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くすのき君は妖怪が見えるけどそれはともかく趣味の人である。  作者: くずもち
第二章

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鬼強いセキュリティ

「最近のホットな話題をご所望かい?」


「……ホットな話題?」


 胸を張って語る友人、風野 真理は噂好きのクラスメイトである。


 しかも学校の七不思議のようなゴシップ的な話に特に目がない彼女は、なぜかそう言う系統の話を私によく振って来た。


 私、神木 杏樹は曖昧な笑みを浮かべ、目を泳がせた。


「……いや別に。真理は本当にそう言うの好きだね」


「もちろん! こういう噂が私の栄養なんだよ!」


 グッと拳を握って断言する友人はすごく生き生きしていた。


「そんな感じなんだ。私も嫌いってわけじゃないけど……」


 というか妖怪が見える杏樹にとって、その手の話題はできれば知っておきたい話題でもある。


 ただしあまり積極的に近づかないためにだけれど、そんなこと説明できるわけもない。


 嫌いじゃないと消極的に肯定した杏樹に、真理はもちろん目を輝かせた。


「そうだよね! じゃあきっとこれも気になるよー? 真夜中に峠を駆け抜けるゴーストライダーの噂!」


「幽霊系かぁ」


「そうだよ? 興味あるよね?」


 こう、興味があることは透けて見られているらしい。


 否定できない杏樹は、うんまぁと首を縦に振る。


「ええっと……少しだけ気になるかな?」


「じゃあさ! この後私、ゴーストライダーが出るっていう峠道に行ってみようと思うんだけど、杏樹も来る?」


「えぇ……!」


 話が速すぎる。


 流石の提案に杏樹は返事を渋ったが―――。


「実は結構怖い話でね? 一緒に行ってくれる人いないかなって思ってたんだ。そのゴーストライダーって見つかると死んじゃうんだって」


「……!」


 ただそんな気になることを最後に付け加えられたら、このまま見ないふりをして行かせることは杏樹にはできなかった。




「気になってきてしまった……」


 結局一緒に行くことを同意して、杏樹は噂の峠にやって来てしまった。


 本物の妖怪が絡んでいたら、何も知らない人間だって悪影響があると心配していたのだが……やって来てみるとどうにもそんな心配は無駄だったかもしれないと杏樹は思った。


「うわ! 結構人いるね!」


「うん……これは幽霊なんて出てこないかな?」


 そうだねごめんと楽しそうに笑う真理に杏樹もまた笑いかけて、差し出された缶ジュースを受け取る。


 ここはとある山の峠道。


 噂のゴーストライダーとやらが出没する道には、割と沢山の人間が一目幽霊を見ようと集まっていた。


「やっぱり噂が原因なのかな?」


「えっとそれと……杏樹。そろそろ聞いていい? その子は誰?」


「ああ、うん。親戚の娘なんだ。ヒガンって言うんだけど……」


「こんにちは。今日はよろしくお願いしますね♡」


 挨拶するヒガンに、杏樹は内心苦々しい気分になる。


 彼女は人を殺すかもしれないほど強力なにかに対する今回の切り札だ。


 どう反応されるか心配していたが、ノリノリでウインクするゴスロリ少女に真理は目を輝かせていた。


「そうなんですね! よろしくお願いします! 真理って言います!」


「こちらこそ。どうぞよろしくね」


「……」


 今回杏樹は万全の態勢を整えてヒガンを人型に入れて連れてきていた。


 もちろん、その姿は一般人にもバッチリ見えている。


 確かに人の姿にしか見えないのだが美少女を具現化したような少女がゴスロリ衣裳を着て歩いていれば、それなりに目立つ。


 案の定、妖怪でない厄介な手合いも引き付けやすいようだった。


「ねぇねぇ、君達も肝試し? おお……かわいいね」


「一緒にいかね? 退屈させねぇからさ!」


 適当にぶらぶらと歩いていると、男性二人組から声を掛けられてしまった。


 深夜徘徊のつけか、面倒なことになったと杏樹は若干緊張する。


 しかし歩み寄って来た彼らの前に進み出たヒガンは、彼らの顔を眺めながら目を細める。


 そして一言、静かな声で言葉を発した。


「……何か用事かな?」


 それは他愛ない簡単な問いかけだったと思う。


 だと言うのに、その声を聞いたとたん気温が一気に急降下した気がした。


「「~~~!」」


 そして実際に話しかけられた男性達は、それどころではなかったらしい。


 一気に表情が変わり、しびれたように動かなくなる。


 視線がそっぽを向き、呼吸が荒い彼らはとても小声でかろうじて声を絞り出した。


「……いえ、あの、お美しい方だなって」


「……その、こんな美人見たことないなって」


「ありがとう♡―――で? なに?」


「「何でもありません! すみませんでした!」」


 脱兎のごとく逃げ出す後姿に躊躇いは一切なかった。


 なるほど。ヒガンは間違いなくボディガードに向いている。


 彼女がその気になれば、怖がらない人間はいないんじゃないかと杏樹は納得した。


「なんと気骨のない。女を口説くならもう少し覚悟を決めて挑んでほしいものだわ」


「……いや。流石に無理なんじゃないかな?」


「何だったんだろうあの人達? うぅ……でも私もなんか寒気がする」


「だ、大丈夫? あんまり無理しない方がいいよ?」


 ブルリと肩を震わせる真理にも少なからず影響があったようだ。


 それもそのはず、鬼神は古くから地獄の獄卒の概念も持っている。


 つまり、人間という生き物は本能的に恐怖の具現として鬼を見てしまい、萎縮してしまうわけだ。


 いわば人間特攻というべき能力をヒガンは備えていた。


 だからちょっとその気になればこの通り、人間が彼女の前に立つには相応の覚悟を求められた。


「ごめん……私が誘ったのに悪いけど、ちょっと、吐き気もしてきた……先帰るね」


「ああ、うん。お大事に。私もすぐ帰るよ」


 心の中で杏樹は真理に謝罪する。


 ただ真理も帰ってしまったが、周囲にぽつぽつと居たひと達の姿もいつの間にか消えていた。


 誰もいなくなった周囲を確認して、ヒガンは妙にかわいく小首をかしげテヘリと舌を出した。


「おや? 人がいなくなってしまったな。これは好都合だ」


「……やりすぎたんじゃない?」


「そうでもない。多少強引だが、必要だろう? どうやら……ここにいる奴は中々大物のようだしな」


「え?」


 ヒガンに指摘されて杏樹は周囲を見回す。


 すると人の気配が消えた代わりにいつの間にか周囲に霧が立ち込めていることにようやく気が付いた。


「ホレもう、気配が近い……来るぞ?」


「!」


 そして遠くの方からこちらに向かってくるバイクのエンジン音が聞こえる。


 杏樹は霧の中を睨む。


 すると青白い光が、こちらに向かって走って来るのが目に入った。

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