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くすのき君は妖怪が見えるけどそれはともかく趣味の人である。  作者: くずもち
第二章

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事故と奥の手

  オオオオオオ……


 唸り声に込められているのは、もはや濃密な呪いである。


 神木さんに迫る鬼に、僕も全身の毛穴が一斉に開くような恐怖を感じた。


 喉の奥をひきつらせる僕に対して、安綱先輩は愉快そうに声を弾ませた。


「おい! 無鉄砲だなあの後輩!」


「そういうとこあるんです! ああもう!」


「ああ、だが嫌いじゃねぇよ。持ってきてんだろう? 奥の手をよ。使いどころだぞ?」


「~~~使いどころはもうちょい先のはずだったんですよ!」


 今回の件は危険を回避するために引き受けたのだ、命を危険にさらしてまでやる意味なんてない。


 それに持って来ていたコレは、今ここで使うのはすさまじく危険な可能性があった。


 だがやらない訳にはいかない状況に僕は歯噛みした。


「ぐぐぐ……仕方がない!」


 僕はリュックからそれを抜く。


 現れたのは手塩にかけたとある模型だ。


 ストラップを焼き物にすると決めた時、一緒に作った作品は我ながらよく出来て

いる。


 そして力を借りる対象は、もう目の前にいた。


「ちょっと力を貸してくれないか!? あれは君達にもよくないモノなんだろう?」


 僕が模型を投げると、ハニワはすぐさま模型に飛び込む。


 そしてその瞬間森がざわめき、周囲の闇からこちらを見ていた者達が次々と飛び出してきた。




「ふぅ……ふぅ……」


 杏樹は呼吸を整えて、鬼を見た。


「剣道は……したことあるけど、真剣なんて初めて持ったかな」


 殺気なんてものを今まで信じていなかった杏樹は体にドンと伸し掛かるプレッシャーに殺気とはどういうものか理解せずにはいられなかった。


 しかし杏樹は恐怖を押し殺して刀を構えた。


 オオオオオ……。


 鬼は確かに闇の奥からこちらを見ていた。


 正直に言えば、こうなったのは転がったハニワを見た瞬間、体が勝手に動いただけだ。


「ああ……ここで死んじゃうかもしれないな……」


 本当に馬鹿だと杏樹は口の中で呟く。


 だがこうして前に出た以上は、引き下がるつもりはなかった。


 ここに来ることになったのはきっとすべては自分のせいだと杏樹には自覚があった。


 なのにずっと楠君に任せきりでは申し訳ないと、そう言う気持ちもあったのだ。


「あなたの力を借りたいのは私なんだ。……だから私もちゃんといいところを見せなきゃダメだよね?」


「……」


「素人で申し訳ないけど。運動神経には自信があるんだ」


 鬼に語り掛けた時にはもう覚悟は決まっていた。


 せめて一太刀浴びせてみせる。


 ところが刀を構えて一歩踏み出したその時、鬼に襲い掛かられる前にドンと大地が揺れた。


「ええ! こんな時に地震……え?」


 杏樹は頭上に差した影に気が付いて、視線を上げる。


 目の前の鬼も視線が外れて、今までの恐ろしい表情から力が抜けていた。


 だが数秒後には鬼と杏樹は同時に顔を強張らせる。


 木々が自分から避けて逃げ出していた。


 そして目がおかしくなっていないんであれば……どんどん巨大化していくハニワが見える。


 それは気が付けば山と同じくらいのサイズになって、雲を突いた。




 はーにーわー……―――



「ハニワって言った!?」


 地響きを伴う鳴き声? で山の鳥達が一斉に飛び立つ。


 そしてハニワの目はポッカリ空いた丸い穴なのに、それが自分達に向けられていることを杏樹も鬼も悟った。


「こ、これは。……また驚いたなぁ」


「……!」


 ああ……でもたぶんこれでもう大丈夫だ。


 杏樹は安堵する。


 しかしだ、そんな巨大ハニワの腹の辺りがガパリと割れて中からなにやらでっかい大砲の砲身がニュッと顔を出せば、杏樹の表情も強張った。


 ガシュー……。


「ん?」


 そして蒸気を吹き出しながらこっちに狙いを定めたりしたら……ホントに大丈夫かな? って気がしてきた杏樹だった。


「んん!?」


 戦闘態勢を解いて全力ダッシュである。


 鬼はまだ動けていない。


「……漆喰ヌリカベ!」


 カチンと。


 せっかくなので杏樹は防御のついでに足止めもしておいた。

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