河童の依頼
僕、楠 太平が河童とタライで遊んでいると、プラモデルが出来上がったから見て欲しいという電話をしてきた神木さんがやって来た。
ただ神木さんは到着早々、ジョボジョボ頭の皿に水道水を浴びている河童をじっと興味深そうに眺めていた。
その表情は妖怪を見ているにしては珍しく、楽しそうである。
「へー……すごい。河童は初めてだ……」
「そうなんだ。上流の方に河童の里があるからねぇ」
「河童の里……」
「というか河童って見たことないんだ。何だか意外だ」
そんなこともあるのかと僕は逆に驚いた。
この辺りじゃ河童なんて見えていれば珍しくない。
川の上流に行けば、涼しそうに河童が流れているのを、必ず見ることが出来るほどだ。
「元居たところでは有名な感じのやつはあんまりいなかったよ。みんな不気味だけど初めて見るやつが多かった」
「あー。まぁ都会はそんな感じかもね」
ところ変われば住んでいる動物も違うように妖怪だって違うか。
なのに河童の方が妖怪としては有名なのだからわからないものだった。
「それで何でこの子はこんなところで水浴びしてるの?」
神木さんは河童を撫でながら尋ねてくるが、彼は僕の依頼人だった。
「ああ。今度河童の里で相撲大会があるらしくて。村長さんに頼まれて模型を一つ作ることになったんだ」
「河童の相撲大会……!」
やっぱりなんか気になるよね、相撲大会。
そこは僕も同感である。
「彼らにしてみるととても大切な大会らしい。それで村長の息子であるこの三瓶君に頑張って欲しいらしくてね」
「……不正試合ぃ」
「いや……まぁアイテムは禁止じゃないらしいよ?」
露骨な武器でなければ、結構なんでもアリらしい。
妖怪同士すべてを尽くして己の力をぶつけ合う、ガチンコバトルが河童の里相撲大会である。
「報酬は河童の里の特選キュウリ一年分」
「すさまじく気になるけど……それ手を貸しちゃって大丈夫な奴なの?」
神木さんは疑わしそうに言ってくるが、他ならぬ河童の村長の依頼なんだからOKであるのは間違いないと思う。
「どうだろ? 正直キュウリ気になるの一念かなぁ」
そういうわけで今日は依頼品が出来上がったから、当事者の三瓶君に来てもらったわけだが、本人はあまりやる気はないようでそんなに勝ちたいというわけでもなさそうだった。
体つきも小柄な三瓶君は神木さんすらかわいいと指先で握手をしている。
彼を見ていると、なんかこう……僕の脳裏にはとても和やかなユルキャラ相撲みたいな風景が連想されたくらいだった。
「で。まぁインスピレーション湧いちゃって、凄いのが出来てしまった」
「……それ、一回ここで試してみた方が良くない?」
「……いいかもね。よしやってみる?」
僕は河童の三瓶君に訊ねてみると、彼は小さく頷いた。




