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くすのき君は妖怪が見えるけどそれはともかく趣味の人である。  作者: くずもち
第二章

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峠のゴーストライダー

「本当に来た!」


「任せろ!」


 叫んで飛び出したヒガンの手には巨大な金棒が握られていた。


「どりゃああ!!」


 気合の叫びと共にその小さな体から繰り出されたとは思えないフルスイングがゴーストライダーに飛んで行くが、金棒は空を切った。


「避けただと!」


 驚愕するヒガンの頭上を飛び越えたバイクはドリフトを決めながら着地して、こちらをジッと見ているようにも見えた。


 ただ―――止まったゴーストライダーは杏樹が思っていたよりずっと独特だった。


「……何アレ? カボチャの頭?」


 それはライダースーツにカボチャのヘルメットをかぶったおかしな相手だったのだ。


 この感触、覚えがある。杏樹が知っている妖怪とはわずかにずれた空気感は心にとても引っかかる。


 ゴーストライダーと向かい合ったヒガンは、一筋汗を流していた。


「ほほう……こいつは面白い。コレも奴の作品というわけか」


「えぇ? どういうこと?」


「……見てわかるだろう?」


 炎が勢いを増したことで、その全貌が露わになる。


 かぼちゃ頭は妙にメカメカしく。


 彼のまたがるバイクはSFじみていて、ゲーミングPCのように光っている。


 そこまで視界に収めて、私はヒガンの言葉の意味を理解した。


「言われてみれば確かに……」


「お前なぁ。頭が固すぎるぞ? 人間なんだからもっと視野を広く持て?」


「……よく言われます、面目ないデス」


 集中すると視野が狭くなるのは杏樹自身の欠点だという自覚があった。


 アレは楠君の作品だ。


 気が付いて杏樹は同時に血の気が引いた。


「……大丈夫なの?」


「いいだろう……どっちの性能が上か試してやろう」


「―――」


「ちょっと!? 友達の安全のために来たんであって、戦いに来たわけじゃ……」


 場の空気に呑まれ先制攻撃を仕掛けただけでもまずいのに、そのまま流れるようなバトル展開はもっとまずい。


 杏樹は慌てて止めようとしたが、すでにヒガンのスイッチは入ってしまっていた。


「何を言ってる。噂では奴は人を殺めるのだろう? 奴の作品を悪用しているのなら折檻せずしてどうする?」


「それは……」


「……何が目的で峠を走り回っているかは知らないが。せっかくの機会だ! 存分に楽しませろ!」


 フリルのスカートを振り乱しヒガンが飛んだ。


 尋常でないのはハリセンの時とは明らかに違う力の高ぶりだった。


 ゴーストライダーはバイクを器用にドリフトさせて金棒をかわすが、命中しなかった金棒は風圧だけでガードレールを捻じ曲げた。


「! はは! すごいな! 力加減がわからないぞ!」


「加減してそこは!」


 杏樹の悲鳴はもうヒガンの耳には届いていない。


 そして本格的な攻撃を前に、ゴーストライダーも動いた。


 彼はバイクにまたがり、猛烈な勢いで山の壁面を一気に駆け上がるとバイクから飛び出した銃口をすべてこちらへ向けて来た。


「うわ! 何アレ! 銃!?」


「はっはっはっはっ! いいぞ! 面白くなってきた!」


 落下しながらぶっ放してくる。


 銃声と共に撃ち出されたのはゴーストライダーが体から吹き出している炎と同質のものらしい。


 レーザーのように闇夜に軌跡を描くそれがたまたま命中した丸太に一瞬で穴を穿ったのを見た杏樹はヒェッと悲鳴を上げる。


 そして炎はただの炎ではない。


 気が付けば炎は着弾の後も地面を走って、ヒガンと杏樹の周囲を取り囲んで退路を断った。


 炎は燃え広がっていたが、周囲の物が燃えている気配はない。


 それなのに恐ろしく熱く、杏樹は肌に痛みさえ感じた。


「か、囲まれた!」


「ほほう……これは、なるほどな。杏樹よ。この炎は生者を死に導くぞ。魂を焼かれたくなくば気合を入れろ!」


「この炎ってそんなにヤバいの?!」


「ああ……たぶんな」


 パニックにならないようにだけ気を付けて、杏樹は両手を握り締める。


 確かにヒガンの言う通り、気が付くと体から体力がごっそりと持っていかれる感覚があった。


 ヒガンの方は不敵に微笑み、炎の先のゴーストライダーを見て嬉しそうに一歩踏み出した。


「この炎は覚えがある……勢いが強すぎてわからなかったぞ」


「!」


 ゴーストライダーはその両目から炎を一際大きく噴き出し、構えた二丁拳銃を乱れ撃つ。


「だが甘い!」


 ただあちらが楠製ならヒガンとてそうだ。


 ヒガンはスカートの裾をそっと持ち上げる。


 なんだろうと杏樹が視線を落とすと同時にカランコロンと落っこちたのはどう見ても手榴弾だった。


「ちょ……!」


 咄嗟に伏せたら瞬間、大爆発。


「!」


 地面に転がって難を逃れることが出来たのが、奇跡にしか思えなかった。


「あ、危ないだろ!」


 杏樹が叫んだ時には、爆風に乗ったヒガンは高々と跳躍。


「この程度で鬼を焼こうなど片腹痛いわ!」


 そして不思議な力で真っ赤に焼けた金棒で襲い掛かると、一撃でゴーストライダーのバイクを粉砕した。


「……えぇ」


 衝撃で出来上がったクレーターにはぺしゃんこにされたバイクとかぼちゃ頭が倒れていて、なんか微妙にピクピクしていた。


「いや! 消火!」


「案ずるな。炎は我が妖力によるものだ。燃え広がりはせん。さて……ひとまず取り押さえたが」


「これ取り押さえたっていう? 死んじゃわない?」


「知らないのか? お化けは死なないのだぞ?」


「……」


 しかし地面にクレーターが出来るほどの一撃でぺしゃんこなんだけど……これでもまだ大丈夫なのかな?


 杏樹は心配しながら動かないゴーストライダーに近づくと、バイクとかぼちゃ頭から炎がモヤリと出てきて、空中で青白い炎が玉の形になった。


「ふむ、やはりか……お前鬼火だな?」


「はい……その通りでございます」


 ヒガンが鬼火と呼んだ火の玉は、お辞儀をするように揺らめいていた。

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[一言] >お化けは死なないのだぞ? 病気もなんにもない?
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