なんだよソレ……」


不意に遥が声を発する。藤原はそれに外部スピーカーで答えた。


「90式改多脚指揮戦車――、

天津甕星アマツミカボシ”――」


それは、かつて日本神話において天津神に最後まで抵抗した最強の『悪神』の名。


「まじかよ――、聞いてねえぜ。

クソが!!!!!!」


その遥の叫びと、闇を纏った死の軍勢の火砲が放たれるのは同時であった。


「ボーテック機関出力最大!!!!

アンチフィジカルシェル『光輪』展開!!!!!」


『了解!!』


深紅の多脚戦車を中心に光が周囲に広がっていく。それにかき消されるように無数の砲弾は消滅していった。


「はは……マジか」


それは遥にとってはあまりにひどすぎる光景。

その光景を見た遥の精神力が急速に弱まり、それに呼応するように周囲に展開する闇を纏った軍勢が霞のように消えていく。


「モモ!!!! これを!!!」


不死の機甲師団が消えうせるのを見送った藤原は、次に多脚戦車の胴部分に設置されたサブアームを動かして、その先端の物体を桃華の方へと差し出した。


「これは……」


「こいつなら、あの超能力者に効くはずだ」


そのサブアームが握っている物体とは――、かのA級超能力者を追い詰めた特殊近接兵装。


「機槍”アメノヌボコ”?!!」


桃華はそれを手にすると、そのトリガーを握り込む。

コンパクトにまとまっていたその武器は、展開されて一本の槍となった。


「次から次へと!!!

クソが!!!!!」


不意に遥が叫ぶ。その瞬間、藤原と桃華をすさまじい衝撃が襲った。


「ああああ!!!!!!!」


「があああ!!!!!」


それは、傷を受けて弱ってはいるが、鋼鉄の戦車すら押しつぶすレベルのサイコキネシス。

ミシミシと音を立てて、多脚戦車と桃華のTRAは押しつぶされていく。


「や……らせない……」


桃華は涙を拭いて身体に力を籠める。


「負け……ない……」


桃華の心には、燃え盛る暖かい炎が宿っている。


「負けるもんかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


それは、大好きな藤原からもらった決して消えない想い。

その想いを胸に桃華は神槍のトリガーを再度握り込んだ。


キキキキキ!!!!!!!!!!!!!


耳障りな金属音と共にサイコキネシスの力場帯が切り裂かれていく。


「く?!!!!!」


その異様な光景に、遥は、もはや長く忘れていた久しい感情を呼び起こした。


「馬鹿な!!!!」


それは『恐怖』――、絶対上位者であるはずの遥が持ちえない感情。

その感情に突き動かされ後退る遥。そこに桃華の槍の穂先が向かってきた――。


「!!!!!!!!!!!!!!!!」


血しぶきと肉片が宙を舞う。その槍の穂先は的確に遥の胴を貫いていた。


(まさか!!!!!!

このあたしが?!!!!!

こんなところで!!!!!!!!!!)


遥は超能力の残り香を周囲にまき散らしつつ断末魔の悲鳴を上げる。

その衝撃波は大地を抉り、東富士演習場の地形を変えていく。


「あああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」


その光景を怒りの表情で眺めつつ桃華は呟く。


「これで終わりだ……」


そのまま金属杭を遥に叩き込もうとした、そのとき――、


「遥――」


不意にそこに女性がいた。


「?!!!」


とうの遥は、なぜお前がという表情でその女性を見る。

黒いフードをかぶった性別不明の人物を伴った金髪碧眼の女性。彼女は、槍に胴を割かれた()()()に近づいて、その傷に触れた――。


「な?!」


その後の光景に思わず桃華は驚きの声をあげた。

遥の失われた腕が――、ビデオの巻き戻しのように再生されていく。


そして――、


「あなたはここで死ぬ運命にはないわ。

帰りましょう――」


女は遥の頬を優しく撫でる。

桃華はその光景に嫌な予感を感じて叫ぼうとした。


「ま……」


桃華は結局『待て!!!』と叫ぶことができなかった。いつの間にか目前の敵は消えうせていた。

まるで初めから何もそこにいなかったかのように。


「……」


あまりの事に呆然と空を見上げる桃華と藤原。

結局、襲撃者にはテレポートで逃げられてしまったのだ。


「モモ……」


不意に藤原が桃華の名前を呼ぶ。

その声を聴いた桃華は、ただ照れ臭そうに顔を隠して答えを返す。


「ごめん――、そして、ありがとう。

トシ――」


その夜、桃華は初めて藤原を名前で呼んだ。



◆◇◆



西暦2090年10月の『特別火力演習』はその時点で中止となった。

その対応に批判が出る一方で、核兵器レベルのS級超能力者を退けた二人、桃華と藤原に注目してその素性を調べようとする者も多くあらわれた。

無論、藤原の方はともかく、桃華の過去に到達できるものはいなかったが。しかし――、


――日本にはS級超能力者に対抗できる人材が存在している。


それは、日本の国土を狙う()()()にとっては、最も重要視しなければならない事柄であった。

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