トラブルも縁のうち
「ふーむ」
自宅にて、僕。楠 太平はションボリ肩を落とす神木さんからハリセンを受け取っていた。
それは、鬼神ヒガン様の宿るストラップ付のハリセンという我ながら訳の分からない代物なのだが、何かと役に立っているらしい。
しかし今回は少々張り切りすぎたようだ。
ハリセンにハリがない……いや冗談とかではなく。
どことなくフンニャリしているハリセンは、中に入っている者の影響を受けているようだった。
「なんかヒガンの調子が悪いみたいで……」
心配そうな神木さんの言葉通り少々元気がないみたいだが、それも無理もないことだと僕は思う。
というか僕が作った作品を手渡した妖怪達が最初によくやらかす失敗だった。
そもそも実力以上の力で戦闘なんていうのが負担が大きくない訳もない。
「……まぁ、無理もないかも? 浄化出来たって言ったってこないだまで消えかけてたわけだし。鬼瓦ストラップは治療のための物だってことを忘れないでね」
「だ、大丈夫なの?」
「まぁ大事はないよ。きつめの筋肉痛みたいなものだね。二、三日はストラップの中で休養をお勧めするけど」
「そっか……よかった」
ホッと胸をなでおろす神木さんだが、僕としては小競り合いがあったことで何かあるのは想定済みである。
そこで僕はさっそく用意していたものを神木さんに差し出した。
「はいコレ……あげる」
今の話に無関係ではないそれは、手作りのストラップ第二弾である。
「これは……カボチャのランプ?」
「そう。この間の鬼火用。カボチャに角をくっつけてるのがおしゃれポイントだよ」
「わ、わざわざ新しく作ってくれたの!?」
「ああいや……カボチャなんかは人気のモチーフだから……前に作った奴だ」
「あっそうなんだ」
季節ものは割と手を付けやすいネタなので練習がてら定期的にやりがちである。
僕はしかしこのストラップ、中々良い出来であるとは思っていた。
小さくとも3Dのモデルを作り、下地を整え、塗装だってしたのだからむしろとても手が込んでいると言えるだろう。
「……おお、素晴らしい」
差し出したストラップに、騒ぎの後神木さんについてきた鬼火がポンと姿を現し、吸い込まれるように消えると、青い炎が灯ったようにぼんやりと光っていた。
鬼火はうまくなじんだらしい。
しかし、神木さん的には何か言いたいことがある様子だった。
「……二個目なんだけど。大丈夫かな?」
「ストラップなんて何個持っててもいいでしょ?」
「いやぁ……そういうことではなくぅ」
「……神木さんを慕っているみたいだから大丈夫じゃない? うまくコミュニケーションをとって頑張って。鬼火は話の分かる妖怪だから」
「が、頑張るよ。うん。頑張る」
神木さんは妙に気合の入った顔で頷いていたが、塩梅が難しいことはよくわかる。
話が通じるからと言って人間ともまた違う価値観で存在するのが妖怪なのだから。
ただ僕の持論だが、こういうノウハウは結局慣れだ。
過剰に怖がったり、寄せ付けなかったりすればいらないトラブルを招きかねない。
多少なり好意的な相手を見つけることが出来たのなら、向こう側との橋渡し役として仲よくしてもらうのが得策である。
「元のパンプキンヘッドはどうする?」
今度は鬼火の方に訊ねると、こっちは思ったよりも未練はないみたいだった。
「私は噂になりすぎましたので、貴方に管理していただければ助かります」
「そっか。ないのか未練……まぁ何かあったら言いなよ」
「ありがとうございます」
せっかくのボディだし、ちょっとくらい愛着があってくれてもいいのだけれど……まあいいか。
こちらとて元のボディを提供した縁もある。
大事に使ってくれていたのなら、鬼火側にも多少のアフターケアはするつもりだ。
ただトラブルというやつは案外立て続けに起きる時は起きるのだと、僕はまだ学びが足りてはいなかった。




