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くすのき君は妖怪が見えるけどそれはともかく趣味の人である。  作者: くずもち
第二章

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埴輪と羊羹

「え? 何これ?」


 休みの日、ハリセンの件のお礼とお詫びもかねて菓子折りを持った神木杏樹が楠君の家を尋ねると、そこは全く見慣れない秘境と化していた。


 同級生の男の子相手に手土産なんて気を使い過ぎかな? なんて悩んでいた気分なんて、一瞬で吹き飛んでしまった。


 鬱蒼と茂る木々は深い森の様で、確かに整備されていたはずの道を覆い隠していた。


「道を間違えた? いや、そんなバカな?」


 学校から楠君の家までの道は、決して複雑ではなかった。


 だが確かに道の名残のようなものを見つけて、杏樹は植物を分け入って進んでゆくと、楠邸の山門を発見した。


「やっぱりあった……一体何が?」


 この状況は、明らかに異常事態だ。


 杏樹は焦りを感じて先を急ぐと、今度はまるで何百年も放置されたような苔むした道が、行く手を阻む。


 滑らないように慎重に進むが、嫌でも目に入るのが妙に真新しいハニワだった。


 杏樹はきゅっと眉間に皺を寄せた。


「……なんでハニワがこんなに?」


 なんとなく何が起こったのか察したのだが、認めたくはない。


 だって動かないハニワの周りには、こちらの様子を窺う動くハニワがたくさんいたからだ。


「……うーんたくさんいるなぁ」


「ずいぶんと気に入られたようだ。こんなに人里が近い場所に精霊が現れるなんてそうないことだ」


 ヒガンの声が聞こえたが彼女もずいぶん感心している様子だった。


「あ、やっぱりそうなの?」


「ああ。こんなに土地が影響を受けるものとは思わなかったが……」


 ああ、やっぱりこの子達がここに来るようになったから、こんなことになってしまったらしい。


 でもこんな超常現象みたいなことが普通に起きるとは驚きだった。


「楠君は大丈夫かな?」


『わからない……。無事だといいが、妙に力が漲るのが気になるな』


「力が漲る?」


「ああ、自然豊かな山の中の様だ」


「山の中には違いないけど……」


 鬼瓦のストラップも心配そうで。不安が募る。


 そして杏樹はもうもうと立ち上る煙を見つけて、大慌てて駆け出した。


「煙!? それってまずいでしょ!」


 ただの道であんなありさまだったんだ。家はもっとひどいことになっているに違いない。


 いきなり植物が急成長してしまったら、火事の一つも起こっていて何の不思議もなかった。


 杏樹は何とか草木をかき分けて家のあるはずの場所に行くと、そこだけは綺麗に開けていた。


 そして煙の下には、大きな登り窯と……きょとんとした顔で頭にタオルを巻き、甚兵衛を着こなす陶芸家スタイルの楠君が座っていた。


「……」


「……どうしたの? 神木さん? そんなに慌てて?」


 いやまぁ取り越し苦労だったのはよかったけれど、これだけの事態にあまりにも平然としていられるとさすがに納得出来ない。


 ハリセンに手を掛けかけたが、そこはグッと堪えて、杏樹は説明を求めた。


「えっと、山が大変な有様になっていたから慌てていたんだけど……どうなってるの?」


「えぇ? そんなに?」


 指摘すると驚き顔の楠君は周囲を眺めて。


 機嫌よく踊るハニワ達を見やりペタンと顔を手のひらで覆って、天を仰いだ。


「あー……そうか。いや、大丈夫……いや、後片付けは―――大丈夫じゃないかもしれない」


「そういう問題だろうか?」


「……いや。ずいぶん作ったハニワが気に入られてしまって。……あんまり喜ぶもんだから、窯やら材料やらにこだわり始めて……そしたら僕も楽しくなってきたもんだから。つい」


 彼が今まさに窯から出そうとしていた、ハニワ?のラインナップはずいぶん充実しているみたいだった。


「これなんか自信作なんだよ? ビーナスハニワ。考えるハニワなんてのもある」


「手が込みすぎているのでは?」


「そう? 有名どころは型とか作りやすくない?」


「普通は型取りから始めようとは思わないかな?」


「うーん……創作性には欠けるかも? 力もあんまり乗らない」


 ムムムと唸る楠君は目が虚ろである。


 やりすぎてしまったと。そう言うことだろう。


 窯がバージョンアップしているあたり、凝り性も極まった感じだった。



 僕、楠 太平は凝り性である。


 それは自他ともに認めるところではあるが、今回は少々やりすぎてしまったらしい。


「一体何でこんなことに?」


 あきれ気味の神木さんの質問に、僕は言葉を詰まらせた。


 休日にせっかく窯があるんだからいっちょやってみっか? くらいの軽い気持ちだったはずが……出来上がったハニワで大地の精が狂喜乱舞。


 そんなに喜んでもらえると、こっちも嬉しいわけだ。


 嬉しくなれば一つで終わるわけもなく、まさかの大地の精完全バックアップのもと、増産体制が整えられて―――今に至る。


 どこの山から現れたのか大地の精は最初見かけた時よりもかなり増えている気がする。


 つまり僕の家はハニワだらけだった。目に見えるやつも、見えないやつも。


 僕の知らない間に、家の周りの精霊的ベストスポットにハニワが配置されていた。


 まぁ、いいじゃないかハニワ。庭にあるのも嫌いじゃない。


 その結果、歓喜に満ちた大地はモリモリ力が湧いて出てしまったのだろう。


 よく見れば家の周りの周囲の眺めは確実に変わっていた。


「しかし……まさか道がなくなってしまうとは。……そんなこともあるんだね」


「ないと思うよたぶん」


 まぁたぶん早々ない。


「……」


 完全に言葉に詰まった僕は、視線をさまよわせひとまず目先の問題に対処することにした。


「ええっと……お手製ハニワいる? たくさんあるんだけど?」


「……遠慮します」


「なんか……こう。ご利益あるかも?」


「間に合ってるかなって」


「そっかー。まぁそうだよね」


 とても気まずそうに目を逸らす神木さんに、僕はハハハと渇いた笑いがこぼれる。


 そう、ポジティブに考えよう。


 模型職人が飾るスペースで悩むなど日常茶飯事。


 もう間に合っているとまで言わせたのなら僕的に勝ちと言えるのではないだろうか?


 ハニワ達とも交流を深めるまでが、セット!


 そしてこの後の、果てしない道整備もまたセット!


 ああそうだ、ハニワボディはたくさん作ったんだから、もっと物理的に大地の精にも手伝ってもらおう。


 きまぐれな彼らが手伝ってくれるかはわからないけれど、今でも陽気に踊っているこのテンションならワンチャンスあるのではないだろうか?


 若干逃避して、遠い目をしていた僕に神木さんは持っていた紙袋を手渡してくる。


「ええっと、これお土産だけど食べる?」


「……ありがとう」


「中身は羊羹だから早めに食べてね。甘いもの大丈夫だよね?」


「……甘いものは好きです」


 気を遣う神木さんのお土産は、女子高生にしてはなかなか渋めのチョイスだった。

お久しぶりです。くずもちです。

小話を更新です。


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