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くすのき君は妖怪が見えるけどそれはともかく趣味の人である。  作者: くずもち
第二章

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見える友人その2

「フッ……奴がとうとう動いたか」


 真っ暗な室内で男は笑う。


 ついに奴が自らの封印を解き放った。それは男にしてみれば待ちに待った瞬間であった。


「ああ……うん。ではこれを持っていけ。事態は急を要する」


 指示を出し、用意していた文を虚空に放つと、文は煙のように消えた。


「古めかしいやり方だが、それもまたいいだろう……」


 男は満足げに呟き、時を待つ。


 準備は万全だ。


 しかしあの楠 太平がどう動くか? それによってすべてが決まることを男はよく理解していた。




「……」


 授業も終わり一段落した昼下がり。


 匂いには特に気を使っている我が部室には、紅茶の香りが広がっている。


 僕、楠 太平は棚に積んだプラモデルを吟味しながら、ティータイムという憩いの時間を過ごしていた。


「……はっ、箱絵を正面にディスプレイできる棚とか作ったら、かっこいいんじゃね?」


 ただその日、僕は模型部には今までにない絵になる光景を目にした。


 新調したばかりのティーカップを片手に窓辺でくつろぐ女子部員、神木 杏樹は小鳥と戯れていた。


「……え? 何それ、どんな状況?」


 ひょっとして女子が窓辺で紅茶を飲むと、小鳥が現れるのか? そんなことある?


 未知の可能性が頭をよぎるが、すぐに慌てた神木さんの声で正気に戻った。


「楠君! 楠君! こ、これなに! ただの鳥じゃないんだけど!」


 言われて気がつく。どうやらその鳥は天然物ではないようだった。


「え? ああ、それ式神か。古風だなぁ……」


「式……神……だと?」


「そう、式神」


 そうか、ただの式神だったか。良かった。


 なんか、僕の願望とかが具現化したファンシーな幻影だったらどうしようかと思った。


 式神ならそりゃあ人間に寄ってくることもあるだろうと納得して、積みプラ棚に戻ろうとすると、僕はガッチリ肩を掴まれた。


 もちろん肩を掴んできたのは神木さんだった。


「……今なんて言った?」


「え? 式神?」


「それだよ。存在……するの?」


「いや、君が今戯れてたじゃない。えーっとね、陰陽師がメッセージとばしたりするのに使うんだよ」


「そんな当たり前みたいに!」


 神木さんが歯がゆそうに両手を握り締めて主張するが、今現在目にする機会は稀だ。


「こういうのはよくネタにされてるから、知ってる人多くない? まぁ最近はスマホで済ませちゃうから絶滅危惧種だよ。それで誰からだろう?」


「私が知るわけないでしょ?」


「え? ああ、僕にだったのか。人を間違える式神って珍しいな」


 興奮気味の神木さんだが、連絡が来ているとわかっていれば無視もまずい。


 僕が小鳥に手をやると、小鳥はごく自然に僕の指先に止まって手紙になった。


「手紙になった!」


「どれどれ……んぐ……これは」


 手紙を開いた僕は内容を確認して眉間に皺を寄せた。


 というのも手紙の送り主が知り合いだったからである。


「あーちゃんか。珍しいな」


「あーちゃん?」


「ああうん。同級生だよ。この学校に通ってる」


「へー……えぇ!?」


 ザックリと説明すると神木さんは目を丸くして僕の顔を凝視した。


「まだいたの!? この学校に見える人が!?」


「う、うん。まぁ。いる」


「なんで教えてくれないかなぁ……」


 不満そうな神木さんは恨みがましい視線を向けてくるが、僕としては知り合いを全部紹介するなんてめんどくさいことはしない。


 まぁ必要ならおいおい折を見て紹介するのはやぶさかではないが、ただ少なくとも彼に関しては進んで紹介する気がなかっただけである。


「いやー……なんというか、癖が強いからなぁあーちゃんは」


「それって、楠君よりも?」


「どういう意味だい?」


「い、いや? 他意はないけど……」


 そっと目を泳がす神木さんに僕は少しだけ悩んで頭を掻いた。


 手紙には、神木さんにも会いたいと書いてあったから、式紙も彼女に向かっていったんだろう。


「……まぁいいか。誘いが来るのも珍しいし」


 双方会いたいというのなら止める必要はない。呼んでいるというのならいい機会である。


 僕は軽くため息を吐くと、一度頷く。


「いいよ。じゃあ、これから会いに行ってみようか」


「う、うん! 行く!」


 神木さんは目を輝かせて力強く宣言したが、期待に沿えるだろうか?


 僕にはちょっと自信がなかった。

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