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くすのき君は妖怪が見えるけどそれはともかく趣味の人である。  作者: くずもち
第二章

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ネットは全く知らないことはアンテナに引っかからない

「……何してるの?」


「……オークション」


 その日、僕、楠 太平は神木部員の言葉に適当に答えつつ、部室のパソコン画面を凝視していた。


 そして落札を確認して―――勝利を噛みしめた。


「……よっしゃー! 売れたっ!」


「……そういうのは、家でやった方がいいんじゃない?」


 おっとテンションが上がりすぎてしまったか。


 神木さんの白い目にコホンと咳払いして、僕はいつの間にか立ち上がっていたことに気が付いて赤面した。


「いやーでも気になるじゃない? 自分の作品がどんなふうに評価されたのかわかりやすいバロメーターにもなるわけだし」


「わかるけど……。楠君の作る物は普通じゃないんだし、あんまり普通の人に売ったりするのは……んん?」


 そしてようやく何かに気がついた神木さんはパソコンの画面を脇から覗き込む。


 そして突然言葉を切るとガッとディスプレイを両手で掴んで、その内容に釘付けだった。


「ナ、ナニコレ? 普通のネットオークションじゃ……ないよね?」


 動揺して視線が定まらない神木さんの質問に僕はコクリと頷いて肯定した。


「霊具専門オークションアプリ。ゴフオク」


「ゴフ? ゴメン……もう一回言ってくれる?」


「ゴフオク」


「……護符とオークション?」


「いえーす」


 冗談みたいなネーミングだが冗談ではありません。


 もちろんちゃんと効果のある護符だって売っている本物である。


 特殊な技能者がひっそりと運営しているオークションアプリ、それがゴフオクだ。


 そこそこ僕はこの手のオークションとは長い付き合いなので盲点だったが、このアプリは神木さんの琴線に触れたようである。


「こ、こんなものがあったなんて」


「まぁ。知り合いから紹介されないとわかんないよね」


 小刻みに震える神木さんだが、こればかりは仕方がない。


 妖怪がらみの道具の売買は昔から存在はしていたんだろうけど、ネットオークションの歴史自体はそんなに長いわけではないので、場合によっては関係者でも知らない場合がありそうだった。


「うぅ……これさえ知ってれば、私の人生の問題がいくつも解決したような気がする……」


 そう嘆く神木さんだが、僕としてはそううまくはいかない気がした。


「知ってるか知らないかは……言ってもきっかけだから仕方がないよ。……せっかくだから会員登録しておく?」


「……うん」


 アッ登録するんだ。


 しょんぼりしつつもしっかり頷く神木さんを見て僕は苦笑いした。


「ああでも、早々気軽に使えるようなものでもないから気を付けてね? 特に値段はよく見て使うこと」


「そうなの?」


「うん。ちょっと学生のお小遣いじゃ厳しいかもしれない」


「……そんなに? ちなみにどれくらい?」


「うーん。ものによっては家が買える」


「……それは確かにやばいなぁ」


 神木さんは表情をひきつらせるが、うっかり気軽に使って別の意味で破滅とか笑えない。


 しかしまぁ、この手の商品は極めて特殊で一品物も多いので仕方がない部分もあった。


「こういう専門の道具はだいたい高いもんだしね。本当に必要になった時考えればいいさ」


 特殊であるということは、使う場面が限られるということでもある。


 問題を抱えている当人には値千金だが、それ以外には全く用途がないということもあるだろう。


 高額の商品を買う場合は計画的にと、ある意味当たり前の事を語る僕だったが、神木さんの方は僕の話から、ある重要な事実にたどり着いたようだった。


「そっか。あっ……でもじゃあ楠君ここに出品してたってことは……」


 ハッとそう口にした神木さんに、僕はそれを聞いちゃうかと難しい表情を浮かべた後、ニヤリと思わず笑ってしまった。


 気が付いてしまったかね神木部員。


 そう、専門の道具は値が張る。


 そして自慢じゃあないが、我が作品はそれなりにファンもいる一級品である。


 知られてしまったからには仕方がない。


 大声で言いふらすことではないが、気分がいいので気前よく行きたいのも部長心だった。


「この後、部員に焼き肉をおごってもいいなと思えるくらいには、今日は機嫌がいいかもしれない。ちなみにいい焼き肉屋も知ってる」


「おおー」


 パチパチと手を叩く神木さんに、僕はどや顔で頷く。


「ハッハッハッ、もっと褒め讃えて構わないよ神木部員。というわけで、放課後にこないだのお礼もかねて、先輩も誘ってみるつもりだとも。もちろんアルコールは厳禁ね? 部活動が潰れる」


「もちろん!」


 うむ。素直でよろしい。


 ちょっと部長力が上がったかもしれないと、僕は喜ぶ神木部員を目にして満足感に浸るのだった。

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