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プロローグ 婚約破棄

「……婚約破棄、でございますか?」

「ああ、そうだ」


震える声で私は目の前の玉座に座っている人物に、そう言った。疑問を投げつけた。と言うのが正しい。神々しいオーラを纏い、未だに愛していた人からそう言われたことが、今でも納得できない。

王族特有の金髪で、珍しい緑色の瞳。輝きを放っているはずなのに、その表情は暗く、私の表情も辛いと思う。


私のどこが行けなかったのか?私は望む事はやって来たはず…。なのに、なぜ婚約破棄をしなければならないのだろう。

そもそも、理由はなに?私に不満な点でも?それなら、直して、もう一度あなたと共に過ごしたい。それは偶像なのだろうか。


目の前に座っている人物は、この国の第二王子。私の婚約者だ。政略結婚の予定であったものの、私たちはお互い愛していた。なのに、どうして?

目の前に座って、私に冷たい視線を向けているのが、今でも信じられない。


「せ、せめて理由をお聞かせください」

「理由か…。そうだな。お前にはお世話になった。理由は、“本物の愛を見つけたから”だ」


()()()()()()()()()()()

なによ、それ。誰を好きになろうと勝手だけど、私とあなたは婚約関係。それでもお互い愛してたじゃない。夢なら覚めてほしい。


そんな思いも打ち消され、扉の方から見たことのない人が歩いてくる。もしかすると、あの人が。()()()()()なの?


悔しい。だけど、それよりも。今までこの人に仕えていた私が馬鹿だ。好きだった。愛していた。私の全てをあなたに捧げた。なのに、なのに……!


「………分かりました。バーレス様。あなたがその女性と結婚したいと言うのであれば、邪魔者である私は居なくなります。どうぞ、お幸せに」

「あぁ、そうしてくれ。今までご苦労だったな。シェル」


もう、名前も呼ばれたくないわ。


そう言う思いで、私は重い足取りでその場から去る。バーレスの相手、綺麗だった。私なんかよりも。だから、尚更。悔しい。見返したい…。私を捨てたあの人に。


(あぁ、雨が降っていたのね。気づかなかったわ)


婚約を破棄された報告は、お父様になんと言いましょう。勘当するかしら、それとも慰めてくれる?それは家に帰ってからじゃないと分からないけれど、ひとまずは帰りましょう。


王宮の中は明るい。それと比べて外は暗く、ジメジメとしている。雨の一滴一滴が滴り、着ていたドレスにべったりと着く。びしょびしょだ。早く帰らないと、風邪をひいてしまいそうなほど。


家に帰ったとして、私はどうする?家で私の居場所なんて存在しない。私は、あの家の子じゃないから。妹を溺愛する両親。兄や妹に尽くす、従者達。

ハァ、嫌になっちゃうわ。唯一の救いだけが、バーレンだけだったのに…。もう捨てられたから意味がない。


私はシェル・アラーナ。アラーナ侯爵家の長女。二つ年上の兄と、三つ年下の妹。私は、アラーナ家の家じゃない。両親を早くに亡くしてしまったらしく、遠い親戚であったアラーナ家に渡り、今を生きている。

もし、帰ってお父様から勘当されてしまえば、私はホームレス。いっそ、それが良いのかもしれない。侯爵令嬢から平民な成り下がるのも良いじゃない。変に気を使うこともないし、従者からの嫌がらせもない。


「うぅ…」

「……ん?」


誰かが唸ったような声を感じた。一体、どこからかしら?

あたりをキョロキョロしても、そんな人は見当たらない。雨が降っているため、外出している人が少ないのだ。今は夜。酷い天気…。

それより、先程の人の声はどこから…?


念入りに見ていると、路地裏に誰かが倒れ込んでいた。それは私と同い年くらいの男の子。


「大変だわ!」


私は急いで路地に回り、その男の子が倒れている場所へと足を進めた。先程の唸りはこの人のようだ。どうしてこんなところで倒れているのか。それは分からないけれど、早くしないと風邪ひいちゃう。


綺麗な銀髪をしている彼が、どこから来て、何者なのか。私は彼をおんぶし、どこか休める場所を探した。王国バールティ王国の王都内から、アラーナ侯爵領地まで距離は相当ある。男の人をおんぶしながら、家まで帰るのは骨が折れてしまう。


王都にいる人たちからは、嫌な視線を感じたが、私は気にせず男の人を休めて、雨を凌ぐ場所へと急いだ。


♢♢♢


近くにあった宿屋に、おんぶしていた男の人をベットに横たわらせる。綺麗な顔立ちをしている彼は、どこかのご令息かもしれない。だけど、身なりは街中にいる人たちとほとんど同じインナー。


本当に、誰なのかしら?


私は彼が目覚めるまで、ずっと付き添っていた。と言うより、もう体力が残っておらず、動く気力さえ起きない。そのまま体が休めたいかのように、眠気が襲われ、視界が暗くなる。


♢♢♢


ここは、どこだ?俺はなぜ、ここに…。


目を覚ますと知らない天井があった。そして隣に誰かの寝息が聞こえる。俺はその方に目を向けると、栗色の髪をした、綺麗な人が眠っていた。彼女が誰なのか?どうして一緒の部屋に?


ここは宿屋なのだろうか。ベットが二つある程度で置かれているものは少ない。


確か俺は、昨日。とある仕事でここの国に訪れていて、それで……。


そうだ、思い出した。俺はあの後、魔力が無くなって倒れたんだった。

確かその時は、雨が降っていたよな。じゃあ、この人は…。

そう思いながら俺は、彼女を見る。とても綺麗な鼻筋が通っており、お人形さんみたいだ。


「ん、んぅ…」


…………!?め、目を覚ましたのか?

俺はドキッとしてしまった。もしこのまま見つめているのがバレたら、恥ずかしすぎて目を合わせられない。


「………あれ、おはようございます」

「え、あ、あぁ、おはよう、ございます」


やばい、起きてしまった。ひとまずは、先にお礼を言おう。

体を起こし、目を擦っている彼女に向かって、俺はお礼を言おうとした時、彼女が昨日のことについて慌てて聞いてきた。


「あ!もう大丈夫ですか!?どこか痛むとか、調子が悪いだとか!?」


あたふたしている彼女の姿は、何故か。愛おしいと思ってしまった。初対面のはずなのに、何故そう思ったのか。自分自身、よく分からない。


「…はい、もう大丈夫です。ありがとうございます」

「そ、それなら良かったです……」


♢♢♢


力が抜けた。ひとまず、この人が無事でよかった。

胸を撫で下ろしていると、もう朝になっていることがわかった。このまま帰ろうかしら…。だけど、帰ったら帰ったで、また何か言われそう…。憂鬱な気分である私に、ベットで体を起こしていた彼が言った。


「ぜひ良かったら、この国を案内してもらえませんか?」

「え、」

「実は僕、この国には仕事できていたんですが。仕事を終えてしまったので、観光がてらとして」


優しい顔で言ってくる彼に、私は思わず了承してしまう。了承した後の彼の顔は、無邪気あふれる子供のような顔をしていた。


♢♢♢


宿屋を出た後、私は彼を案内する。彼と言っても、名前を知らないため、そう言うしか他はなかった。


「あの、お名前は…?」

「あぁ、すみません。僕はエルーズと言います。そう言うあなたは?」

「私はシェルです。エルーズさんはどんな仕事を?」


お互い知らない私たちは、そう言う話しかできなかった。まずは自己紹介。色んなお店を食べ歩きし、侯爵家の来場とは思えない振る舞いをしている自分に、少しの驚きを感じた。


だけど、多分。私は侯爵家の人間では無くなるだろう。なんせ私は、()()()()()()()()()()()()()()だもの。


両親も、兄弟も、従者も。全員私を嫌っている。なら、いっその事。このまま縁を切りたい。その為にはまず、一度家に帰らないとなのでしょう。


そういえば、あの話はどうなったなでしょう?私がまだ、バーレンの婚約者として王宮にいた時、聖女誕生の予感が有ったとか。


まぁ、私にその話はどうでも良くなったのだけど…。


それより、食べているクレープが美味しい!


エールズさんと楽しい一日を過ごし、彼は宿屋の方へ。私は一旦、家に帰った。


もちろん、放たれた言葉は———。

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