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桃華の戦機~トウカノセンキ~  作者: 武無由乃
西暦2090年
12/33

天使と魔人~テンシトマジン~

西暦2090年10月21日――。

この日、東富士演習場において今年でちょうど20回目を迎える『特別火力演習』が行われていた。

この演習は、伝統ある『総合火力演習』とは別に行われる比較的小規模な演習であり、主に新防衛戦略大綱にかかる新型兵器群の性能試験と、外国への示威的広報のための演習となっている。

その主役となっているのは、1に無人戦闘機、2に多脚装甲車両、3にTRAをはじめとする巨大人型兵器となっており、いわば日本の新型兵器群の見本市的な傾向のある外国からの注目の高い演習である。


時間は現在20時24分――、その時、島嶼を占拠した敵部隊への対応として、海底からの上陸作戦を想定した夜間演習が行われていた。


ザザザザザザ――、


人型の巨体が海を想定した湖から這い出てくる。

その、明らかにそれまでのTRAとは一線を引く様相に、息をのむ来賓の外国人士官たち。


『アレは――、砲戦型のTRA?』


TRA-XX”ホムスビ”それは、確かに今までのTRAの常識から外れた外観をした存在であった。


言ってしまえばTRAとは、手持ち出来る各種装備を使用するためのプラットフォームである。

要するに、余計な重荷になる固定武装は敬遠され、完全な人型であることがより良いとみなされる兵器なのである。

それが、今回日本が出してきた新型TRAは、明らかに通常の人型から隔離していく事を前提とした準人型兵器とも呼べるのものであり――、


『TRAに固定式重火砲だと?

意味はあるのか?』


当然このような疑問が出てくるのは当たり前であった。


『まさか、日本人は本当にアニメの世界に、頭を犯されてるんじゃあるまいな……』


そう言って苦笑いする人もいる中で、ただ一人、アメリカ大陸合衆国軍・ロバート・J・コーエン少佐はニコリともせずにただ目前の重TRAを眺めていた。


(ただの見てくれだけのものを日本人が作ると思うか馬鹿が――、

過去に、何度もそれで常識を覆されてきただろうに)


彼は、かつての沖縄紛争を経験していた、目前に現れた巨大戦艦”ヤマト”――。

そのあまりにバカバカしく、そしてあまりに驚異的な性能を目撃してから、何より日本こそ後々アメリカ大陸合衆国の、最大の脅威となるであろうと考えていたのである。


(あの重火砲は――、

形状からしてドランダーカノン。弾丸時速は最新リニアキャノンの約4倍といたところ――、

有効射程は800kmを超えてくる可能性も十分ありうる――)


それはミサイル兵器と比べればそれほどの射程でもないが、リニアキャノンの4倍近いその弾速でその射程はあまりにも脅威である。

要するに、マッハで飛ぶ航空機を地対空ミサイルなしで500km以上離れた距離からそのまま撃墜可能ということで――、


(無論、それをTRAに乗せる意味はどこにあるのかはわからんが……。

おそらくは――)


ロバート少佐は、兵器開発分野においては日本人をまるで信じていなかった。

砲戦型重TRAというモノにも、おそらくは何かしらの裏があるのだろうと考えていた。

――そして、それは大体が当たっていたのだが……。


ドン!!!


桃華の乗る重TRAの肩の砲が火を噴く。それはタイムラグもなく遠方の攻撃目標を破砕した。

その光景に観客たちは歓声をあげて手を叩いた。


――と、不意に演習場の観客席を照らしていた明かりが消える。

観客たちは何事かと周りを見回し不安を口にした。そして、その不安はある意味的中することとなる。


「――?」


桃華はTRAの中で、演習場の異常を感じて周りを見回した。

そのままコンソールを叩いて各種センサーを確認していく。そして――、


「?!!!

これって――」


表示画面のデータには、異常なレベルのPSI反応が示されていた。

『特別火力演習』は、日本にとって重要なイベントの一つであり、外国からの来賓をたくさん呼んでいる重要行事である。

それゆえに、様々な警備対策をとっており、超能力者への対処もそれに含まれている。

警備システムには対超能力者装備が多数追加されているし、何より広範囲に及ぶカウンターPSIユニットによる超能力の無効化も行われているのだ。

その状況の中で、これほどのPSI反応はまさしくありえない事態である。


「――おじさん」


「聞こえてる」


「来賓の人たちを避難させて」


「OK、こっちは任せて。

――で、敵は?」


「超能力者――、それもカウンターPSIを超えるレベル」


「――展開中のカウンターPSIユニットはA級までだよ」


「じゃあ――」


桃華は至極冷静に呟いた。


「S級超能力者――、戦略級超能力兵器だね」


「――対象が絞られるな」


「うん、私の運が良ければ――」


桃華はTRAの中で、かつての光景を思い出す。

空から降ってくる人々、肉片となっていく子供たち、救おうとして救えなかった命たち、そして――、


「あのピアス女――」


それは、桃華としてはありえないほど憎悪に満ちた、ヒトを刺し殺せるような視線。

その先に、はっきりと動く小さな影を桃華は見た。


「――」


桃華はタイムラグなしに、手にした20㎜小銃の引き金を引く。

無数の炸裂音が響いて、現れた人影を煙の向こうへと隠してしまう。


「はははははは!!!!」


不意に、桃華の耳元に女の嘲笑が響く。

その瞬間、桃華は表情も変えず、手にした小銃の銃口を自分のTRAの頭部付近に浮遊する影へと向けた。


「はは……!!!!

問答無用かよ!!!!」


炸裂音が再び響いて人影を砕き散らす。しかし――、


「逃げるな――」


桃華は心底冷たい目で、人影を視界に捉えつつその引き金を引いた。


「ははは!!!!

いい加減ウザいな!!!」


次の瞬間、人影の腕が横に一閃される。その瞬間、桃華が手にした20㎜小銃が砕け散って落ちた。


「ち――」


桃華は舌打ちしつつ人影から離れる。腰から15㎜拳銃を引き抜いた。


「そんなもん当たらねよ。わかってんだろ()()()()()――」


「!!!」


その物言いに目を見開く桃華。


「お前――」


「ククク……生きててくれて嬉しいぜ()()()()()……」


桃華は目を細めて人影をにらみつける。その人影は――、


「お久しぶり……というべきかな?

あたしの名は()() ()。十絶旺陣のリーダーを務めている」


そう言って凶悪な笑顔を桃華に向けた。



◆◇◆



「それで――、超能力災害対策局は?!」


その藤原の言葉に携帯通信機(ワールドフォン)から声が返ってくる。


「まさか十絶旺陣が総出で動いてるんですか?」


それは驚愕の事実――、

日本各地で、同時に十絶旺陣のテロが現在進行形で行われているというのだ。


「それじゃ、こちらに待機していた人も?」


その時、藤原は超能力災害対策局が、十絶旺陣に対する対応に追われて、身動きが取れなくなっている現実を理解した。

それは藤原にとっては予想を超えた事態である。


――今から三日前、あの()() ()()から連絡があった。


(私の前に超能力者が現れた――、

桃華の事を聞いて、そのまま消えた――)


それを聞いた藤原は、なんとも嫌な予感を感じて、知り合いのつてを通して超能力災害対策局と連絡を取っていた。

それというのも()() ()()の周囲も、桃華と同じく国防軍の情報部が固めており、容易に部外者が立ち寄る事態にはならないはずであったのだ。

国防軍の超能力者すら欺ける能力者が動いているらしいことは超能力災害対策局も重要視してくれた。

だから、今回の演習にも各種対超能力装備や人員を割いてくれたのだが――。


(S級超能力者――、それも十絶旺陣のリーダーが直接とか――)


あまりにあまりな事態に藤原は苦い顔をして頭を掻きむしった。


一度、携帯無線機(ワールドフォン)を切った藤原は、別の番号にかけなおす。


「――ああ、例のものは動作確認しているな?

ぶっつけ本番だが使いたい。今から準備出来るか?」


藤原は最後の切り札とも呼べるものを切る。それは、あの桃華すら知らない最後の手段であった。



◆◇◆



ガキン!!!!


三度、遥の腕が一閃される。桃華のTRAはそれを樹脂装甲を犠牲にしつつ避けていく。


「すげーな、それ――。

人型機械ってそこまで動けるものなのか」


心底楽しげな表情で遥は桃華を追撃する。

桃華は手にした15㎜拳銃や、腰の対戦車手りゅう弾で応戦するが――、


「く!!!!」


その破砕力が全く遥まで届かない。

遥の周囲が、そこだけ球状に切り取られているかのように、爆風も何もかも消滅しているのである。


(これが――S級超能力者――)


そのでたらめな強さに、さすがの桃華も苦い顔をするしかなかった。


「はは!!!

いや? これは、その機械の性能だけじゃねえな?

おまえ、実は超能力者か?」


「だったらどうだって――」


「――いや、嘘は言わなくていいさ。

お嬢ちゃんからは、かけらも能力を感じない――、

すげーなお前」


それまでの戦いで遥は、桃華という存在を理解していた。


(あの爺は言った……。

兵器として生まれ、兵器として育った、人型の兵器――、それが目の前の『桃華トウカ』とかいうやつ)


遥は、自身のアーツデバイス・クラス『剣聖(Master Swordsman)』の、対物理遮断空間をもって破砕を無効にしつつ考える。


(こいつの能力は純粋な()()()――、

本人がそれに気づいて扱っているかは疑問だが、恐ろしいまでの戦術眼がESPレベルの未来視にまで先読み能力を引き上げてるんだ)


遥は別に遊んでいるわけではない。明確に殺意をもって桃華を覆い詰めているつもりなのだが。

当たらない――、

攻撃対象があれほど巨大にもかかわらず、当たっても装甲を剥がすだけで致命傷を与えられない。


(この()()()()()自分の機体のサイズ――、そしてどう動けば致命傷を受けないかはっきりと理解していやがる。

そんな事、生身の人間が生身で戦う時にも難しい行為なのにも関わらずだ――)


それは、あまりに驚異的な空間把握能力。


(機械人形を操縦して戦争をするために生まれた戦争兵器か――、

まさしくその通りだな)


遥はそこまで考えると笑顔を消す。


「まさか――ここまで、あたしら超能力者なんかより、深い闇を背負ってる奴がいるとはな。

あの爺は殺しておけばよかったか?」


「!!!」


その遥の言葉に桃華はびくりと反応する。


「それは……誰の事?

もしかして」


桃華の表情は一気に怒りに変わる。


「葛城さんに何をした!!!!」


15㎜拳銃の銃口を向けてそう叫ぶ桃華。

それに、少し笑顔を浮かべた遥が答える。


「何もしてねえよ……。ただ昔話を聞いただけだ。

もっとも、本人はこれで楽になれるって――、

あたしの手で殺されることを期待してたようだが」


「なに?!!!」


「誰が、あんな爺の自殺の手伝いなんかするかよ。

死にたいなら自分で死ねばいいのにな――、馬鹿な爺だったぜ」


「おまえ!!!!!」


怒りに任せて引き金を引いた桃華だが、結局それもアーツデバイスのスキルによって消滅する。


「そう怒るなよ――。お前、自分をいじくりまわした研究者なのに、そこまで想っているのはなんでだ?

マゾか何かか?」


「あんたにはわかるもんか!!!!」


桃華は優しげに笑う葛城の顔を思い出してひたすらに引き金を引く。そのうちに弾丸が出なくなった。


「フン……まあいいさ」


もはや興味なさげにため息をついた遥はその腕を一閃させる。

しかし、桃華は本能的に操縦桿を動かして攻撃を避け切った。


「でたらめだなお前――」


そう遥がつぶやく。

もはや戦場は膠着状態になっていた。どちらも相手に致命傷を与えられないからである。


(このままだと”女神”がこっちに来るかもな――。

まあ俺個人としては願ったりだが、こいつと”女神”同時となるとまずいしな)


いいかげん痺れを切らした遥は。あえてその手のアーツデバイスを外して懐へとしまう。


「?!」


その不意の行動に疑問符を飛ばす桃華であったが、それは桃華にとって最悪の事態へと至る序曲に過ぎなかった。


「もういいや――、大体あんたの素性も理解したし。ここで死ね――」


「何を?!」


突然のその物言いに怒りを見せる桃華であったが――、次の瞬間、表情が驚愕に塗り替えられる。


「あたしのコンプレックス――。

<|戦場悪夢《Immortal Armored Divisio》>――」


「な!!!!!」


闇の奥に戦車の走行音が響き始める。それは一台だけではなく――。


(戦車の群れ?!!!

いや、対戦車ヘリや、対戦車車両、対空砲に徒歩の兵士まで?!!)


そう、それは突如現れた、黒い靄を纏った機甲師団。


「ヒヒヒ……どうだ?

これこそが、あたしのコンプレックス――、不死の機甲師団だ」


「く!!!!」


その遥の言葉を聞きながら、桃華は肩に装備されたドランダーカノンの引き金を引く。


ドン!!!!!!


すさまじい轟音と共に桃華の前方にいる十数台の装甲車両が吹き飛んだ。


「ひえ~~~、すごいねその大砲。

まあ、あたし相手じゃ当たらなかったろうけど――」


――そう、さすがにこのドランダーカノンは人間に対して撃つような兵器ではない。

でも、目前の機甲師団であったら話は別である。しかし、


「!!!」


砕かれつぶれた装甲車両の群れが再び息を吹き返す。

それは、まさしくゾンビ化した機械の群れである。


「はははははは!!!!

無駄だよ! こいつらはあたしが記憶した兵器を、あたしの超能力によって再構成したモンだ!!

結局のところ超能力の塊だから、物理攻撃は一切意味はない――」


「クソ!!!!」


ついに桃華の表情に苦し気な影が落ち始める。

相手があまりに多すぎる、一斉砲撃されたら避ける暇もないだろう。

そして攻撃しても再生されてしまう。もはや打つ手は――、


(ちくしょう――)


死を目前にした絶望と、許せない悪を倒すことができない後悔が、桃華の心を塗りつぶしていく。

しかし、そんなときでも最後に思い浮かべたのは――。


(おじさん――)


藤原のいつもの情けない笑顔であった。

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